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龍之介の怪談  作者: 橋平 礼
『大正怪異と断末魔』

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青の世界


僕は、ある男から、彼が中学生の時に体験した、些か(いささか)妙な、しかし人間の滑稽さとエゴイズムを孕んだ話を、ここに記そうと思う。


男の名は吉村(仮名)という。彼が中学生の頃、学校では「コックリさん」という儀式が、女子生徒たちの間で流行していた。彼女たちは、放課後の教室で、鳥居や文字が書かれた紙を囲み、十円玉を指で押さえながら、見えざる何かを呼び出そうとしていた。それは、人間の自尊心プライドが生み出す、最初の、そして最大の誤解であったかも知れない。彼女たちは、自らの力によって、異世界を支配できると信じていたのだ。


吉村は、その様子を、横目で見ながら、冷ややかな視線を送っていた。人間のエゴイズムは、他者の行為を、常に、自らの都合の良いように解釈しようとする。彼は、女子生徒たちの行為を、無邪気な、しかし、自らの虚栄心を満たすための、ありふれた遊びだと思い込んでいたのである。


しかし、ある日、吉村は、女子生徒たちに誘われ、その儀式に参加することになった。人間の自尊心は、他者の誘いに、常に、無防備なものと化す。彼は、女子生徒たちと共に、十円玉を指で押さえ、見えざる何かを呼び出そうとした。


「コックリさん、コックリさん、おいでええ、いらっしゃいました」


女子生徒たちの声が、教室に響いた。それは、人間のエゴイズムが生み出す、甘美な、しかし虚妄の夢に他ならなかった。


吉村は、十円玉が動かないことを、冷ややかに見ていた。人間の自尊心は、自らの予測通りに事象が進むことに、常に、無邪気な喜びを感じる。彼は、女子生徒たちの行為を、やはり、自らの虚栄心を満たすための、ありふれた遊びだと思い込んでいたのである。


しかし、十円玉は、動いた。スーっと。


それは、人間の自尊心が、恐怖によって抉られる、その瞬間であった。十円玉は、女子生徒たちの意志とは無関係に、紙の上を、スーっと、そして、上へと、動き始めた。それは、人間のエゴイズムが、他者の意志を、自らの力によって、支配しようとする、その瞬間であった。


吉村は、その光景に、全身を硬直させた。人間の自尊心は、恐怖の前で、一瞬にして、無力なものと化した。彼は、十円玉が動くのを、冷ややかに見ていたが、その冷ややかさは、恐怖によって、一瞬にして、凍りついた。


儀式が終わった後、吉村は、自らの部屋で、ベッドに寝っ転がっていた。テレビはついていたが、彼は、スマホをいじっていた。人間のエゴイズムは、自らの都合の良いように事象を解釈しようとする。彼は、儀式での出来事を、自らの錯覚であったと、信じようとしていたのである。


しかし、テレビは、急に、消えた。


吉村は、リモコンを探したが、見つからなかった。主電源をいじってみたが、反応はなかった。テレビは、壊れたのかも知れない。人間のエゴイズムは、自らの都合の良いように事象を解釈しようとする。彼は、テレビが消えたことを、自らの都合の良いように、機械の故障であったと、信じようとしていたのである。


しかし、玄関の方を見ると、廊下の電球が、青色に染まっていた。


ドアチェーンのかかったドアの隙間から外を見た吉村は、その光景に、全身を硬直させた。人間の自尊心は、恐怖の前で、一瞬にして、無力なものと化した。廊下の電球は、白い電球であったはずだ。しかし、その光景は、青色に染まっていた。


「外を見ると世界が青に染まっていたのです。そらも、家も、車も、歩く人までも青になってて、うんっと思って見に行ったんですよ」


吉村は、その光景に、全身を硬直させた。人間の自尊心は、恐怖の前で、一瞬にして、無力なものと化した。世界は、青に染まっていた。それは、人間のエゴイズムが生み出す、甘美な、しかし虚妄の夢に他ならなかった。

吉村は、確認しに行った。人間の自尊心は、恐怖の前で、一瞬にして、無力なものと化した。彼は、チェーンを外すため、ドアを閉めた。そして、もう一度、ドアを開けた。


廊下の電球は、普通の白い電球に戻っていた。世界は、青に染まっていなかった。


「一瞬、なんか異世界が垣間見えたっていう体験があります」

挿絵(By みてみん)

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