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転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜  作者: 夏野みず
永遠の愛の論理と王国の新世紀

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知の集積地と、宵闇の図書室での「特別講義」

 王国の国内改革が完成に近づき、マクナルモデルが隅々まで浸透した今、わたくしが次に着手したのは「教育の完全義務化」と「王立アルスター総合学院」の設立でした。 これまでの王国において、教育は貴族の特権、あるいは余裕のある商人たちの嗜みに過ぎませんでした。 しかし、わたくしの論理によれば、国民一人一人の知的水準を底上げすることは、国家の生産性を中長期的において幾何級数的に向上させる、最もリターンの大きい投資なのです。


「……計算通りですわね。この十年間で、識字率を現在の十五パーセントから八十パーセントまで引き上げる。それが達成された時、この王国は真の意味で『知の帝国』へと進化する」


 わたくしは新設された王立学院の巨大な中央図書室で、山積みのカリキュラム案に目を通していました。 ここには、わたくしが辺境から持ち込んだ膨大な蔵書に加え、周辺諸国から買い集めた最新の学術書が、体系的に整理され収められています。 ランプの灯りが、真新しい革装丁の本たちを優しく照らしていました。


「アナスタシア。やはりここか。会議が終わってから君の姿が見えないと思えば、また数字と文字の海に溺れていたのだな」


 図書室の重厚な扉が静かに開き、懐かしい足音が響きました。 マクナル陛下。彼は王としての公務を終えたばかりのようで、その肩にはまだ、重厚なマントの重みが残っているかのようでした。 彼はわたくしの隣に歩み寄ると、わたくしが手にしていたペンをそっと取り上げ、自分の指に絡ませました。


「陛下、お疲れ様です。……見てください、このカリキュラムを。農学、工学、そして統計学。これらをすべての子供たちが学ぶようになる。十年後のこの国には、もはや『無知による貧困』など存在しなくなりますわ」


 わたくしは興奮を隠せずに彼を見上げました。 知性がもたらす未来。それは、わたくしが最も美しいと感じる数式の一つです。 マクナル様はわたくしの情熱的な瞳を見て、愛おしそうに微笑みました。


「君の語る未来は、いつも私をワクワクさせてくれる。……だが、今日だけは少しだけ、その『未来』から目を離して、目の前の『現在』を見てくれないか?」


 彼はそう言うと、わたくしの腰を引き寄せ、本棚の影へと誘いました。 数千冊の知性が眠る静寂の中、彼の体温だけが鮮明に伝わってきます。 彼はわたくしの背中を本棚の背に預けさせると、逃げ場を塞ぐように両手を突き、じっとわたくしを見つめました。


「陛下……ここは神聖な学びの場ですわよ。そんな、野蛮な真似は……」


「野蛮、か。……ふふ、確かに君の洗練された論理からすれば、私の情熱は野蛮に見えるかもしれない。だが、君を独占したいというこの渇きだけは、どんな高度な統計学でも制御できないんだ」


 彼の声は低く、密やかな熱を帯びていました。 彼はわたくしの王冠をそっと外し、デスクの上に置きました。 そして、束ねられていたわたくしの髪を指先で解き、その長い房を慈しむように撫でました。


「アナスタシア。君がこの国に知性という光をもたらしてくれたことに、私は心から感謝している。だが、その光が強すぎて、時折君が遠い存在に感じることがあるんだ。……だから、今夜は思い出させてほしい。君が、私の愛するただ一人の女性であることを」


 彼はわたくしの首筋に顔を埋め、深く、その香りを吸い込みました。 図書室に漂う古い紙の香りと、彼の纏う力強い匂いが混ざり合います。 わたくしの心臓は、どの計算式の解答を出す時よりも激しく脈打ち、思考は白熱し、そして心地よく麻痺していきました。


「……マクナル様。貴方様のその熱こそが、わたくしの知性を動かす唯一の動力源ですのよ。ですから、責任を取ってくださいませ」


 わたくしは彼の首に腕を回し、自ら唇を重ねました。 静寂に包まれた図書室。 わたくしたちは、歴史や哲学の書物に見守られながら、誰にも教えることのない、二人だけの秘められた「特別講義」に没頭しました。 合理性の果てにたどり着いた、最も純粋で、最も熱い愛の形。 それを確かめ合う時間は、どんな学問よりも深く、わたくしたちを繋ぎ止めるのでした。

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