万雷の喝采、そして玉座の上の確信
大聖堂を埋め尽くす貴族たち、そして広場を埋め尽くす数十万の市民。 その熱狂の渦の中心に、わたくしたちは立っていました。 大司教が掲げる重厚な王冠が、ステンドグラスから差し込む光を受けて、七色に輝いています。 わたくしの隣に立つマクナル様は、一分の隙もない立ち振る舞いで、静かにその瞬間を待っていました。
「……これより、マクナル・ド・アルスターを、この王国の正統なる王として認める」
大司教の声が厳かに響き、王冠が彼の頭上に掲げられました。 その瞬間、王都中の鐘が一斉に鳴り響き、民衆の歓声が空を割らんばかりに轟きました。 わたくしは、彼の半歩後ろでその光景を眺めていました。 それは、数字と論理、そして少しの情熱を積み上げて作り上げた、最高の芸術作品が完成した瞬間でした。
続いて、わたくしへの戴冠が行われました。 王妃の冠は、王のものよりも小ぶりですが、そこには辺境で採掘された最高純度の魔石が埋め込まれています。 その冷たい感触が頭に乗った時、わたくしは自分自身の責任の重さを改めて実感しました。 わたくしの知性は、もはや一領地のものではなく、この国すべての民の命を背負うものになったのです。
「アナスタシア、こっちへ」
儀式が終わり、玉座の間へと続く長い回廊を歩く際、マクナル様がそっとわたくしの手を取りました。 周囲の貴族たちは、その仲睦まじい様子に驚きの表情を浮かべていましたが、わたくしたちには関係ありません。
「見てごらん、あの人々の顔を。君が言った通りだ。効率と合理性がもたらした豊かさが、彼らに真の忠誠心を抱かせたんだ」
「ええ。恐怖や伝統で縛るよりも、明日のパンの質を上げ、未来の不安を数字で取り除いてあげること。それこそが、最もコストパフォーマンスの良い統治ですわ」
わたくしは彼を見上げ、少しだけ誇らしげに微笑みました。 玉座の間に到着すると、そこにはかつての腐敗した貴族たちの姿はありませんでした。 代わりに並んでいたのは、わたくしが厳しい監査と試験で選び抜いた、実務能力の高い新しい官僚たち。 そして、辺境から連れてきた、誇り高き女性指導官たちの姿です。
「マクナル様、いえ、陛下。これからの王国には、もはや古い亡霊の居場所はありません。わたくしたちが、一分一秒を慈しむような、完璧な時間を刻んでまいりましょう」
「ああ、アナスタシア王妃。君が望むなら、私はこの王国のすべてを、君の思うがままに捧げよう。君が設計し、私が実行する。これほど愉快な人生はない」
戴冠式の後の祝宴は、夜更けまで続きました。 わたくしたちは、形式的な挨拶を最小限に抑え、途中でこっそりと会場を抜け出しました。 王宮の最上階にあるバルコニー。 そこからは、街中のあちこちで焚かれている祝祭の火が見えました。
「……ふう、流石に疲れましたわ。このドレス、予想以上に酸素摂取効率を下げているようです」
わたくしが手すりに寄りかかると、陛下は背後からわたくしを包み込むように抱きしめました。 王冠も勲章も、今は二人の間を邪魔する障害物でしかありません。
「よく頑張ってくれた。今日は君の勝利の日だ。世界中の誰よりも賢く、そして美しい私の妻よ」
「わたくしの勝利ではありませんわ。貴方様が、わたくしの知性を信じ、今日まで戦い抜いてくださったからこそです」
わたくしは振り返り、彼の首筋に腕を回しました。 夜風が王冠の飾りを揺らし、小さな音を立てます。 マクナル様はわたくしの腰を力強く引き寄せ、そのまま玉座の背もたれにわたくしを押し当てました。
「アナスタシア。今夜は、王妃としてではなく、ただのアナスタシアとして愛したい。この王国の誰にも見せない、君の熱い本音を、私にだけ聞かせてくれないか?」
「……陛下、それは命令ですの? それとも、一人の男性としての、わたくしへの誘惑かしら」
「両方だ。私は君の知性に平伏しているが、君の心は誰にも渡したくないんだ」
彼の情熱的な言葉に、わたくしの胸の奥が熱く疼きました。 論理では説明できない、激しい独占欲と愛情。 わたくしは彼の唇に自分のそれを重ね、答えの代わりに深い吐息を漏らしました。 新しく始まった王国の第一夜。 わたくしたちは、星空の下で、永遠に解けることのない愛の数式を刻み続けるのでした。




