王国の経済システム再構築と「辺境貨幣」の導入
マクナル様が摂政として中央政界を掌握し、新内閣が動き出した後、わたくしの戦略は、王国の経済システムの根幹そのものを変革することに移りました。
古い貴族たちが崩壊させた経済の残骸の上に、わたくしの合理的な思想に基づく、強固で新しいシステムを築き上げる必要がありました。
「王都の経済不安定の原因は、王立銀行にあるわ。彼らは実態のない投機的な融資を繰り返し、貨幣の信用を揺らがせてきた」
わたくしは書斎で、王都の財務データを分析しながら、独り言ちました。貴族たちは、私的な利益のために、王国の通貨を不安定なものにしていたのです。
この問題を解決するため、わたくしは「辺境貨幣制度」の王国全体への拡大導入を決意しました。これは、信用を土地の生産性と結びつける、徹底した実物主義の戦略です。
わたくしは、マクナル様宛ての書簡で、この経済改革の三つの柱を詳細に説明しました。
王都で執務にあたっているマクナル様からの返信には、彼の決意が滲んでいました。
「愛しいアナスタシア。君の計画は、常に最も合理的だ。王立銀行の信用は、もはや地に落ちている。だが、貴族たちの抵抗は激しいだろう」
わたくしは、返信用に、改革の第一歩を記しました。
「躊躇は不要です、マクナル様。まず、第一の柱。摂政の権限で勅令を出してください。『王立銀行の新規融資と投機的取引の全面禁止』です」
「そして、銀行の全資産を、辺境伯領の女性官僚チームによる厳格な監査下に置くこと。彼らの不正な金の流れを完全に止めるための、緊急措置です」
彼は、すぐさま勅令を実行しました。王都に派遣されたわたくしの腹心の女性財務官僚、ミレイユから、すぐに報告が届きました。
「辺境伯夫人。王立銀行の頭取たちは、監査を受け入れることを拒否しています。『これは王室の権威に対する冒涜だ!』と騒いでおりますが、どうしましょうか?」
わたくしは、即座に対応を指示しました。
「ミレイユ。感情論に付き合う必要はありません。彼らの抗議を記録し、その全てを摂政殿下に報告なさい。そして、彼らが不正を隠蔽している証拠として、公表の準備を進めなさい」
王立銀行の信用は急速に失墜しました。ここで、第二の柱の出番です。
「第二の柱は、『辺境貨幣の強制流通』です」と、わたくしはマクナル様に伝えました。
辺境伯領の豊かな羊毛や、質の高い鉄材といった実物資産に裏付けられた「辺境貨幣」を、王都の主要な商取引で、旧貨幣以上の価値で段階的に流通させるのです。
マクナル様は問いかけました。「辺境貨幣の信用力は理解しているが、王都の商人はすぐに受け入れるだろうか?」
わたくしは自信を持って答えました。「受け入れざるを得ません。旧貨幣の信用が崩壊した今、実物資産に裏付けられた貴方、辺境伯の貨幣こそが、王都の商人が最も求める『安定』なのです」
摂政殿下は、辺境貨幣を王国の公式な取引通貨の一つとして採用する勅令を発布しました。
さらに、改革の最後の打撃、第三の柱を実行しました。「王立資産の可視化」です。
「ミレイユ。王立銀行が管理していたすべての王室資産と、主要貴族への貸付記録を、公開しなさい。貴族たちの私腹を肥やした証拠を、領民の目に晒すのです」
わたくしの指示通り、情報が公開されると、王都の貴族たちは沈黙しました。彼らの権力の源泉であった不正が、数字という絶対的な証拠によって暴かれたからです。
王国の経済システムは、貴族の血筋や伝統ではなく、わたくしの設計した合理的な制度に裏付けられることになりました。王国の富は、堅実な生産へとシフトし始めたのです。
わたくしは、辺境伯領の書斎で、王都の経済が安定化に向かうグラフを眺めながら、満足のため息をつきました。
「マクナル様。わたくしたちの勝利は、もう揺るぎないものになりつつあります」




