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転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜  作者: 夏野みず
第二の難関 不在の夫に代わり領地を守る賢妻

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王都の「文化侵略」と辺境の「実用主義」教育改革

 王都の「文化侵略」と辺境の「実用主義」教育改革

 辺境伯領の経済的自立とインフラ整備が進み、王弟公爵と財務大臣は、経済的な圧力では私アナスタシアの統治を崩せないことを悟った。そこで彼らが次に仕掛けてきたのは、より巧妙で、辺境伯領の未来を根絶やしにするための、「文化侵略」という静かなる攻撃だった。


 彼らは、王都の貴族が編纂した、豪華絢爛だが実用性に欠ける「王都式教育カリキュラム」を辺境伯領の学校に導入するよう、王命という形で押し付けてきた。そのカリキュラムは、辺境の若者たちに、王都の古風な詩歌、形式的な礼儀作法、そして領地の運営には全く役に立たない哲学を詰め込むことを要求していた。


 その目的は明白だった。辺境の若者たちから「辺境の誇り」と「実用的な合理性」を奪い、王都の文化に憧れる「王都の奴隷」を育成すること。そして、彼らが辺境の地に残ることを嫌い、王都へ流出するように仕向けることで、辺境伯領の将来の労働力と知的な基盤を奪い去ろうとしたのだ。


 このカリキュラムの導入は、辺境伯領の将来に関わる重大な問題だった。現地の教師たちや、領民の多くは、王都の文化を否定することへの恐怖と、辺境伯の不在に対する不安から、この王都式カリキュラムの受け入れに傾きかけていた。


 私は、この文化的な攻撃こそが、これまでのどの経済的な攻撃よりも危険なものであると察知した。文化と教育は、その地の価値観と精神を決定づけるものだからだ。


 私は、王都の教育官僚が辺境伯領の学校を視察する直前に、全ての教師と教育関係者を集めた会議を開いた。私は、彼らに冷静に、しかし情熱的に訴えた。


「王都のカリキュラムは、美しい詩歌や芸術を尊ぶ、立派なものでしょう。しかし、辺境伯領の若者たちに必要なのは、生きるための実用的な知識です。彼らの多くは、将来、軍人、職人、商人、そしてこの領地を支える役人となります。王都の哲学を暗記する暇があるのなら、彼らは、土地の改良方法、効率的な羊毛の加工技術、そして領地の帳簿を読み解くためのシンプルな計算術を学ぶべきではないでしょうか」


 教師たちは、私の言葉に深く頷いた。彼らもまた、王都のカリキュラムが辺境の現実からかけ離れていることを感じていたからだ。


 私は、王都のカリキュラムを真っ向から否定するのではなく、それを「辺境の特殊な教育環境を補完するもの」として利用する、巧妙な戦略を打ち出した。


 私が導入したのは、「実用主義教育の徹底」という新しい教育哲学だった。


 王都の知識を「ツール」として利用: 王都の哲学や詩歌を教える時間を最小限に抑え、それを「教養」としてではなく、「王都の貴族と交渉する際の言葉の裏を読み解くツール」として教える。つまり、王都の知識を、辺境を守るための「武器」に変えるのだ。


 実用科目の時間を倍増: 算術、栄養学(私が導入した豆類や芋類の栄養価に関する知識を含む)、地理(領地の地形と資源の把握)、そして私が考案した「可視化帳簿の記入法」を、必須科目として時間を倍増させる。


 現場実習の導入: 学校の授業だけでなく、羊毛工房や、インフラ整備の現場で実際に働く「実習」を必修化する。これにより、若者たちは、机上の空論ではなく、自らの労働が領地の発展に直結しているという「辺境の誇り」を体感する。


 この改革により、辺境伯領の学校は、王都の文化に憧れる若者ではなく、辺境の地で働くことに誇りを持つ、実務能力の高い人材を育成する機関へと変貌した。


 王都の教育官僚が視察に訪れた際、彼らは、辺境の学校の様子に愕然とした。教室では、生徒たちが王都の詩歌を暗記する代わりに、複雑な帳簿の記入法を学んでいた。休み時間には、領地の資源マップを見ながら、新しい道路の設計図について熱心に議論していた。


 教育官僚は、私の元へ駆け寄り、怒りを露わにした。


「アナスタシア夫人! これは、王命に背く行為です! 王都のカリキュラムを無視し、辺境の者たちに、農民のような実務ばかりを教えているではないか! 貴女は、辺境の若者から教養を奪っている!」


 私は、冷静に、しかし毅然とした態度で答えた。


「教育官僚様。王命は、王都のカリキュラムを導入せよ、というものでしたが、そのカリキュラムの『時間配分』や『教育手法』についてまで、王命は及んでおりません。わたくしどもは、王都のカリキュラムを『教養』として教えていますが、辺境の領民がより豊かに生きるための『実用的な知識』を、より深く教えることに、何の問題があるのでしょうか」


 私は、この時代の法律の曖昧さを逆手に取った。王命は形式的には守っているが、その実質は、辺境の「実用主義」という哲学によって、完全に王都の意図とは異なるものとなっていたのだ。


「そして、教養とは何でしょうか。王都の哲学を暗記することでしょうか。わたくしは、この辺境の厳しい環境で、自らの知恵と労働で生き抜く力をつけることこそ、最高の教養だと考えています。彼らは、自らの労働が、王都の支配を受けない辺境伯領の自立に繋がっていることを知っています。この辺境の誇りこそが、王都の貴族が失った、真の教養ではないでしょうか」


 私の言葉は、教育官僚の傲慢な精神を抉った。王都の貴族は、教養を「労働からの解放」の証として捉えていたが、私はそれを「労働の価値を高める知恵」として再定義したのだ。


 教育官僚は、私の完璧な論理的な防衛と、領民の強い連帯感を前に、何もすることができなかった。彼らは、辺境伯領の未来を担う若者たちが、王都の文化に毒されることなく、むしろ辺境の地に深く根を下ろしているという、王弟公爵にとって最も不利な報告を携えて王都へ戻るしかなかった。

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