公衆の面前での「羞恥」攻撃と「科学的証拠」による断罪
ローナは、離間工作、毒物、経済的な介入、あらゆる手段が尽きたと悟った。しかし、彼女は諦めなかった。追放された身でありながら、彼女は最後に、最も下品で、卑劣な攻撃を、辺境伯領の内部にいる残党を使って仕掛けてきた。
それは、ローナが追放される前に仕込んでいた、私に関する「最後の噂」を、領内の有力貴族を集めた大規模な晩餐会の場で公にさせるというものだった。ローナの残党である男爵夫人が、マクナル様と私が談笑している場に乱入し、大声で叫んだ。
「アナスタシア様！ 貴女の秘密を、私は知っていますわ！ 貴女は、このマクナル様と結婚する前、王都で『恥ずべき過ち』を犯した、破廉恥な女ですわ」
男爵夫人は、私が過去に別の男と関係を持ち、不貞を働いたと主張した。
「その証拠に、貴女の身体には、当時の『証』が残っているでしょう！ ドレスで隠されていても、その不貞の証拠となる『赤いシミ』を、我々は知っている！」
男爵夫人は、私が生まれつき持っている、左肩のすぐ下に位置する、小さな赤いアザを指さした。この生まれつきのアザを、「不貞の証」だと公衆の面前で主張するつもりだ。これは、貴族夫人にとって、名誉を完全に失墜させる、極めて悪質で卑劣な攻撃だった。
私は、マクナル様の静止を振り切り、前に一歩踏み出した。私は怒りに震える代わりに、冷静な知性で対応することを決意した。
「ローナ様の残党の方ですね。貴方様の言葉は、あまりにも根拠のない、下品な誹謗中傷です」
「根拠がないとでも！ 貴女の体に残されたその『シミ』こそが、貴女の過去の不貞の証拠ですわ！ 破廉恥な行為の代償として刻まれた印よ！」男爵夫人は興奮して叫んだ。
私は静かに、そして自信に満ちた声で、会場全体に向かって言った。
「ローナ様、そして貴方様は、この『シミ』が、私が生まれる前から存在している、皮膚の『色素異常』、すなわち『単純性血管腫』という、医学的な現象であることをご存知ありませんか」
私は前世の知識で、皮膚科の常識を持ち出した。アザは、多くの場合、生まれつきの色素沈着であり、過去の行為とは何の関係もない。この時代に「皮膚科学」は存在しないが、私は「生まれつき」という客観的な事実と、「医学的な無知」という切り口で、彼女の主張の無効性を証明しようとした。
「もし、貴方様が、私の生まれつきの身体の印を、公衆の面前で『不貞の証』と断言されるのであれば、それは『辺境伯夫人の名誉棄損』だけでなく、『客観的な証拠に基づく科学的な事実』に対する無知を公言しているに等しいですわ」
私はすぐに使用人に命じ、私のアザが幼少期から存在していたことを証明する、古い肖像画を急いで持ってくるよう指示した。
数分後、肖像画が運ばれてきた。それは私が五歳の時に描かれたものだった。その肖像画の、私の肩の位置には、紛れもなく、今と同じ赤いアザが描かれていた。
「ご覧ください。この肖像画は、私が五歳の時に描かれたものです。この時から、この『シミ』は存在しています。五歳の子供が、不貞を働けるでしょうか。貴方様の主張は、科学的な証拠と、客観的な事実の前で、完全に崩壊しました」
マクナル様は、私を深く抱き寄せ、ローナの残党に向かって、冷たい視線を浴びせた。
「男爵夫人。君の最後の悪あがきは、私と妻の絆を砕くどころか、君自身の品性を、底の底まで晒しただけだった。君が仕組んだ全ての悪意は、私の妻の知性によって暴かれ、打ち砕かれた。君は、ローナ嬢と共に、この領地にいる資格はない。ただちに、領地から退去せよ」
男爵夫人は、言い逃れのできない科学的な証拠と、辺境伯夫妻の揺るぎない愛の前に、顔を真っ青にし、その場に崩れ落ちた。ローナの最後の攻撃は、「生まれつきの証拠」と「科学の力」によって、徹底的に断罪されたのだった。
これで、ローナとの私的な戦いは、私たちの完全勝利で幕を閉じた。しかし、この一連の出来事と、辺境伯領の驚異的な成長は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な警戒と嫉妬を引き寄せることになる……。
