第9話 「掲示板と真実」
ギルドでの騒動から一日。
俺は自宅のベッドに腰を下ろし、膝の上で眠るフォルを眺めながら、冒険者ライセンスを取り出した。
(そういえば、これで自分のステータスを見れるんだったな……)
カード型の魔道具に意識を込めると、光のスクリーンが浮かび上がる。
【ステータス情報】
名 前:篠崎 蓮
年 齢:18
職 業:冒険者(G級)
称 号:運命を掴む者(※特殊称号/詳細不明)
能力値:
生命力 :D
魔力量 :C
攻撃力 :D
防御力 :D
敏捷性 :C
知力 :D
幸運 :EX(測定不能)
保有スキル:
【運操作】
→ 確率・事象を操作し、望む未来を引き寄せる
【ドラゴンテイム】
→ 契約個体への干渉・共鳴・能力共有が可能
契約個体:フォルトゥナ(幼生ドラゴン)
(……やっぱり、幸運だけ桁外れだな。EXって何だよ……)
そして画面を切り替える。
【契約個体情報】
名 前:フォルトゥナ(愛称:フォル)
種 族:ドラゴン(幼生体)
契約者 :篠崎 蓮
属性 :光/運命
能力値:
生命力 :B
魔力量 :A
攻撃力 :B
防御力 :C
敏捷性 :C
知力 :B
幸運 :EX(測定不能)
固有スキル:
【龍威】(存在だけで低級魔物を威圧)
【竜炎の息吹】(未発現/成長で解放)
【契約転送】(契約者の【運操作】と同期)
【???】(封印中)
「……これ、どう考えてもG級の冒険者が持ってていいステータスじゃないよな」
フォルは寝返りを打ち、俺の手をつかんだまま小さく鳴いた。
その仕草に思わず笑いがこぼれるが、頭の中は疑問だらけだ。
(このスキルも、称号も……普通じゃない。情報を調べる必要があるな)
俺はパソコンを開き、冒険者ポータルサイトに接続する。
掲示板を眺めると、同じような疑問を抱く冒険者たちのやり取りが飛び込んできた。
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【冒険者掲示板】ステータス成長スレ part57
1 名前:名無しの冒険者
ステータスってどうやったら上がるん? 魔物狩ってるけど全然伸びねえ。
12 名前:E級剣士
格下ばっか狩ってても伸びん。
格上に挑んでギリギリで勝ったときが一番伸びる。
29 名前:元G級
「死線を越えろ」ってよく言われるけどマジ。
楽勝バトルじゃ何年経っても成長しないぞ。
50 名前:鑑定士
ステータスには内部レートがある。
G級でも50〜299の幅があるから、同じG級でも強弱に差が出る。
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「死線を越えろ、か……」
俺はライセンスに映る“特殊称号”を見つめる。
(運命を掴む者……やっぱりこれも関係してるんだろうか)
次に、スキルを検索してみた。
【運操作】――検索結果:該当なし。
【ドラゴンテイム】――検索結果:該当なし。
代わりに「ゴブリンテイム」「スライムテイム」などの事例がヒットした。
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【冒険者掲示板】テイマー系スキル総合スレ
5 名前:名無しの冒険者
ゴブリンテイム持ち。せいぜい偵察用。弱すぎて戦力外。
17 名前:C級ハンター
スライムテイムは地味に便利。アイテム運搬や探索補助に使える。
でも戦闘じゃ足手まとい。
41 名前:鑑定士
テイム系スキルは存在するが、どれも低級魔物止まり。
上級魔物をテイムした例は確認されていない。
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「……なるほどな」
つまり、テイム自体は珍しくない。
だがドラゴンをテイムした冒険者なんて、過去にいない。
俺は唯一無二の「ドラゴンテイマー」ということのようだ。
未知のスキル。
そして、前例のない契約。
初めて見た己自身のステータス。
強くなるために必要なステータス強化...。
心臓がひときわ高鳴る。
俺の【運操作】は“望む未来を引き寄せる”スキル。
死線に挑むにはこれ以上ない保険でもある。
だが、同時に気付いてしまう。
(つまり俺は……常に命懸けで戦わなきゃ、成長できないってことだ)
ギルドの依頼掲示板にあったスライム討伐。
あれじゃ安全すぎて、ステータスの伸びは望めないだろう。
フォルの寝息が規則正しく響く。
小さな体だけれど、ステータスを見れば分かる。
彼女は俺以上の潜在力を秘めている。
「死線を越えろ……。お前となら、絶対に越えられる。」
画面を閉じ、端末を枕元に置く。
心臓の高鳴りがなかなか収まらない。
「次は……死線を探す番だな」
俺はそう呟いて、眠るフォルの背をそっと撫でた。