第3話 「初陣」
「スライム討伐、G級定番依頼ですね。頑張ってください」
ギルドの受付嬢に見送られ、俺は街外れの小規模ダンジョンへと向かった。
入口に立つ職員にライセンスを見せると、軽く頷かれる。
「はい、G級初ダンジョンですね。浅層は安全ですからご安心を」
石造りの階段を降りると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
ダンジョン独特の重苦しさと、胸の奥で鳴り響く鼓動。
それでも――恐怖よりも期待の方が勝っていた。
◇
「……いたな」
通路の先、ぴちゃりとした水音と共に、半透明のゼリー状の魔物――スライムが現れる。
最下級とはいえ、モンスターはモンスター。
もし油断すれば飲み込まれ、骨すら残さず溶かされると聞いたことがある。
俺は深呼吸し、腰に下げた安物の短剣を握った。
「よし……【運操作】!」
発動と同時に、体の奥で熱が灯る。
狙うは――急所。
スライムのコア、中心部に浮かぶ赤黒い核。そこを突けば、一撃で倒せる。
短剣を振り下ろす。
――ズブリ。
「……っ!」
刃は迷いなくコアを貫いた。
スライムは断末魔を上げる間もなく、どろりと崩れ落ちる。
「……一撃、か」
思わず笑みが漏れる。
普通ならスライム相手でも数合はかかると聞いていた。
だが俺の刃は、寸分の狂いもなく急所に届いたのだ。
◇
足元にキラリと光るものがある。
恐る恐る拾い上げると――銀貨。そして、革袋に入った薬草。
「マジか……初討伐でドロップ?」
聞いていた話では、スライムのドロップ率は数%程度。
それが初戦で出るなんて、どれだけ幸運なんだ。
さらにその横に、小さな赤い宝石が転がっていた。
「……魔石? しかもスライムから!?」
通常、魔石は上位モンスターからしか得られない希少素材だ。
ギルドに持ち込めば高値で買い取ってもらえるはず。
胸が高鳴る。
これが俺のスキル――【運操作】の力。
◇
「よし、次も……」
そう呟いた瞬間だった。
奥の通路から、ぬるりと影が現れた。
通常より二回り大きなスライム――黒い粘液を纏った異形。
「……ブラックスライム!?」
最下層にしか出ないはずのレアモンスターが、浅層に現れることなどあり得ない。
だが、俺のスキルが“遭遇率”にまで作用しているのだろう。
「ははっ……最高じゃねぇか!」
恐怖よりも、興奮が勝った。
試す機会は思ったより早く訪れたらしい。