第24話 「迫り来る王の影」
新宿F級ダンジョンに足を踏み入れてから、すでに数時間。
俺とフォルは、道中に現れるゴブリンやコボルトを確実に仕留めながら、着実に奥へと進んでいた。
「ふぅ……これで、十体目か」
短剣を振り払い、コボルトの耳を切り取ってポーチに収める。
血の匂いが鼻につくが、もう慣れた。
フォルは倒したゴブリンの上にちょこんと乗り、胸を張るように鳴いた。
「きゅるっ!」
「調子いいな。……前よりも動きが鋭くなってる」
事実、ここ数日の戦闘でフォルは目に見えて成長していた。
咆哮の威圧感も強まり、時折、口の端から小さな火花が漏れるようになってきている。
まだ“竜炎の息吹”には程遠いが、その片鱗が確かに芽吹き始めていた。
俺自身も、戦いの中で余裕を持てるようになっていた。
敵の足運びや攻撃の軌道が、以前よりも鮮明に見える。
体の反応も良くなってきており、フォルとの連携は格段に上がった。
(……やっぱり、死線を越えた成果だな)
脳裏に浮かぶのは、あの“ダークゴブリンナイト”との死闘。
あの一戦で俺は確かに成長し、恐怖に立ち向かう覚悟を得た。
今の戦いが以前よりも楽に感じるのは、そのおかげだ。
――だが。
「……妙だな」
気配が変わったのは、さらに奥に進んだときだった。
これまで群れで現れていたゴブリンやコボルトの姿が、ぱたりと消えたのだ。
「きゅる……?」
フォルも周囲をきょろきょろと見渡し、不安そうに鳴く。
耳を澄ませば、遠くから「どどどどっ」と地鳴りのような音が響いてくる。
(……これは、群れじゃない。もっと大きな……)
胸の奥がざわつく。
俺は腰の短剣を握り直し、前方に広がる通路を慎重に進む。
やがて、視界の先に巨大な石造りの扉が現れた。
重厚な装飾が施され、周囲の壁には古代文字のようなものが刻まれている。
空気は重く淀み、吐息すら響きそうな沈黙。
「……ボス部屋、か」
ギルドの記録によれば、この先に待ち受けているのは【ゴブリンキング】。
ゴブリン種の中でも群れを統べる王にして、E級冒険者が挑むにふさわしい存在。
ゴクリと唾を飲み込む。
G級の頃に相手をしていたゴブリンナイトとは次元が違う。
ましてや、運命に翻弄される俺の前には“格上”が現れやすい。
今回も何が待つのか、想像するだけで背筋が冷える。
「フォル……」
隣を見ると、幼竜は怯むことなく扉をじっと睨んでいた。
小さな体からは信じられないほどの気迫。
その姿に、自然と笑みがこぼれる。
「行くか。ここを越えれば――俺たちも一歩上の冒険者だ」
フォルは「きゅる!」と力強く鳴いた。
俺は深呼吸し、両手で扉に触れる。
冷たい石の感触が掌に伝わり、心臓の鼓動が早まる。
――ギィ……ギィィ……ッ。
重々しい音を立てて、扉がゆっくりと開いていく。
黒い空気が流れ出し、全身の毛穴が逆立つ。
その先に待つのは、ただのゴブリンキングなのか。
それとも――運命がまたしても呼び寄せる“異常”なのか。
「……行こう、フォル」
肩の上で小さな竜が唸り声を上げた。
そして俺は、一歩を踏み出した。




