第23話 「一歩上の迷宮」
冒険者ギルド東京支部。
カウンター越しに、いつも通り依頼を確認するつもりで足を運んだ俺は、ふと立ち止まった。
(……G級はもう安定してる。次の段階に進まなきゃ)
ここ最近は、新宿G級ダンジョンでゴブリン討伐の依頼を繰り返し受けてきた。
連携は安定し、危なげなく耳を集め、報酬を手に入れることができている。
けれど――その安定感こそが、逆に「成長が止まっている」ことを示しているように思えた。
俺は受付の女性に声をかける。
「すみません。新宿F級ダンジョンに挑戦したいんですが」
「……え? 篠崎さん、まだG級ですよね?」
心配そうな顔を向けられる。だが規則は知っている。
冒険者は自分のランクより一つ上の迷宮までなら挑戦可能。
「大丈夫です。規則的には問題ないはずですよね?」
「……はい。ですが、F級はG級より危険度が一段高いです。ゴブリンやコボルトが群れで出ますし、最深部にはゴブリンキングが……」
彼女の言葉に、俺の胸が高鳴った。
ゴブリンナイトの上位種、ゴブリンキング。
E級相当の力を持つと言われている。
まだ早いかもしれない。けれど、挑まずに成長はない。
「気をつけます」
「……分かりました。無理だけはしないでくださいね」
差し出された入場証を受け取り、俺はフォルを肩に乗せる。
「きゅるっ!」
小さな鳴き声が、背中を押してくれるようだった。
――新宿F級ダンジョン。
入口をくぐった瞬間、空気が違うと分かった。
G級ダンジョンの湿った石造りの通路とは違い、ここはどこか獣臭が濃く、苔や草が壁に張り付いている。
遠くから獣の遠吠えのような声が響いてきて、思わず息を呑んだ。
「これが……F級」
歩みを進めると、すぐに物音がした。
ジャリ、と土を踏み鳴らす足音。低い唸り声。
「ガルルル……!」
姿を現したのは、犬の頭を持つ獣人――コボルト。
しかも一体ではない。左右の通路からぞろぞろと現れ、合わせて五体。
長い腕に鈍ら光る短剣、獰猛な牙をむき出しにして俺たちを囲む。
「初っ端から小隊か……!」
G級のゴブリンの群れよりも、遥かに統制がとれている。
一歩でも引けば一斉に襲いかかってくる気配。
背筋に冷たい汗が伝う。
「フォル、行くぞ!」
「きゅるあっ!」
フォルが地を蹴り、先頭のコボルトに飛びかかる。
小さな体から放たれた咆哮が一瞬敵を怯ませ、その隙に俺は短剣を突き込んだ。
「ギャウッ!」
一体、沈む。
だが残り四体が同時に襲いかかってくる。
振り下ろされる短剣を受け止め、押し返す。
横合いから噛みつきが飛んできたが、フォルの尻尾が弾き飛ばしてくれた。
その瞬間、フォルの口から――小さな炎の火花が散った。
「おお……!」
ゴブリン戦では見られなかった力。
ほんの火種程度だが、コボルトの毛を焦がし、怯ませるには十分だった。
「フォル、ナイスだ!」
炎に気を取られた敵を仕留め、残り二体も息を合わせて倒す。
気づけば、血の匂いと共に静寂が戻っていた。
「ふぅ……やっぱり全然違うな」
肩で息をしながら呟く。
フォルは胸を張り、小さく鳴いた。
「きゅるっ!」
その姿に笑みがこぼれる。
確かに危険度は跳ね上がっている。
けれど、その分――フォルと一緒に強くなれる。
「よし、奥へ進もう。ここからが本番だ」
俺たちは警戒を強めつつ、新宿F級ダンジョンの奥へと歩みを進めた。




