第21話 「幼竜の鼓動」
黒の魔核を手に入れてから数日。
俺は結局、ギルドで換金せずに家に持ち帰り、机の引き出しにしまったままにしていた。
売れば高額になるだろうと頭では分かっている。
だが、不思議なことにその石を手にすると、胸の奥がざわつくような感覚があった。
そして、フォルがまるで「欲しそうに」見つめることもあった。
「……やっぱり、お前と関係あるんだろうな」
「きゅるぅ……」
小さな竜は俺の膝の上で体を丸め、黒の魔核にじっと視線を送っていた。
夜、ふと目を覚ました俺は、部屋の隅で奇妙な光景を目にした。
机の引き出しがかすかに揺れ、そこから漏れるように淡い黒い光が広がっていたのだ。
起き上がって引き出しを開けると、黒の魔核が微かに脈打つように輝いていた。
その光に反応したように、フォルが目を覚まし、鳴き声をあげた。
「きゅるっ!」
次の瞬間、魔核から放たれた光の糸がフォルの胸元へと吸い込まれていった。
「なっ……!?」
俺は思わず手を伸ばそうとしたが、止められなかった。
フォルは光を取り込んでも苦しむどころか、むしろ心地よさそうに瞳を閉じていた。
すると――その小さな体に変化が起き始める。
背中の鱗がひときわ硬質な輝きを帯び、首筋から微かに熱気が漂った。
口元からは、ほんのわずかだが赤黒い火花のような息が漏れた。
「……炎?」
フォルはまだ幼竜のままだ。
まともに炎を吐ける段階ではないはずなのに、黒の魔核と共鳴することで力が引き出されたのだろうか。
「きゅるる……」
フォルは疲れたように俺の胸に飛び込み、そのまま眠りについた。
抱きとめた体からは、以前よりも確かな鼓動と温もりが伝わってくる。
(やっぱり……黒の魔核はフォルの成長に必要なものなんだ)
迷いは残る。だが、今夜の出来事で俺の中に一つの確信が芽生えた。
この石は売るべきものではない。
フォルと共に未来を掴むために――きっと使うべきものだ。
窓の外には夜明けの気配が漂っていた。
新しい一日が始まろうとしている。
そして、それは俺たちにとって、新しい「進化」の始まりでもあった。




