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第20話 「幼竜と黒の鼓動」

「黒の魔核……か」


ギルドで古文書を読み返した帰り、俺はその言葉を頭の中で繰り返していた。

曰く――“黒の魔核は、竜の成長を促す秘宝”。

だが同時に、“暴走と死をもたらす呪物”として記されている。


どちらが真実なのかは分からない。

けれど、その伝承を知ってしまった以上、俺が手にしているものはただの換金アイテムではない。


「きゅる?」


肩に乗ったフォルが、小首をかしげて俺を見上げる。

その瞳は、まるで「信じていいよ」とでも言いたげに、柔らかい光を宿していた。


「……フォル。お前は、この魔核をどう思う?」


問いかけても、返ってくるのは短い鳴き声だけ。

けれど不思議と、俺にはそれで十分だった。

心の奥で確かに繋がっている感覚があるから。



帰宅し、机の引き出しから例の布袋を取り出す。

黒の魔核を掌に乗せると、かすかに脈打つ鼓動が伝わってきた。


(……まるで生き物みたいだ)


ギルドの文献では、“竜の血を持つ者が触れれば共鳴する”とも記されていた。

竜の血を持つ者――それはもちろん、目の前の幼竜フォルだ。


「……試してみるか」


俺は恐る恐る、魔核をフォルの前に差し出した。

フォルは興味深そうに鼻を近づけ、ぺたりと舌で舐めた。


――瞬間、魔核が淡く光を放ち、フォルの鱗も同調するように煌めいた。


「っ……!」


思わず魔核を取り落としそうになる。

けれど、光はすぐに収まり、元の静かな結晶へと戻った。


「……今のは……」


フォルは何事もなかったように俺の足元で丸まり、満足そうに目を細めている。

その姿を見て、俺は確信する。


(やっぱりこれは、フォルに関わるものだ。しかも、ただの“関わり”じゃない……)



その夜。

眠りにつこうと布団に潜り込んだとき、ふと脳裏に浮かんだ。


――黒の魔核は、竜を次なる段階へ導く。


古文書の一節。

だが“次なる段階”とは、一体何を意味するのか。

成長か、進化か、それとも……。


フォルの寝息を聞きながら、俺は天井を見つめた。

確実に言えるのは、あの魔核を使えば彼女に変化が訪れるということ。

だが、それが良い結果か悪い結果かは分からない。


(……焦る必要はない。タイミングは、きっと訪れる)


そう心に決め、俺はゆっくりと目を閉じた。


黒の魔核は、まだ机の引き出しの中。

静かに、しかし確かに――次の鼓動の時を待っている。

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