第20話 「幼竜と黒の鼓動」
「黒の魔核……か」
ギルドで古文書を読み返した帰り、俺はその言葉を頭の中で繰り返していた。
曰く――“黒の魔核は、竜の成長を促す秘宝”。
だが同時に、“暴走と死をもたらす呪物”として記されている。
どちらが真実なのかは分からない。
けれど、その伝承を知ってしまった以上、俺が手にしているものはただの換金アイテムではない。
「きゅる?」
肩に乗ったフォルが、小首をかしげて俺を見上げる。
その瞳は、まるで「信じていいよ」とでも言いたげに、柔らかい光を宿していた。
「……フォル。お前は、この魔核をどう思う?」
問いかけても、返ってくるのは短い鳴き声だけ。
けれど不思議と、俺にはそれで十分だった。
心の奥で確かに繋がっている感覚があるから。
◇
帰宅し、机の引き出しから例の布袋を取り出す。
黒の魔核を掌に乗せると、かすかに脈打つ鼓動が伝わってきた。
(……まるで生き物みたいだ)
ギルドの文献では、“竜の血を持つ者が触れれば共鳴する”とも記されていた。
竜の血を持つ者――それはもちろん、目の前の幼竜フォルだ。
「……試してみるか」
俺は恐る恐る、魔核をフォルの前に差し出した。
フォルは興味深そうに鼻を近づけ、ぺたりと舌で舐めた。
――瞬間、魔核が淡く光を放ち、フォルの鱗も同調するように煌めいた。
「っ……!」
思わず魔核を取り落としそうになる。
けれど、光はすぐに収まり、元の静かな結晶へと戻った。
「……今のは……」
フォルは何事もなかったように俺の足元で丸まり、満足そうに目を細めている。
その姿を見て、俺は確信する。
(やっぱりこれは、フォルに関わるものだ。しかも、ただの“関わり”じゃない……)
◇
その夜。
眠りにつこうと布団に潜り込んだとき、ふと脳裏に浮かんだ。
――黒の魔核は、竜を次なる段階へ導く。
古文書の一節。
だが“次なる段階”とは、一体何を意味するのか。
成長か、進化か、それとも……。
フォルの寝息を聞きながら、俺は天井を見つめた。
確実に言えるのは、あの魔核を使えば彼女に変化が訪れるということ。
だが、それが良い結果か悪い結果かは分からない。
(……焦る必要はない。タイミングは、きっと訪れる)
そう心に決め、俺はゆっくりと目を閉じた。
黒の魔核は、まだ机の引き出しの中。
静かに、しかし確かに――次の鼓動の時を待っている。




