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第2話 「試し運転」

「……まずは試してみるか。」


スキルを得た瞬間から胸の奥がざわついて落ち着かない。

せっかくの「運操作」、効果を確かめずに寝るなんてとてもできなかった。


俺は机の引き出しを開け、古びた百円玉を取り出す。

やることは簡単――コイントスだ。


「表を出せ……」


掌に込める意識と共に、スキルを発動させる。

体の奥に微かな熱が生まれ、脳裏で“表になる未来”を強く描く。


カラン、とコインが床に落ち、クルクルと回転しながら止まる。

……表。


「おおっ……!」


偶然かもしれない。

もう一度だ。


「今度は裏!」

コインを弾く。床に落ちた瞬間、裏が上を向いた。


さらに繰り返す。三回、四回、五回。

すべて意図した通りの結果が出る。


「……マジかよ。これ、本物だ」


笑いがこみ上げた。

単なる確率操作だと思っていたが、これは未来そのものを書き換えている感覚だ。

使い方次第で、とんでもない力になる。



翌日。

俺は街の中央区にある「冒険者ギルド」を訪れていた。


冒険者になるための条件は十八歳であること、ただそれだけだ。

どんなスキルが発現したかは関係ない。


例えば石を投げるのが上手くなるスキルを持っている人でも、

剣術が達人レベルになるスキルを持っている人でも関係なく、

冒険者ランクは一番下のG級スタートになる。


一番下のランクG級ライセンスで受けられる依頼は、

スキルを持っていない小学生でも倒せるような最下級スライム討伐程度。

だから冒険者になる"だけ"であれば、どんなスキルが発現したかは実のところ関係ないのだ。


しかし冒険者ランクを上げるとなると話は変わる。

どんなスキルが発現したかは関係ないのは変わらないが、

実力が求められる。

ハズレスキルだろうと、1つ上のランクの魔物を簡単に倒せるのであればランクは上がるというわけだ。

まぁ上に行けば行くほど、ハズレスキルのみの冒険者などいないのだが。

ハズレスキルのみで上がれるのは精々才能が有ってE級止まりだろう。


俺の【運操作】はどこまで通用するんだろうか。

そんな緊張と希望を宿し、俺はギルドの中に入った。



ギルドの建物は石造りの堂々とした外観で、扉を開けば、武装した冒険者たちが酒を酌み交わし、

依頼票が貼られた掲示板に人だかりができていた。

空気には血と汗と、わずかな希望が入り混じっている。


「いらっしゃいませ、ご依頼ですか?」

受付の女性が声をかけてきた。栗色の髪を後ろで束ねた、優しげな笑みの職員だ。


「いえ、冒険者登録をお願いしたいんです。昨日、18になりまして」


「まあ、おめでとうございます! では、こちらの用紙にお名前等必要事項の記入をお願いします。」


差し出された羊皮紙の申請書に、ペンを走らせる。

名前、年齢、非常時の連絡先、そしてスキル欄もあるが任意のため空欄のままにしておく。


記入を終えて差し出すと、受付の女性が確認し笑顔になる。


「登録は完了しました。今日からあなたは冒険者となります。こちらがG級ライセンスのカードです。

冒険者といえどG級は一般人と同じ枠組みですから、十分に気を付けてくださいね?」


「はい、ありがとうございます。」


「依頼書は入口のほうにある掲示板に貼られているので受ける際はそちらで内容を確認してください。

それとダンジョンに入る際は、入口にいる職員にライセンスを見せてくださいね。」



受付嬢の丁寧な説明に頷きながら、カードをしっかりと握りしめた。

表面には俺の名前と年齢、そして大きく刻まれた【G】の文字。


「……これが、冒険者の証か」


昨日まで普通の高校生だった俺が、今や冒険者になった。

わずか一枚のカードだが、胸にずしりと重みを感じる。


ふと横を見ると、掲示板の前には何人もの冒険者が群がっていた。

彼らの視線の先にあるのは、ずらりと並んだ依頼書だ。


(よし……俺も最初の依頼を選ぶか)


G級で受けられる依頼は限られている。

スライム討伐、薬草採取、街外れの雑用。

その中で、最初に選ぶのは――もちろんスライム討伐だ。


「よし、決まりだな」


スキル【運操作】の実力を、実戦で確かめる絶好の機会。

心臓が高鳴るのを感じながら、俺は掲示板からスライム討伐の依頼書を引き抜いた。


――そして、初めてのダンジョンへ向かう。

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