第17話 「漆黒の魔核」
新宿の街を抜け、自宅のアパートへ戻る。
ドアを閉めると、張り詰めていた緊張がようやく解けた。
ベッドに腰を下ろすと、肩にいたフォルも小さく欠伸をする。
「お前も疲れただろ。今日はよく頑張ったな」
「きゅる……」
そのまま荷物を下ろし、鞄の中を整理し始めた。
耳の入ったポーチ、空の水筒、包帯の残り。
ひとつずつ片付けながら、ふと指先に固い感触が触れた。
「……ん? なんだこれ」
底に沈んでいた小袋を取り出す。
中から転がり出たのは、漆黒の光を宿した結晶。
「……あ」
そうだ。ボスを倒した直後に拾って、そのまま忘れていた。
ギルドで換金できたかもしれないのに……俺としたことが。
手に取ると、冷たさが掌に吸い込まれるように広がる。
深淵を閉じ込めたような黒の輝き。
ただの魔石ではない――それは直感で分かった。
「……売れば高くつくかもな」
独りごちた瞬間、ベッドに丸まっていたフォルがぴくりと反応する。
次の瞬間、ちょこんと俺の膝に乗り、宝石へと視線を向けた。
「きゅ……」
真剣な瞳。
伸ばした前足が、魔核に触れようと震えている。
近づけると、淡い光がフォルの鱗に反射し、一瞬だけ共鳴するように輝いた。
「……お前、これが欲しいのか」
フォルは小さく頷くように鳴いた。
その声音には、ただの興味ではない“必要”が宿っていた。
胸の奥にざわめきが走る。
もしこれがフォルの成長に関わるものなら――軽率に換金などできるはずがない。
「……やっぱり、しばらくは手元に置いておこう」
魔核を袋にしまい込み、机の奥へと押し込む。
その横で、フォルが満足そうに目を細めた。
「金より、未来か……」
俺は深く息をつきながら天井を仰いだ。
いつか、この漆黒の魔核の意味を知る日が来るだろう。
――そしてそれは、俺とフォルの運命を大きく変えるものになる。