第14話 「影を纏うゴブリン騎士」
冒険者ギルド東京支部。
受付のカウンターに、見慣れた依頼書が並んでいた。
【依頼内容】
新宿G級ダンジョン 下層ゴブリン討伐
・目標:ゴブリン10体以上の討伐証明(耳を回収)
・報酬:10,000円
「よし、いつもの依頼を受けとくか。」
報酬は安いが、ダンジョンに潜る口実になる。
どうせ今日はボス部屋を目指すつもりだったし、途中でこなしておくに越したことはない。
「よし、フォル。今日も行くぞ」
「きゅるっ!」
フォルを肩に乗せたまま、新宿G級ダンジョンへと足を踏み入れた。
石造りの通路に、湿った空気が漂う。
ここ数日で慣れた景色だが、ゴブリンの声が響くと自然と身が引き締まる。
「ぎゃぎゃっ!」
通路の奥から三体のゴブリンが飛び出してきた。
俺は短剣を構え、フォルはその横で低く唸る。
「行くぞ!」
フォルの咆哮にゴブリンが怯む。
そこへ俺が踏み込み、短剣で一体を仕留める。
残り二体は怯んだまま、フォルの尻尾に弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「きゅるっ!」
――決まった。
以前は必死で動いていた俺たちの連携も、今では自然に噛み合うようになってきた。
「だいぶ余裕が出てきたな……」
耳を回収し、ポーチに収める。
その後も数度の戦闘を繰り返し、規定数を超えるゴブリンの耳を手に入れた。
依頼はこれで達成だ。
だが今日の本命は、ここから先。
「……ボス部屋だ」
重苦しい空気が漂う通路を進むと、前方に巨大な鉄扉が姿を現す。
数日の鍛錬を経て、ようやく辿り着いた場所。
ギルドの記録では、この先に待つのは【ゴブリンナイト】――E級相当のボスだ。
俺は扉の前で深呼吸をし、隣に立つフォルを見やる。
「準備はいいか?」
「きゅる……!」
小さな竜の目は真剣そのもので、俺と同じ方向を見据えていた。
「……行こう」
俺は扉を押し開けた。
だが――その先に待ち受けていたのは、記録にある「ゴブリンナイト」ではなかった。
闇に溶け込む漆黒の鎧。
血のように濁った赤い眼光。
そして、空気を裂くほどの重圧。
【ダークゴブリンナイト】。
「っ……!?」
俺とフォルは、足を止めた。
ただ立ち尽くすだけで、背筋を凍らせる威圧感。
(これ……本当にG級のダンジョンボスか……?)
その圧倒的な存在感に、喉がひりつくほど乾いていく。
次の瞬間、ダークゴブリンナイトが咆哮をあげた。
広間が揺れ、全身に「死」が覆いかぶさる。
――絶望の幕が、いま開かれた。