第11話 「小さな成長、大きな一歩」
森でのゴブリン討伐を終えた俺とフォルは、ギルドへ戻る道を歩いていた。
夜の帳が落ちかけ、街の灯りがぽつぽつと輝き始めている。
「……ふぅ」
思わずため息が漏れる。
全身が汗で張り付き、筋肉がひりつくように痛む。
でも、ただ疲れただけじゃない。
体の奥で、何かが確かに“動き始めた”気がしていた。
フォルは俺の肩にちょこんと乗り、満足そうに目を細めている。
戦いの最中、彼女は小さな体で俺を庇い、時に圧を放って敵を怯ませてくれた。
あの瞬間の連携感覚は、言葉じゃ表せないほど鮮烈だった。
(ステータス上は何も変わってない。でも……俺は、強くなった)
そう思えた。
剣を振るい、血を流し、命を賭けた。
その経験は、数値やランクなんかよりもずっと重い。
◇
ギルドに戻ると、依頼掲示板の前で騒いでいた冒険者たちの視線がこちらに向く。
俺が手にした袋の中には、討伐証明となるゴブリンの魔石が収められている。
受付のリナが駆け寄ってきた。
「篠崎さん! お帰りなさい。……その袋は?」
「依頼のゴブリン討伐、終わりました」
袋を差し出すと、リナは目を丸くしながら中を確認した。
「……本当に。全部、討伐済み……!」
その声に、周囲がざわめいた。
「G級で、もうゴブリンを?」「しかも一人でか?」
驚きと、ほんの少しの嫉妬が混じった視線が突き刺さる。
俺は苦笑いしながら肩をすくめた。
「一人じゃないさ。こいつと一緒だ」
そう言って肩のフォルを撫でると、彼女は「くぅ」と小さく鳴いて胸を張った。
周囲の冒険者たちは一瞬どよめき、次いで笑いが広がる。
「マスコットかよ」「ペット連れで討伐成功? すげえな」
誰もフォルの正体を知らない。
幼生体とはいえドラゴンだなんて気付く者はいなかった。
リナは安堵の息を吐き、微笑む。
「無事でよかった……! これが報酬です。本当にお疲れ様でした」
袋を受け取りながら、俺は心の中で呟いた。
(数値じゃ見えないけど、俺は一歩前に進めた。フォルと一緒なら、もっと遠くまで行ける)
ギルドを出る頃には、夜空に星が瞬いていた。
その輝きはまるで、俺たちの未来を照らすように見えた。
「……次は、もう少し死線に近い依頼を探さないとな」
フォルが「きゅる」と応える。
俺はその声を背に受けながら、強く歩き出した。