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第10話 「死線の依頼」

翌朝。

俺はフォルを肩に乗せ、再びギルドの扉を押し開けた。


(スライムじゃ成長できない。死線を越えなきゃ意味がない……)


受付嬢リナが、昨日の騒動を思い出したようにこちらを見て、慌てて立ち上がった。

「し、篠崎さん! あの後は……」


「大丈夫です。今日は依頼を受けに来ました」


そう言うと、リナは少し安心したように胸を撫で下ろし、それから真剣な表情で首を傾げた。

「依頼、ですか? G級用なら昨日と同じスライム討伐ですが……」


「スライムはもういいです。E級の依頼、受けられませんか?」


ギルドの空気が凍った。

近くにいた冒険者たちが一斉にこちらを振り向く。


「は? G級がE級? 死ぬ気か?」

「昨日登録したばかりの新米が、調子に乗りやがって」

「どうせすぐ死んで、ギルドの記録に『バカな挑戦者』として残るだけだな」


嘲笑と冷ややかな視線が突き刺さる。

俺自身も分かっている。普通に考えれば無謀だ。


だが、フォルの小さな体が肩で揺れ、心地よい温もりが伝わってくる。

(……大丈夫だ。俺には【運操作】がある。フォルもいる)


「……分かりました」

リナは迷いながらも依頼書を差し出してくれた。


【依頼内容】

・対象:群生ゴブリン(推定数十体)

・ランク:E級

・危険度:中

・報酬:10000円


(ゴブリンか……数が厄介だが、これなら死線を越えられる)


俺は迷わず依頼書にサインした。



ゴブリンの巣はダンジョン内の北の森。

鬱蒼とした木々の中に、鼻を突く腐臭が漂う。


「……フォル、行けるか?」


「クゥ!」

肩から飛び降りたフォルが小さく鳴き、翼を広げて魔力を迸らせる。

その幼い姿が、確かにドラゴンであることを示していた。


(よし……運を寄せる。俺たちが“勝つ未来”を!)


俺はスキルを発動させ、未来を描く。

次の瞬間、茂みの中から十数体のゴブリンが飛び出してきた。


「ギギギギ!!」

刃物や棍棒を振りかざし、黄色い眼がこちらを睨む。


「来い……!」


フォルが口を開き、小さな光弾を吐き出す。

それは【龍威】の魔力を帯びて炸裂し、先頭のゴブリンが吹き飛んだ。


俺は剣を構え、突っ込んでくるゴブリンを斬り払う。

重い。力では圧倒される。だが――


(運を寄せろ! 俺の刃は、致命を穿つ!)


ギリギリの間合いでゴブリンの棍棒が外れ、逆に俺の剣が首筋を捉えた。


「……っはぁ!」


二体目を斬り伏せる。

フォルは周囲に威圧を撒き散らし、ゴブリンたちは怯えて動きが鈍っていた。


「今だ、押し切る!」


俺とフォルは息を合わせ、次々とゴブリンを倒していく。

だが――


「ギャアアアアア!!」


巣の奥から、体格の違う影が姿を現した。

筋肉質で、肩には骨の装飾。

赤い眼を持つ、ゴブリンチーフ。


「っ……!」

全身に冷汗が流れる。

こいつはE級の上位個体。正面から戦えば勝ち目はない。


「クゥ……!」

フォルが唸り声を上げるが、その幼い体はまだ小さく、吐き出せる魔法弾も数に限りがある。


ゴブリンチーフは咆哮と共に棍棒を振り下ろした。

「ッ――!」

俺は咄嗟に剣で受けるが、腕に激痛が走る。


(まずい……押し潰される!)


その瞬間、俺はスキルを叫ぶように発動した。


「運操作……ッ! 外れろォ!!」


棍棒がわずかに滑り、地面を叩き割った。

その隙に飛び退き、荒い息を吐く。


(やっぱり……これだ。死線の中でしか、俺は成長できない)


「フォル、行くぞ!」


フォルが頷き、口に魔力を溜める。

チーフが吠え、突進してきた。


(避けろ! 俺たちに都合のいい未来だけを――引き寄せろ!)


俺はチーフの攻撃を紙一重でかわし、足元に転がっていた石に躓かせる。

バランスを崩したその頭上へ――


「今だ、フォル!!」


「クゥゥゥ!!」


眩い光弾が放たれ、チーフの顔面を直撃。

悲鳴を上げたチーフがのけ反った瞬間、俺は渾身の力で剣を突き立てた。


「――はぁぁあああっ!!」


剣が喉元を貫き、巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。


「……っは、はぁ……!」

俺はその場に膝をつき、荒い息を吐き続けた。

全身が震えている。だが、胸の奥には熱が広がっていた。


(やった……俺たちは、本当に死線を越えた……!)


フォルが駆け寄り、俺の頬を舐める。

小さな体から溢れるぬくもりに、思わず笑みが零れた。



巣の奥を調べると、銀貨数枚や薬草、そして古びた小箱が見つかった。

中には、魔力を帯びた短剣が収められている。


(報酬に加えてドロップか……まさに“死線のご褒美”ってやつだな)


俺はフォルを抱き上げ、森の出口を目指した。

体中痛む。だが、それ以上に心臓は高鳴っている。


「……俺たちなら、どこまででも行ける」


そう呟いた時、ライセンスカードが微かに光を放った。

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