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執筆していてこの問題の深刻な存在を再認識した次第である。

前回のペットの社会学(5)に続き(6)は最終回で、主として諸問題が統計的にみた場合、問題の顕在化と新たな視点が浮かび上がってきた。この視点から今のペット問題がつぶさに人間の問題だと言う事がはっきりと浮かび上がってきたように思える。

ペットの社会学(6)

承前

殺処分激減は、法の改正にあわせ、法改正に乗じセンターの努力によって引き取りを厳選した結果、その返還数・譲渡率が年々上昇した。表3の「全国の犬猫の返還・譲渡率推移」を見ると分かるように、犬・猫せて上昇したことが分かるであろう。

しかしこの成果は必ずしも“ペットの福祉に対する意識の向上や愛護の認識が進んだ”からの減少とは言い難く、あったとしてもその寄与は限定的ではないだろうか。


 では、そのことを考えてみよう。確かにセンターでの殺処分数は減少した。この問いには素直には頷けないところがある。先ほどの問いに戻るが殺処分は本当に減少しているのか。統計に表れない“他で行われているかもしれない殺処分は”本当にないのであろうか。 

 疑問の一つは繁殖業界が、毎年新規の犬猫を飼育界の市場に一定数売り込んでいるいるからである。飼育界が新規で犬猫を一定数買い入れていれば否が応でも飼育数は増加する、はずである。


表1 全国の犬・猫の新規飼育数の推移

千匹

犬 猫 合計

平成 28年 2016年 417 399 816

平成 29年 2017年 333 444 777

平成 30年 2018年 360 351 711

令和 1年 2019年 350 394 744

令和 2年 2020年 416 460 876

令和 3年 2021年 397 489 886

令和 4年 2022年 426 432 858

令和 5年 2023年 397 369 766

令和 6年 2024年 444 359 803

環境省・統計資料



  表2の全国の犬・猫の飼育数の推移を見ていただきたい。その上で、表5に見られる新規飼育数を加えれば飼育数はもっと増えるはずではないか。

表1の新規飼育数の推移を見ると毎年犬は、約40万匹、猫は約80万匹の新規飼育数で市場に売り込まれている。

 率直な疑問だがセンターでの殺処分が減少しかつ、繁殖業界から一定数の売り込みが続いている。とすれは飼育数は増加するはずではないか。

 表2の「全国の犬・猫の飼育数の推移」を見ればお分かりのように犬は漸減し、猫は横ばいか微増にとどまっている。飼育数に殺処分減少も新規飼育数で市場への売り込みの増加分も、「全国の犬・猫の飼育数の推移」に反映しているとは言い難いのである。なぜか。

 私はその理由として流通経路の何処かで殺処分が行われ隠蔽されているのではないかとひそかな疑問を持つ。だが、公開されている資料だけでは袋小路に入り解析に限界がある。何かある。表3と表4を解析すれば、何処かで殺処分が行われ隠蔽されているとしか言いようがないのである。だが藪の中としか言いようがない。残念だがこの論証は諦めよう。


 

表2 全国の犬・猫の飼育数の推移



表2 全国の犬・猫の飼育数の推移 千匹

犬 猫 合計

平成 25年 2013年 8714 8409 17123

平成 26年 2014年 8710 8410 17120

平成 27年 2015年 7994 8297 16291

平成 28年 2016年 8008 8333 16341

平成 29年 2017年 7682 8762 16444

平成 30年 2018年 7616 8849 16465

令和 1年 2019年 7579 8764 16343

令和 2年 2020年 7341 8628 15969

令和 3年 2021年 7106 8946 16052

令和 4年 2022年 7053 8837 15890

令和 5年 2023年 6844 9069 15913

令和 6年 2024年 6796 9155 15951

環境省・統計資料


 私は繁殖産業の存在が社会悪だと言うつもりはない。この産業が寸分もの倫理性のないまま存在しているとは思えないのである。この産業の構成者が一般の人と同じ家庭を持ち子を持つ人であって見れば、やはり倫理性は存在する。にもかかわらず繁殖産業が犬猫を虐待し倫理性を放棄してまでビジネスとしてが成立させていることの理由はなにか。

 それは私たちの社会の中にこの状態のビジネスを可能にしている社会的背景があるからに他ならない。それでは背景とその成立理由とは、何か。何なのか。

 私は先にペットの社会学(2)で現代社会が分断化、細分化され、人心の荒廃・砂漠化が進んでいることを述べた。この社会の中で心の空白を埋める行為の一つとしてペットを「代償行為」の対象として捉え飼育されていることがペット繁殖産業の存在を根拠付けている。

 これが繁殖産業を成立させるおおきな社会的背景なのである。このようなことから現代社会を見た場合人間のペット依存は今後も微増ではあるが増加すると考えられよう。

  繁殖産業を支えるものは、ペット購入者の心の空白のを埋める「代償行為」であるペット依存的背景があり、この要望に応えるため、仔犬や仔猫を生産し続ける理由があると述べた。裏を返せば人間社会へのペットの供給が、現代人の心の空白と安定に幾ばくかの寄与をしているとも言えるだろう。

 したがって、常に繁殖業者は、時の人間社会の需要傾向に反応し現代社会の要請に見合う犬を生産し続けることになる。

 社会の変化や生活様式が多様化し、もはや可愛いだけが現代人の要請ではなくなった。おとなしく、従順で、鳴き声を立てず、長寿で、近所迷惑にならないことが、現代社会の必然的な要請なのである。

 かっては中~大型犬を単数屋外で犬小屋を設けて飼育し、不審者には吠えることが飼う理由で、猫はネズミを捕ることが飼う理由であった。。おとなしいだけでは役立たずであった。人間とペットは居住空間を別にしていたが、今は犬猫を屋内で飼育し座敷犬、座敷猫として人間とペットが同じ居住空間をもって暮らしている。これは大きな生活様式の変化である。

 かっての番犬的な犬もネズミ捕りの猫も、いずこにも求めようがない。この座敷犬座敷猫の大 きな需要が繁殖産業に大きな変化をもたらした。約3割弱の人がペットを飼育しているという調査結果があり、4割を超える飼育率という調査結果もある。

  “商品”としての市場価値に晒されどんな采配を振るわれるのか犬猫は生きた心地はしないであろう。これが犬にとっては、まさに天国と地獄の分かれ道となる。


 犬や猫は生まれる場所も育つ環境も選ぶことなくこの世界にやってくる。そしてまた生まれた時から飼い主を選ぶことが出来ないのも真実である。どうもがいても自らの意思では生きることも死ぬこともできない犬と猫。何という不合理、何という不条理、何という受難であることか。

 もしかしてあなたと暮らしているペットのルーツをたどれば、繁殖業者によって生を受け、このような環境で育てられたのかも知れない。で、あれば幾多の地獄の門をくぐり抜けたその脳裏には過去の忌まわしい記憶が隠されているに違いない。犬猫に救いはあるか。

 それはこのような厳しい環境下にあっても、良心的なペット愛好家に購入される事であろう。

 ここで「ピースワンコ・ジャパン」(注1)という保護権支援活動を行っている一つのプロジェクトを紹介しよう。広島県から認証を受けた「日本の殺処分問題」の解決などに取り組むプロジェクトである。

2016年4月、ピースワンコ・ジャパンは広島県で殺処分対象となった犬の全頭引き取りを始め、2025年4月末までに、4,956頭以上の犬を里親へ譲渡、または元の飼い主へ返還してきたという。これらの幾多の困難を乗り越え懸命な努力の結果、犬猫の殺処分数がワースト1位だた広島県で「殺処分ゼロ」を実現することができた。このブログを見て心の休まる思いがした。これは人間のせめてもの贖罪しょくざいかも知れない。

 運悪く難を逃れえなかった多くの犬や猫、センターでの殺処分は一見残酷ではあるがここでの「死」は最後の救いであるかもしれない。何という悲しい救いではないか。(インスタグラム「ピースワンコ・ジャパン」より)

 これでこのシリーズの連載を終わります。 ご愛読ありがとうございました。        R7.6.18 了



(注1)ピースワンコ・ジャパン:広島県から認証を受けた特定非営利活動法人「認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン」が、2012年から始めた「日本の殺処分問題」の解決などに取り組むプロジェクト。


幾度となく改正され続けている「動物愛護管理法」が実態と乖離している原因はどこにあるのか。それは振るうこののない捕虫網のようなもの、抜かれることのない宝刀のようなものである。次なる法改正もあるようだが、法改正でなく現場主義に即した行動が求められていよう。

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