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89.ディティ本山⑤

『おはようトワコ!』

「アーキルさん、お久しぶりです」


生理が終わり、血の匂いもなくなってようやく始祖像を見学できる日を迎えた。

雪がちらつくなか五人でディティ本山の本殿に朝早く向かうと鼻を赤くしたアーキルさんとラーさん、それと護衛っぽい人が二人立っていた。

私に気づくや否や人懐っこい笑顔を浮かべて駆け寄ってくるのをレグとアルファさんが立ちはだかって止める。

協力関係になったとは言え、私に近づくなと言う二人にアーキルさんは怖がる様子も怯む様子も見せず逆に「落ち着けよ」なんて笑っている。

さすが王族。レグに似た不遜さを持ってる。


「ところでアーキルさんは何でこんな朝早く?」

『トワコが来るって聞いて見学に来ただけだよ。始祖像を見るのも初めてだし?』

「あ、そうなんですか。見たことないんですか?」

『ないない。確かに南大陸は始祖教が国教となってる国が多いけど、俺はほら忙しいじゃん? せっかく来たんだし拝んどこーっと思って! ついでに朝からトワコの顔が見れたら最高の日になるからさ!』

『王族の分際で軽薄だな。トワコに近づくな』

『まぁまぁ! 誰もいない静かな中ゆっくり拝みたいのが本音なんだから許してくれよ!』


四人に睨まれてるのに肝が据わりすぎてる…。

何を言われても笑顔でスルーして空気を読まず先に協会内部へと入る。


「チーター族のくせに何であんなに人懐っこいんだよ…」

「ふふっ、なんででしょうね」

「チーター族であってもアーキル様は根が商人なのでああいう性格なんだ。それと警戒心のない…いえ、害のない相手に対しては割と寛容だ」

「あー…そうとは聞くけど…。まぁトワコだもんなぁ…」

「…あまり喋らないほうがいいですか?」

「それはもちろんだけど、あいつそれなりに使えそうだし…」

「トワコが気にすることじゃない。適当に受け流しておけ」

「わかりました。アルファさんいきなり斬りかからなくなりましたね」

「トワコさんと前にお約束したので…。あ、でも何か怪しい動きしたらすぐ斬り捨てますね!」

「それは…まぁ…」


協力関係なんだからあまり無下にはしたくない。

そうは言っても四人の感情のほうが大切だ。

レグに言われた通り適当に受け流しながら距離を保っていよう。

改めて気合いを入れ直して私たちも協会内部へと向かった。


「うわぁ…すごい神秘的ですね…」

「ディティ本山のみで発掘される鉱石で造られています。水晶とダイヤモンドの中間あたりのものらしいです」

「へー…。宝石とは違うんですね」


内部は透き通る石材? 素材? で造られてて、朝日を浴びてキラキラと光り輝いていた。

大理石とも違う。でも水晶より光り輝いている不思議な鉱石。

シャルルさんとセトさんの説明を聞きながらさらに奥に歩みを進めると、どの街で見たより大きい始祖像が置かれていた。

まるで奈良の大仏みたいだ…。

そのあまりの大きさに口を開けていると神官の恰好をした男性が近づいて来た。


「オヴェール様の大事なお客様にご挨拶申し上げます。始祖教大神官を務めております、クレメンテと申します」

「レグルス・ドュリオン。融通感謝する」


さすがのレグも大神官には丁寧に接し、胸に手を添えて挨拶をする。

先に行っていたはずのアーキルさんも遅れてやってきて大神官を見るやキリッとした顔つきに変わり、同じように挨拶をした。

私も挨拶したほうがいいのかなと思ったけどシャルルさん、セトさん、アルファさんが壁になるので身動きとれない…。

おまけに何か話してるのも聞こえない。


「トワコ、いいぞ」

「あ、うん」


数分話したあと、ようやく始祖像の前に案内された。

チラリとクレメンテさんを見ると穏やかそうなおじいさんで、私を見てもニコリと微笑むだけ。

ヴェールで顔を隠しているけど、それでも近づこうとしてくる男性はいたからこうやってほっといてくれると嬉しいな。

改めて始祖像の前までくるとその大きさに圧倒される。

ここで祈れば神様と対話できるんだよね…。

聖書に書かれていた三ヶ部さんの言葉を思い出すと、途端に緊張が走る。

神様と対話…本当にできるかな。

聞きたいことは色々あるし、聞きたい内容も色々考えてきた。


「よしっ」

「そんなに気合いを入れるほどか?」

「…レグ。何があっても私は大丈夫だからね。暴れたらダメですよ」

「は…? おい、何をする気だ」

「神様と対話してくる」


三ヶ部さんの言葉を信じてこの世界を創ったとされる神様…エジェメント様の名前を心の中で呼ぶと、胸が燃えるように熱くなり、強制的に意識が途切れた。







「―――ッハ!」


呼吸できないぐらい苦しかった。

それでもなんとか意識を取り戻してドクドクと音を立てる心臓を落ち着かせるよう呼吸で整える。


「……あれ? ここは…」


ようやくいつもの身体に戻って周囲を見回すと、神殿にいたのに森の中にいた。

それにしても…既視感ある…。

まだ太陽が出ているけど沈むにつれきっと暗闇が森を支配する。それぐらい深い森の中…。

いや、それより協会にいたのに何でいきなり森の中に?


【やぁやぁ、ようやくご対面できたね】

「ッ誰!?」

【誰って…君が対話したかった神様だよ】


不意に声をかけられ振り返るも誰もいない。

脳内と耳に直接話しかけられているような不思議な感覚に身構えると、今度は懐かしいセティさんの屋敷に変わる。


「シャルルさん…?」

【違う違う。これは仮の姿。本当の姿だと吃驚しちゃうからね】


目の前には足を組んでふんぞり返ってるシャルルさん。

でも声が違う。態度も…。


「………エジェメント、様? 本当に?」

【本当だって! ま、とりあえずお茶でもどう?】


そう言って指をパチンと鳴らすと用意されていたティーポットやカップが勝手に動きだし、紅茶を注いで目の前に置かれる。

チラリとエジェメント様を見ると今度は寝っ転がってクッキーを食べていた。


【あ、そんなに緊張しないで】

「…無理なお話かと」


神様と対話したいと思っていたけど、こんな感じで対話するとは思っていなかった。

色々考えていたのに色んなことが起きて頭は真っ白。

唯一喋れた言葉にエジェメント様はニッコリ笑い、紅茶を飲み干す。


【そう? じゃあ僕が先に話そうか。トワコちゃんはねー、元の世界に戻れないよ】


解っていたことなのにガツンと頭を殴られた衝撃を受けた。

大丈夫。わかってた。


「本当に戻れないんですね」

【うん】

「わかりました。ではなぜ私はこの世界にきたんですか?」

【あー、なるほどなるほど。それが知りたいわけね。人間って面白いよね! 順序だてた説明や根拠、理由を欲しがる。ミケもそうだったなー】

「(ミケ?)誰だってそうだと思います。普通に生活してたのにいきなり…こんな…世界に連れて来られて…。何をどうしたらいいか解らないまま過ごして…。あの時もシャルルさんが来てくれなかったら私は死んでました」

【せっかく連れて来た人間を殺したりしないって! あそこにあのクロヒョウがいたから落としたんだー。愛情に飢えてる子だったから大丈夫だろうと思ってね! さっすが全知全能の僕だなぁ】


神様というのはこんなに軽い性格なんだろうか。

というより、軽すぎてムカつく。

まるで私を連れて来たこと…いや、誘拐したことをまったく悪いと思っていない態度だ。


【君が聞きたいこと全部答えてあげるよ。色々考えてきたでしょ? えっとまずはぁ…。うん、君をこの世界に連れて来た理由だけど、特にないかな】

「は?」

【あ、選んだって言い方のほうが正しいかな? えっとね、とりあえず純粋な人間が欲しいのは事実。この世界の獣人は美して格好いいけど、野性味が強すぎてさ。あ、これはミケが書いた聖書で知ってるよね。歴史は大体合ってるよ! それでそれを薄めるため? もっと理性的な存在になってほしくて、平和ボケしててー、優しくてー、慈悲深い子を選んだんだ。それがたまたま君だったってわけ!】

「………たまたま…」

【ミケ達はオスだったけどオスは失敗したからメス限定でね! うんうん、思った通りメスのほうが生存率もあがるし始祖返りも生まれるだろうから正解だったな。あ、でもちょっと進展遅すぎない? さっさと交尾して子供作ってよ!】

「な、にを…勝手に…!」

【ま、ともかく人間のメスが欲しくて条件にピッタリだったのが君だったわけ! 納得した?】


納得した? できるわけがない!

無性に腹が立つのは何でだろう。

私が特別だから。という言葉を待っていたから? いやそうじゃない!

条件に合ったから。うん、わかった。だからって勝手に…私の意思なく連れて来られたことに苛立つ。


【あー…その目、前にも連れて来たオスにされたなぁ…。ごめんごめん。勝手に連れて来られると嫌がる子もいるって聞いてたんだけど、だからって他世界に直接干渉できなくてぇ…】

「それはそうでしょうとも…! 大事な家族や友達に何も言えないまま勝手に連れて来られていい迷惑ですよっ…!」

【中には喜ぶ人間もいたんだけど…。そっか、トワコちゃんは嫌なんだね! 次は気を付けるよ!】


次なんてないのに何を言ってるんだこの人は…。

相変わらず軽い口調と謝罪に手が、身体が震える。

人を殴りたいと思ったのは初めてだ。


【でもさ、もう元の世界に戻れないしこの世界を謳歌してってよ! まだ完成とは言えないけどミケ達がいた頃に比べると住みやすくなったし、メスなら贅沢に暮らしていけるからさ!】

「っ私は別にそんなの望んでない! なんなんですか、さっきから人をバカにした態度で…!」

【えー? 別に馬鹿になんてしてないよ。悪いなーって思ってるけど、トワコちゃんもつがい達と楽しそうに暮らしてるじゃん?】

「それはそういう状況だったから気持ちを切り替えて…。あなたが神様であろうと誠意を感じられない謝罪を受けても嬉しくありません!」

【そう? じゃあもう謝らないや。んじゃ次の質問は?】


こ、こいつ…! 人を殴りたいと思ったのは初めてかもしれない…!

神様だからって人をオモチャみたいに扱ってムカつく。いや、神様だから私たちのことをオモチャとしか見てないのかな…。

いやいやどっちにしろ好きになれない! 三ヶ部さんが言ってた「文句を言っといてくれ」の意味がわかった気がした。すっごいすっごいムカつく! 大嫌い!


【ほらほら、早く聞かないと時間なくなっちゃうよ?】

「三ヶ部さんは好きな時間いくらでも話せるって言ってました」

【うん、まぁね。それでも君が気絶してる時間は過ぎてってるよ。とりあえず今は三日ぐらい寝たままだね】

「は…?」

【あ、時間軸が少し違うんだよ。で、他に聞きたいことは?】

「え、えっと…! 私、に…何をさせたいんですか?」


あまり長居できないと言われ、怒りを抑えて情報を集めることに意識を戻す。

あの口調と態度に苛立つことはあるけど、聞きたいことは聞いておかないと…。


【たくさんのオスと交尾して始祖返りを産んでもらうこと】

「理性的な獣人を増やしたいからですか」

【そうそう! ほんっと動物って魅力的だよねぇ…。本能のまま生きて、殺して、殺されて…。毎日毎日一生懸命生きてる姿はすっごく美しい! でもそれだけだと楽しくないから人間を混ぜた僕だけの生き物が欲しくて色々頑張ったけどまだ未熟でさぁ。おまけに超使える文明や道具やらも造ったのに争ってばかりで…。確かに争ってる姿もあるべき姿って言われたらそうだし、僕は興奮するけどそのせいでメスは少なくなってどんどん人口減少していくし…。ねぇ、どうしたら戦争なくなると思う? やっぱもっとメスを増やすべき? でもそればっかはさすがに調整できなくて困ってんだよねぇ】

「知りませんよ。私がいた地球だって色んな生き物が地球を支配し、絶滅し、また新たな生き物が台頭して支配していくを繰り返していってるんですから」

【それもそれでいいんだけど、獣人は残しておきたいんだよ。僕の最高傑作だからね!】

「だからって他世界から誘拐してくるのは間違ってます。地球には神様いないんですか…」

【いるいる。超いるよ! でも多いからこそ抜け道がいくらでも存在してんのよ。今回でバレたからもう連れて来れないけどね。あ、そうそう。だからトワコちゃんにたくさん始祖返り産んでもらうために不老にしたから!】


このクソ神…ッ!


「ッ意味わかんないんですけど!? 不老…?! いやいやっ、何で勝手にそんなことをしたんですかッ!」

【え、だからもう他世界から人間連れて来れないからトワコちゃんを不老にしてたくさん始祖返り産んでもらおうと思ってんだよ】

「そんっ…! バカなんですか!? そういうのはちゃんと本人の許可を得てからじゃないとダメなんです!」

【でもずっと綺麗なままでいられるよ! メスなら嬉しいでしょ?】

「そんなんだから三ヶ部さんたちにもクソ神だって言われるんですよ! そもそもその計画性のなさのせいでこの世界が大変なことになってるって気づいてます!? 神様って反省や復習しないんですか!?」

【いーねぇ、ミケやジョンに負けず劣らずズバズバ言ってくれる! それもド正論! 確かにその時の気分で適当になっちゃうとこあるけど、でもなんとなってるでしょ? それをさらによくするためのトワコちゃんなわけ。あ、君のつがい達も不老になってるから安心して交尾に励んでよ。本当はもっともっと他の種族と交尾してたくさん始祖返り産んでほしいんだけど、そっち世界ではジョーシキテキに考えて駄目らしいじゃん。なら今いるつがい達と頑張ってほしいんだよね!】


頭が痛い。胸がむかむかする…。

不老って…一生この姿のままってことだよね…? 死ねないってことだよね…。

いや、老いで死ぬことないけど不死ではないから心臓を突き刺せば死ねる…?

ううん、それより今この人なんて言った? 私だけじゃなくつがいの四人も不老になったって!?


「神様だったら何をしてもいいんですかッ!!」

【いいよ。だってこの世界は僕が創ったんだから。トワコちゃんは元々違うけど、もうこの世界の住人になって僕の所有物になったんだから】

「……あーもうッ! 私、あなたのこと大嫌いッ!」

【ミケ達と同じこと言ってるぅ。好かれようが嫌われようがどうでもいいけど、これからこの世界をお願いね。僕、ミケと同じニホンジンの君に期待してるから】

「勝手に連れて来て、勝手に不老にして、あまつさえ世界をよろしくって言われて私が言うことを聞くとでも思ってるんですか!?」

【近しいことはやってくれると思うよ。いいよねぇニホンジン…。平和ボケしてて、真面目で情に弱くて。あと相手の文化を尊重できるとこも気に入ってる。周囲の目を気にするから人一倍頑張ってくれるし、よく働くし、あとなんといっても適応能力が高い! いやぁニホンジンのメスを連れて来てほんっとによかった! 世界に戸惑いつつもつがい見つけるし、自力でここに辿り着けたってのもポイント高いよ。まぁ貧弱で繊細だけど!】


ベラベラと自分の好きなように喋るこの男の顔を殴りつけたい…!

でも見慣れたシャルルさんの顔だから拳を握りしめることしかできず、ひたすら怒りを抑え込んで耐える。

神様がそう言うんだから、きっと何も覆らない。

全然何も納得できてないけど、いくら私が怒鳴ったところでこの人には何も響かない! それがまたムカつく!

何度か深呼吸をして頭を切り替える。


「神様のお願いは始祖返りを増やして、理性的な獣人を増やすことですよね」

【ん? そうそう。時間かかっちゃうけど大きなテコ入れはさすがに目立ちすぎて怒られちゃうから地道にしていこーっと思って】

「で、私は不老になってひたすら始祖返りを産めってことですね」

【うんうんっ。あ、もちろんこの世界を楽しんでもらっても構わないからね! なんか娯楽がないと発狂しちゃう子も多かったからさー…。娯楽があっても戦争ばっかしてるから廃れちゃうんだけどね!】

「そう思うんなら神様の力でスマホなりパソコンなりそういうの手配してくれません? それがあれば私も発狂しないで済みそうです」

【おっ、そんなことでいいの? 前回の反省を生かして他にもお願い聞いてあげるから何でも言ってよ! そんなことで発狂しないで済むならお安い御用だ! さすがにいきすぎた文明は無理だけどね】


お願いを聞いてくれる?

適当に言ったことなのにそれは嬉しい誤算だ。

よく考えよう。私に必要なものは何か。これから先生きていくために何が必要…?


【僕は別にいくらでも待てるけど、現実世界じゃ結構な日数経ってるよ?】

「は、えッ!?」

【今は半月ぐらいだね】


もうそんなに経ったの!?

ど、どうしよう。急がないといけないと言われて余計考えがまとまらない!

………仕方ない。有効かどうか解らないけどこれでいこう!


【お、決まった?】

「一つ。私のスマホを日本にいたときと同じように使わせてほしいです」

【はーい。あ、でもそのスマホで買い物はできないからねー。ただ観るだけ。あーでも多少の文明を取り入れたいから本とか読めるようにしてあげるよ。それでこの世界をもっと良くしてほしいな】

「…ガンバリマス。で、それを……十台ください。つがいたちにも持たせたいです。あと電話もできるようにしてください」

【おー、それは面白そうだね。電話はつがい同士でしかできないよう制限かけとくから期待して泣いちゃわないでね?】

「っ…わかってますよ! それと二つ目ですが、私は次もあなたとの対話を望みます」


三ヶ部さんは一回しか対話できないって言ってたけど、まだまだ聞きたいことがある。

いくらたくさん話せると言われても時間の流れが違ってるからどうしても制限がかかってしまう。

だからもう一度、今度は四人に説明したうえでちゃんと話したい。


【え? それは別にいいよ。誰も一回だなんて言ってないし】

「………え? でも三ヶ部さんは一回だけって…」

【えー、だからあれっきり僕に会いに来てくれなかったの? ほんっと変なとこでポンコツだなぁ】

「…じゃあまた始祖像に行けば会えますか?」

【もっちろん! むしろたくさん会いに来てほしいなぁ。改善点とか教えてほしいしぃ、困ってるなら助けてあげたいし?】


勝手に連れて来たことが一番困ってるんですけど…!

はぁ、ダメだ。この人と話すと疲れる…。

というよりちゃんと説明してくれないから三ヶ部さん達も一回だけって思ったんだろうね…。

こうなったらうざいぐらい聞かないと…!


「次来たときもお願い聞いてくれますか?」

【構わないよ。君には死んでほしくないからね。ふふーん、前回の反省を生かしてる僕、神様として成長してる感じ?】

「それは知りませんが次は大量のお願いを用意してきます」

【色々制限あるから無理なものは無理だけど、できるだけトワコちゃんのいいようにしてあげる!】

「じゃあいいです。みんなの元に戻ります」

【もう? 寂しいなぁ…。あ、もしもう一人の子に出会ったらここに来るよう伝えてくれる?】

「―――は…?」

【トワコちゃんは頑張ってここまで来れたけど、もう一人の子はそうじゃないかもしれないしね。じゃ宜しくー!】

「ちょ、ちょっと―――」







「―――待ちなさいよこのクソ神ッ!」


何かに引っ張られる感覚に陥り、現実世界へと戻って来た。

初めて発した「クソ」という悪口が自然に出たことに驚きつつ、腕を伸ばすけど何も掴めず代わりに骨がビキッと音を立てて痛みが襲ってきた。


「始祖様ッ!? ああ、ようやくお目覚めになられたのですね!」


身体を起こそうにも全身が重たく、動くたびに筋肉や骨が軋むように音を立てる。

うん、頭はハッキリしている。

久しぶりに聞いた女性の声のほうに首をゆっくり向けると、シャチ族のオヴェールさんが涙を流しながら私を見つめていた。


「…なんでっ…げほっ…!」

「無理に動いてはいけません。一か月も眠っていたのですよ!」

「いっ…!?」


たったあれだけしか喋ってないのに一か月も経ってたの!?

咳き込む私の背中を撫で、慌てて水が入ったコップを渡されたので素直に受け取って喉を潤す。

チラリと周囲を見回すと見慣れない台……いや、棺?が置かれており、その近くに私は寝ていた。

しん…と静まり返る部屋に私と棺とオヴェールさん。

ステンドガラスからは陽の光が差し込み、たまに雪の影が見えた。


「………私の…つがいは…?」

「……どこから説明しましょうか…」


涙を拭いながら視線を落とすオヴェールさんに心臓がドクリと音を立てた。

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