79.ハイオットニー国⑧
「じゃあの真っ黒な人は?」
「あれはカバ族です」
「俺カバ族初めて見た…。あ、その隣なら俺でも解りますよ。カラス族です」
セトさんとイチャイチャしている間に落ち着きを取り戻したアルファさんが戻って来て、観客席にいる男性たちが何族か当てるゲームをしていた。
私は全然違いが解らないけど、セトさんは人の姿であろうと何族かわかるらしい。
アルファさんもセトさんほどじゃないけど戦場でよく見る種族はすぐにわかる。
「じゃあ次は…。あ、あれは?」
「どちらですか?」
「あの……なんか距離が異様に近い浅黒いオスの二匹です」
「あれはキリン族ですね。キリン族はオス同士で仮の番関係を結ぶのです」
「な、なるほど…」
「ゼメルの街にもキリン族は多かったですよ」
「もしかしてあの浅黒い肌の奴らか?」
「ああ。まぁ珍しいものではありませんが」
「そうなんですね…」
圧倒的にメスが少なかったらそうなるのは必然?
私の世界にも多様性が広がっていたから珍しいことじゃないけど、改めて目の当たりにすると少し驚いた。
でも周りの人たちは普通だし、よくよく見ると他にも異様に距離が近い人たちが多かった。
「鷹族と狼族にもいましたか?」
「王都だけの話になればいません。姉上がいましたから」
「あー、そっか。みんなセティさんに夢中だったんですね。狼族は?」
「い…ます、いました…」
「アルファさん?」
「その…何度かそういう関係になってほしいって誘われて…」
「おお…」
「で、でも俺一度もそういう関係になったことないんで! トワコさんと出会ってからはずっとトワコさんのことばかり考えてますし、砦にいた連中は俺のこと慕ってるだけで…! あの、ほんとトワコさんしか―――」
また暴走しそうだったのでキスして黙らせる。
今回はヴェール越しだったけどいつも通りアルファさんは固まり、喋るのを止めた。
「大丈夫です、わかってますから」
「ひぃ…!」
「トワコ嬢の過剰摂取で死にませんか?」
「死んだりしませんよね、アルファさん」
「しっ、死にゃにゃないですッ…!」
だけど限界を迎えたようで狼の姿になってしまった。
私としてはこっちの姿も好きだから嬉しい。
何かを訴えるようにヒャンヒャン鳴いてるアルファさんに自分の膝を叩いて「どうぞ」と言うとゆっくりと頭を膝に乗せて目を閉じる。
ほどよい重みを感じながら再びセトさんと種族当てクイズを楽しんでいると、ようやく武闘大会が開始した。
「シャルルさん、レグー。始まりますよ」
お昼寝中の二人を呼ぶと少しの間を置いて身体を起こす。
膝に頭を乗せていたアルファさんは私の足元に移動して寝転び、ジッとステージを見つめる。
空いた隣にレグが先に座り、遅れたシャルルさんは少し離れた場所にあった一人用のソファに座ってレグを睨んでいる。
「ステージにいる人たちが全員参加者ですか?」
「ええ、そうです」
「めちゃくちゃ多くないですか?」
「三日に分けてやるからな」
「あ、そうなんですね」
「暑いので参加者も観客も限界がありますから。それに祭りが長引けば長引くほど売り上げになりますしね」
「商魂たくましいですね」
「それがこの国の主な収入源だからな。まぁいい暇潰しになる」
レグとセトさんの説明を聞きながら眺めていると、一人の男性が参加者の前に現れる。
『えー、それでは大会を始める前にルールを説明します』
「わっ!」
「拡声器です。部屋にいてもステージ上の声が聞こえるんですよ」
「あー…なるほど。マイクみたいなものですね」
マイクらしきものは持ってないけど、男性の声が部屋に響く。
それからガラス面に彼を拡大した映像が映る。
私がいた世界よりすごいテクノロジーだ…。
ステージ全体は見えるけど遠すぎて見えなかったからこの拡大してくれるシステムはかなり助かる。
きっと獣人には見えるんだろうけど、私はただの人間だからね。
『ルールは簡単。相手に「降参」と言わせるだけです。しかし、相手を殺した場合失格…いや、殺人罪となって捕縛させてもらいますのでお気をつけ下さい!』
「き、厳しいですね…」
「だからこそ人気なんだ。ただの力任せの勝負じゃ勝てないからな」
「強いオスがモテるんですよね? じゃあ賢いオスは?」
「好かれるな。両方兼ね備えてるのが一番だが早々いない」
「トワコはどっちが好き?」
「私? 私は優しい人が好きだなぁ…」
「優しいだけじゃ守れないだろう」
「この世界だとね」
「ああ、前の世界ではと言うことですね。今は変わりましたか?」
日本にいたときは、こんな彼氏が欲しいとか友達と語り合っていた。
優しくて、私だけを愛してくれる年上の男性に憧れてたっけ。友達には夢見すぎって笑われたけど理想だった。
………あれ? それで言うと彼らがそうなのでは?
四人とも優しいし、愛情表現は欠かさないし、守ってくれるし、強いし…。
「ふふっ」
「どうした」
「いや、変わってないなぁと思って」
「じゃあ優しい人が好きってこと?」
「はい。みんな優しいし、強いし、愛情深いので大好きです」
理想通りの彼氏…じゃない、番を手に入れてしまった。
改めて彼らが好きだなぁと笑うとレグに唇を塞がれ、シャルルさんが腰に抱き着いてきて、セトさんに手にキスをされ、アルファさんの尻尾が足に絡みつく。
「んんーーー!!」
「おいトワコ離せよ。苦しんでるだろ」
「うるさい離れろ」
「お前が離れろ!」
「あの…そろそろ始まりますし見ましょう…」
レグは呼吸する時間を与えてくれないぐらい激しいキスをする。
腕を叩いて離れてほしいアピールをするとすぐに離れ、乱れたヴェールを整える。
でもすぐにまためくられ、シャルルさんにキスされた。
私だって彼らに愛情表現したいしけど、そのたびに倍返しされてたら身体がもたないかもしれない…。
「逆にメスはどんなのが人気なんですか?」
「メスだったら何でもいいって奴らが多いよ。ヒョウ族の姫って言われるあのメスもブスだし性格終わってんのにすっげぇ番いるし」
「聞いたことありませんね…。姉上の番は姉上の容姿と佇まいが好きだと言ってました」
「知らん」
「アルファさんも…わかんないですよね」
「ゥオン!」
「まぁでも強さは求めるかもね」
「そっか…。じゃあ私が強くなったら喜ぶ?」
「トワコはもう強いじゃん」
「え? 弱いよ?」
「始祖の能力を忘れたのか」
「あ…。でもあれ簡単に使えないし大勢には無理だし…」
「言葉一つで支配するのですから誰よりも恐ろしいですよ」
「そっか…。まぁよくよく考えたらそうですね」
「トワコは可愛いうえに優しくて穏やかで強くて…。最高のメスだよ」
「あ、ありがとうございます」
「だから俺らだけを愛してくれるよね。目移りしちゃダメだよ」
「安心してください、大丈夫です」
ふいっとステージに目を向けて言うシャルルさん。
番はもういらない。これ以上増えても相手できないし、ストレスでしんどそう。
つられて私もステージを見ると参加者は散っていき、二人だけが残る。
そろそろ武闘大会が始まる。
画面には対戦する二人の名前、種族、出身地が書かれた説明が浮かぶ。
そして三日に渡る武闘大会の初日が始まった。
✿
「トワコ、大丈夫?」
「大丈夫…」
殺しは禁止のルール。頭を使って相手に「降参」と言わせる難易度高い大会。
そう聞いて安心したけど予想の斜め上をいく展開ばかりだった。
最初は獣姿による威嚇から始まり、殴り合い、そして降参と言わせるために始まる拷問…!
指を折ったり、爪を抜いたりと種族によって色々な拷問を見せられ途中で見るのを諦めてしまった…。
ベッドで横になる私にシャルルさんが声をかけてくれるけど衝撃的な光景を思い出して胸がモヤモヤする。
三人も心配してくれるけど、色んな戦法を見せる参加者に夢中。
本ぐらいしか娯楽なかったもんね…。心配してほしいわけじゃないので好きに楽しんで。むしろちょっと放置しててとお願いしている。
「シャルルさんは見なくていいんですか?」
「拷問はもう見飽きてるから」
「そ、そうですか…。でも楽しんで見てますよね? 私のことは気にせず楽しんでください」
「そう? 何かあったら呼んでね」
「はーい…」
彼らは楽しみにきたんだ、邪魔しちゃいけない。
このままベッドで横になってお昼寝するか本を読んで気を紛らわすか…。
どうしようかと考えていると、それぞれが驚きの声をあげた。
四人が反応するなんて珍しい。気になって身体を起こして目を細めて画面に映る映像を見る。
「ハイエナ族とは珍しい…。ギルドでの仕事で参加をしてるのか?」
「いや、だったらハイエナ族じゃないほうがいいだろ」
「…どっかで見たことあんな…」
「胸糞悪い種族がなんで参加してんだ」
ハイエナ族とは久しぶりに聞いた。
………ん?
「どうかされましたか、トワコ嬢」
「そう言えばなんか見たことあるなぁって…」
「……ああ、そうだあいつだ! うっわ、マジかよ! あいつこんなところまで来てたのか!」
「シャルルの知り合いか?」
「知り合いじゃねぇよ!」
「ああ、そうだ。グラドさんだ! 久しぶりに見ましたね」
この世界に来て割と初期に出会ったハイエナ族のグラドさん。
確かシャルルさんと話し合いして、目標金額に到達できたら再会するって話だったけど…。え、まさかまだ稼いでたの!? すっかり忘れてるか諦めてるかと思ってた!
「トワコ。あいつと知り合いか?」
「し、知り合いって言うか…。この世界に来たときにちょっと……。ど、どうしたんですかレグ。ちょっと怖いんですけど…」
「ライオン族とハイエナ族は古来より憎しみ合ってますからね」
「おいクソガキ、説明しろ」
レグの殺気にシャルルさんは視線を反らして言い淀む。
だけど言わないといけない圧に負け、グラドさんとの出会い、そして経緯について説明した。
「因みにいくら稼いでこいって言ったんだ?」
アルファさんの質問にシャルルさんが答えるとセトさん、アルファさんは「は?」と声を揃えて驚きの表情を浮かべる。
「ハイエナ族では到底稼げない金額だな」
「そうなのか?」
「ハイエナ族は基本的にギルドに属しているから大して稼げないと聞いてる。そうじゃなくても提案したその金額は私でも少し難しい」
「それだけ言えば諦めると思ったんだよ…。なのにこんな大会に参加してるとは…」
「優勝したらかなり近づくよな? その……レグルス…?」
「…」
未だ怒りが収まらないレグはグラドさんを睨みつけたままステージを見下ろしている。
ステージでは自分より大柄な男性をハイエナの姿で追い回し、たまに噛みついて攻撃していた。
「おい見るな」
「わっ」
「ハイエナなんぞ見るな」
片手で両目を塞がれ、ガラスから引き離される。
そんなに嫌いなの? どんな過去があったか知らないけどレグは相当苛立っているようで声からも圧を感じる。
「ど、どうしてそんなにハイエナ族が嫌いなの?」
「……昔からの因縁が続いているだけだ」
「因縁?」
「お前が知る必要はない。とにかくあいつに近づくな」
「う、うん。わかったよ」
「まぁハイエナ族が優勝することはないから大丈夫だろ」
「……でも不安要素は取り除くべきだよな。途中参加とかできるか?」
「残念だができない。ここで優勝しないことを願うばかりだ」
「大丈夫だって。ほら今もギリギリで勝ったし無理だろ」
三人はのんびり会話を続けているものの、レグは憎悪に満ち溢れた顔で彼を睨みつけている。
グラドさんにはお世話になったけど、番にする予定ない。
怒りを静めてほしくて頭を撫でるとようやく視線が合った。
「番にはしませんよ。安心してください」
「…ああ」
「私をもっと信用してくれると嬉しいんですけど…」
「あいつらは略奪者だからな。お前のことは信用している」
「(略奪者?)んー…」
信用していると言われても顔は険しいまま。
どうにかいつものレグに戻ってほしくて頭を撫で、頬を触ってキスしたり、膝に乗って強く抱き締めると少しずつ殺気が消えていく。
私で癒されるとは思わないけど気が紛れたらいいなぁ。
「えー、王様だけずるいじゃん。トワコ、俺もあとで頭撫でてよ」
「はい」
「おい手を止めるな」
「はーい」
私より大柄で年上の男性を撫でるのはそれなりに可愛くて楽しかった。




