表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/101

76.ハイオットニー国⑤

プライベートビーチだと言うのにイルカ族が侵入し、誘拐されかけた。

先に戻った私とセトさんは身体を綺麗にして彼らの帰りを待つ。

その次に戻って来たアルファさんから色々聞いた話によると、すべての原因はビーチの入口で警備していた二人が原因だった。

二人は私に一目惚れをしたらしく、どうにか接点を持ちたい、つがいになりたいと思ったがレグたちがいるせいで声をかけることすらできず、どうしようかと悩んでいる際、沖に流れた私の水着を見つけたイルカ族と手を組んで今回の誘拐未遂に繋がった。

二人は有無を言わさずアルファさんが処分し、シャルルさんがホテルに報告。

オヴェールさんの知り合いだと言うこのホテルの責任者にたくさん謝罪され、今度二度とこんなことは起こさないと約束してくれた。

ホテルの利用も好きに使ってくれていいし、何でも好きなだけ購入してホテルに請求してくれとまで言ってくれた。

さすがにそれは…と思ったけど、セトさんは「口止め料ですよ」と教えてくれた。

そして犯罪の片棒を担いだイルカ族は性欲が強い種族らしく、海棲種族内では結構な嫌われ者らしい。

野良だと思ったがこの国に住む人たちだったのですぐに捕らえてその人たちも…。


「あ、ダメ…やっぱり無理ですセトさん…!」

「いいえ、トワコ嬢ならできます」

「あっ、あ…! いや、ごめんなさいアルファさん…!」

「いえっ、もっと力強く踏んでもらっても構いません!」


そして私はセトさんに促され、私を守れなかったことに対する罰をアルファさんに与えていた。

椅子に座り、目の前で土下座するアルファさんの後頭部を踏む。

後ろに立って指導するセトさんの声色はとても優しく、踏まれているアルファさんも元気よく「どうぞ!」と受け入れる。


「無理です! 踏むなんてこんな…!」

「守れなかったのですからこれぐらいしないといけません」

「本当にすみませんでした! 海の中だとは言え、ナイフだけで守れるだろうと油断してました! 番犬としてトワコさんのつがいになったと言うのに…ッ」

「私がワガママ言ったからですよぉ…!」

「トワコ嬢、もっと強く踏まないといけませんよ。地面にめりこむぐらい力を込めないと」

「ううっ…! ごめんなさいごめんなさいアルファさん!」

「ただい……何してんの?」


異様な光景だろうにシャルルさんは小首を傾げるだけで特に驚くことなく近くの椅子に座る。

セトさんが事情を説明すると少し考え、「そうだな」とこの状況を受け入れた。

受け入れてほしくないんだけど…!


「警備の人が悪いってことでもう止めましょうよ…!」

「ですがトワコ嬢が罪悪感を感じてしまうでしょう?」

「もう感じませんからっ。アルファさん、ごめんなさい。本当にすみません」

「ダメだよトワコー。もっと強く踏まないと。それだとただの足置きじゃん」

「っひ、ひぃ…。もう無理ですー…」

「ではお叱りのお言葉もお願いします」

「あれを言うんですか!?」

「区切りは重要です。私達も気を引き締めるためにお願いします」

「……っアルファの役立たず…! 今度あんな目に合わせたら即刻番つがい解消し、その毛皮を売り払ってやるっ」

「はいッ!」

「し、失敗を許してあげる私の慈悲深さに…か、か、感謝しなさい…!」

「ありがとうございます、トワコさん! 次もまたトワコさんを危険な目に合わせたら自分で自分の命を絶ちます!」

「やっ、止めてください!」


精神的にくる…!

踏んで責めて傲慢に振る舞って…。無理無理、ほんとに無理!

やりたくないし、言いたくないけどこれは私の罰でもある。こんなことをしたくない、言いたくないなら私ももっと気を付けなければいけない。


「……シャルルさん…?」

「次は俺だよね? 守れなかった俺を好きに責めてよ」


アルファさんが顔をあげるとどこか満ち足りたような顔だった。

マゾじゃない、と、思う…思いたい…。

困惑している私の前に今度はシャルルさんが座ってジッと見上げて罰の順番を待つ。


「シャルルはどうしますか? 顔でも蹴りますか?」

「イヤッ!」

「まぁこいつは痛みに強いですからね。それなら……」


元軍人(いや今も軍人ではあるんだけど)だけあってこういうことには慣れているのかスラスラと罰則内容を決める。

耳打ちされる内容に首を振って断るけど、「罰則ですので」とバッサリ断られる。

さすが鷹族…。ルールに厳しい…。


「う、嘘ですからね…。そんなこと思ってないですから…」

「それを先に言ったらダメなんじゃない?」

「だって…」

「トワコ嬢」

「……わ…たしの最初のつがいだって言うのに…こ、こんなにも役立たずだったなんて…その、心底呆れる、わ。苦手な海であろうとどこであろうと……私を一番に考えて…すぐに助けにきなさいよ…え、それも!?」

「はい」

「……く、クズで役立たずが最初のつがいなんて私が恥ずかしい…です…わ。それとも変異種だから私を裏切って、絶望させるのが目的だった? それならやっぱりシャル…お、お前はつがいに必要ない…」

「うん、ごめんねトワコ。いつも肝心なところで守れないなんて…嫌われて当然だよね…」

「あ、いやっ、違う! あ…えっと……許されたいならもっと死ぬ気で私を守りなさいっ…」

「もちろん。今度こそちゃんと守るよ。捨てないでくれてありがとう」


こんなひどい言葉、今まで言ったことない…。

セトさんから耳打ちされる言葉を自分の言葉にして放つだけなのに、気力がごっそり奪われてしまう。

なんでこんなひどい言葉すぐ思いつくんだろう。

言い終わると足を取って爪先にキスされ、心臓が飛び跳ねる。


「き、汚いですから…!」

「トワコに汚いところなんてないよ。な?」

「はい。トワコさんはどこも綺麗です」

「そんなことないですからぁ…!」

「よし、じゃあ次はセトな。とりあえずビンタしとく?」

「甘んじて受け入れます」


踏むのも、言葉で責めるのもしたくないけどまだやれた。でも殴るのだけは本当に無理!

無言で首を激しく振って断るも、今度はセトさんが目の前に座って「どうぞ」と目を瞑る。


「ほらトワコ、力いっぱい殴ってやりな。セトがもっと早く来てたら逃げれたんだからさ」

「あ、でもあまり思いっきり殴るのは手首を痛める可能性もあるから気を付けて下さいね」

「むむむ無理です! 殴るなんてできない…!」

「大丈夫大丈夫。さっさと終わらせないといつまで経っても終わらないよ」

「そ、そんなに嫌でしたら俺がしましょうか…? オス同士による制裁もあるって聞きましたし…」


オス同士による制裁。

その言葉を聞いてサッと血の気が引く。

きっとこの二人なら遠慮なく殴る。負わなくていいケガを負ってしまう…!


「ご、ごめんなさいセトさん…!」

「どうぞ」

「すみませんすみません!」


二人が殴るぐらいなら私が殴ったほうが安全だ。

意を決してセトさんの頬を叩くと、ぺちんと軽い音が響く。


「だ、大丈夫ですか…!? い、痛くないですか?」

「…殴りました?」

「すみません! ほんと…もう、ごめんなさい…!」

「痛くなさそー…」

「トワコさん手痛めてないかな…」

「トワコ、手大丈夫?」


人を叩いたことなんてない。それも非がない相手を…。

ドクドクと脈打つ心臓が苦しい。申し訳ない。でも罰だから…!

何度も謝るも、セトさんは笑って「ありがとうございます」とお礼を言ってくるので余計混乱する。

だから何で三人とも最後は絶対にお礼を言うの?


「じゃあ最後はあの王様な。どうしてやろうか…」

「悪い顔してるな」

「あいつにはいっつもいいとこ持っていかれるからな。トワコはどうしたい?」

「な、何もしたくないです…」

「そう言えばレグルス、腹に軽いケガを負ってたな。それほじくればよくないか?」

「……ほじ、くる…?」

「さっすが元傭兵団リーダー。いいこと考えるじゃん!」

「まぁあまりレグルスにはきかなさそうだが、傷を増やすのはいい考えかもしれない」

「そうそう。あの無敵な英雄様に傷が残ってるってかなり屈辱だな! トワコ、あの王様の傷口広げちゃってよ」

「……」


どうしたら……そんなことを思いつくの…?

シャルルさんの言葉で想像すると気持ち悪くなる。これだけは絶対に無理…。


「あの…私が倒れるので無理です…」

「あ、手じゃやっぱ汚いですよね。武器はたくさんあるので安心して下さい」

「扱い方も教えてあげるよ」

「そうじゃなくて…」


わいわいと盛り上がる三人。

ダメ、ここは私がなんとかしないと…!

レグへの罰…。私の罰でもあるから私が苦手なことをさせてるんだろうけど、何も思いつかない。


「……あ…」

「どうしたの?」

「レグへの罰を思いつきました」

「お、いいねぇ。どんなの?」

「一人で寝ます」

「「「え…」」」

「あ、もちろん同じ部屋で寝ますよ。私も怖いですし」

「それはさすがに…」

「でもレグへの罰にも私の罰にもなりますよね? レグは一緒に寝れないし、私は怖いのに一緒に寝れない…。これでいきましょう!」


うん、殴ったり言葉責めするよりこっちのほうがいい。

他の三人に比べて軽いかもしれないけど、あんなことがあったあとに私を一人で寝かすなんてレグにとっては不安で仕方ないはず。

私も…今日ぐらいは一緒に寝たいけど…。うん、罰だからね、しょうがない!


「戻ったぞ」

「レグ、おかえりなさい」


タイミングよく帰って来たレグ。

あれだけ血塗れだったのに綺麗になってたし、見たことのない服も着ていた。

多分だけど暴れて、殺して、適当に新しい服に着替えたんだろう。

わざわざ聞くことはせず、抱き着いてきたレグを抱き締め返してあげると私にだけしか聞こえない声で「悪かった」と謝罪された。


「王様、全部解決してきた?」

「当たり前だ。お前と一緒にするな」

「俺もちゃんと全部終わらせたっつーの」

「駄犬は」

「問題ない。あの警備のオスも殺した。責任者も文句は言わなかった」

「そうか。トワコ、もう安全だ」

「……う、ん。ありがとう」


ここまでしなくても。と思う気持ちと、純粋にありがたい感謝の気持ちがある。

日本じゃない。甘さを捨てろ。と思うのに、根付いた価値観や衝撃にまだ心が追い付かない。そんなすぐには切り替えることができない。

戸惑いながらお礼を言うと「で」と私に近づいてくる。


「何をそんなに怯えてる」

「え?」

「顔色が悪い」


そっと頬を触られ、さっきまでのやり取りを思い出す。


「あのね、今日は罰としてレグと一緒に寝ないことにしたの」

「あ?」


あんなことがあったのに一緒に寝ないとか馬鹿か?

とでも言いそうな一言にセトさんとシャルルさんが補足を入れてくれた。


「私はソファで寝ますね」

「……いや…」

「身体の大きさ考えてください。私はソファで十分ですから」

「そうではなく」

「おー…見事に堪えてるな」

「そうだろうな。私でも無理だ」

「セトさん、これで全員罰を与えましたよね? もういいですよね!?」

「はい」


もうあんなことしたくない。

改めて自分の危機管理不足を実感した。みんなに罰を与えたくないし今度からもっと気を付けよう。

罰と言われたレグは納得いってないものの素直に従い、私もソファに横になる。

気を使って灯りを落とされると暗闇に包まれ、昼間の出来事がじわじわと思い出され身体が震える。

本当によかった。助かってよかった…。

赤くなった部分を無意識に擦ると鳥肌が立って自分で自分を抱き締め、思い出さないよう強く瞼を閉じて無理やり眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ