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74.ハイオットニー国③

「ねぇレグ、お願いします!」

「絶対に駄目だ」


翌日は私とみんなの服を買いに出かけた。

私の服を購入するのに時間がかかったけど、それ以上に彼らの服をコーディネートするのに時間がかかった。

満足いく買い物が終わった頃には夕方を迎えており、観光ついでに海辺の近くを通る。

夕方の海もとても綺麗でそろそろ冷え込むだろうにたくさんの男性が海で泳いでいるのが目に入る。

プールは入ったけど海には入ってない。こんな綺麗な海なんだから絶対に泳ぎたい!

そう思ってレグに明日は海に行こうと誘うもすぐ却下された。


「何でダメなんですか。みんながいるから大丈夫だし、せっかくあんなに綺麗なんだから少しぐらい泳ぎたい!」

「駄目なものは駄目だ。プールで我慢しろ」

「海には海の楽しさがあるんです! シャルルさんっ。シャルルさんは私の味方ですよね!?」


日本では…いや地球でもあんな透明感ある海はほとんどない。

珊瑚礁に囲まれてるのもポイントが高い。スキューバダイビングしてみたい!

レグに反対されシャルルさんに助けを求めるも、珍しく目を反らされた。


「トワコの味方でいてあげたいんだけど海はなぁ…」

「トワコ嬢。私達陸上種族なので海ではいつものようにお守りできません」

「陸上種族…?」

「あそこにいるオスも陸上種族ですが、中には海棲種族もいます。海の中では私達でも彼らに勝てません」


セトさんの説明でレグとシャルルさんが却下した理由がわかった。

確かに海の中じゃ私もみんなもまともに動けない…。

そこに海棲種族、つまりオヴェールさんたちみたいな海を得意とする種族が襲い掛かってきたら太刀打ちできない。

万が一にも連れ去られたら誰も追いつけない。


「残念だけど仕方ないですね…」


せめて砂浜ぐらいは見たいけど、危険要素は排除しておくに限る。

自分の置かれた立場を考え、大人しくプールで我慢することにした。


「ト、トワコさん。海には近づけませんがまだ見るものたくさんありますよ。トワコさんが好きな海鮮料理だってまだ食べ尽くしてないです!」

「……そうですね、街もまだ見てないし明日は観光しましょう」


露骨に落ち込んでいたせいかアルファさんが話を反らして盛り上げようとしてくる。

ワガママは言えない。言える立場じゃない。

アルファさんの言葉に頷いてホテルへと戻る。

部屋に戻ってからは購入した荷物の整理をして少し早めの夕食をいただく。

受け付けでもらったこの街の観光マップを見ながら明日の計画を立てていると、席を外していたシャルルさんが勢いよく部屋に入って来た。


「トワコ、海行けるよ!」

「え?」

「このホテル専用のプライベートビーチがあるんだって。メスとそのつがいしか入れないところだから安心して遊べる」

「シャルルさん…!」


仕方ないことだと諦めていたのに、シャルルさんがどうにかして海で遊べるよう手配してくれた。

遊べる喜びよりもシャルルさんの優しさに感激してしまい、お礼を言って抱きしめるとすぐに抱きしめ返してくれた。


「レグ、これなら大丈夫ですよね?」

「おい、本当に大丈夫なのか?」

「今までも色んなメスが利用してきたけど問題なかったって言ってたし、今日も別のメスが利用してるの見てきた。岩山に囲まれてるし、警備もいた」

「シャルル、海からの侵入も考えられるぞ」

「そこも対策されてた。魔獣避けの専用ネットで囲まれてるし、ゼメルのときみたいに首輪がないとそのネットを越えられないようにもなってる」

「それなら………レグルス、どうしますか」

「レグー、これだけ大丈夫ならいいよね? 警備はバッチリだし、沖からも侵入できないよ?」

「……どうしても海に行きたいのか?」

「うんっ。あんな綺麗な海見たことないもん! みんなとダイビングもしたいし、ビーチボールもしたいし、それから…」

「これだけ安全なら大丈夫じゃないか? トワコさんも喜んでるし…」

「首輪がないとネットを越えられないんだな」

「ああ。受付の奴らにも聞いてきた。むしろそれを売りにしてるから安心して楽しんでくれってさ」

「……はぁ、解った」

「ありがとうレグ! 大好き!」


あの綺麗な海で遊べる! しかも安全に、みんなの負担になることなく!

渋々許可を出してくれたレグに抱き着き、それからシャルルさんにもお礼を言って抱きしめる。


「今日はもう寝るよ! 明日は朝から遊ぼうね! お風呂入ってきます!」


明日着る水着の準備をして急いでお風呂に向かう。

何して遊ぼうかなー。海でしかできない遊びもたくさんあるし楽しみだ!


「うきうきトワコも可愛いー!」

「余計なこと調べやがって」

「えー、だってさぁ。ルルヴァのことで申し訳ないって微妙に楽しめてないじゃん? 気にしないでって言うけど自分のせいでって申し訳なさそうにするトワコなんて見たくないもん」

「まぁそれは今までもだな。何を買うにしても謝罪から入る姿は見たくない」

「俺らが嫌だからルルヴァを捕まえるって言ってんのにな。元気づけてあげたいって気持ちと、元の世界の海よりこっちの海に虜になってくれたほうがいいだろ?」

「…凄いな、シャルル。そこまで考えてたのか…」

「一応保険でな。まぁ一番は心の底から楽しむトワコを見たいってだけだけど」

「とりあえず私も説明を聞いて確認してきます」

「ああ、任せた。それとお前ら二人は明日トワコから少しも離れるなよ」

「めっずらしー。王様にそんなこと言われるなんて思ってもみなかった」

「任せてくれ。…ただ、海に武器を持ち込めないのは不安だな…」

「投擲用のナイフ貸してやろうか?」

「ああ、頼む。レグルスはどうするんだ?」

「砂浜にいる。だからお前らは海を警戒してろ。何か来たらトワコを空に投げてセトに託せ」

「解った。じゃあ俺もビーチ見てくる」

「王様も行って来いよ。下見は大事って言うだろ」

「必要ない。仲間を信じてるからな」

「うげっ、心にも思ってない台詞吐くなよ気持ち悪い…」

「お前がトワコと寝ようとするからだろうが」

「ちっ、バレてたか」







「海だーっ!」


シャルルさんのおかげでホテル専用のプライベートビーチで遊べることになった。

ホテルから数十分歩き、唯一の入り口に立っていた警備の人から首輪をもらってさらに進むと岩山に囲まれた綺麗な海が広がっていた。


「もう一回言うけど、この首輪は外しちゃダメだよ」

「はい、気を付けます! これがないとネットの内側に誰も入ってこれないんですよね?」

「うん。海から誰か来ても侵入できないから安心して」

「だからってあまり沖に行くなよ」

「わかりました!」


プライベートビーチということだけあってビーチベッドやパラソル、それからボールや浮き輪なども既に準備されていた。

はやる気持ちを抑えつつ荷物を置いてしっかり準備運動を始める。

シャルルさんとアルファさん、セトさんも一緒になってしてくれたけど、レグはビーチベッドに寝転んで眺めている。

元々あまり泳ぐのが好きじゃないらしい。一緒に泳げないのは少し残念だけどしょうがないよね。


「ちょっとひんやりするけど気持ちいい!」

「寒くなったらすぐに海から出てね」

「わかった!」


足がつって溺れて迷惑かけるわけにはいかない。

これでもかと身体をほぐして三人で海に入るとプールより少し温度が低く、朝だと寒く感じた。

でもこれから暑くなるし遊んでいれば気にならないよね。

砂浜も綺麗だし、透明度もやばい。

少し沖に向かっても魚や珊瑚、海底までもハッキリ見えて興奮が止まらない。


「見てみてシャルルさん! あんな魚見たことない!」

「毒を持った魚はいないけど無暗に触ったらダメだよ」

「うん、見てるだけにする! あ、アルファさん泳ぎ上手になりましたね!」

「トワコさんのおかげで完璧です…! 気持ちいいし最高です」

「セトさんは潜るのまだ苦手ですか?」

「片目しか使えないのでどうしても…」

「無理しないでくださいね。あー、あれ見ました!? 赤い魚とか見たことない! 綺麗!」


多分この世界にきて一番興奮しているかもしれない。

海は綺麗だし、みんなと遊べるし、とにかく楽しい!

潜って珊瑚礁を眺めたり、可愛い魚を無駄に追いかけてみたりと過ごしていくうちにあっという間にお昼になったので休憩も兼ねてレグの元に戻る。

しっかり水分を摂って、ご飯も食べて、食休みをしながら真剣な顔をしてビーチバレーで勝負するセトさんとアルファさんを観戦。

接戦を繰り広げる二人の攻防はとても楽しかった。


「飛べば勝てるのに…」

「砂浜やりにくい…」

「お疲れ様です」

「おい、砂まみれでトワコに近づくなよ」

「あ、す、すみませんっ。暑いしついでに海入って砂落としてきますっ!」

「……あっ! ねぇねぇセトさん、アルファさん。ちょっとネット近くまで行ってくれません?」

「「え?」」

「そこで待っててくださいね!」


顔を真っ赤にして息切れしている二人に水分を渡す。

そしてあることを思いつき、二人にお願いをして海に入ってもらった。


「レグー、お願いがあるんですけどいいですか?」


ずっとビーチベッドで本を読んでるレグに声をかけるとすぐに読むのを止めて身体を起こす。


「レグは力持ちですよね?」

「まぁ」

「あのね、投げることできる?」

「は?」


レグはかなりの力持ちだ。いや怪力?

私と接しているうちに力加減の調整がうまくなったらしいけど、たまに食器を壊したり、木を折ったりと尋常じゃない力を持っている。

そんな彼に私を沖まで投げてほしい!

セトさんの加護を使って飛び込みでもいいけど、投げてももらいたい!


「お前は何を言ってるんだ」

「セトさんとアルファさんがいるところまで、こうビューンと投げてください!」

「トワコ、さすがにそれは危ないよ…」

「一回だけ! 一回だけでいいからやってください!」

「……お前はどうしてこう突拍子もないことを言うんだ…」

「だって楽しそうじゃないですか! ダメなら加護使って落ちます」

「そんなことで加護を使うな。解った、投げればいいんだな」

「おいクソライオン! トワコを投げるなんてダメに決まってんだろ! 危なすぎる!」

「大丈夫ですよシャルルさん。じゃ、お願いしまーす」

「や、やめなってトワコ!」


本当に嫌そうに仕方なく私を担いで波打ち際まで運び、ネット近くに到着した二人に手を振る。

そして、


「足から着水するよう意識しろ」

「ど、ドキドキする…! 頑張りますっ」

「トワコ、ダメだって!」

「シャルルさん、私飛んできます!」

「そんなのセトに言えば「いくぞ」っおい止めろって!」

「ひゃーー!!」


投げ飛ばされるなんて体験、きっと私にしかできない。

空を飛ぶのとは違う感覚に緊張と高揚、若干の恐怖でドキドキが止まらない。

もっとこの感覚を体験していたいのにあっという間にセトさんとアルファさんの手前で着水。

少々の痛みがあるもののどこも問題なし!


「トワコ嬢!」

「トワコさん!!」

「―――っぷはぁ! げほっ、げほげほ…!」

「な、なにをしてるんですかレグルスは…!」

「だ、大丈夫ですか!? どこか怪我してませんか!?」

「おえっ…」


すぐに二人が寄ってきて沈む私を海面へと連れて行ってくれる。

問題ないと思っていたけど海水が気管に入って咳込むと、二人は蒼白な顔と焦った声で何度も私の名前を呼ぶ。


「―――見ましたか!?」

「「え?」」

「私、飛んでましたよね!? しかもあの距離を! ゲホッ。っはぁ…。……ふふっ、アハハハハ! 面白かったー! ドキドキ止まんない! 今度はもっと上手に着水したいなぁ!」

「あ、あのトワコ嬢…?」

「すみません。私からレグに無理言って投げてもらったんです。二人もいるし大丈夫かなぁって! アハハッ、ほんとすごい投げられましたね! すっごい気持ちよかったし楽しかった! もう一回投げてくれないかな」

「だっ、駄目ですよトワコさん! 危ないです!」

「海中に落ちるから大丈夫ですよ。それぐらいじゃケガしませんし。よーし、またレグに投げてもらおう」


言葉に表現できない感情で高ぶっていた私は引き留める二人を無視してレグの元へと向かう。

シャルルさんが途中まで迎えに来て心配してくれたけど「大丈夫」と笑ってレグに駆け寄り、抱き着く。


「ありがとうございます、レグ! めちゃくちゃ楽しかった!」

「そうか」

「もっかいして! 今度はもっとうまく着水してみせる!」

「一回だけと言ったのはお前だろう」

「もう一回! もう一回だけ!」

「駄目だ。諦めて普通に遊べ」

「楽しいのに…」


心配かけるなと言うように頭を撫で、またビーチベッドに戻って読書の続きに戻る。

ちぇー、レグはもうお願い聞いてくれないや…。

やっぱりここは加護を使って落下する? 飛び込み台みたいなものがあれば面白いんだけどなー…。


「……セトさん!」

「トワコ嬢、本当に身体は大丈夫ですか?」

「大丈夫です! それより鷹になって背中に乗せてくれません?」

「え…? そ、それは別に構いませんが…」

「ダメだよトワコ。そこから飛び降りる気でしょ」

「こ、今度こそ怪我しちゃいますって…!」

「もっと別のことで遊ぼうよ」

「でもドキドキハラハラして面白いの! シャルルさんも一緒にどうですか?」

「一緒にはしたいけど…」

「セト。一回だけ付き合ってやれ。トワコ、これで最後にしろよ」

「うん! レグもいいって言ってるしお願いします!」

「……解りました…」


苦渋の決断な表情でその場で鷹に変身し、頭を下げて背中に乗るよう瞬きをして訴える。

そう言えばセトさんの背中に乗るのも久しぶりだっけ。

このまま空中散歩もしてみたいけどまた今度。今はこのドキドキを楽しもう!


「あ、もうちょっと高くがいいです。…うん、それぐらいで!」


ネット近くの一番深い場所の真上まで飛び、下にアルファさんとシャルルさんがいることを確認。

最初は二メートルもない高さだったのでもう少し高く飛んでもらって調整。

怖い。でもワクワクが止まらない!


「じゃあ…飛び降りますね…!」


今度はしっかり鼻を手で押さえて、ちゃんと足から着水する!

深呼吸をして恐怖を落ち着かせ、思い切ってセトさんの背中から飛び降りる。


「アハハハハ! 怖かったけど楽しー!」


またすぐに海面に連れてってもらい、爽快感で笑いが止まらない。

是非ともみんなにも体験してほしい!

呼吸を整えながらアルファさんを見ると海の中にいるって言うのに顔を真っ赤にして固まっていた。


「アルファさん?」

「……っあ…!」

「トワコってほんと色んなギャップ見せてくれるよね」

「え?」

「嫌われたくないから教えるけど、見えてるよ」


アルファさんとは対照的にシャルルさんは満面の笑みでジッと私の首…いや、胸を見て指差す。

その視線に自分も胸に視線を落とす。


「……っぎゃ!」

「トワコは胸まできれいなんだね」

「な、なんでっ…! 水着は!?」


落ちた衝撃で胸の水着が外れていた。

透明感ありすぎる海のせいで思いっきり二人に見られ、慌てて両手で隠すと溺れかける。

すぐにシャルルさんが抱き着いて支えてくれて助かったけど、お礼を言えるほど冷静でいられなかった。

は、恥ずかしい…! 見られたっ…。しかもあんな堂々と胸を晒してっ…! ああああこんなベタな展開になるとは思わなかった!


「穴にあったら入りたい…! 恥ずかしい…」

「なんで? きれいだよ?」

「や、止めてください! それより水着は!?」

「アルファ、固まってないで探せよ」

「……っすみません、俺見てないんで! 探してきますッ!」


絶対見てるじゃん…!

あんなに楽しかったのに何でこんなことに!


「もっとハッキリ見たいなー」

「ダメですダメ! ほんっとに無理です!」

「少しだけでいいから、ね?」


片手で腰を支え、片手で私の腕を動かそうとするシャルルさん。

優しい口調なのにどこか圧がある声色に何度もダメですと抵抗していると、上から大きな影が降ってきてシャルルさんを海中に押し込んだ。

その衝撃で私も海中に少し沈んだけど、すぐに海面に連れ戻される。


「けほっ!」

「すみません、トワコ嬢。巻き込むつもりはなかったのですが力加減ができませんでした…。よかったらこちらを」


大きな影はセトさん。

鷹の姿のまま空から勢いよりシャルルさんを沈め、いつの間にか持って来てくれたシャツを渡して背中を向けてくれる。


「―――ってぇなクソ野郎! なにしやがる!」

「トワコ嬢が嫌がっていたから助けただけだ」

「だからって殺す気か! しかもトワコまで巻き込んで!」

「お前が盛るからだろう」

「トワコさん、すみません。沖に流されてしまいました…」


セトさんのおかげでなんとか丸出しは免れた。

ううっ、それでも見られたの恥ずかしすぎる…!

口論している二人の間にアルファさんが戻って来て、謝罪する。

穏やかな海とは言え、ネット近くでダイブしたから沖へと流されてしまったらしい。

あんなものをこの綺麗な海に捨てておくのは気が引けるが、ネットより沖へは行けない…。


「ありがとうございます、アルファさん。あとでホテルの人に謝りましょう…」

「そ、そうですね…。今日はもう戻りませんか?」

「う…。そうですね、水着もなくなったしそうしましょうか…」

「お前が見れなかったからって八つ当たりすんな!」

「八つ当たりではない!」

「おーい二人とも。トワコさん戻るって」

「あーもういい気分だったのに最悪…」

「それはこちらの台詞だ。トワコ嬢、帰りは飛んで帰りましょう」

「そうします…」


恥ずかしいし情けないけどノーブラのままで歩きたくない…。

セトさんの提案に甘えレグの元に戻ると始終を見ていたレグがお怒りの様子で私を待っていた。

海で遊ぶのはいいけど、二度とあんなことをしないと誓わされ、今日は大人しく部屋で過ごすことにした。

今日の反省を生かして次はビキニじゃない水着を買おう。

あのまま恥ずかしい思い出で終わるの嫌だし、まだみんなと遊びたい。

しかしこの判断がまた事件を起こしてしまった。

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