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68.歓楽街ゼメル⑥

「と言う訳なのでオヴェールさんへの処罰はなしです。その代わり、私達に協力をお願いします」

「恐悦至極です。私、オヴェール・クロロストン、始祖様に生涯の忠誠を誓います」


色々とあったけど、オヴェールさんに殺されかける事件を許すことにした。

いくら殺されかけても殺すことはできないし、これだけ協力的なら利用するほうがいいとレグたちも賛成してくれた。

何より日本語で書かれた聖書をくれたってのも大きい。

あの聖書のおかげで私がこれから何をするか。どうするかがわかった。

ここに来なければ、いやあんな事件にならなければ絶対にゲットできなかったもんね。


「では手筈通りルルヴァをここにおびき出し、レグルス様の私兵とともに捕縛致しますわ」

「あいつは始祖返りだ。どんな手を使ってくるか解らないから注意しろ」

「お任せ下さい。私も始祖返りです。たかがサル族の始祖返りなぞ問題御座いません」


美人のドヤ顔ってすっごい迫力ある…。

絶対に捕まえてみせる。その気迫が視線を通して伝わってくるので「お願いします」と頭を下げようとするとレグに止められた。


「お前が頭を下げるな」

「え、でも…」

「始祖様、どうかご安心下さい。貴方の平穏を乱す者は私が処罰してみせます。も、もしそれが終わりましたらまたあの声で…私を褒めて頂きたい…!」


始祖教の熱心な信者だけあって私のあの能力にすっかり魅了されてしまったオヴェールさんは興奮気味にお願いをしてくる。

レグが舌打ちをするけど真っすぐと私を見つめるので圧に負けて頷くと色気を含んだ溜息を吐いて自分の身体を抱きしめ、悶えてる。

い、未だにこの変わりように慣れない…。

強者がモテる世界だから言葉だけで相手を従わせることができるあの能力に魅了されてるんだろうけど、ちょっと複雑だ…。


「はぁ…始祖様にお褒め頂けるなんて世界一幸せ者ですわ…」

「喜ぶのは捕まえてからにしろ」

「勿論です。それまでの間、始祖様はどちらへ?」

「言う訳がないだろう」

「ですがこの街を離れますよね? でしたら馬車を用意致しましょうか? そろそろ冬が参りますので始祖様には快適にお過ごし頂きたいです」

「あ、いや、馬車は誰かが引っ張らないといけないので…」

「ご安心下さい、始祖様。我らに慣れた魔獣を差し上げますわ」


この世界には私の世界で見るような普通の動物も存在している。王国にいたときはレグの手配で馬車にも乗ったし、見た。

動物は獣人たちの家畜として使われているが、狂暴になった野生動物、通称魔獣は討伐対象となっている。

魔獣と言われるだけあって身体は通常の動物より大きく、身体も頑丈。それ故に戦争などで使われることもある。

ちなみに獣人たちにとって野生動物や魔獣とは一切繋がりがないので食べても共食いにはならないらしい。


「その魔獣であれば夜通し進むことができますし、見張りもできます。多少の魔獣相手なら問題なく撃退することだって可能です」

「そんなすごいものを…い、いいんですか?」

「ええ、勿論です! お詫びの品だと思って受け取って下さいませ」

「レグ、いい?」

「これで道中もゆっくり休めるからな、もらっておけ」

「じゃあ…ありがたく頂きます」

「はいっ。荷台もすぐに手配致しますね」


馬車があるなら道中疲れることないし、夜もゆっくり眠れる。

でも…座るところしかないよね。横になって寝れるけど今までみたいにレグと一緒に寝られない…。


「あ、あの…。やっぱり…その…」

「不満か?」

「不満じゃないんだけど…えーっと…」


レグと一緒に寝れないって言えばいいのに、その言葉が出てこない。

言っても大丈夫なのは解ってるんだけど、一緒に寝れないから嫌だとか子供っぽいって笑われるかもしれない…。


「頑丈な造りですし、これからの時期には必要かと思います」

「そ、そうなんですけどねっ。あー…レグ、耳貸して」


熱くなる頬を抑えつつレグの服を引っ張ると屈んで言われた通り耳を貸してくれた。


「あのね、馬車があると…夜一緒に寝れないよね? そ、それはちょっと嫌かなぁ…って」


オヴェールさんに聞こえないように小声で話して遠まわしに「夜はレグと一緒に寝たい」と伝えると、後頭部をガシッと掴まれ、そのまま口を塞がれた。


「んー!」

「あら」

「最近はえらく素直だな」

「っい、いきなりキスしないでくださいよ…!」

「寝台の手配を頼む」

「かしこまりました」

「し、寝台?」

「座る場所がない馬車のことだ」

「色んなタイプがあるんですね?」

「お前が俺とどうしても寝たいみたいだからな」

「そ、そうだけど…! 荷台があるなら別にレグとだけじゃなくても…」

「あ?」

「レグと一緒に寝るよ…」


だから圧をかけてこないでよ。私はレグのつがいですよ!


「話しはもうないな」

「ありません。始祖様、明日には手配しておきますので本日はごゆるりとお休み下さい。それと買い物もご自由に。店の者には伝えております」

「ありがとうございます、オヴェールさん」

「とんでも御座いません。始祖様が楽しめるものは少ないと思いますが、誠心誠意おもてなし致しますわ」

「もういいだろう。行くぞ」

「あ、はい」


あの事件のあと、私の存在を絶対に口にしないようオヴェールさんが手配してくれた。

この街の領主であり、メスであり、始祖返りである彼女の発言力は強く、誰もがその言葉に従った。

だけど絶対という言葉はないので急いでこの街を離れ、ディティ本山に唯一行けるハイオットニー国へと急ぐ。

その間、オヴェールさんがルルヴァをこの街に呼んで、デーバさんたちと協力して捕まえる。

これで私の存在を知る危険分子はなくなるはず!

彼一人で何かできるわけないと私は思ってるけど、レグたちは何かを警戒している。

それを教えてくれることはないが、いつだって四人は私の安全を一番に考えてくれているからあえて何も聞かない。

平和ボケした私の頭じゃ考えつかないようなことを考えてるかもしれないもんね。


「今日は旅の準備をして街を観光しませんか?」

「準備ならもう終わってる。観光…するところあるか?」

「名物料理とか食べてないです」

「…ああ、そうだったな。色々あったせいでデートができなかった」

「ここじゃあデートできませんよ。今度はハイオットニーについてからしませんか?」

「解った。確かにあそこは観光地として見るものも多いから楽しめるだろう」

「海も楽しみです」

「先に言っておくが、他のオスに目移りしたらそいつを殺すからな」

「しませんよ…。私には四人もつがいがいるんですからね」

「そうだ、四人もいるんだから必要ない。何より俺がいれば安全だ」

「その自信たっぷりなところ見習いたいです」

「(四人しかいないなんて本当はありえないんだがな)」

「レグ?」

「早く部屋に戻って街に出かけるぞ」

「はーい。どんな美味しいものがあるかなー、楽しみですね」

「そうだな」







「でっか…」


オヴェールさんと話し終えた私たちは街で和食っぽい料理を食べて観光を楽しんだ。

有名になったせいで誰も私たちに話しかけてこなかったし、タダで色々飲み食いできたのも楽しかった。

そして翌日。

オヴェールさんが部屋まで迎えに来てくれて一緒に街の外に出るとシンプルながらも五人が入っても十分なぐらい広そうな馬車と真っ黒な馬が三頭いた。


「この国であればどこの街でも問題なく入れます。何かあれば私の名前をお使い下さいませ。それと食料なども積んでおります」

「ありがとうございます、オヴェールさん」

「とんでもございませんわ。それと諸々説明したいのですが…」

「私が聞きます」

「俺も。魔獣の扱い方も教えてくれ」

「トワコ、中入ってみようよ」

「うんっ」


シャルルさんに連れられ馬車の扉を開くと真っ白な絨毯が敷かれ、隅には大小様々なクッションが置かれていた。


「わー…これならここで寝れますね」

「さすがに全員が寝るには狭いけどね。柔らかいし乗ってても身体傷めなくてすむ」

「できるだけ街道を通ってハイオットニーに向かうんですよね?」

「そのつもりだよ。あ、見てみて。この下に荷物置けるみたいだよ」

「ほんとだ。収納もバッチリですね」


こんな部屋みたいなのが馬車だなんて…。贅沢だ、贅沢すぎる。でも嬉しい!

シャルルさんと内装ではしゃいでいると話し終えたオヴェールさんたちが声をかけてきたので降りて再度お礼を言った。


「始祖様、もしルルヴァを捕まえて安心できましたら是非ともこの国に永住ください」

「あー…ちょっとどうなるか解らないのでそれは…」

「ご検討頂けるだけも嬉しいです」

「トワコー、出発しようよー。いつルルヴァが現れるかわかんないしさぁ」

「そうですね。オヴェールさん、本当に色々ありがとうございました。また遊びに来ますね」

「はい、心よりお待ちしております」


シャルルさんとレグが荷台に乗り、アルファさんは手綱を握るため御者台に座る。セトさんも鷹の姿になって馬車の上に座った。

オヴェールさんに見送られつつ、花畑の道を進み始める。

色々あったけど大きな収穫を得ることができた。

殺されかけたけど来てよかったなぁ…。本当によかった。


「ねぇトワコ。用事が終わったらどこに住みたい?」


荒れた道も絨毯とクッションのおかげで快適な旅を楽しむことができる。

窓から見える景色を楽しんでいるとシャルルさんがそんなことを聞いてきたので少し考えた。

帰れないなら住む場所を決めないといけない…。

最初に浮かんだのはセティさんもいる王都。

あそこには色々揃ってるし、やっぱり東大陸一番の国だから安心安全。レグとセトさんの故郷でもあるしね。

それに王都からだったら温泉街も近いから立地的にもいいかもしれない。

温泉街に住んでもいいけど色んなメスに絡まれるのは好きじゃないしなー…。

オヴェールさんはあの街に住んでほしいみたいだけど、さすがにあの街は…うん、ない。いつでも真っ暗なのは嫌だ。


「今のところ王都ですかね?」

「あ、やっぱり?」

「でもこうやって旅をするのも好きです」

「トワコは色んなものを見たり食べたりするのが好きだもんね」

「あ、でもその分四人には迷惑かけますよね」

「そんなことないよ。トワコが楽しいと俺も楽しい」

「ふふっ、私もです。でもやっぱり住む場所はあったほうがいいですよね。だったらやっぱり王都です。セティさんもいるし」

「じゃあどんな家に住みたい?」

「どんな家? そうですねぇ…」


セティさんの屋敷はとても綺麗で広かった。温泉街のレグの別荘も広くて綺麗だった。

それが嫌ってわけじゃないけど、広すぎると落ち着かないのが本音。

あ、だからみんなとの距離が近い旅が好きなのかな?


「広い屋敷は嫌だなぁって思います」

「嫌なの?」

「みんなと距離が遠くなるじゃないですか。できるだけみんなの気配を感じることができる家がいいなぁって…」

「……はぁ…」

「あ、いやでした?」

「ぐちゃぐちゃにしたいぐらい可愛いっ…」

「おい」

「離せ。俺はトワコにキスしないといけない」

「しなくていい」


照れ臭そうに頭をかいて手を伸ばしたシャルルさんの腕をレグが掴む。

彼らと色々話して、デートして、たまにハグやキスして…。

旅の途中はできなくなって寂しかったけど、この馬車があるなら…。

少し期待していたのもあって、キスされそうになったのを感じて身構えていたのに…残念。

あんなに恥ずかしくて控えるよう言っていたのに最近少しおかしい。

いつも傍にいてほしいし、触ってほしい。ハグされると幸せな気分になるし、キスだってみんなとしたい。

それに……さ、先のことを考えてしまうようになってしまった…!

絶対に言わないけど彼らを求めてしまいそうになる。

あんだけ拒絶していたのにどうしてだろう。あのとき発情したせい? ずっと効果が残ってるのかな…。

それとも恋人ができたらそういう気分になる? あーもう、こういうとき友達に相談したいのに!


「トワコー、王様がいじめるー」

「レグ、ダメですよ」

「そいつを甘やかすな。甘やかすほど可愛くないぞ」

「シャルルさんは可愛いですよ」

「ただの腹黒だろ」

「つーかトワコが求めてんだからいいだろ。それもつがいの役目ってな」

「わっ」


甘えるように腰に抱き着いてきたシャルルさんの頭を撫でてレグを諫めるも、彼は私とシャルルさんを睨みつけてくる。

つがいは平等に。をモットーに頑張ってるけど、やっぱり難しい…。

つい可愛く甘えて、助けを求めてくるほうを優先してしまう。

シャルルさんが腹黒だと言うけど、猫被ってるだけで腹黒じゃないと思うんだけどなぁ…。

そう思ってシャルルさんを見下ろすと軽く唇が触れた。


「真っ赤になってかっわい」

「び、ビックリした…」

「もうちょっとしてもいい?」

「え、あ、いや…」

「潰すぞクソガキ」

「あとで王様もやってもらえばいいじゃん。トワコ、ダメ?」

「うっ…うう…。ど、どうぞ…!」


改めて言われると言葉につまる。

軽く俯いて目を閉じてされるのを待っていると、右手を軽く握られ身体が飛び跳ねる。


「キスされるの待ってるんだ。可愛いなぁ…」

「あ、あの…」

「トワコはいい子だね」

「ん…!」


恥ずかしいから目を瞑ってせいで余計敏感になってしまった…。

何度か軽くキスして、舐められ、待ちに待った深い口づけをされるとすぐに声が漏れる。

唾液が交わう音が馬車に響き、余計に興奮して力が抜けていく。

ディープキスは初めてじゃないけど、未だ慣れない。

呼吸のタイミングが解らず胸を押し返すと少し離れてくれて、その間に乱れた呼吸を整えるもすぐにまた塞がれた。


「っふ…やぁ…! もっ、くるし…!」

「ふふっ、ごめんねトワコ。可愛くてつい夢中になっちゃった」


ようやく解放してくれ、呼吸を正すことができる。

ゆっくり目を開けると瞳孔が細くなったシャルルさんが自身の唇を舐めていた。

それが色っぽくて…。さっきまで可愛かったのにやっぱりちゃんとした男性なんだと思うと全身が熱くなって顔を背けるとレグと目があった。


「……まさか…ずっと見てた…?」

「当たり前だろ」

「み、見ないでよ…! 恥ずかしいじゃないですか…!」

「それよりトワコ。次は俺だ」

「最初にするもんじゃねぇな。匂いが消される」


キスされて嬉しいのに見られてることに気づいて嫌になる。

逃げようにも馬車内だから逃げる場所なんてなく、すぐに捕まって膝の上に乗せられた。

でもシャルルさんとキスしたんだからレグにもしないと…!

シャルルさんに見ないよう心を込めて見つめるも、彼は首を左右に振って不機嫌そうな顔で眺めている。つ、伝わったのに何で!


「トワコ、こっちに集中しろ」

「うっ! お、お願いですから手加減してください…」


返事をする前に口を塞がれ、大きな舌が絡んでくる。

舌先で上顎を刺激し、気持ちよくて力が抜けると私の舌を吸ったり舐めたりしてくる。

されるがままなのも申し訳ないし、レグも気持ちよくなってほしいから真似するようにレグの舌を軽く吸うと押し倒された。


「んっ!?」

「おいッ」


シャルルさんの言葉と制止に怒りを込めて強く舌を吸われ、ようやく解放された。


「ビックリした…」

「今のは誘ったお前が悪い」

「さ、誘ってませんよ」

「トワコ、もう王様とキスしないほうがいいよ。ここで交尾したらせっかくの馬車が壊れる」

「ひぇ…」

「生殺しもいい加減にしとけよ」

「なま…?」

「それはそう。でも交尾はトワコの用事が終わってからだろ。我慢しろよ」

「……え? どういうこと?」

「あ…」

「お前の失態だ。俺を見るな」

「あー…。あのね、実は…」


気まずそうな顔をして花畑で野宿中にあった出来事を話してくれた。

何故か発情したこと。キスを求めたこと。いや、それ以上のことももっと望んで暴走したこと…!

だからあんなに寝たのか! だから唇が少し腫れていたのか!

さっきの恥ずかしさを上回る羞恥心に身体が熱くなって逃げ出したくなる。


「アルファさん!」

「うえっ!?」


御者台に通じる小窓を開けてアルファさんに馬車を停めるようお願いするとすぐに停めてくれたので外に飛び出しアルファさんの隣に座る。


「ど、どうしたんですか…?」

「出発してください、早く!」

「わっ、解りました!」


ううう…! そんなことしてたとは…。それに交尾してもいいって…!

真っ赤な顔を抑えて言われたことを反芻しては恥ずかしさで悶える。


「トワコ嬢、そこは寒いですよ」

「そうだよトワコー。中に戻っておいで」

「風邪引くぞ」

「いいのっ。今はここにいたいの!」

「王様と二人っきりとか嫌なんだけど…」

「お願いだから!」

「ちぇー…」


確かにあのときキスもハグもしてなかった。

だからって無意識にあの花の香りを吸って…あああああもう過去に戻れるなら戻りたい!


「トワコさん…?」

「アルファさん…。花畑の…その、私が発情してしまったの知ってます…?」

「……」

「セトさんは?」

「…」

「うわああああ! 忘れてください! あれは私の意思じゃないんです! いやじゃないけど違う!」

「わ、忘れます! 忘れますからそれ以上近づかないで下さいッ。嬉しいけど手元狂っちゃいます!」

「忘れますからアルファに近づかないで下さい。危ないですよ」

「もうやだ…。恥ずかしくて死ぬ…!」

「積極的なトワコも可愛かったよ」

「シャルルさんッ!」

「真っ赤になって怒っても可愛いね。もうバレちゃったし、これからたくさんハグもキスもしてあげるから安心して」

「もうシャルルさんなんか嫌いッ!」

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