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67.歓楽街ゼメル⑤

「…」

「トワコ、ご飯食べないの?」

「…うん」


元の世界に戻れない。

その事実に泣き出してしまった私は、そのまま眠りについた。

翌日、頭の痛さで目を覚ますと四人で心配そうに声をかけてきたけど、返す元気もなく、身支度もしないでずっと布団の中に引きこもっていた。

日本に帰りたいと思っていた。でもシャルルさんたちに出会ってこの世界も嫌いじゃなくなった。

彼らと離れるのなんて考えられないほど好きだし、ここでの生活も悪くないかもしれないと感じていた。

でも、やっぱりどこか日本に帰りたいと思っていた私もいて、聖書に書かれた言葉にショックが抜けきれない。

目を瞑って別のことを考えようとしてもあの言葉が頭をチラついてその度に涙が出てくる。

日本語で書かれた文章だから日本人であることは変わりない。だから余計に帰れないという事実に重みが増す。

両親は今頃何をしてるんだろう…。いきなり消えたから探してるかもしれない。帰れない私をずっと待ってるかもしれない…。

家族のことを考えるとまた涙が出てくる。


「でもご飯食べないと倒れちゃうよ」

「いらない…」

「まだ調子が戻ってないんだ。ちゃんと食べろ」

「っいらない…! お腹空い…って…っ。うう…もうやだぁ…! なんでこんなことになったのっ…。お母さんとお父さんに会いたいッ…! 友達にも会いたい! 寂しぃ…、何で私なの…!? なんでぇ…帰りたい、帰りたいよぉ!」


一度口を開けば今の気持ちが全部溢れて止まらない。

ご飯を食べさせようと布団をはいで抱き起してくるレグに八つ当たりで殴り掛かって文句を言うも、彼は何も言わず全てを受け止めてくれる。

こんな子供じみた行動したくないのに、心がずっと乱れて抑えられない。

大人になろうと我慢している自分と、まだ子供な部分がある自分が喧嘩して、彼らに八つ当たりしている。


「高校卒業したばっかだったのに…っ。大学でいっぱい勉強して、彼氏作ってぇ…。色々考えてたのになんでよぉ…!」


昨日からたくさん泣いたのにまだ涙は出るらしい。

レグはその大きな身体で私を包み込んで子供をあやすように黙って背中を擦り続ける。

嬉しいと思うのに子供扱いされてイラつく自分もいる。帰れないと泣いて叫んで、この世界に文句を言いたいのに、言ってはいけないと冷静に諭す自分もいる。

色んな感情がひしめき合って頭がガンガンと痛み始めた。


「トワコ、大丈夫…? お腹も痛くない?」

「ひっ、く…。……おなか?」

「多分セーリ始まってるよ。血の臭いがする」


シャルルさんに言われて下腹部に針を刺すような小さな痛みがあることに気が付いた。

認識した途端、あのドロリと塊が出てくる感触に襲われ、一瞬で冷静になってトイレに駆け込む。

シャルルさんが言ってた通り生理になっていた。

きゅぅううと下腹部が締まる痛みと泣き続けたせいで続く頭痛に気分まで悪くなる。


「トワコ、いつもの持ってきたよ」

「すみませんすみません! ありがとうございますッ」


扉のノックとともにシャルルさんがいつものセットを持ってきてくれたので、少しだけ扉を開けて受け取り、着替える。

そう言えば生理予定日から結構過ぎてる? 旅が思っていた以上のストレスだったのかな…。

小さなストレスが溜まりにたまったのと、生理のせいであんな子供みたいに泣いて八つ当たりしてしまった。

生理だとわかれば妙に納得して、さっきまで乱れていた精神は落ち着きを取り戻しつつあった。

途端、自己嫌悪に襲われ、着替え終わったにも関わらず部屋に戻るのが恥ずかしくなる。


「大丈夫?」

「は、はい」


外で待ってるシャルルさんに声をかけられ思わず返事をしてしまった。

返事をしたからにはそろそろ出ないと…。


「鎮痛剤がありますが飲みますか?」

「大丈夫です。すみません…あの、いきなり泣いてしまったりして…」

「それはいいよ。むしろ俺らじゃ何もしてあげられなくてごめんね」

「そんな、いつも良くしてもらってます」


いきなり泣いたと思ったら八つ当たりしてしまってごめんなさい。と謝ると、四人ともどこかホッとした表情を浮かべた。

少しだけ乱れた心が落ち着いたかと思っても、帰れないという言葉を思い出してまた涙が出てくる。

ちょっと冷静になれたかと思ったけど、まだ情緒不安定らしい。

今まで隠してきた寂しさや喪失感、不満や不安が涙となってどんどん溢れてくる。

気にしないよう。考えすぎないよう暮らしてきた。

解らないことがたくさんあるし、解決できないことへの恐怖などの負の感情をすべて胸の奥に押し込めて誤魔化すよう彼らから与えられる優しさを愛情を受け取って、それだけを考えていた。

だけど今回でそれが壊れた。これからのことを考えないといけなくなってしまった。

それがとてつもなく怖い。受け入れきれない。まだ大人になりきっていないのにこんな重大なことを考えて、決めて、行動しないといけない。

きっと私が本当の大人だったら冷静な判断ができて、うまく気持ちに折り合いがつけれる…。でも私にはまだそれができない。きっとこれからも皆に迷惑をかけるのだけわかる…。それも辛い。


「…。トワコ、ちょっとごめんね」

「え?」


溢れる涙を手で拭い、お姫様抱っこをして布団に連れてってくれる。


「とりあえずさ、身体温めないと」


私を布団の上に降ろし、後ろから抱きしめて下腹部当たりに手のひらを乗せて温めてくれる。

背中もお腹もゆっくりと温まっていくのがわかる。


「それと…なんだっけ」

「鎮痛剤と鉄剤です。鎮痛剤の効果はすぐに出ますが、鉄剤は一週間ぐらい服用して下さい」

「あとやっぱりちゃんとご飯は食べたほうがいいですよ…。何でも言って下さい」


泣いた理由を聞かれると思っていた。だけど彼らは私の心配をしてくれる…。

嬉しいのに申し訳なくて、彼らの言うことに素直に従うことにした。

お粥らしきものを持ってきて、食べさせられて、薬も飲む。

身体の中から温まったのもあり、頭痛は収まり、下腹部の痛みもない。

食べている間も私が寝ていたことを色々と話してくれて、いつもの日常…この世界での日常が過ぎていく。

自分はどれだけ恵まれているんだろう。

改めてそう感じるとまた涙が溢れてくる。


「トワコ、まだ痛い?」

「ちがう…みんなが優しくて…!」

「優しいと泣くのか?」

「そうだけど、そうじゃないんです…。ひっく…ごめっ…止まらなくて…!」

「大丈夫ですよ。私達がついてますから安心して下さい」

「あ、あのっ。俺の尻尾触りますか!?」

「何でアルファの尻尾触らないといけねぇんだよ。ボサボサで汚いし俺の尻尾のほうがいいよね」

「ああ、そう言えばお前は尻尾が好きだったな。触りたいなら触っていいぞ」

「尻尾はありませんがこの街を出たら一緒に空の散歩はどうですか?」

「はー? この寒い中飛んだらトワコが風邪引いちゃうだろ」

「あ、あ、あ…! えっと、それならまた耳を噛んでもらっても構いません!」

「駄犬の分際で堂々と誘う根性は認めてやるが弁えろ」

「そそそそう言う意味じゃなくて…! ちがっ、違いますよトワコさんッ。この間みたいに噛んでもらいたいとかそんな…!」

「ムッツリが二人もいるなんてやだねぇ。トワコ、あれも作戦のうちだから気をつけなよ」

「わ、私は違いますから!」

「お前が一番ムッツリじゃん。紳士的なフリして頭の中は交尾のことしか考えてねぇくせに」

「違うッ!」

「大体セトが買ってくる服、露出多いじゃんかよ。そんなトワコも魅力的だけどトワコはそういうの苦手なのわかるだろっ。自分の好み押し付けるのよくないと思いまーす」

「ひえぇ…セト、お前凄いな…」

「トワコは可愛い系がよく似合うんだよ。露出も少なめにしてー、フリルやレースをたくさんつけてー」

「それも勿論トワコさんに似合うが、トワコさんは動きやすさを重視してるぞ?」

「アルファが選ぶのは活発系すぎる! 可愛い服のほうが似合ってる!」

「それこそシャルルの押し付けじゃないか。セトのことは言えないぞ」

「うっぜー!」

「……ふふっ」


きっとわざとかもしれない。わざと別の話をしてくれるのに、それがいつも通りで…。

涙を流したまま少し笑ってしまうとみんなも笑ってくれた。

目尻に残った最後の涙をレグが拭ってもらい、その手に甘えると頭を撫でられる。

あんなにショックだったのに、悲しかったのに彼らのおかげで元気が湧いてきた。

いや、むしろ怒りが湧いてきた。

帰れないものは帰れない。これはどうあがいても覆せない。なら私がこれからやることは?


「レグ、聖書読みたい」

「……大丈夫か?」

「うん、大丈夫」


泣いて読むのを止めてしまった聖書をちゃんと読むこと。

まだ知らない何かが書かれているかもしれないし、例の能力のこともわかるかもしれない。

心配そうに見つめてくるレグに頷くと「解った」と言って聖書を持って来てくれた。


「俺も読めたらいいのに…」

「じゃあ今度教えてあげますね」

「ほんと!? トワコの国のこともっと知りたかったから嬉しいな」

「ならば私もご一緒していいですか?」

「せっかくなら俺も…。レグルスも習うだろ?」

「そうだな。暗号にも使えそうだしいい考えだ」

「ちゃんと教えれるか解らないけど是非」


帰れないのは辛い。思い出したくないけど、忘れたくない。忘れてしまうのが一番怖い。覚えているうちに彼らに話しておきたい。

これからのことを考えながら前回読んでいたページまでめくる。


「えっと…。あ、ここからだ……」


夢じゃないかとまた少し期待していたが、やはり帰れないと書かれた文字が目に入る。

グッと奥歯を噛みしめ、深呼吸を置いてから先の文字を読み続ける。

そこから先にも衝撃的なことが書かれていた。

前置きに、「ここから先のことは誰にも話したらいけない」と記載され、緊張しつつ読み進める。


「…」


この世界を創ったのは一人の神様だ。

その神様は自分好みの世界を創ろうとしたが考えがまとまらず、参考のために地球を観察していた。

そこで見た過酷な環境の中生きる野生動物をいたく気に入ったと言う。

野生動物をベースに人間のように知性ある生き物を創りたいと思い、獣人を生み出し、この星を完成させた。

最初は問題なかったが、時が経つにつれ獣人は本能が強くなっていった。そのせいで各地で争いが起こりメスや子供などの弱者が次々と死んでいった。

それでも今よりメスは存在していたのに重なる戦争、小競り合い、奪い合いな世界では強いオスが求められ、結果メスよりオスが産まれやすくなっていった。


「トワコ、大丈夫?」

「だ、大丈夫…」

「なんて書いてあったの?」

「ごめんなさい…。ちょっと…」


オスが産まれやすくなったせいでさらに苛烈になる争いにとうとうメスは僅かになってしまった。

そこで争いを止めればいいものの、本能が強くなってしまった獣人達は今度はメスの奪い合いに発展していった。

誘拐、強制妊娠、奴隷、売買…。そんなことが当たり前になり、ますます拍車をかけメスの出生率は低下。

このままでは創り出した獣人が絶滅してしまう。

嘆き困った神はマリッジリングを創り出しメスを保護し、それと同時に地球から人間を連れて来た。

知性的で理性が強い本物の人間の血が交わえば混沌とした世界も落ち着く。そう思ってのことだった。


「…連れて来た…?」

「おいアルファ、さすがに暑いから温度下げろよ」

「いやでもトワコさんの顔真っ青だし…」

「トワコ、今日はもう止めておけ」

「大丈夫…。ちょっとビックリしてるだけだから…」


それなのにまた神は間違えた。

強い血が欲しいのに、誰よりも弱い人間をつがいにするメスなんているはずなかった。

連れて来た人間の自分達はエジェメント教に保護され、ただ息をするだけの存在になってしまった。


「シャルルさん…。エジェメント教ってなんですか?」

「ああ、この世界を創った神様のことだよ」

「神様…」

「この世界の二大宗教が始祖教とエジェメント教なんだけど、勢力が強いのが始祖教ね」

「そうなんですか? なんで?」

「始祖だから?」

「…そう…」


ここでの生活に苦労はない。のんびり過ごすことができて自分は満足している。

でもそう思っていたのは自分を含めた少数名だけだったようで他の人間は精神が壊れ、あっという間にたくさんの仲間が死んでいった。もちろん、争いに巻き込まれて死んでいった仲間もいる。

自分もいつか狂ってそうなるんじゃないかと不安になった。だから残った人間でこの混沌な世界を変えれないか考えた。

幸いにして模索中に不思議な力が使えることが解った。

「言霊」と言っていいのか「支配」と言っていいのか解らないが、強い気持ちを込めた命令の言葉には獣人達は素直に従う。

これを使って戦争を止められないか試してみたが、能力にも限界があった。大勢の相手に使うとありとあらゆる血管が切れて死んでしまうのだ。


「ッ!」


それだと戦争を止めることなんてできない。他の手を考えてみたが、やはり力がない自分達ではどうしようもなかった。

手っ取り早い方法は自分達がメスと交尾をして人間の血を入れること。

自分達に良くしてくれる獣人達の協力のもと、数人は子供を残せたがすぐに解決できることじゃない。

時間をかけていくしかないが、寿命がある。何もできなかった。

何かしたかった。何もできない情けない自分だったけど、最期に何か成し遂げたかった。死んだ後でいいから名前を残したい。

仲間達と考えた末、神から聞いたこの世界の成り立ちを自分達の言語で書き連ね、始祖教を立ち上げた。

獣人が人間になりたいと思っているのは本当だ。でも今は本能のほうが強くて忘れている。

昔のことを思い出せるようにゆっくり、じっくりと彼らを洗脳する…いや、思い出させるのが最期の仕事。

原本を神聖化させ、この星の言語でたくさんの聖書を作って広げていった。

これが自分達のやってきたことだ。

今はどうなっているだろうか。これを読んでいるのは誰なんだろうか。聞きたいことがあるのに聞けないのが悔しいな。

最後に、困ったことがあればディティ本山に向かうといい。

あそこにある始祖像に祈りを捧げれば一度だけあのクソ神…じゃない、創造神エジェメントと対話することができる。

何時間でも好きなだけ質問できるが、会えるのは一度だけだからよく考えてから祈りを捧げるように。

色々と端折って書いてしまったから矛盾点も多いと思う。疑問も残るだろう。だから君が直接あいつに聞くといい。

ついでに自分が…俺、三ヶみかべ竜一郎りゅういちが文句を言ってた伝えておいてくれ。

君がどうか幸せであることを祈る。


「みかべ…さん…」

「ミカベ…とは始祖のお名前ですね」

「……これ書いた人、私と同じ国の方なんです」


そのあとはまた聖書の内容に戻った。

短い内容だったにも関わらず、重要なこの世界の成り立ちや歴史を書いてくれた。

彼のその優しさ、悔しさにいつの間にか感情移入していたようで、読み終わるとドッと疲れが押し寄せてきた。

背中のシャルルさんに身体を預けて目の周りを優しくマッサージ。


「顔色悪かったけど本当に大丈夫?」

「大丈夫です。色々…すごいことが書かれててビックリしてただけですから」

「そうなの? どんな内容?」

「…ちょっと言えないですね。言ったら私が爆発しちゃいます」

「え、マジ!? 絶対話さないで!」

「ふふ、冗談です。でもそれぐらい重要な内容なので言えないです」


ボロボロになった表紙を軽く撫でる。

改めて読んでよかった。これからの目標を見つけることができた。

それに始祖にだけ使える特殊能力のことも…。あれは大勢相手には通用しないんだ。扱い方も書かれていたし読んで本当によかった。


「……これからのことなんですが、変わらずディティ本山に向かいます」

「駄目だ。ルルヴァがそこに向かったとあのメスから聞いた」

「構いません。行かないといけないんです」


神と対話することができる。

聞きたいこと、お願いしたいこと、言いたいことはいくらでもある。

三ヶ部さんのこともあるし、絶対に行かないと!


「トワコ嬢、せめてルルヴァを捕まえてからにしませんか?」

「でも行方が解りませんよね?」

「だからあのメスに頼んでここに来るよう言ってる」

「デーバ達もこの街に来るよう伝えてるんです。だ、だからもう少し大人しくしておきましょう」

「ここだと見つかるかもしれないし、王国に戻るってのもありかもね。王国にはあいついないし」

「いいえ、ディティ本山に向かいます。ルルヴァがここに来るならディティ本山に向かっても大丈夫ですよね」

「あいつが信徒を利用しているかもしれない」

「多分大丈夫だと思います。…多分」

「多分じゃ駄目だ」

「それにディティ本山の奴らって始祖に近い始祖返りを尊敬してるって噂だよ。あいつがトワコのこと話してたら絶対に大変なことになる…。誘拐、監禁は絶対にしてくる!」

「う…。危険だって解ってますけど、どうしてもディティ本山に行きたいんです…。今すぐ」

「…聖書に何か書かれてたのか?」

「はい。言えないんですけど…」

「そうか…。ならディティ本山の近くまで行こう。本山にはルルヴァを捕まえてからだ」

「ほんとですか!?」

「レグルス、ルルヴァを捕まえても危険なことには変わりありません」

つがいが行きたがってるんだ。それにこいつにとって必要なことなんだろ」


危険なことも解ってるけど、この世界を創った神様と対話することができるなら絶対に行きたい。

三ヶ部さんの文句もあるし、もう一度……ちゃんと神様に本当に帰れないか聞きたい。

彼の様子からして帰れないことは確定しているけど、自分の耳で聞いて納得したい。

セトさんとアルファさんは心配そうにレグを説得しようとするけど、彼は私の意見を尊重してくれた。


「ルルヴァはここで確実に捕まえる。アルファ、お前の仲間達にしっかり伝えておけ」

「ああ、解った!」

「トワコはあのメスを存分に利用しろ」

「わかりました」

「但し、ディティ本山に行くのはルルヴァを捕まえてからにしろ。あと安全かどうかも解ってからだ。それまでは大人しく俺達の言う通りにしてくれ」

「うん、今度こそ気を付ける!」

「なら次はハイオットニーだね」

「ハイオットニー?」

「西部の中小国家だよ。そこからディティ本山への船が出てるんだ。ちょっと待ってね」


初めて聞いた国の名前に聞き返すと収納玉からこの大陸の地図を取り出し、西側で一番大きな国を指差す。


「この国の港からしか行けないんだ。ちなみにここも始祖教が国教となってるよ」

「そう言えばディティ本山はどこにあるんです?」

「ディティ本山は西大陸と東大陸の間にあるこの小さな島。小さく見えるけどかなり広いよ」

「島全部が一つの街になってるらしいです。この街とは違ってそこは夜でも明るくて、一種の観光地と聞いたことがあります」


世界地図も取り出し、目的地のディティ本山も教えてもらった。

こう見るとこの世界って広いんだなぁ…。

東、西、南に大きな大陸があって、真ん中にディティ本山。他にも小さな島国はあるけど主にこの三大陸を中心に経済が回っているらしい。


「今から向かうハイオットニーも観光地として有名ですよ。比較的南に位置しているので年中温かいですし、海も大変綺麗だとか」

「海かー…。いいですね」

「今から冬になるしちょうどいいかもね。トワコは海好き?」

「はい、好きです。私の国は海に囲まれていたので身近な遊び場で…。それに海産物も好きです」

「じゃあきっと気に入るよ。そこは海産物も美味しいらしいからね」

「……なんか複雑ですけど、楽しみです」

「何が複雑なんだ」

「だって…ルルヴァのことで大人しくしておかないといけないのに、私は安全な場所で観光とか…」

「き、気にすることじゃないです! あいつのことは俺らに任せて下さい!」

「そうそう。トワコにはずっと笑っててほしい」

「あ、でももしかしたら私の力が使えるかもしれません」

「どういうことだ」

「始祖だけが扱える能力があるんです」


能力のことは言ってもいいかな。もうすでに話してるし、大事なことだから情報共有しておこう。

小首を傾げる四人に強い気持ちを込めて命令すると獣人を支配することができる。でも多勢には無理で、力が使いすぎると死んでしまうかもしれない。

今わかるだけの情報を伝えると四人揃って、


「使わないで」

「使用してはいけません」

「だ、駄目ですっ」

「使うな」


と圧をかけられた。


「でも少数人ぐらいなら大丈夫だよ。ルルヴァを見つけたら「絶対にダメ!」

「そんなことしたら余計に目立つ。このこと誰にも言うなよ」

「あのメスにもう一度口を割らないよう注意しておきましょうか」

「街の奴らにも言ったほうがいいよな」

「で、でも便利だし確実に捕まえれると思うんですが…」

「はーい、今日はもうこの話終わりっ。もっと楽しいお話しようねー」

「暇潰しの遊び道具もらったんで、よかったらどうですか?」


まさか止められるとは思わなかった…。

強制的に話を止められ、アルファさんが色んなボードゲームを持って来て近くに並べる。

それ以上何かを言える雰囲気ではなかったので諦めて遊ぶことにした。

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