64.歓楽街ゼメル②
屋敷で寝るときに着ていた白いワンピースドレスのパジャマ。
足首までしっかり隠れるし、肌触りがいいのでかなり気に入っている。
胸を潰していたせいで苦しかったけど、ようやく楽な服に着替えることができた。
久しぶりに楽な恰好で寝れる!
「やっぱりトワコはそういう恰好のほうがいいね」
「私も好きです。シャルルさん達も下脱いだんですね」
「さすがに動きづらいからねぇ」
着替えて部屋に戻ると四人は下に着ていた服を脱いで、旅館で見る浴衣姿になっていた。
外国人さんが和服を着るとなんか可愛く見えるけど、現実で見るともっと可愛い。
髪の毛は派手だけど、顔がいいからよく似合ってる。やっぱり顔だよなぁ…。
せっかくだし私も雰囲気に合わせて浴衣で寝たいけど多分寝てる間にはだけるから止めておこう。
「夕食まで時間がありますが何しますか?」
「そうですねぇ…。あ、トランプしましょう。今度こそ勝ちます」
この世界にもトランプも存在する。
温泉街で見つけたトランプを購入して、ここに来るまで間、寝る前はトランプで勝負をしてけど未だに勝てない。
ババ抜きはたまに勝てるんだけど、ポーカーや大富豪になると一度も勝てた試しがない。
昼間に比べてようやく目を合わせてくれるようになったセトさんに答えると、すぐにトランプを準備してくれた。
「俺もやるー」
「レグとアルファさんはどうしますか?」
「俺はいい」
「お、俺は参加します…」
アルファさんは相変わらず目も合わせてくれないし、距離も遠い。
まぁ彼はいつものことだからいいか。下手に刺激したら気絶しちゃうかもしれないもんね。
レグは軽く手を振って本を取り出し、静かに読み始める。
なんか前からずっと本呼んでるんだけど、何を読んでるんだろう。前に言ってた通り、歴史書とか難しい本なのかな。
「今日は何する?」
「まずはババ抜き。それからポーカーで真剣勝負しましょう!」
「解りました」
夕食までの間、四人でトランプをして楽しい時間を過ごした。
新しく神経衰弱やスピードなんかもしたけど、どちらも大敗。
神経衰弱は三人とも記憶力がいいから自分の順番まで回ってこないし、スピードも獣人の動体視力と速度に追いつけるわけがなかった。
ポーカーも相手を見極める能力が高いし、降りるタイミングも完璧。
運任せな私がひたすら負け続けるだけだったけど楽しい時間を過ごせた。
「また負けたぁ! もっかいお願いしますっ」
「またポーカーでいいの?」
「はいっ」
「―――トワコさん、料理が運ばれてきたようです」
アルファさんの言葉とともに扉のノック音が聞こえた。
悔しいけど一旦勝負はお預けにして、夕食を楽しもう。
セトさんが扉に向かう中、シャルルさんとアルファさんは部屋を片付けて端に避けていたテーブルと椅子と並べる。
座椅子に「これでいいの?」「さぁ?」と首を傾げている二人に笑いながら、セトさんの後に続いた。
たくさん料理を頼んだからきっと持てないはず。私も手伝いたくて顔を出す。
「セトさん、私もお手伝いします」
「っトワコ嬢」
「うわっ、すっげぇ可愛い! こんなメス初めて見た! ねぇ、よかったら俺を番にしてくんない!?」
「わっ」
「しかもそんな恰好を見せてくれるなんて…。期待しちゃうなぁ!」
扉の前にはたくさんの料理が乗ったカートと旅館のスタッフさんが一人。
断られる前に運ぶのを手伝おうと近づくとスタッフさんと目が合い、あっという間に手を握られて告白される。
温泉街の対応に慣れていたせいで忘れてた…!
メス専用の宿屋だって聞いていたからメスには慣れてるだろうって油断していたのもある。
握られた手を振りほどこうとしても強い力に何もできない。
「私の番に触れるな」
「ギャッ!」
離そうとしない男性の頭を鷲掴みにして力を込めるセトさん。
すぐに解放され、間に入ってそのまま持ち上げた。
「トワコ嬢は部屋の中へ」
「は、はい。すみませんっ」
余計なことをしてしまった…。
警戒してるつもりだったのに何でこう迷惑をかけてしまうんだろう。
四六時中警戒するのも、常に気を張るのもしたことなかったとは言え、さすがにこの恰好で外に出るのは迂闊すぎた。
部屋に戻るとアルファさんが入れ替わりでセトさんの元に向かい、シャルルさんが抱きしめてくれる。そしてその後ろに不機嫌オーラを放つレグ…。
「おい」
「すみません、すみません!」
「トワコの可愛い姿見られたのは残念だけど、トワコに怒るなよ」
「気を抜くなと言ったよな」
「抜いてませんっ」
「トワコのゆるゆるなとこ好きだよ。それも魅力だと思ってるけど、気を付けて」
「ごめんなさい、シャルルさん…」
「いーよ。それより手洗ってきなよ。汚れたでしょ?」
レグとは対称に優しい言葉をかけてくれるシャルルさんだけど、そのときばかりは声が低くなった。
暗に他のオスの匂いがついたから落としてこい。と…。
言われた通り洗面所に向かって何度も何度も手を洗い、部屋に戻るとセトさんとアルファさんも戻って来ていた。
「すみません、セトさん」
「トワコ嬢が気にする必要はありませんよ」
「アルファさんも」
「大丈夫です、処理しておきました」
「ひぇ…」
処理ってどっちだ…。
いや、この街の住民に手を出したらいけないことになってる。だから大丈夫なはず。うまく言い聞かせて追い払ってくれると信じてる…!
スタッフさんには申し訳ないことをしたと反省し、並べられた料理の前に座る。
テーブルには一人用の鍋や刺身、天ぷらなどのいかにもな和食が並んでいた。
やっぱりこの街は日本に縁がある…。
早くその理由を知りたいけど、久しぶりに見た和食料理に脳の半分以上をもっていかれ夢中で胃袋に収める。
四人も初めて見る料理に不思議に思いながらも口に含むと、満足気に全て食べ尽くした。
「久しぶりに食べたけどやっぱり美味しい…。やっぱり白米だよねぇ…」
「トワコは白米が好きなの?」
「はい。私の国では主食だったので。パンも好きですけどやっぱり白米があると力が入る気がします」
「白米はこの国にしかないからなぁ…。毎日準備してあげられなくてごめんね」
「いやいや、今のままでも十分です。……あの、ところでアルファさんは何で顔が赤いんですか?」
「ん? さぁ?」
胃袋も気持ちも満たされたのは初めてかもしれない。
お茶を飲みながら食休みをしてのんびり会話を楽しんでいる中、アルファさんが顔を真っ赤にして俯いていた。
セトさんもどことなく動きがぎこちない。
でもシャルルさんとレグは普通だ。レグはまた本読んでるし。
「トワコ嬢、そろそろ冷えてきますので窓を閉めてもいいですか?」
「あ、はい。そうですね」
ハテナマークが浮かぶ中、わざとらしく咳払いをして窓を閉める。
するとようやくアルファさんが落ち着いた様子を見せた。
「ねぇトワコ。ベッドがないけど、どうやって寝るの?」
「畳に布団を敷くんですよ」
「え、それじゃあ身体休まらないよね? それに汚くない?」
「そのために靴は脱いでますし大丈夫ですよ」
普段はベッドで寝てるけど、実家には和室もあってよく昼寝していたから抵抗もない。
襖を開けると人数分の布団が収納されていたので説明する。
「好きな場所に敷ける…。逆に難しいな…」
「シャルルさん?」
「トワコ、先にお風呂入って来なよ。それまでに布団敷いておくからさ」
「手伝う「早く行かないと俺も一緒に入るけどいい?」入ってきます」
慌てて収納玉を持って洗面所へと向かい、お風呂場に入るとここも日本式のお風呂場で感動した。
今までのところはバスタブで身体と髪の毛を洗ってたから苦手だったんだよね。洗い終わったあとだと湯舟に浸かることもできないし。
旅で硬くなった身体をお風呂で十分癒し、時間をかけて綺麗に身体と髪の毛を洗って汚れをしっかり落とす。
また最後に湯舟に入って身体を温め、のぼせる前にあがる。
「あー、ドライヤーもある! これ欲しかったんだよね!」
今まではタオルだけで乾かしてきた。
でもそれだとボサボサになるし、十分に水分を飛ばさないから風邪を引きそうで怖かった。
シャルルさんかセトさんがしっかり拭いてくれるのも申し訳なかった。
でもドライヤーがあるなら話は別!
さっさと下着、パジャマに着替えてドライヤーを持って部屋に戻ると無秩序に並んだ布団…。
「おかえりトワコ。髪の毛乾かしてあげるよ」
「あ、えっと…ドライヤーがあるので大丈夫です」
「ああ、温風器ですね。確かにこれがあれば早く乾かすことができます」
「これが温風器? へー…どうやって使うの?」
「えっとですね」
コンセントを必要としない不思議な機械。これも古代文明の流用で作られた道具らしい。
いやもう魔法でしょ。電気もないのにどうやって動いてるんだろう…。
形が現代のドライヤーにそっくりだったから解ったけど、そうじゃなかったら解らなかったよ。
シャルルさんにドライヤーの使い方を教えてあげるとすぐに代わって、乾かしてくれた。
「ところで、何でこんなバラバラに布団敷いてるんですか?」
「一応警戒のため?」
一組は窓際。一組は廊下に続く扉の近く。一組は部屋の端。そしてど真ん中に一組。
四組しか並べられてないのは…おかしくない? それに警戒ってなに?
「本当は俺もトワコと一緒に寝たかったんだけどねぇ。ここの奴に顔見られたから警戒しておかないと…」
「あ…。そ、そうですか…。すみません、本当に」
「まぁトワコと一緒に寝ると意識なくなっちゃうからね。しょうがないけど今夜も王様に預けるよ」
「預けるとは面白い言い方だな」
「トワコは俺のだからな」
「お前のものじゃないだろ」
「はぁ? じゃあお前のものだっての? 勘違いの王様はほんっとダサくてみっともねぇなぁ」
「わっ、わ! ちょっと二人とも…!」
「トワコ嬢、先程失礼なことをしたとここの店主が詫びを持ってきました」
牽制しあう二人を無視し、セトさんがポットのような鉢を見せてきた。
先に二人を止めたいけどセトさんの話も気になる。
とりあえず手は出しそうにないので二人の間を抜け出し、セトさんの近くに避難する。
「セトさん、これは?」
「お香です。メスに人気の香りでより良い睡眠をとれるとのことです」
「わー…。鉢も可愛いし確かにいい匂いです」
「アルファに確認してもらいましたが、変なものではありませんのでこれを焚いて寝ましょう」
「はい。ありがとうございます、アルファさん」
「い、いえ…これぐらい…!」
「でも寝るのはまだ早いですし、もっかいトランプで勝負しましょう! シャルルさーん」
「トワコー、こんな横暴な番いないほうがいいよ! 解消してやろうぜ!」
「それはこっちの台詞だ」
泣き真似をしながら抱き着いてくるシャルルさんの頭を撫で、二人を宥めてから今度は五人でポーカーを楽しんだ。
今度こそ勝つ!
その意気込みで勝負をしたけど、結局一度も勝てることなく夜は更けていき次第に眠気が襲ってくる。
すぐに気づいたレグに抱えられ真ん中の布団に運ばれている間、セトさんがお香に火をつける。
あっちの世界でもたまの贅沢として焚いたことがあったけど、この匂いは初めてだ。
「いい匂いですねぇ…」
ふかふかの布団に寝転ぶとレグも横になって布団をかけてくれる。
なんのお花なんだろう。金木犀みたいな甘くて懐かしさが込み上げてくるような感覚に溺れる。
これなら今日も気持ちよく寝れる。
せっかくの宿屋だからみんなにもゆっくり寝てほしいのに、私だけごめんなさい。
罪悪感を感じつつも心地よさに勝てず意識をあと少しで手放そうとした瞬間、心臓がドクンと音を立てた。
「っは…!」
「どうした」
音が聞こえるんじゃないかと思うぐらい強く鼓動する心臓に飛び起き、手で胸を押さえて落ち着くよう呼吸を整える。
だけど心臓は落ち着く様子も見せず、ただただ早くなる鼓動に呼吸も荒くなっていく。
なんだろう、この感覚…。昨日も体験したことあるような……。
「トワコ、どうしたの?」
「う、っぐ…! 気持ち、わりゅい…」
早まる鼓動に頭がぐらぐら揺れ、気分も悪くなる。まるで車酔いしてるみたいだ…。
それなのに……また彼らが欲しくなる。―――また?
私の様子に駆け寄ってくる四人。
このまま…四人に触られたらどうなるんだろう。きっと…気持ちいい…!
「うう…!」
「トワコッ!」
欲が…本能が彼らを求めるのに、身体はそれを拒否している。
頭と身体がバラバラになった気分が余計に気持ち悪く、吐き出しそうになるのを頑張って耐える。
吐きたい…。でも今触られたら理性が飛ぶ気がする…。そんなの嫌だ!
「ま、て…。さわらないで…!」
「ですがトワコ嬢…!」
「おねがい…っ。一人に、して…」
「駄目に決まってるだろ。気分が悪いならトイレに連れてってやる」
「さ、わるのダメ…」
気持ち悪くないと何度も何度も言い聞かせながら呼吸で身体を整える。
少し落ち着いてお願いをするけど、心配性の四人は離れようとしない。
「セト、香を捨てて来い」
「…解りました」
「俺が行く。ついでに詳しい話も聞いてくるから任せた!」
「トワコ、大丈夫? 動けないなら桶持ってこようか? 吐いたらスッキリするよ」
「―――ひゃぁ!」
シャルルさんが背中を擦った瞬間、今まで感じたことのない快感が全身を巡り嬌声が部屋に響く。
さ、触ってほしい…! 背中なんかじゃなくもっと気持ちいい場所を…!
震える手で口元を抑え、不器用に呼吸を続けて彼らに次を求める視線を向ける。が、気分が悪くなりそれも消え失せた。
「ちょ、ちょっとどうすんだよ王様。また睡眠薬飲ませる?」
「いや昨日も使ったし今回は色々と様子がおかしい。とりあえず吐かせるか」
「そうですね、それがいいかもしれません。…トワコ嬢、歩けますか?」
「う、うう…! やだぁ…なにこれぇ…!」
「トワコ、触るぞ」
「いやぁ! おねがい、さわらないで…。だめなの、ほんとむりぃ…」
気持ち悪いのに、気持ちよくなってしまう。
相反するものを交互に味わうなんて最悪な気分だ。こんなみっともない姿を見せるのもイヤ…!
それが涙となって流れ、何度も何度も「触らないで」と伝えて彼らを困らせる。
拷問を受けているかのような気持ちだ。頭が困惑しているし、拒絶しているし、でも求めている。それらがグルグル回って心を乱す。
とりあえずこの気持ち悪さは吐けば治るかもしれない。
震える足で立ち上がり、おぼつかない足取りでトイレに向かうのを支えてくれようとするシャルルさんの手を払う。
「っひく…! もうやだぁ…!」
払っただけなのに快楽が走り、下が…子宮が疼く。
触られたい。触りたい。濡れてるであろう場所を触って、乱されて、あの熱を味わいたい。
気持ち悪い。交尾したい。ああ理性が邪魔だ…! 本能のまま乱れてイかされたい―――。
「ト、トワコ一人になっちゃ危ないよ」
「やだ! 入って来ないで!」
こんな淫乱な自分、知りたくなかった。
囲まれてると僅かに残った理性が切れそうだったのでもう一つの部屋に逃げ込み鍵をかける。
大丈夫。ここなら変な姿を見せなくて済む。
「おいトワコ。開けろ」
「やめて! 絶対に入ってこないでッ!」
声を聞くだけで鍵を開けたくなる。
両手で強く耳を閉じ、悲鳴に似た声で拒絶すると扉の向こうは静かになった。
レグなら関係なしに扉を開けて入って来ると思ったのに、その様子は感じられない。
残念がっている自分と安心している自分がいて、また吐き気を催す。
「寝れば治る…大丈夫…だいじょうぶ…」
そう言い聞かせるも下の疼きが気になって、思わず手を伸ばすとありえないぐらい濡れていた。
漏らしてしまったのかと思ったが、違った。
どうみてもアレだ…。
欲情している自分に興奮する。
「す、すこしだけ…だいじょうぶ…だいじょうぶ…」
もう触ることしか考えられない。
気持ちよくなりたい。イきたい…! 一回だけイけばきっと治まる…!
何度も何度も自分を説得して再び手を伸ばした瞬間、冷たい何かに手首を掴まれた。
「―――」
悲鳴をあげる前に口元を布で塞がれ、電流のような強い刺激のあと意識を失った。




