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58.カカント国⑨

「……う…」


自然と目が覚めると胸のあたりが温かかった。

寝ぼけ眼で胸に視線を落とすと黒い髪の毛が目に入る。

一瞬驚いて心臓が飛び跳ねたけど、静かに寝息を立てているシャルルさんが私の胸に抱き着いていた。

何故ここにいるのか疑問が浮かんだけど、すぐに昨日のことを思い出し一人で納得。

そう言えばシャルルさんより早く起きたの初めてじゃない? 大体私より早く起きて色々と準備してくれてたけど今日は違う。

眉間にしわを寄せた表情で無防備な姿を晒してるシャルルさん。それが可愛くて頭を撫でるとゆっくりと薄緑色の目が私と合った。


「ッう、わ!? え、まじ!? 何で!?」

「シャルルさん? どうしました?」

「あ……いや、マジか…。こんな熟睡したの初めてで…。やべ、何も準備してないっ! ごめんねトワコ!」


起きるや否や私から離れ、まだ覚醒していない頭を必死に回す。

こんな慌ててるシャルルさん見たことがない。

ベッドから降りて私の身支度を整えようとするシャルルさんを引き留め、ベッドに戻す。


「おはようございます、シャルルさん」

「う…うん、おはよう…」

「今日はいいですよ。ほら、自分のことは自分でするって言いましたし」

「あ…あー…そうだけど…」

「シャルルさんも警戒ばかりで疲れてたんですよ。ゆっくり寝てください」

「でも…」

「それに残念ですが今日はもう―――」


そう言いかけたとき、扉がノックされた音が響く。

ようやく覚醒したシャルルさんは「あー…」と低い声を漏らして私を抱きしめた。


「あのムッツリもう準備してんのかよ…。トワコ、昨日は楽しかった。初めて熟睡できたし気持ちよかった」

「それはよかったです」

「名残惜しいけどあいつに譲るよ。またね」


本当に言葉通り名残惜しそうに顔を摺り寄せ離れる。

ベッドから降りて扉を開けるとセトさんが待っていた。

デート二日目はセトさん。

二人が何か話している間、私も寝起きだったことを思い出し急いで部屋に備え付けられた洗面所へと向かう。

まぁもう何度も寝起きも汚れてるところも見られてるからいいんだけど、最低限のマナーだからね。


「おはようございます、トワコ嬢」

「おはようございます、セトさん。今日はどう過ごしましょうか」

「昨日は何をして過ごしましたか?」

「雑貨屋さんを中心に色々食べて回りました」

「では今日は別のお店を回りましょう。それと、服はこちらをどうぞ。既製品なのが申し訳ないのですが私が選びました」


朝の身支度を終え、昨日のデート内容をかいつまんで説明すると少し考え、昨日と被らないよう今日のスケジュールを提案してくれた。

セトさんが持っていたのは彼が選んだ今日の服。素直に受け取って別部屋で着替える。

首から肩、胸元まで開いた白いロングスカートのドレス。袖は大口でフリルがまるで翼を表してるようだった。

装飾にはオレンジ色の糸や宝石がついていて統一された可愛さに自然と笑みがこぼれる。


「少し恥ずかしいけど似合ってますか?」

「はい、とても愛らしいです」


満足そうな笑みを浮かべ、ショールを肩にかけてくれた。

よかった。さすがに肩も二の腕も出した状態で歩くのは恥ずかしいもんね。

まだ日中は暖かいけど、風が吹くと寒く感じるときもあるしセトさんの配慮には感謝しかない。

肌触りのいいショールを楽しんでいると手を出されたので疑問なくその手をとると、ソファに座らされる。

でかけるのかと思って名前を呼ぶと目の前に膝をつき、ドレスに似合う靴を履かされる。

彼らと一緒にいると自分がまるでお姫様になったかのように思えて小恥ずかしい。

まぁでも今日ぐらいは…。と我慢する。


「では行きましょうか」

「はい。どこから行きましょう」

「…私の我儘ですが宜しいですか?」

「もちろんです。私はセトさんと一緒にいられるならどこでも大丈夫ですよ」

「そ、そう言って頂けると嬉しいですが恥ずかしいですね…。少し歩きますが大丈夫ですか?」

「はい。ゆっくりお喋りしながら行きましょう」


安堵の顔で腕を出してきたので手を添える。

シャルルさんとは手を繋いで歩き回ったけど、さすが現役貴族様。エスコートが板についてる。

ゆっくりと歩きながらセトさんと色々なことを話した。

王都から樹海に向かうまでの話、砦についてからの話、そして五人で歩いてここまで来た話。

話したことある内容やきっとシャルルさんから聞いたであろう思い出と感想、出来事。

その全てに嫌な顔せず、ただ静かに相槌を打って聞いてくれた。

セトさんは大人って感じがして本当に落ち着くなぁ。紳士的で冷静。でも私を見つめる目はとても情熱的だ。レグとは別の意味で頼りにしている。


「……セトさんって露出してる服が好きなんですか?」

「えッ!?」


だけど、うん、なんていうか、ムッツリさんだなぁって思う。

セトさんが案内してくれたのは最初に来た服屋さんとは違う別のお店。

今もオーダーメイドの服を作っている最中なのに、また別の服が欲しいとお願いされて着せ替えしている。

私好みのも選ばせてもらっている最中にセトさんも私に着てほしい服を吟味する。

言われた服はどれも肩や胸元、背中といった箇所が開いてる…。

さすがにミニスカートとかはなかったけど、部分的に露出されている服ばかりだ。


「あ、えっ、その…。す、すみません、無意識でした…」

「なるほど」

「トワコ嬢は苦手でしたか?」


紳士的で冷静なセトさんが慌てる姿はちょっと面白い。

アルファさんほどじゃないけど少し顔を赤らめ、視線を逸らされると可愛いとすら思ってしまう。

年上に対してこんなこと思うのは失礼なのは解ってるんだけど、可愛いものは可愛い。


「そこまでスタイルがいいわけじゃないので似合うかなぁって不安になりますが、嫌いじゃないです」

「そんなことありません。トワコ嬢は何を着ても愛らしく、とても可憐です」


可愛かったのにすぐにキリッと真剣な顔に変わりつらつらと私への賛辞を言葉にする。


「も、もう大丈夫ですので…。他に何を着たらいいですか?」

「でしたらお次はこれを…」


止まらない愛の告白にいたたまれなくなる。

止めるつもりで別の話題を出すと準備していたドレスを店員さんから受け取り、手渡す。

そう言えば白い服が多いような…。

汚したくないので神経使うけど、やっぱり白だとそれぞれの色が目立って嬉しいのかな?

そんなことを思いながら次の服に着替える。

今度は冬用の服らしく、どこも露出されておらず清楚なワンピースドレスだった。

胸元には大きなリボン。裾や袖には控えめなレース。うん、可愛い。


「清楚なトワコ嬢にはそちらもお似合いですね」

「ありがとうございます」


とは言ってるものの、胸元を見て少し残念そうな表情をしている。

多分私にしか気づかない仕草。

好きな人から見られるのは不快じゃないけど、ちょっと恥ずかしい…。

それからもセトさんの着せ替え人形タイムは止まることなく、午前の時間はすべて消えてしまった。

お腹が鳴ると理性を取り戻してくれてお昼に向かうことに。


「試着した服を全て調整して屋敷に届けてくれ」

「ぜんっ…!?」

「かしこまりました」


うん、やっぱりまだ理性取り戻せてなかった。どれだけ試着したと思ってるんだ…。

ドレスだけじゃない。その服に似合う靴や上に羽織るもの、手袋、マフラー…。さらに現在着られるものから冬用の服まで選んだのに?

どれだけの値段なのか考えたくない。置かれていたそれらを片付けていく店員さんを見てぞっとする。

断ろうとするもセトさんは仕事をやり切った顔をしてまた腕を出す。

お金持ちなんだろうなぁとは思ってるけど…いや、今日はもういいや。みんなからの好意は素直に受け取ろう。

嬉しいけど申し訳ない気持ちのまま腕をとってお店を出る。

昼食はセティさんが大好きだと言う高級そうなお店。


「トワコ嬢、緊張されてますか?」

「こ、こういうお店に入るのは初めてで…。マナーってありますか?」

「大丈夫です、私にお任せ下さい」


一般家庭の人間だからナイフとフォークの使い方は解ってるけど、ただそれだけ。貴族のように振る舞えないし、緊張する。

周囲を見ても誰もが優雅なランチタイムを過ごしている。

そのせいで知らない男性と目が合って軽く手を振られるのをセトさんが威嚇して空気が重たくなる。

よそ見はしないでおこう…。


「本当でしたら毎食切り分けてさしあげたいのですが…」

「それはちょっと…」

「はい、理解してます。ですがマナーが気になるトワコ嬢のため、今回は私が手ずから差し上げます」


今日一番のいい笑顔かもしれない。

運ばれた料理を一口サイズに切り分け、私の口元へ運ぶセトさん。この年であーんされるとは思わなかった。

首を左右に振って拒否するも、彼は「問題ありません」と少し離れた場所に座っているメスに視線を向ける。

彼女もつがいのオスに料理を口に運んでもらっていた。


「い、いただきます」


いくら拒否しても無駄だ。それに今日はデートなんだから…。

恥ずかしさを抑えて運ばれた料理を口に含む。

小さく切られたのにお肉の旨味と濃いソースが口いっぱいに広がり、すぐに溶けて消えた。

お、美味しすぎる…! 昨日食べたご飯も美味しかったけど、こんな美味しい料理は初めてだ。


「お口に合いましたか?」

「とっても美味しいですっ。セティさんが気に入るはずです」

「野菜も美味しいですよ」

「いただきます」


まるで親鳥が雛に餌を与えるようにお世話される。

年の差、体格差があるせいでそう思ってしまったけどセトさんが楽しそうなら私も嬉しい。

でも私に食べさせるばかりで自分の食事には手をつけない。それはダメだ。彼女なら…いやつがいなら私もしてあげたい。


「セトさん、そっちも切ってくれますか?」

「足りませんでしたか?」

「ううん。いいから切ってください」

「解りました」


音を立てることなく慣れた手つきで自分のお肉も切り分ける。

切り分けたお皿を私の前に持ってきたのでフォークを刺してセトさんの口元へ運ぶ。


「と、トワコ嬢…?」

「ふふ、セトさんもどうぞ」

「いえっ、私は…!」

「私もしてあげたいんです。それとも嫌ですか?」

「そんなことありません!」


ちょっと意地悪な質問してしまった。

頬を赤く染めて全力で否定するセトさんにもう少しお肉を近づける。

困惑、戸惑い、羞恥心。

そんな感情が顔に出ていて可愛い。

数秒食べるか悩んでいたか恐る恐る口を開け、控えめに食べる。


「美味しいですか?」

「は、はい。トワコ嬢から頂けたと思うとより美味しく感じます…」

「じゃあもっとあげますね」

「いや、その…!」


大人が焦る姿ってなんでこんなにも楽しくて可愛いんだろう。悪戯心が止まらない。

拒絶しようとするけど口に運べば食べてくれるし、恥ずかしいから止めたいのに次も求めてそうな視線を向けてくれるのがたまらなく可愛い。


「(ああ、そう言えばタカ族は求愛給餌だっけ)今度は私が切り分けてあげますね」

「だ、大丈夫ですから! 私はいいのでトワコ嬢も食べて下さい」

「次はスープでも飲みます? 野菜も美味しかったのでこっちのサラダにしましょうか?」

「トワコ嬢っ」

「アハハ、すみません。可愛かったのでつい。このままだとセトさんがアルファさんみたいに気絶するかもしれないので止めておきます」

「アルファと比べるのは止めて下さい…。私は気絶しません。それと可愛くもありません」

「可愛いですよ。…あ、年上だし男性…じゃなくてオスに可愛いって言うの失礼になります?」

「あまり…嬉しいことではなかったのですが…。ト、トワコ嬢に言われると恥ずかしいと言うか…落ち着きません」

「でも可愛いしなー」

「……ふ、二人きりのときであれば…」

「あ、そうですね。さすがにこう言う場所では控えます」


ふと周囲を見ると店員さん含め、すべてのオスが私たちを見ていた。

集まった視線に驚いたが「あんなに愛されてるなんて羨ましい」といった言葉が聞こえたので、悪い気はしない。


「ご飯食べたら次はどこへ行きましょうか」

「足湯があるので行きませんか? 午前中ほとんど立たせてしまいましたし、昨日も歩き回ってお疲れでしょう?」

「いいですね足湯! 水着にならなくてすむし、ゆっくり癒されたい」


楽しい疲れとは言え、まだデートはあと二日残っているから足に疲れを残すわけにはいかない。

セトさんの提案に喜んで答えて楽しいランチタイムを過ごした。







お昼からは足湯で疲れを癒し、また少しショッピングを楽しんで再度足湯で回復。

まったりとしたデートを過ごすことができた。

夕食も食べ終わり屋敷に戻って全身の疲れを癒してセトさんとの時間は終わる。

名残惜しい気もするけど仕方ない。

寝衣に着替えてベッドに向かうとセトさんはソファで本を読んでいた。

少し緊張したぎこちない動きに笑みがこぼれる。


「今日は色々とありがとうございました。たくさんの服も…」

「気にする必要などありません。こういう状況でなければもっとたくさんのドレスを贈りたいのですが…」

「今も十分です。全部着れるかどうかも怪しいですよ」

「いえ、全然足りません。それにトワコ嬢に似合う宝石だって買い揃えたいのに…!」


緊張を解そうと会話を挟みつつ、手をとってベッドに向かう。

少し抵抗されたけど強めに引っ張ると諦めたようで一緒にベッドに向かってくれた。


「…セトさん、眼帯は外さないんですか?」

「それは…」


身体が強張っているのも無視して「寝ましょう」と声をかけると焦る姿が可愛かった。

強引に袖を引っ張り抱き着くと諦めたように溜息を吐いて、抱きしめ返してくれた。

まるで私から誘っているみたいで恥ずかしかったけど、可愛いから仕方ないよね。

ふと顔をあげると眼帯をつけたままだったので何気なしに聞けば視線を逸らされる。

この世界では傷があれば醜い、弱いと思われるんだっけ? 私はそう思わないし気にしないのに…。

でも彼らはそういう価値観を持っている。いくら私が言っても気になるものは気にする…。

そっと眼帯に触れると大げさなぐらい身体が飛び跳ね、手首を掴まれた。


「な、なにを…?」

「これとってください」

「…見苦しいかと」

「大丈夫です。ダメですか?」

「………解りました…」


嫌がるセトさんにお願いをして眼帯をとってもらう。

引っかかれた爪痕と白く濁った瞳。

あのときは私を守るためにしたことであっても、つがいとなった今、少し苦しくなる。


「完全に見えないんですか?」

「はい」

「そうですか…。あの時は本当にすみません」

「トワコ嬢が気にすることではありません」


謝って済む問題じゃない。

それでも胸が痛んで頬に手を添えるとセトさん自身の手を重ねる。

甘えるように私の手に擦り寄り「大丈夫です」と言うように微笑んだ。

さっきまで可愛かったのに今は色気が溢れている。


「私は醜いとも情けないとも思いませんからね」

「はい、ありがとうございます」

「その傷も含めてセトさんが好きです」


自分の気持ちを伝え、傷跡にキスをする。

叶うことなんてありえないのに、どうか良くなりますようにと願わずにはいられなかった。


「あのトワコ嬢…それ以上は少し…」

「あ、はい。すみません」

「いえ…。そ、その…私もしても宜しいでしょうか…?」

「あー…。はい、大丈夫です」


ベッドの中でキスなんてそういう雰囲気になるのに、セトさんの懇願するような目でお願いされると断れなくなる。

まずは手の甲。続いて額、頬。最後に私の右目元を何度もキスをする。

恥ずかしいけど少しくすぐったくて笑ってしまうと、ギュッと抱きしめられた。

シャルルさんやレグみたいに深いキスをされると思ったのに、セトさんはそれ以上何もしてこなかった。


「セトさん?」

「いえ…。これ以上は暴走しそうなので…。もう寝ましょう。今日はお付き合い下さり、ありがとうございました。とても幸せな一日でした」

「私も楽しい一日でした。また今度二人で出かけましょうね」

「勿論です。その日を楽しみにしてます」


なので私から唇にキスをしてそのままセトさんの胸の中で眠りについた。

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