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56.カカント国⑦

「……」


水着に着替えて深呼吸を一つ。

いつまで経ってもこの先に進まないと終わりはない。

意を決して温泉の扉を開けると広大な空と白く濁った湯舟。そこに私のつがいが三人。

解っていたけどイケメンの裸って目に毒だ…。恥ずかしいのに格好いい三人を見て胸が高鳴って仕方ない。

気が遠くなりそうなのを堪えているとすぐにシャルルさんが近寄って来た。


「その水着可愛いね。トワコに似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」


目のやり場に困るので視線を右往左往させながらお礼を言う。

シャルルさんは疑問そうに首を傾げたけどすぐに手を引っ張って湯舟へと連れて行ってくれる。

近くに置いてあった桶っぽいバケツで身体を軽く流し、そっと足を入れるとじんわりと温かさが浸透していく。


「トワコ気持ちよさそうだね」

「は、はい。やっぱりお風呂はいいですね」

「俺、風呂苦手だったけどさすがに気持ちいいね。好きになったかも」

「苦手なんですか?」

「だって無防備になるじゃん。ゆっくりする時間もないし。それよりここどうしたの? 赤くなってる」

「赤く?」


いつもと変わらない日常会話と温泉に固まっていた身体が解れていく。

湯舟に髪の毛が浸からないように髪の毛をあげてたんだけど、首に何か跡がついていると言われて自分で触ってみるけど痛みはなかった。

なんだろう?

ふと少し離れた場所で寛いでるレグを見ると笑っていた。


「レグ?」

「つい昨日の出来事を忘れるなんて酷いな」


そう言って悪い顔して近づいて来る。

その言葉に昨日レグと一緒にお風呂に入ったことを思い出し、赤くなった箇所を抑えながら逃げる。


「ちょ、ちょっと近づいて来ないでくださいよ…」

「こいつばかり贔屓するのはよくないんじゃないか?」

「ちがっ! 贔屓してません!」

「俺は大歓迎だよ」

「ちょっと…!」


逃げようとする私をシャルルさんが後ろから抱き着いて動けない。

いくら水着を着ているからと言っても触らないでほしい! 下着つけてないんですよ!

離れてと腕を叩くけど離れてくれず、叩いていた手はレグに捕まれる。

昨日の出来事。さらにこの状況に頭が混乱する。

そして羞恥心と混乱が限界を到達した瞬間、マリッジリングの金色の宝石がきらりと光り、二人を力づくで離して湯舟に沈めた。


「トワコ嬢、大丈夫ですか?」

「セトさんっ」


少し離れた場所で様子を見ていたセトさんが慌てて駆け寄って来たので、急いで二人から離れセトさんに駆け寄る。

彼は私に触れることなく「大丈夫ですか?」と心配してくれる。

ああ、やっぱりこういう場面ではセトさんが頼りになる…。


「凄い音がしたけど…二人とも大丈夫か?」


あとからやって来たアルファさんが頭まで濡れた二人に声をかけた。

お湯が気管に入ったのか二人とも苦しそうに咳き込んでいたけど、しるもんか。

私は止めてと言った。これはワガママじゃない。一種の正当防衛だ!

セトさんの後ろに隠れつつ改めてゆっくりと湯舟に浸かる。

レグが睨んできてるけど知らない。シャルルさんが泣きそうな顔してるけど今は無視!


「アルファさん、二人は放置してていいですよ。ゆっくり浸かりましょう」

「びゃ!」


悲鳴をあげつつも私から一番離れた場所に向かって顔まで浸かる。

入る前から顔が真っ赤だったけど大丈夫かな…。倒れたりしない?

心配だから声をかけたいけど……ダメだろうね。うん、黙っていよう。


「トワコ嬢、熱くありませんか?」

「ちょうどいいぐらいです。気持ちいいですね」

「はい。何度かここに来たことありますが、こうやってゆっくり温泉に浸かるのは初めてなので癒されます」

「セティさんに連れられ?」

「ええ。私を便利な小間使いだと思っている節があるので…」

「セティさんらしい」

「トワコー、もう抱き着かないからそっち行っていい?」

「嫌です。ゆっくりさせてください」

「ちぇー。あ、でも身体は俺が洗うから! そのムッツリ軍人じゃ変なとこまで触られるよ」

「な、なにを!」

「セトさんはそんなことしませんっ。自分で洗うから大丈夫です。レグもいいですからね!」

「先日の失態を取り返したいんだが駄目か?」

「ダメです!」

「は? お前昨日なにしたの?」

「レグッ!」

「さぁな」

「うわ腹立つ顔してんなー! アルファ、この王様がトワコに失礼なことしたらしいぜ。処分したほうがよくね?」

「なんてことを…!」

「なんだ、またやられたいのか?」

「トワコさんのつがいになった今、あの時とは違う!」

「おー、やれやれ! 傲慢な王様なんて殺してしまえー! そしたらトワコとの時間も増えるぞー!」

「温泉で暴れないでください! 獣姿も禁止です!」


さっきの空間よりマシだけどほぼ裸な状態でやりあわないでほしい!







「あー気持ちよかった」


暴れそうな二人を叱りつけ、問題だった混浴も無事終わった。

ポカポカな状態で屋敷へと戻り、夕食の準備が整うまで一階の部屋にあるソファに寝転がってその時を待つ。

シャルルさんは少し周辺の様子を見て来ると言って席を外し、レグも調べものがあるからと書斎部屋へと向かった。

セトさんとアルファさんは夕食の準備でいない。

久しぶりに一人になったせいか少し寂しく感じたけど、それと同時に開放的な気分にもなれた。

ソファはフカフカで気持ちいいし、温泉気持ちよかったしこのまま寝てしまいたい…。


「いやいや、休んでる場合じゃない。ご飯の準備手伝わないと!」


自分のことは自分でしたいと言ったくせにゴロゴロしてしまった…!

慌てて立ち上がり食堂に向かうとすぐにアルファさんが顔を出した。


「す、すみません。まだ準備できてなくて…」

「いえ、私も手伝おうと思って…」

「だっ、大丈夫です! 俺らに任せて下さい!」

「トワコ嬢? どうされましたか?」

「私もお手伝いしようかと思って」

「アルファと二人で十分手は足りています。ゆっくり休んでて下さい」


確かに二人は手先が器用だし、料理には慣れてる。

でも私だってみんなには私の手料理食べてもらいたいし、何もできないと思ってる節があるから実は料理ができるってところを見せたい。


「ダメ?」


レグがいたら絶対にダメって言われてるし、言う前に首根っこ掴まれてソファに投げ飛ばされてる。

でもここには私に甘すぎる二人しかいない。

両手を合わせてお願いすると二人とも言葉を詰まらせた。

なるほど、こういうときにおねだりをするのか。まだちょっと抵抗感があるけど。


「…解りました」

「ありがとうございます。あ、エプロン借りますね」


セトさんの許可が下りたのでキッチンと言うより厨房に入ると既にご飯ができあがっていた。


「……終わってます?」

「あとはサラダを盛り付けるだけです」

「そっか…。もっと早く来たらよかった…。じゃあ私が盛り付けますね」

「はい、お願いします。……アルファ、胸を押さえて何してるんだ」

「でっかいエプロン着てるトワコさんが可愛いぃ…! でも小さくて不安になるっ…」

「言われてみれば確かに大きいですよね、このキッチン。エプロンも」

「見ていたい気持ちは解るが私はテーブルに並べてくるからトワコ嬢の見張りを頼む」

「盛り付けるだけなんですけど…」


元々あの王様の別荘だから何でも大きめサイズのものが置かれている。

今さっき寝転がっていたソファも大きかったし、広かった。シングルベッドと言われても納得いく。


「アルファさん。可愛いって言ってくれるのは嬉しいんですけど、昨日今日と他のメスも見ましたよね?」

「あ、はい…! ああ、駄目ですっ。包丁使わないで下さい!」

「切るだけですから…」

「俺がやります!」

「大丈夫ですって」

「メスは肌が弱いからすぐ傷つくって…!」

「そこまで弱くないですから…。それより、他のメスを見てどう思いましたか?」

「どう…とは…?」

「私より可愛いメスも美人なメスもいましたよね? もう契約したからあれですけど、本当に私でよかったんですか?」

「……い、いましたか…?」

「たくさんいましたよ」

「すみません、お、覚えてなくて…!」

「いや…。うん、まぁ、それなら…」

「トワコさんが一番可愛いことしか頭になくて…。あわわ、すみません! ちゃんと回りを見ないと護衛の意味がないですよね!? 明日から気を付けます!」


前にデーバさんから狼族は好きになったメスしか見ないって言われたけど、まさかそのまんまだとは…。

恋は盲目状態なのかな? 悪い気はしないけど、でもこのせいで他人に躊躇がないんだよね…。


「トワコ嬢、オオカミ族には無駄な話ですよ」

「みたいですね。よし、こんな感じですがどうですか?」

「とても美味しそうです」

「ふふっ、ありがとうございます。でも三皿しかないんですけど、いいんですか?」

「シャルルとレグルスは野菜嫌いなので大丈夫です」

「あー…シャルルさん果物も苦手だって言ってましたね。お二人は大丈夫なんですか?」

「私は特に」

「俺も大丈夫ですっ。食えるときに食っておかないと…」

「じゃあ三皿でいっか。私、二人を呼んで来ますね」

「大丈夫です。匂いにつられてそろそろ戻って来ます」


それぞれ自分のサラダを持って食堂へと向かうと玄関に通じる扉が開いてレグとシャルルさんが入って来た。

サラダを持っている私を見て、すぐ隣にいるセトさんを睨みつける二人。

セトさんは素知らぬ顔でテーブルにサラダを置いて、私にも座るよう声をかける。


「何でお前がそんなことしてるんだ」

「私がしたかったからです。もういいから早く食べましょうよ」

「世話が得意とかいいながらトワコにやらせたの? ケガしてない?」

「大丈夫です。私が無理言ったんですから二人を責めないでください」


あまりの過保護っぷりに溜息を吐きつつ、少し高めの椅子に座る。

厨房もでかかったけど、椅子もでかいし高いな…。まぁ数日しかいないし贅沢は言えないよね。


「何かクッションを持って来ましょうか?」

「そこまでじゃないので大丈夫です。冷める前にいただきましょう」


左右にはセトさんとアルファさん。目の前にはシャルルさんとレグ。

野宿に慣れたのもあって机に座って食べることに違和感を感じた。

これが普通だったんだけどなー。


「すごい…めちゃくちゃ美味しい…! セトさんもアルファさんもほんとに料理上手なんですね」


いただきます。をしてからまずはスープを飲む。

コーンスープに似た甘さとその濃さに思わず目を見開いて感動を伝えると、二人とも照れ臭そうに笑ってサラダに手を伸ばす。


「アルファって野菜食うの?」

「特に好き嫌いはない。できる立場でもなかったしな。そ、それに今日のはトワコさんが盛り付けてくれたから…」

「あ?」

「盛り付けただけですけどね」

「トワコが盛り付けてくれるなら俺だって食べるのに!」

「で、でも苦手なんですよね? 無理に食べる必要はないですよ」

「シャルル、うるさい。食事ぐらい静かにしろ」

「お前も盛り付けてもらったのか!?」

「だったら?」

「トワコー…もしかしてセトとアルファのほうが俺より好きなの?」

「ええ…。どうしたらそういうことになるんですか?」

「だってメスがご飯を分け与えるってそういうことでしょ? 始祖も求愛給餌?」

「そういう意味じゃないので安心してください」

「……俺も野菜食べる…」

「無理はしないでくださいね」

「体調崩しても構わないぞ。うるさいのが静かになっていい」

「レグ、シャルルさんで遊ばないでください…」

「気にすることありませんよトワコ嬢。それよりこちらもどうぞ」

「トワコさん、こっちも美味しいですよ」

「ありがとうございます。いただきますね」


いつものようにお肉やパンを切り分けてもらい、自分のことは自分ですると言った発言を思い出したのは全て食べた終わったあとだった。

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