55.カカント国⑥
「やっぱりメスが多い街だから協会もたくさんの人でいっぱいですね」
身支度を終えて五人で街の中心地にある教会へと向かう。
途中、美味しそうな食べ物が並んでいるのを見て寄り道しかけたけど、迷うことなく到着するとたくさんのメスとその番で賑わっていた。
「ちょうど番契約してるね」
「ほんとですか?」
シャルルさんの言葉に見学しようとするも人混みで見れない。
すぐに察してくれたセトさんが抱えてくれると、始祖像の前に一組の男女が祈りを捧げていた。
その彼女の後ろには複数の番がいて二人を見守っている。
「セトさん、なんの種族か解りますか?」
「メスはネズミ族ですね。オスはヤギ族みたいです」
「よく解りますね」
「二人とも特徴的な身体ですので」
「(私にはわからない…)番にするのって大体肉食系が多いですよね。珍しい…」
「この街じゃ珍しくないよ。この街の店員って国に選ばれた接客のプロだからメスのお世話も一流だからね。番の中に一匹はそういうオスもいるよ」
「あー…なるほど」
「トワコにはもう必要ないよね?」
ニコッと圧をかけてくるシャルルさんにドキリと肩が飛び跳ねる。
その反応にセトさんも困惑気味に私の名前を呼んだ。
「はい十分です。大丈夫だから安心してください」
「うん、信じてる。あ、空いたみたいだよ」
先程の男女は既にいなくなっており、人混みもまばらになっていく。
「アルファさん、行きましょうか」
「ひゃいっ!」
セトさんに降ろしてもらってアルファさんに手を伸ばすとガタガタと震えながら私の手を取る。
結構長い間一緒にいるけど、アルファさんに触れるのはほとんど初めて?
気絶しないだけマシになったけどまだ震えるし、こうやって狼の耳や尻尾が出ちゃう。私は可愛いと思うんだけど、この世界では情けない姿って認識なんだよね。
始祖像の前に近づくと散ったはずの見学者がまた集まって来て私たちを見つめる。
「うわ、あのオオカミ族情けねぇ…」
「だっせぇ姿晒してんな」
「あんな情けないオスを番にするってどんなメスなんだ」
「ああでも可愛らしいな。ずっと見ていたい」
様々な声に居心地が悪くなるけどいつまでもこんなところにいられない。さっさと番になろう。
アルファさんは緊張のあまり聞こえてくる声に反応できず、気絶しないように頑張って意識を保っている。
「アルファさん、ここで祈りを捧げるだけです。大丈夫ですか?」
「ひ、はっ…はい! 頑張って祈る、です!」
「緊張しなくても大丈夫ですよ。すぐに終わりますから」
「はいっ!」
これで四回目の祈り。
もう番を増やさないことを誓いながら、アルファさんと番になれるよう祈る。
すぐに光り輝き、ゆっくりと目を開けて指輪を確認するとアルファさんの目の色と同じ水色の宝石が埋められていた。
アルファさんも自分の指を確認し、私を見て、また指輪を確認する。
「あ、ありっ、ありがとうございますトワコさんっ! こ、これからもトワコさんを守れるよう頑張ります!」
「ほどほどでお願いします」
嬉しそうに笑って涙を流すアルファさん。
格好いいのに可愛い。番の中で一番可愛い。プルプル震える耳も、激しく振る尻尾も私には可愛くてたまらない。
その気持ちが溢れてしまい、ずっと指輪を見続けているアルファさんにそっと近づいて耳にキスをすると、周囲がザワついた。
「うひゃぁあ!?」
「あ、ごめんなさい。可愛くてつい。大丈夫ですか?」
「ひぃ! やっと番になったのに! お、俺を殺そうとしないで下さい!」
「す、すみません。そんな真っ赤にならなくても…」
今までで一番真っ赤に染まるアルファさん。
立っていた耳をぺしゃんと倒し、自分の尻尾に抱き着いて私から距離を取る。
何かよくないことでもしたんだろうか…。
不安になってシャルルさんたちを見ると超絶不機嫌な顔をして私たちに近づいて来る。
「ま、マジかよあのメス…」
「よっぽど愛してるんだな。恥ずかしいけど俺だったら嬉しくてたまんねぇな」
「あのオスが羨ましい…」
「ちょっとトワコ!」
「お前に常識がないのを忘れていた」
「トワコ嬢、このような場所ではいけません」
「え?」
訳が分からず首を傾げる。
レグに担がれ、足早にその場から立ち去る間も見物人は私を見て頬を赤く染めていた。
逃げるように協会を後にした私たちは広場のベンチに座ってお叱りを受ける。
なんでも獣姿のときの耳や尻尾は身体の一番弱い部分にあたり、その箇所を触ると言うのは「あなたを支配したい」というアピールだそう。
触るだけならその解釈で間違いないけど、キスとなるとまた話は変わる。
「夜のお誘いだったとは…。本当にすみません…」
「いつもは慎重なのに突発的に問題行動をするな」
「ビックリして駆けつけるの遅くなっちゃったよ。トワコは知らなかったんだしお前も勘違いすんなよ」
「し、してない!」
「お待たせしました。トワコ嬢、あの協会には原本は置かれていないそうです」
「あ、ありがとうございますセトさん。すみません、私が変なことしてしまったせいで…」
「構いません。お役に立てて何よりです」
ちょっと問題はあったけど無事、アルファさんと番になれた。
左薬指にはオレンジ、黒、金、水色の順に並んだの四つの宝石がキラキラと光る。
色のバランスは悪いけど私だけのマリッジリング。
「アルファさん、改めてお願いします」
「こ、こちらこそお願いします…!」
「よしっ。じゃあ今日はこのまま観光しましょうか。いいですか?」
「もちろん。昨日色々調べておいたから任せてよ」
「今日はメスに人気の施設にご案内しますね」
「いいんですか? 楽しみです!」
「俺から離れるなよ」
「わかってますって!」
よし、これでようやく観光に集中できる。
どんな施設があるか楽しいだ!
✿
「すっごかった…」
「満足した?」
「日本にもこんな施設あればいいのに…」
シャルルさんとセトさんのお勧め施設はとてつもなくすごかった。
まず全身脱毛できるゼリー状の薬に浸かると痛みもなく身体中の毛が抜けた!
ずっとキャリーケースに入れていたカミソリでムダ毛処理してたからこれからは楽ができる! とてつもなく嬉しい!
脱毛後は肌に潤いを与えてくれるお風呂に入った。
魔法かと思うぐらい即効性があり、たった数十分使っていただけでプルプルのつやつやになった。
どんな化粧水でもこうはいかない…。この世界の美容やばすぎ!
感動のあまり語彙力なく感想をこぼすとシャルルさんとセトさんは満足気に笑う。
「いつも綺麗だけど今日はもっと綺麗だね。どこ触ってもプルプルで俺も気持ちいい」
「ねっ、すごいですよね! さすがメスの保養地…侮ってた」
一通り綺麗にしてもらって、さらに身体の中から潤いを与えてくれると言われる聞いたことのない果物のジュースを飲みながらベンチで休憩。
私は綺麗になれるからすっごく楽しいけど、四人は楽しいのかな。ふと冷静になって四人を見る。
シャルルさんとセトさんは案内した施設に満足そうな私を見て嬉しそうに笑っている。
レグは口数少ないけど不機嫌じゃない。というかたまに頬を触ってその感触を楽しんでいる。
アルファさんは協会からずっと出したままの尻尾を振っているので楽しんでいるのがわかる。
大丈夫そうかな? 明日からのデートはもっとみんなにも興味があるお店を選んで楽しんでもらおう。
「……」
ベンチに座っていると行き交うメスの視線を感じる。
最初は私を見て、また陰口でも叩いているのかと思ったらそうじゃなかった。
その視線を集めるのは隣に座っているレグ。たまにセトさんにも視線が集まっているので首を傾げる。
「どうした?」
「いえ、何でも」
今日は四人とも着飾っているから視線が集まるのもわかる。特にレグとセトさんは貴族だからその気品さも見る人が見たらわかるんだろう。
二人を見るあの視線は熱いものだった。
そうだよ。四人とも着飾ればちゃんと格好いいんだよ。昨日あんなこと言われたけど私の考えは間違っていない。
少し鼻が高くなって気分もあがる。
「もっと色んな施設があるけど明日のデートで案内するね」
「ふふっ、楽しみです」
「じゃ、最後は温泉だね。別荘の温泉もいいけどせっかくだし有名な温泉地に行こう」
「……」
すっかり忘れてた!
温泉には入りたいけど水着にならないといけないんだ…!
空になったカップをゴミ箱に捨てに行き、予約をとっていると言われた温泉施設へと引っ張るシャルルさん。
やっぱり水着でもやだな、恥ずかしい。レグにダメだって言われたけど、どうにか断れないかな…。
チラリと後ろからついてくるレグを見るけど鼻で笑うだけ。
「そこの温泉は免疫力を高める効能があるからトワコに入ってほしいんだよねぇ。ほら、始祖って身体弱いでしょ?」
「そ、そうですね…。あの…やっぱり五人で入るんですか?」
「俺はトワコの味方だけど、傲慢な王様がダメだって言うから…。ごめんね?」
可愛い顔で謝るけど、本心で言ってないのわかってるんだからね!
セトさんとアルファさんを見ても顔を背けるだけで誰も助けてくれず、あっという間に目的地に到着。
張り切ってるシャルルさんがさっさと受け付けをして少し離れた場所にある貸し切りの温泉へと案内される。
「え…着替える場所も別々じゃないんですか…?」
「え? ええ、もちろんです」
案内してくれた男性は「何で?」と言うような顔で首を傾げ、中を軽く案内してすぐに下がった。
他のメスなら気にしないんだろうけど、人一倍羞恥心が強い私には無理だ…!
昨日のレグとのやり取りも思い出し、中に入れない。
「トワコー、温泉だよ。楽しみにしてたのにどうしたの?」
「さ、先に入っててください! あとで入りますから!」
「ダメだよ。一人になるなんて危険すぎる」
「無理です無理! 本当に恥ずかしいから無理なんです!」
「だってさ、王様」
「あまり我儘を言うな。一人にならないって約束したはずだ」
「ごめんなさい、本当に許してください!」
この世界に来て気づいたけど、自分にこれほど羞恥心があるなんて思わなかった。
まだキスするほうがマシかもしれない! 綺麗にしてもらったけど、裸を見れるのはやっぱり恥ずかしい!
デートして親睦深めようと思っているのに、その先の一緒に混浴なんてハードル高すぎる! 昨日だって恥ずかしさで死にそうだったのに二日連続は無理だ! いや、今日は水着があるだけマシだけど、一緒の空間で脱いで着替えるのは無理!
「レグお願いします! あとで何でも一つ言うこと聞くから!」
「―――言ったな?」
「言った! 言いました! 無茶なお願いじゃなければ何でも聞く!」
「解った。駄犬、お前が扉の外で見張りしてろ。着替え終わったら声をかけてやれ」
「ああ、解った」
「ありがとうございますレグ! アルファさん、すみません!」
「い、いえ…。気にしないで下さい…!」
「ちぇー。着替え手伝おうと思ったのに…。じゃあ俺ら先に入ってるね」
「何かありましたらお呼び下さい」
「はいっ! そうします!」
なんとか一緒に着替えることは避けれた。
アルファさんには大変申し訳ないけど、こればかりは妥協できなかった…。
「なんで皆は裸になることに抵抗がないんですか…」
「お、俺らは傭兵団の頃から一緒に水浴びしてたりしたので…」
「慣れか…」
「戦いで傷ついた身体を見たり、その…筋肉自慢する奴がいたりで…。えっと、えっと…!」
「なるほど。アルファさんも見られるのは平気なんですか?」
「特になんともおもっ…思ってません…。あ、でも火傷の跡を見られるのはちょっと…見苦しいのであまり好きじゃない、かも…です…」
普段は服や手袋で隠しているけど、手から二の腕にかけて火傷の跡が残っている。
仲間を守った跡だけど、身体に残った傷跡は弱者の証とみなされているのでできるだけ見せないよう隠している。
私はそんなこと気にしないんだけど、いくら言っても少し笑うだけでなかなか理解してくれない。
「トワコ、入っていいよ」
「ッキャア!?」
「うびゃぁ!」
三人が着替えるまでの間、部屋の外でアルファさんと会話を楽しんでいると上半身裸のシャルルさんがいきなり現れた。
不意打ちの呼びかけと、水着を履いてるものの初めて見た上半身裸の姿に思わずアルファさんに抱き着く。
私が抱き着いたせいでアルファさんも聞いたことのない叫び声をあげつつ、倒れないように支えてくれた。
「ご、ごめん。そんなにビックリするとは思わなった…」
「だ、だ、だ、大丈夫…! 私も着替えますね…」
「うん、待ってる! アルファ、いい加減トワコから離れろよ」
「ひっ、ひっ…!」
「気絶してもいいけど見張りだけはしっかりしろよな」
固まって過呼吸みたいな呼吸をするアルファさんから慌てて離れるとその場にヘナヘナと座り込む。
不可抗力とは言え、驚かせてしまった…。
アルファさんに謝って中に入ると三人の姿はなくホッと胸を撫でおろし、用意されていた水着を広げる。
私が想像する水着とはまったく異なり、ルームウェアみたいなショートパンツとキャミソール。
丈は短いけど全然マシ! むしろこれなら恥ずかしくない!
さっそく着替えようとするともう一枚薄手のバスローブみたいなものもあった。これはない。濡れたら透けそう。
チラリと湯舟に向かう扉とアルファさんがいる扉を見て、誰にも見られていないのを確認する。
ささっと着替えて楽しみにしてた温泉を堪能しよう!
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