54.カカント国⑤
「トワコー!」
「シャルルさん、ただいま」
レグの案内で別荘に到着すると、門の前にシャルルさんとセトさん、アルファさんが立っていた。
私の匂いに気づいたシャルルさんは一目散に飛びついてきて、自分の匂いをつけるかのように抱きしめてグリグリと頬を擦り寄せる。
レグから殺気を感じて少し離れるよう言うと、セトさんとアルファさんも寄ってきて軽く挨拶をする。
「何時からそこにいるんですか?」
「あ、朝からです…!」
「朝一番で戻って来ると思ったのですが…。何かありましたか?」
「す、すみませんっ。私が熟睡しちゃったんです」
「それならしょうがないよね。トワコ、早く屋敷に入ろうよ。俺が案内してあげる」
「俺の屋敷だ。俺が案内する」
「来たことないって言ってただろ。俺らのほうが詳しいっつーの」
そう言って私の手を引っ張り、屋敷へと駆け出すシャルルさん。
そしてそれを追いかけるセトさんとアルファさん。遅れて苛立ちを隠さないレグが屋敷へと入って行く。
周囲にも同じような別荘が立ち並んでいるので変に目立っておらず、ごく普通の屋敷。
まぁ現代日本人からしたらとてつもない豪邸なんだけど…。
「まずはトワコの部屋に案内してあげるね」
「ありがとうございます。二階ですか?」
「そうそう。一階は食堂、客間、倉庫などの生活回りのものばっかだったよ」
「あと大浴場がありました。常に温泉が湧き出ているのでいつでも入れます」
「わー、最高ですね!」
「で、二階は部屋が五つと宝石とか衣装部屋。あと美術品とかそういうのが置かれてたよ」
中はシンプルな造りだったけどところどころに高価そうな絵画やら彫刻が置かれていた。
廊下は大理石のようにピカピカしてるし、壁や柱には金色の装飾が施されている。
屋敷にしては狭いらしいが私たち五人が住むには十分な広さだった。
シャルルさんから説明を受けながら二階にあがり、一番奥の部屋に向かう。
「この部屋が唯一バルコニーがあったからトワコの部屋にしようってなったんだ」
「いいんですか?」
「もちろん! 多分元王様の部屋だったんだろうけど、安心して。あいつの匂いはしないから」
「ありがとうございます」
真っ黒な扉を開けると部屋と言うには首を傾げるほど広い空間が現れた。
絶対に有効活用できない家具も置かれているし、こんなに広いとどこに行けばいいのか悩むぐらい広い。
一人で使うにはあまりにも贅沢すぎる光景にリアクションに困った。
実家に慣れてるから落ち着かないなぁ。
「気に入らなかった?」
「あ、いえ。広すぎて驚いただけです。シャルルさん…みんなの部屋はどこですか?」
「え、ないよ」
「え? いや、でも部屋はたくさんあるって…」
「一緒に寝るから必要ないでしょ?」
至極当然のように言うシャルルさん。
後ろにいるセトさんとレグを見ると無言で頷き、アルファさんは恥ずかしそうに顔を背けていた。
あ、そうなんだ。一緒に寝るから広い部屋にしたんだ。
「あの、一緒の部屋を使うのはいいんですけど、ベッド一つでみんなと寝るのはさすがに無理じゃ…?」
「トワコとは寝たいけどこいつらと一緒には俺だって嫌だよ。だからトワコが決めてよ」
「決める?」
「一緒に寝る相手。道中は安全を考えて王様に譲ったけど、屋敷なら話は別」
「そ、そうだね…。あ、ついでに話したいことがあった」
「なに?」
「その前にトワコ嬢。椅子に座りませんか? 紅茶も持ってきますよ」
「あ、すみませんセトさん。お願いします」
「俺も手伝う。昨日買ったお菓子も持って来ようぜ」
セトさんとアルファさんは部屋を出て、シャルルさんに連れられてバルコニー付近のテーブルへと向かう。
隣にシャルルさんが座って、反対にはレグが座る。
さっきまでご機嫌だったレグは少し機嫌が悪そうに眉間にしわを寄せてシャルルさんを睨んでいる。
反対にシャルルさんは一日ぶりに会えた喜びか、満面の笑みで私だけを見つめる。
あー…うん。四人まとめて平等に接するってやっぱり私には無理だ。
慣れたと思ったけど、やっぱり一人一人を相手にするほうが楽。
アリーシャさんみたいに番の中でランクをつければ楽なんだろうけど、それは私が嫌だ。
「お待たせしました」
「トワコさん、こ、これ…。昨日買ってきたんでよかったら…!」
「ありがとうございます」
セトさんが全員分のお茶を用意して、アルファさんが震える手でお菓子を並べる。
ようやく落ち着いて目の前に二人が座って、口を開いた。
「えっとですね。私の世界では番になったらデートというものをするんです」
「でーと?」
「はい。二人っきりでデートして親密度をあげていくんです。私たち色々あったじゃないですか。皆のこと詳しく知らないし、できればデートしてみんなのことを知っていきたいんです」
「俺のこともっと知りたいって思ってくれるの?」
「もちろんです。私、四人のこと好きですもん。色々知りたいです。だからまず、デートしましょう。デート後はそのまま一緒に寝る。こうしませんか?」
「トワコを一日独り占めできるってこと!? うわ、最高じゃねぇか!」
「……トワコ嬢。でーとと言うのは何をするのですか? 会話するだけ?」
「あ…。んー…色々ですかね。一緒に買い物でかけたり、遊んだり、会話したり、まったりしたり…。好きな人と一緒に楽しめることをするのがデート…だと思います」
「なるほど…。ならばトワコ嬢が楽しめる場所を見つけないとですね…」
「あ、そういうのは私も一緒に考えたいです。二人のデートですからね」
「お、俺も…?」
「その前にアルファさんとは番になるために協会に行かないとですね。行きたいとことかやりたいことを決めないといけないし、デートは明日か明後日からにしましょう」
「っようやく…ようやく本当の番に…! うう…胸が苦しくなってきた…。でも嬉しい、いつ死んでも後悔はないです…!」
「トワコ、俺は明日がいいな」
「私はいいですけど…。いいんですか?」
「街も把握してるし早く二人っきりになりたいからね」
「なら次は私でお願いします」
「あ……えっと…! 俺は…」
「俺は最後でいい」
「なら俺が三番目でお、お願いします…っ」
「わかりました。私もしたいこととか考えて楽しいデートにしてみせますね!」
うんうん、やっぱりいきなりキスだの交尾だのじゃなくデートだよね。
出されたお茶とお菓子を口に入れながら、いいアイディアを出したのではないかと自画自賛。
「あ、ついでにもう一ついいですか? 当分の間屋敷で過ごせますし、自分のことは自分でしたいです」
ひたすら甘やかされてきた。
一般的にはまだ子供の部類に入る私だけど、一人っ子だってのもあって両親からは厳しく躾けられてきた。
兄弟がいないから。親戚も少ないから。もし一人になっても自分のことは自分でできるようにと育てられてきたので、お世話されるのが少し苦手。
解らないところは助かるけど、顔を洗うのに桶に水を入れて目の前に持って来てもらうとか、ご飯を細かく切ってもらうとか…。そういうのを控えてほしいとお願いする。
楽だし嬉しいけど、人間ってすぐ堕落してしまうから…! ぐーたらな人間になりそうで怖い。
「なんで?」
「な、なんで? えっと…自分のことは自分でしたいからです」
「私に何か不備がありましたか?」
「いえかなり助かってます」
「すっごく嫌なんだけど…」
「オスがメスの世話をするのは当たり前のことだ」
「わかってます。疲れたときに抱っこしてくれたのも、魔獣を狩って捌いてくれるのもすごく助かりました。でもそれは野宿だからで…屋敷に到着したなら私だって自分のことぐらい自分でできますし、したいです」
「気にする必要ありません。私は好きでやってます」
「お、俺も…。それぐらいでしかトワコさんと…トワコさんに近づけない、です、し…!」
「お前はあれこれ気にしすぎるのを止めろ」
「でも私は番として何もしてあげれてないじゃないですか」
「そんなの気にしなくていいよ。トワコが俺の番ってだけで幸せだから」
「ダメなの。私がアリーシャさんみたいに傲慢でワガママで番を手足のように使ったら嫌でしょ?」
「全然。むしろ必要されてるって感じて嬉しいよ」
「トワコ嬢の要望はどれも姉上に比べて可愛らしいものです」
「俺は頼られるのが嬉しいです…。もっと俺を…っておも、おもっ…思うんですけど…」
「お前らと気が合うな。と言うわけだ、これまで通りにする」
「……わかった。でも屋敷にいる間の過度なお世話は少し控えてほしい。私だって動きたい。このままじゃ何も考えられない人形みたいになっちゃいそうで怖いです…」
「「「「…」」」」
「それもありか。みたいな顔しないでくださいッ…! 本当に禁止ですからね。もし破ったら番解消しますよ」
「なに言ってるのトワコ。番は解消できないんだよ」
「ディティ本山に行けば解消できるって聞きました。ね、レグ」
「余計なことを…」
「なので屋敷にいる間は止めてください。でも解らないことがあったら頼るのでそのときは助けてくれると嬉しいです」
納得してない顔で四人が頷く。
もしかしてひどいいことを言ってる? でも本当にダメ人間になりそうで怖いんですよ…。
せめて屋敷にいる間…いや、街にいる間は安全なんだし自立させてほしい。
「じゃあとりあえずアルファさん、協会に行きましょうか」
「ひゃ、ひゃい! お、お願いします…!」
遅くなったけどアルファさんと正式に番を結ぶ。
三人は不服そうだったけど拒絶はしない。色々あったけど認めてくれてよかった。
突発的に殺したりするのはちょっと止めてほしいけど、他の三人とそれなりに良好な関係を築いてくれるしケンカしてたら仲裁してくれるし、バランサーとしてとても頼りになっている。
番にするつもりは本当になかったけど、彼を知れば知るほど惹かれていく魅力がたくさんある。
「シャルルさん、私の服が入った収納玉ってどこにありますか?」
「あ、全部ドレスルームに並べてるよ。こっちこっち」
部屋の奥にある扉に向かって中に入ると、日本で着ていたものからセティさんからもらった衣装がかけられていた。
その中から王都でよく着ていた白いワンピースを手に取る。
これが一番シンプルだし、動きやすいし、肌触りいいし気に入ってるんだよね。
「じゃあ着替えてきますね」
「トワコ、手伝うよ」
「自分でできます」
寂しそうなシャルルさんを追い出し、身支度を整えた。
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