53.カカント国④
「……っよし!」
ジュリアさんを殺そうとするレグを止めるため「一緒にお風呂に入ろう」と変なおねだりをしてしまった。
打って変わってご機嫌に私の服を脱がそうとするのを悲鳴をあげて止め、何度も何度も謝って出て行ってもらう。
いくら止める為とは言え、なんてことを言ったんだ自分…!
緊張と恥ずかしさで真っ赤になりつつ深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとするも、レグが扉の向こうで殺気を放ちながら私の名前を何度も呼ぶのでなかなか落ち着かない。
ダメだ、逃げれない…。一緒に入るしかない…!
だって「嘘でした」なんて言える雰囲気じゃないし、言ったらさすがのレグだって怒るし傷つく…。
覚悟を決め、先に身体を洗って既に張っていた湯舟に浸かって身体を隠す。
温泉からお湯を引っ張ってきてるのか、白く濁っているのでかなり助かった。
「い、いいよ…!」
私の言葉に扉を乱暴に開けるレグ。
やばいぐらい緊張する…! 心臓の音が聞こえるんじゃないかってぐらいうるさい…。
「洗ったのか?」
「うん…」
「洗ってほしかったんじゃないのか?」
「……頭だけでいい」
「そうか」
そう言ってレグも服を脱ぎ、私の後ろに回る。
ああ心臓がうるさい…。
「熱くないか?」
「うん…」
「ジッとしてろ」
優しい手付きで髪の毛に触れ黙々と洗うレグ。
少しぎこちないけど、私を傷つけないようにするその優しさにさらに心臓がうるさく高鳴る。
「あのねレグ…」
「なんだ」
「あんまりあんなことしてほしくない…」
「お前を貶されて黙っていろと?」
「いいんだよ、ほっておけば。そこまで長く滞在しないし…」
「そんな情けないオスになりたくない」
「私だけがわかってればいいよ」
人に頭を洗ってもらうのって何でこんなに気持ちいいんだろう。
緊張するしまだ身体は強張ってるけど、ゆっくりと解れていく。
「お前が嫌がるのは解っているが無理だ」
「でもメスは貴重だよ。それに領主の娘ってなれば問題になるじゃないですか…」
「お前が気にすることはない」
一応言ってみたけど、やっぱりダメ。
無理に私の価値観を押し付けることもできるけど、それも少し違う気がするのでそれ以上は喋らなかった。
「洗えたか?」
「うん、大丈夫です」
「そうか」
「ッえ!? は、入るの…?」
「入ろうと誘ったのはお前だろう」
洗い終えたレグは身体についた泡をお湯で落として、同じバスタブに入って来た。
向い合せで浸かるレグに解れていた身体はまた固まって無意識に逃げる態勢を取る。
水に濡れたレグは旅の途中に見たことあるけど、こんな距離で、しかも同じバスタブに入ることなんてなかった。
たくさんの戦場に出て、国の英雄だと言われているレグの身体は傷一つなく綺麗で思わず見惚れていると、フッと笑って両腕を広げてきた。
「な、なに?」
「こっちに来いと言ってる」
「無理だよ」
「…そうか。なら俺が行こう」
「え、ちょ、待って!」
不満気な顔で立ち上がり、近づいて来るレグから逃げようと立ち上がったがレグに捕まるほうが早く、後ろから抱き締められ再び湯舟に浸かる。
逃げ出そうとするけど力でレグに勝てるわけがなかった。
「何でタオルで隠してる」
「恥ずかしいからですよっ。逆に何でレグは恥ずかしくないの?」
「見られて困るものなんてないだろう?」
タオル巻いててよかった…!
剥がそうとしてくるのを抵抗しながら質問するけど、彼は相変わらず不遜に答える。
「落ち着け。あいつに言われた通り手を出すつもりはない」
「落ち着けないよぉ…!」
恋愛初心者にこれはダメだって…。もっと初歩的なことからお願いします…!
諦めて捕まったまま大人しくすることにすると、肩に重たいものがのしかかる。
「まぁお前が望むなら俺はそれに応えるがな」
「それはないです」
「それは残念。俺は早くこの胎に種を放ちたい」
耳元で囁き、大きな手のひらで私の下腹部…子宮をグッと軽く押し込む。
身体中の熱が顔に集まる。
反射的に手から逃れようと後ろに仰け反ると、何か硬いものお尻に当たってそれが何かわかった瞬間、泣きたくなった。
怖いんじゃない。押し寄せる羞恥心をどう処理すればいいのか解らないだけ。
「…っ最初に言ったけど…! 番らしいことはできません…」
「ああ、文句ない。好きに俺らを使えばいい」
「だから…。その…」
「番になれるなら何でもいいと思っていたが、お前を知るとどんどん欲が溢れてくる…。トワコが俺らのことを好いていないのも理解している」
耳元がぞわぞわする。逃げたい。離れたい。
それなのに心地よさを感じてしまって動けない。
「今も困らせているも解っているが、離れたくない。好きになれとは言わないが嫌いにならないでほしい」
「―――違う…。ちゃ、ちゃんとレグたちのことは好きだよ…」
「…」
「ただ恥ずかしいから色々拒絶してしまうし、それに…えっと…それ以上の関係に進むのも怖くて…」
「好き?」
「うん、好きだよ…。最初よりちゃんと好き。異性として…め、メスとしてレグたちが好き…! 離れてる間も不安だったし寂しかった。ここに来る間もたくさん気遣ってくれて、嬉しかった。こんなにも私のことを愛してくれるのはみんなだけなんだって思ったら嫌いになれないよ…」
「……っはは、そうか。トワコは俺のことを好いているんだな」
「んきゃ」
顎をくいっと持ち上げられ、強制的に後ろに向かされてキスされる。
最初は触れる程度の軽いキス。
少し離れたかと思ったらグッと力を込めて舌を絡める。
片方の手で腰、片方の手で後頭部をがっちり掴まれ逃げることもままならない。
砦で再会したときもキスされたけど、今はあのときよりも情熱的で激しかった。
「っそれはやだ! もうあがるッ!」
気持ちよさに流されていると軽く胸を触られ、ようやく理性が戻る。
勢いよく湯舟から立ち上がり、逃げるようにレグから離れてバスタブから飛び出す。
「れ、レグはちゃんと身体洗ってあがってくださいね」
「ああ、お前は綺麗好きだからな」
真っ赤になった私とは対照的にレグは余裕綽々と言った表情で満足そうに笑う。
最近シャルルさんとレグにキスされると思考が止まっちゃう…。
気持ちよくて、もっと欲しくなって…。でもどうしたらいいか解らなくてされるがまま。
男女の関係になればいつか訪れるものかもしれないけど、気持ちが追い付かない。
申し訳ないと思いつつ、用意されたバスタオルで身体を拭き、寝衣に腕を通してベッドに向かう。
「わぁ…凄いふかふか…」
道中、ずっとレグを枕代わりにしていたから久しぶりのベッドにすぐ眠気に襲われ、そのまま意識を失った。
✿
「レグのバカ。もっと早く起こしてよ…」
「あまりにも気持ちよさそうに眠っていたからな。気にするな」
ふかふか、ふわふわのベッドで寝たせいか久しぶりに熟睡してしまった。
結局私が起きたのはお昼前。
人の家でこんな遅くまでお邪魔するつもりはなく、慌てて着替えたがレグは気にせず朝食兼お昼までしっかり頼んだ。
幸い、領主のジェインさんも気にする素振りを見せなかった。
「遅い時間までありがとうございました」
「いいえ、お寛ぎ頂けたようでよかったです」
朝食を食べたあとはジェインさんにお礼を言って玄関まで見送ってもらう。
昨日のこともありジュリアさんの様子をそれとなく聞いてみたけど、どうもレグを怖がっているらしく挨拶に来れないと謝られた。
まぁそうだよね。さすがに殺されかけたなら会いたくないよね。
関わりたくもないので愛想笑いをして屋敷を後にした。
「レグの別荘はどこにあるの?」
「別荘地だ」
「高かったんじゃない?」
「さぁな」
「戻ったらアルファさんと番契約して、それから温泉に行きましょうか。大きな街だから色々見たいんですよねぇ…。あ、何日滞在しますか?」
「お前が望むだけ」
「んー…なるほど。じゃあせっかくなんで数日滞在しましょうか。王都にいるときもあんまり出られなかったしこの世界のこともっと知りたいんです」
「ああ、構わない。ただ一人で歩くことはするなよ」
「わかってますって」
屋敷を離れ、別荘地へと歩き出す。
馬車を出してくれるとジェインさんに言われたけど、歩きたいし街も見たかったので断った。
「そんなに心配なら手繋ぎます?」
「ああ、そうしよう」
いくら私が解ってるって言っても信用していないのかジッと見つめてくるので手を出すとすぐに大きな手が包む。
「このまま二人で消えたいな」
「それはちょっと…」
「他の番共はどうしてるんだ。別荘に行くのがとてつもなく嫌だ」
「レグは独占欲とか執着心が強すぎるんだと思いますよ」
「こんな気持ちになったのは初めてだからな。戦場しか知らなかった俺をこんなにしたのはお前だ。最後まで責任とってくれ」
「ふふふっ。レグも言うようになりましたねぇ」
繋いだ手に軽くキスをして力を込める。
最初に出会ったころに比べかなり変化した。ううん、最初から優しかったし頼もしかった。変わったのは優しい表情をする回数が増えたぐらいかな。
「できればまたこうして二人で過ごしたい」
「……そうですね…。あー、それだ!」
付き合ってすぐキスされ、交尾したいと言われ続けて気持ちが追い付かなかった原因がわかった。
そう、恋人になったらまずデートしないと!
番になる前からそもそもコミュニケーションが足りなさ過ぎた。
屋敷に戻ったらまず一人一人とデートしよう。四人と一緒に行動するんじゃなくて、ちゃんと一対一で向き合おう。
滞在期間も私が決めていいって言ったし、目的はあるけどすっごく急いでるってわけじゃないからこれぐらいいいよね。
「レグ、早く屋敷に戻りましょう」
「俺はさっき嫌だと言ったのに酷いことを言うんだな」
「いいからいいから!」
渋るレグを引っ張り、別荘へと足早に向かった。
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