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50.カカント国①

砦があった場所はトルティア国の北西側に位置していたらしく、一週間ぐらいでカカント国とトルティア王国の国境へと到着した。

この一週間、つがいの四人と過ごしてきたから多少なりともみんなと仲良くなれたと思う。

特にアルファさんは持ち前のコミュニケーション能力を生かして誰とでも仲良く接してくれた。

言い争いが多かったシャルルさんとレグも前に比べて少なくなった。…と思う。

私はと言うと彼らからの介護もといお世話のおかげで疲れることなく平和に過ごせた。

四人に囲まれて生活していく中で彼らの扱いを習得できた。扱い方と言っても役割りを作っただけ。

水浴びするときはアルファさんにお願いする。彼は恥ずかしがって絶対にこちらを見ないから安心して浴びれる。

ご飯の準備は綺麗好きなセトさん。セティさんのお世話を(渋々)していたから誰よりも美味しい手料理を振る舞ってくれる。

シャルルさんは話し相手。旅の途中や寝る前、ご飯中もずっとこの世界について話してくれたり、逆に私の世界を聞いてくれたりと、とにかく盛り上げてくれた。

そして一緒に寝るのはレグ。この中だとレグが一番強いし、身体も大きいから安心感がすごい。あと疲れたときは背負ってくれたりして本当に頼りになる。

場面に合わせて役割りを決めてからはつがい同士で争うこともなく、平和に過ごすことができたのだ。


「レグルス様、お久しぶりです」


国境には数名の兵士が立っており、レグの姿に気づいた一人が嬉しそうに駆け寄って来た。

私はすぐ後ろに隠され、セトさん、シャルルさんが壁になる。


「フクロウ族のデーバより伝言を受け取りました。諸々の手配は完了しております」

「ああ。忙しいのに悪かったな」

「いえっ。レグルス様のお役に立てて光栄です!」


顔は見えないけど声だけでわかる。彼はレグに憧れてる。

嬉しそうな兵士にレグも珍しく柔らかい声色で彼をねぎらい、私たちに先に行くよう促す。


「レグは慕われてるんですね」

「今でも王として望まれている存在です」

「王国の為にもレグが王様になったほうがいいんじゃないんですか?」

「そんなものよりトワコと一緒にいるほうがいいんでしょ」


そう言われると悪い気はしない。

王様になればこうやってずっと一緒にいられる時間はないだろうし、それは寂しい。

会話する二人を残して国境を越え新しい国、カカントへと入国する。

風景に変わりはないけど新しい国ということにテンションがあがり、自然と笑顔が浮かんだ。


「ここから温泉街って遠いですか?」

「いえ、ここから近いですよ。少し南に下れば見えてきます」

「じゃああと少しですね。ちなみにその街の名前は?」

「メニーナです。トワコ嬢、もう少し顔を隠してもらえますか」

「え? わかりました」


動きやすい服装に身体全体を覆い隠すマント。そして顔を隠すマスクのような布でメスだとバレないように変装している。

レグを慕う人たちにならバレても大丈夫だと思うんだけど、セトさんは厳重に厳重を重ねて布を目元まであげた。


「セト、あいつにトワコさんの存在がバレた。処理するか?」


そう言って腰に差していた剣に手をかけるアルファさん。


「ダメですよアルファさん! 彼はレグの仲間だから大丈夫です」

「で、ですがトワコさんの存在を知られるのはよくないって…」

「大丈夫だアルファ」

「見事な番犬だな。その調子で頼むぜ。トワコ、ミニーナに着いたら可愛い服着ようねー」

「いいんですか?」

「ミニーナはメスが多いし、店のオスもちゃんと選ばれた奴らだから大丈夫! 本当は隠してたいけどずっとその服でイヤになるでしょ?」

「動きやすいから道中はこれでいいんですけど…。そうですね、せっかくなんで可愛い服着てみたいです」

「俺が選んであげるから任せて!」

「待たせた」


どんな服が好きかシャルルさんから質問攻めを受けているとレグがようやく戻って来た。

遠くにいる兵士はいつまでもレグに敬礼をして見送っている。


「なんのお話してたんですか?」

「街に寄るなら領主に挨拶してくれと言われた」

「何でレグが?」

「これでも元王だからな。敵意はない。ただつがいと遊びに来ただけと伝えるために必要なんだ」

「大変そー。その間俺らは温泉でゆっくり休ませてもらおうね」

「それって私も行かないといけないんじゃないの?」

「………そうだな、お前にも来てもらおうか」

「はぁああ!? 絶対必要ないじゃん!」

「でもつがいと来たって言うのに私がいないと意味ないですよね? 挨拶するぐらいならすぐ終わるだろうし」

「トワコ嬢。相手は貴族なのでかなり時間を有するかと」

「お前がいてくれるならくだらん会話も楽しめる」

「あー…。立ち話も時間がもったいないしそろそろ行かないか?」


アルファさんの言葉にシャルルさんはレグに文句を言いながら足を進める。

そこに珍しくセトさんも介入して私は必要ないと文句を言っている。


「貴族社会は解らないけど、どれぐらい大変なんですかね?」

「ひゃぁ…! お、俺も平民しゅ、出身なのでぇ…! すみませんっ、わかんないです!」

「あ、気にしないでください。ちょっと聞いただけですから」

「俺もっ、頑張って色々勉強して…っ。えっと、トワコさんのお役に立てるようがんばる、ます…!」

「ありがとうございます。私も一緒に勉強しますね」

「トッ、トワコさんと一緒に!? う、うう…! 駄目だ、心臓が痛いっ…。嬉しいけど俺まだ死にたくないですぅ…」

「おいアルファ! なにトワコの隣歩いてんだよ! お前すぐ気絶するんだからトワコから離れろ!」

「そ、そうする…。あっ、トワコさんが嫌いなわけじゃなく、むしろ好きで離れたくないんですけど…!」

「ふふっ、大丈夫です。気絶されたら困りますからね」

「頑張って気絶しないようにします!」


そう言って少し先を歩くアルファさん。

すぐにシャルルさんが隣に並んで手を取る。

よし、あと少しで久しぶりの街だ。私も頑張って歩くぞ!







「温泉の匂いだー!」


国境を越えた翌日には目的地の温泉街、ミニーナに到着した。

背後には北の大国を阻む山脈。そこから煙が立ち上がり、風に乗って硫黄の匂いが鼻をくすぐる。

街には王都でも見れないほどたくさんのメスとそのつがいが楽しそうに散策していた。


「どこから行きます!?」


楽しみにしていた温泉を目の前に興奮気味に四人を振り返る。

シャルルさんが私の名前を呼んで近づこうとするのをレグが阻み、腰を掴んで先を歩き出す。


「領主に挨拶してくる。その前に服を着替えよう」

「あ、私も行っていいことになったんですね。もう行くんですか?」

「さっさと終わらせたい。そうすればお前もゆっくり休めるだろ」

「…そう、ですね。ありがとうございます」

「気にするな」

「じゃあ俺が服選んであげるよ」

「トワコ嬢、姉上御用達のお店を案内します」

「じゃあそこにしましょう。セティさんから頂いた服、どれも肌触りよくて気に入ってたんです」

「それと王様も着替えなよ。トワコの横に立つのに今の恰好じゃみすぼらしい」

「え、じゃあ私が選んでもいいですか!? レグだけじゃなくてみんなの分も選びたいです」

「好きにしろ」

「トワコが選んでくれるの!? すっげぇ嬉しい!」

「是非お願いします」

「う、嬉しいです…。家宝にします…!」


だって四人ともこんなにも格好いいのに動きやすさ重視にした適当な服なんだもん。もったいない!

こうやってショッピングできるのも日本以来だし、久しぶりの解放感と初めての街にテンション爆上がり!

でも彼らから離れちゃダメ。それだけは絶対に忘れない!

走りたい気持ちを落ち着かせ、レグの案内で通りを進む。


「あら見て。黒髪に黒目のメスなんて珍しいわ」

「もしかして変異種…? やだわぁ…」

「小汚くて見るのも不快ね」

つがいは何をしてるのかしら。まぁあの見た目なら大したつがいではないんでしょ」

「ふふふ。面白いもの見たわ。やっぱりこの街は最高ね」

「汚らわしい…。あんなメスが入った温泉なんて入りたくないわ。質も落ちたものね」

「オスも顔を隠してるわ。どんな醜い顔をしてるのかしら。見てみたいわぁ」


通りを歩くだけで方々(ほうぼう)から聞こえる悪意あるメスの言葉に爆上げだったテンションは徐々に下がっていく。

もちろんみんなにも聞こえてるのでそちらを睨んで威嚇する。だけど彼女たちのつがいも睨んで牽制してくる。

この恰好はわざとだもん! 皆はよくしてくれるのに!

自分をバカにされるより、自分のつがいをバカにされるほうがムカつく。

でもあんなの無視だ、無視。口で勝てるほど強くないし、彼らの魅力は私だけが知ってる。

でもやっぱり言われるのはイヤな気持ちになるのでフードを被り直す。


「顔を隠してるのもブスだからでしょ。逆にどれぐらいブスなのか見てみたいわ」

「聞こえてるのに言い返さないから全部当てはまってるのかしら。弱いオスには弱いメスとしかつがいにならないって本当だったようね」

「顔が醜いメスは心まで醜くなるのね。プライドがないメスに生きてる価値なんてあるのかしら」


……どうしてそこまで言われないといけないの!?

いちいちケンカ買いたくないし、時間ももったいないから無視してたのにそういう意味にとらわれるの?

苛立ちを通り越して強気で喧嘩売りまくりなメスの言葉に驚きを隠せない。


「トワコ」

「ん?」

「どいつから殺す?」


黙っていたけど苛立ちを隠さないレグが足を止めて深い溜息を一つこぼす。そして冷静に問題発言をする。


「だ、ダメですよ。問題起こさないよう門番の人にも言われたじゃないですかっ」

「じゃあ俺に任せて」

「後処理は私にお任せ下さい」

「ダメですってー! 時間もったいないし早く行きましょう! ってアルファさん待って!」


殺意を飛ばす三人の後ろで無表情で剣を抜くアルファさん。

止めようと慌てて近寄ると、一人のメスのつがいが彼女を庇うように前に出て来た。


「アルファさん!」

「俺のつがいがそのメスの顔が見たいんだと」

「あ?」

「黒髪黒目の変異種なんていい見世物になるだろ?」

「アルファさん、行きましょう」

「おい、顔ぐらい見せろよ」


この世界の治安はとにかく悪い! いや血の気が多すぎるのかな?

私のフードに手を伸ばした瞬間、生暖かいものが頬に飛び散った。


「トワコさんに触るな」

「ギャアアア! お、俺の手がッ…!」

「あ、あたしのつがいになんてことを!」


一瞬の躊躇もなく持っていた剣で男の手を斬り落とす。

真っ赤に染まる眼前に徐々に震えが生まれ、頬に飛び散ったものに手を伸ばして確認するとやはり血だった。


「何してるの貴方達! こいつを殺して!」

「殺してやるッ! テメェ絶対に殺してやる!」

「ならその前に殺してやる」


戦うアルファさんはとても冷酷だった。

戦場育ちだからなのか「敵」と認識した途端、容赦なく辺り一面を血で汚す。

その切り替えの早さに理解が追い付かず、そのせいで彼を止めるのが遅くなってしまった。

彼女のつがいが次々アルファさんに襲い掛かるけど、アルファさんは傷つくことなく全員を斬り捨て血で汚れた剣先を女性に向ける。


「満足か?」

「あ…あっ…!」

「いい見世物になっただろう?」


そう言って首めがけて振りかぶった。


「止めてアルファさん!」

「ッ! ……あ、トワコさん。大丈夫ですか? 怪我は?」

「し、してません…。もういいですから止めてください…」

「番犬らしい、いい働きをしたな」

「トワコ、顔汚れてるから拭いてあげるね」

「後処理はお任せ下さい」


あっという間に死んだ。

ただ陰口を叩かれ、興味本位で私のフードを取ろうとしただけなのに…。

大丈夫。ここは日本じゃない。これが普通だって前にも聞いた…。

それでも血溜まりの中の人だったものを見て口元を抑えて離れる。震える手を握りしめ、自分に「大丈夫」と言い聞かせて心を落ち着かせた。


「レグルスとトワコ嬢は先にお店へ」

「ああ、解った」

「え、いや、でも…」

「あとはあいつらに任せろ」


落ち着いてこれからのことを考えようとするのにセトさんがここから離れるよう言う。遠くから兵士がやって来てるのに…。

私がここにいても何もできないのは解っているけど、彼らに任せていいんだろうか。

戸惑っている間にレグに担ぎ上げられ、ずんずんと歩き出す。

先程の事件もあり、より目立ってしまい周囲の視線を独り占めしてしまった…。


「大丈夫か?」

「うん…」


正直、人が目の前で死んだんだから大丈夫なんかじゃない。しかも殺したのは私のつがい…。

これからアルファさんがどうなるのか気になるし、あのメスにも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「お前は気にするだろうがあんなの大したことじゃない。ここでもよくあることだ。王都でも一日に一回は必ずあった」

「…うん…。でも…アルファさんが心配で…」

「セトに任せておけ。それよりついたぞ」


街の大通りにある大きな服屋さん。

たくさんのメスやそのつがいが楽しそうに綺麗な服を選んでいるのが見えた。

まだ気持ち切り替えれないけど、彼らがどうにかしてくれるなら任せよう…。

レグたちに心配かけちゃうし、私もいい加減慣れないと。……いやこれ慣れるかなぁ…!

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