49.砦生活⑩
「温泉楽しみですねー」
部屋に戻った私とシャルルさんは部屋の整理を始めた。
アルファさんが用意してくれた家具は全て廃棄することにし、食べ物と服、日用品を収納玉へと納める。
「そうだね。でも宿につくまでは警戒してね」
「うん。でもルルヴァも捕まえたし大丈夫ですよね?」
一瞬だけ言い淀んだレグを思い出し質問すると、シャルルさんはニッコリと笑って「もちろん」と答える。
「でもあいつがトワコのこと話してるかもしれないだろ?」
「そっか…。ごめんなさい、すぐ油断しちゃう…」
「トワコはそういうのに慣れてないからしょうがないよ。でも俺らから絶対に離れちゃダメだからね」
「うん、気を付ける!」
あの人が何をしているか解らない。
注意するよう、警戒するよう釘を刺されて力強く頷くと持っていた服を置いて近づいて来る。
「しゃ、シャルルさん?」
「トワコとの二人っきりの生活も終わりかと思うと寂しくて…」
「そうですね。でもみんながいると安心するし…」
「そうだけどやっぱりムカつくなぁ」
ジリジリと寄って来るシャルルさんに思わず後退るとすぐに壁に背中をぶつけて手を握られる。
思わず目を瞑るとすぐに唇に柔らかい感触が当たって、逃げようとすると顎を掴まれ固定された。
「んんっ…! しゃ、しゃる…!」
「あー…可愛い…。トワコ、舌出せる?」
「し、した?」
「べーってして」
綺麗な目が至近距離で見える。
熱のこもった私を求める瞳にゆっくりと舌を出すとシャルルさんも舌を出してペロリと舐め、そのまま私の口に押し込んできた。
ぐちゃぐちゃと唾液が混ざる音が羞恥心を煽る。口内が、背中がゾワゾワするのに気持ち良くて力が抜ける。
たくさんキスしたけど、こんなにゆっくり丁寧にされるのは初めてだ…。
友達から聞いていた以上の気持ち良さに出したことのない声が部屋に響く。
「トワコの唾液も美味しいね」
「っは…!」
「キスだけでそんな顔しちゃうの? すっげぇ興奮する」
「も、もうやめて…」
「そうだね。我慢したくないけどそんな顔あいつらに見せたくないし、止めておくよ」
「はー…」
「でもカカントの宿は綺麗だし交尾できるよね? 温泉にも一緒に入れるし楽しみだなぁ」
「え!? い、一緒に入るんですか!?」
「一緒に入らないの!?」
短いけど長く感じたディープキスに呼吸を整えている間、頬、目尻、最後にまた口にキスをして離れる。
何事もなかったかのように荷物を整えながらご機嫌で温泉のことを話すシャルルさんに思わず声をあげると、シャルルさんも驚いたように声をあげた。
黙って見つめ合い、お互い首を傾げる。
「え、だって…。別々でしょ…?」
「別々って?」
「オスとメス別々の温泉があるんじゃないんですか?」
「メス専用の温泉もあるけど、もちろん番も一緒に入るよ。お風呂なんて一番警戒心が緩むし、トワコを一人にさせられない」
「そ、そうですけど…。……い、一緒に入るのは無理です! 恥ずかしい…」
「ダメ、危ない」
「ゆっくり浸かれない…」
「俺が洗ってあげるから安心して」
「そうじゃなくて…! 危ないのも解ってるけど、裸見られたくない…」
「裸? 水着で入るのに?」
「えッ!?」
「裸で入ると思ったの? 俺は別にそれでもいいよ。むしろ大歓迎!」
「あ、やっ、水着なら大丈夫です!」
「じゃあ大大丈夫だね。楽しみだなー」
………ん? いや、水着でもイヤなんだけど!
やっぱりイヤだ。と言おうとしたけど鼻歌まで歌い出したシャルルさんにそんなこと言えるはずなく…。
水着なら……いけるか…?
この世界にきてからかなり動いて痩せたから大丈夫だと思うけど…。
いやー…うーん…。あんなイケメンな四人と一緒に入るのはやっぱり無謀なのでは…?
「あ、あのシャルルさん…。やっぱり水着でも一緒に入りたくない、かも、です…」
「……わかった。俺はトワコの嫌がることしたくないから従うよ」
「シャルルさん…!」
「でもそれトワコから王様に伝えてね」
そう言うと同時にレグが部屋に入って来た。
む、無理だよぉ…。この人に言っても無駄だよー…!
「俺に何を伝えるって?」
「う…」
「何故トワコ嬢がこんな汚い場所にいるんだ…! シャルル」
「アルファがこの部屋を提供しましたー。俺のせいじゃないでーす」
「砦だとここが一番綺麗なんだ…。本当にすまないと思ってる…」
「トワコ」
「うー…! あのねレグ。温泉は一人で入りた「却下」
ほらねー! 絶対にそう言うと思ってた!
「水着でも恥ずかしいの…。みんなと一緒に入るのも……だ、ダメ?」
「俺が許すと思ってるか?」
「お、思ってないですぅ…。一緒に入れないけど…その、悪いんだけど外で待っててくれるとか…」
「駄目だ」
「……せ、セトさん! 私、一人で温泉に入りたいんですけどいいですよね!?」
「そ、それは…。その、トワコ嬢の身の安全を考えたらそれは少し危険です…」
「でも恥ずかしいから嫌なんです! 身体も洗うとき皆がいたら洗えないし…」
「うっ…。いや、…ですが…」
「セト、よく考えろ。この機会を逃したら次は早々訪れないぞ」
「………申し訳、御座いません…ッ!」
「でたー、ムッツリ軍人。トワコ、諦めたら?」
「アルファさんは!? アルファさんも私と一緒に温泉入れませんよね!?」
「む、無理ですぅ! せっかく番になれたのに殺さないで下さいッ!」
「これで三対二ですよ!」
「関係ない。それ以上駄々をこねるならひん剥くぞ」
ここは民主主義じゃない…。弱肉強食の世界…!
いくら味方をつけようがこの中で一番強いレグに決定権があるッ!
いや、それもおかしくない!? オスはメスに弱いはずだったよね? ワガママ聞いてくれるんだよね!?
セティさんのように高慢に振る舞えばいい? ううん、私じゃ効き目がないって言われたから無理だ…。
でもどうにか一緒に入ることだけは避けたい!
し、仕方ない…。使いたくないけどアレを使うか…。
「レグ…。チューしてもダメ?」
そう、アレとはぶりっ子攻撃だ。
可愛らしく見えるように首を傾げ、上目遣いでお願いをする。
残りの三人からは様々な反応が聞こえたけど、肝心のレグは変わらない表情で私を見下ろしている。
「トワコ」
ところがフッと柔らかい笑みを浮かべ、優しく名前を呼ぶ。
これはいけたか!?
「ここで犯されたくなかったらそれ以上喋らないほうがいいぞ」
「ご、ごめんなさい! 諦めます!」
まったくいけませんでした!
味方になると頼りになるけど、敵になると厄介だ…。い、いつかレグにギャフンと言わせてやる…!
今回は泣く泣く諦め、大人しく荷物をまとめ部屋を掃除することにした。
「あ、ところで王様。そこまでどうやって行くつもり?」
ところがセトさんから持っていたものを没収され、ベッドに座っているよう言われたので大人しく座ることにした。
四人があっという間に部屋を綺麗にし、いつでもここを離れる準備が整うとシャルルさんが思い出したかのように口を開いた。
「歩いて向かうつもりだ」
「はー? トワコが疲れるだろ」
「慌てるものでもないしな」
「…あー…。まぁそうか。トワコ、疲れたら俺が抱えてあげるからね」
「ギリギリまで頑張りますよ。ついでに王都にも戻りませんか? セティさんにもお会いしたいです」
「駄目だ。王都を通らずこのまま西に向かってカカントに入る」
セティさんから私にとお土産のお菓子を食べながら提案するも、レグはすぐにまた却下する。
何でそう私の言うことなすこと全部否定するかな…。私を想って否定してるのは解るけど、その理由が解らない。
隣に座るレグをジッと見つめるも表情変えず水を飲んで視線に気づかない振りをする。
「はぁ…。カカントってどんな国なんですか?」
「中小国家であるにも関わらず他国に吸収されることなく残り続けてる珍しい国です」
「へぇ…。でもこの国と小競り合いしてましたよね?」
「メスのことで少し…」
「あの色欲魔の王様がカカントにいるメスを攫ったとかなんとかって小競り合いしてたんだよ。ほんと困った王様だよね」
そう言ってシャルルさんがレグを見るけど、これにもスルー。
まぁこれに関してはレグには関係ないもんね。
「じゃあどうやって残り続けてるんですか? 強い人がいるとか?」
「カカントはメスの保養地として有名だからだ」
「温泉が有名なんですか?」
「違うよトワコ。温泉だけじゃなく、美容にいい施設がたくさんあるから侵略できないんだ。戦争でぐちゃぐちゃになったらメスから反感食らうでしょ?」
「相変わらずメスに優しい世界だね」
「メスが多いから美味しい料理もたくさんあるよ。身体にいいものもあるし、あとなんだっけ。薬もある」
「く、薬?」
「サプリメントです。姉上もカカントに行った際は必ず大量に購入してきます」
美容系サプリメントかな?
医学が発達しているこの世界なら私も飲んでみたいなぁ。
「トワコは何もしなくても可愛いし綺麗だけど、メスには必要なんでしょ? 欲しいものがあったら何でも言ってよ」
「いやでもお金が…。そういうのって高いだろうし…」
「あ、大丈夫。王都にいるときに全財産おろしてきたから当分の間遊べるよ」
「さすがにちょっと…」
「まぁ俺がいなくても王様がいるから大丈夫! 元隊長様もいるしね」
「大金を動かすとなると時間がかかりますが、観光地での消費なら問題なくすぐ購入できます」
「そうじゃなくて、いつも奢ってもらってばかりですし、そこまでしてもらうわけには…。私が働けばいいんですけど…」
「俺がさせると思うか?」
「思わないけどぉ…! 王都でも砦でも貰うばかりで申し訳ないんですよ」
「オスが衣食住を揃えるのは当たり前なので気にしないで下さい」
セトさんの言葉に皆が頷くけど少しモヤモヤする。
申し訳ないって気持ちがいっぱいになるけど、彼らが私を働かせるなんて絶対にしない。
でも私も何かしてあげたい。してもらうばかりじゃ心苦しい。
そう思うけど私の立場上、何もできないのは解っている。迷惑かけるのも目に見えて解る。
「わかりました。これからもお願いします」
「うんうん。トワコは気にしなくていいからね」
「トワコさんは本当に優しいなぁ…。俺には本当にもったいない…」
羨望の眼差しをアルファさんに向けられるけど、私からしたらかなりここまでされるのは少し異常なことだ。
もちろん、地球にだってそういう男性がいるのも解ってるけどやっぱりこの価値観には慣れない。
他のメスみたいに傲慢にだってなりたくない。番とは対等でいたい。でも私じゃ何もできない。
「カカントには他にも何かあるんですか? 本当にそれだけで侵略されないんです?」
「そこの王は歴代、力ではなく賢い奴が決まって王位を継いでいる。だから他国とうまく交渉して残り続けているんだ」
「それに北の大山脈の恩恵で各所に温泉地を作ってその価値を高めているんですよ。どこから侵略されてもメスの反感を買ってしまうようにと」
「す、すごい…。でも少し珍しいですね。北の大国もこの国も強い人が王様になってますよね」
「は、はいっ。そうです…!」
「今の王様はレグより強いの?」
「俺より弱い」
「それでいいの?」
「俺は王になるつもりないからな」
そう言って頬を軽く触るので思わず肩が飛び跳ねる。
過剰な反応にレグは首を傾げたがすぐに理解したのかシャルルさんを睨みつけた。
「ああ、でもカカントには他にも有名な場所があったような…」
「バカ狼、ちょっと黙ってろ」
「他にも何かあるんです?」
「あーあ、もう…。王様に殺されろ」
「えッ!? っあ…。いや、な、なんでもないです…」
「え?」
私の質問に狼の耳と尻尾が飛び出してプルプルと震えだす。
全員それ以上話すのを止め、変な沈黙が流れる。
気になってシャルルさんとレグを見るけど無反応。
「セトさん」
なのでセトさんの名前を呼ぶと彼も肩を跳ねらせ、視線を下に背ける。
「……カカントはメスの保養地として有名な国ですが…。その…、オスにとっても保養地として有名なんです…」
「オスも温泉が好きなんですね」
「…」
「……。他にも何かあるんですか?」
「…先に言っておきますが、私は訪問したことがありません」
「ん? うん…」
「その…オスが多い世界ですので………い処理のための歓楽街がですね…」
「ごめんなさい、よく聞こえなかったです。なんの施設なんですか?」
「…アルファ」
「すみませんすみません! 性処理目的の歓楽街があるんですッ!」
「………えッ!?」
「そこで働くのはオスだけなんですけど、メスのような見た目がいいオスを集めて番がいないオスの性処理をしてるんですッ! お、俺も行ったことがないので詳しくは知りませんがそう聞いてます…!」
「そ、そうなんですか…!」
「勿論、メスが自分好みのオスを見つけるために訪問している場合もありますし、建物も一風変わった形式で建てられているので観光地としても有名なんです。大半はオスがそういう目的で利用してますが」
なるほどなぁ…。メスが少ないとそういう施設もあるんだ…。
まぁ日本にだってそういうお店はあるし、おかしなことはないけど異性で話す内容ではないね…。
「(でも一風変わった建物はどんな感じなのか見たいなぁ…)レグ」
「そこを壊滅させたいのか?」
「別に利用しようなんて思ってませんよ。どんな建物なのか気になってるだけです」
「警戒心ないうえくせに好奇心は旺盛だな」
「自分がどういう立場にいるかわかってるけど、気になるものは気になるんです。この世界に来て観光とかしたことないし…」
能天気だと思われるけど、この世界に来てからずっと引きこもりな生活を送っている。
シャルルさんといるときだって宿屋にほとんどいたし、王都に到着してからもセティさんの屋敷で過ごした。樹海に来てからもそうだ。
せっかく観光地として有名な国に行くんだから少しぐらい寄り道したい。
「みんなもいるんだし危険じゃないよね? ルルヴァだって捕まえたんだし」
「ふー…。あの駄犬捨てるか」
「アルファさんは関係ないです」
「まだ始祖像にお祈りしてないしこのまま捨てていいんじゃね?」
「わー! それだけは勘弁してくれ!」
「お願いしますレグ。ずっと一緒にいるから!」
温泉に一緒に入るのも我慢したんだ。これぐらいのワガママは許してほしい。
ちゃんとみんなと一緒にいるし、姿も隠す。あとはちゃんと言うことを聞く!
「解った」
「レグ!」
「いいんですか?」
「どっちにしろその近くに目的の教会がある。いずれバレてた」
「そうですが…。あそこの治安はあまりよくありません」
「大丈夫です、セトさん! カカントでは絶対に大人しくしますし、一人にならないことを誓います」
「…解りました。それなら従います」
「ふふっ。旅行みたいで楽しみですね。あ、この場合は新婚旅行になるのかな?」
「トワコ、シンコン旅行ってなに?」
「私の世界では結婚…えーっと、番になったら二人の愛を育むために旅行にでかけることを新婚旅行って言うんです」
「へー。今回はこいつらいるからシンコン旅行じゃないし、いつか二人で行こうよ」
「あー…そうですね。いつか行けたら私も嬉しいです」
未来はどうなってるか解らないけど、全員とじゃなく二人っきりで旅行するのも悪くないかな…。
うー…日本に帰りたい気持ちは残ってるのに、彼らと離れたくない気持ちもどんどん強くなってくる…!
だけど新婚旅行ができるかもしれないと思うと胸がどうしようもなく高鳴ってしまった。
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