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47.砦生活⑧

「トワコ、苦手なら部屋にいていいんだよ?」

「で、でも心配だし…。殺さないって約束もしてくれたから…」

「あーもう。あんな奴らの為に泣きそうな顔しないでよ」


翌日。

ぐっすり寝たおかげで心地よい朝を向けた。

いつの間にか戻ってきたレグとシャルルさんが左右で寝ていたので起こさないよう身体を起こすと、すぐに二人に引っ張られベッドに逆戻り。

朝のマーキングをする彼らになすがままにされていると、外がいつもより騒がしかった。

聞けばお昼前にレグとアルファさんの決闘があるらしい。

そんなもうすぐにやるの!?と驚く私を無視し、洗顔から着替えの準備、朝ご飯の用意から口元に運んでくれたりといつものように介護…じゃなくてお世話され、あっという間にお昼を迎えた。

砦の外は傭兵団のみんなが寝床や宴会場にしているのでかなり広い。

そこにレグとアルファさんが見合っているのを仲間たちが囲んで興奮気味に野次を飛ばしている。


「トワコに言われてるから殺さないが、不可抗力なら仕方ないよな」

「ああ、問題ない」


周りの声で二人が何を話しているか聞こえないけど、耳がいいシャルルさんには聞こえていたらしく怪しく笑って目を細める。

お願いします。お願いですからケガもなく無事に終わってください…!

つがいにするつもりはないけど、彼には本当にお世話になった。ケガすることなく終わって、私を諦めてほしい!


「自分が審判を行う。二人とも、問題ないか」

「ああ」

「デーバ、頼んだ」

「ならば始めよう」


二人の間にデーバさんが立ち、決闘の合図を送ると梟になって空を飛んだ。

それと同時に二人も獣姿に変身し唸り声をあげ、衝突する。

身体はレグのほうが大きい。アルファさんも普通の犬や狼より大きいけど、レグより二回り小さい。

体格差ではレグが優勢だけどアルファさんは機敏な動きで攻撃を避け続け、隙を見つけると牙を剝きだして噛みつく。


「れ、れぐぅ…!」

「大丈夫だって」


心配で落ち着かない私をシャルルさんが慰めてくれるけど、全然落ち着かない。

攻撃をしては避け、避けては攻撃をするアルファさん。

レグは俊敏じゃないものの地面にヒビが入るほど怪力の持ち主。一撃でアルファさんを倒そうとしているのがわかる。

アルファさんもそれが解っているから噛みついてもすぐに離れるので決定的な攻撃ができない。

何度もそれを繰り返しているうちに二人とも血を流し始めた。

飛び交う血にギャラリーの興奮は最高値に達する…。

止めてほしいのに止めれない。止めたらいけない。

それが歯がゆくて、ただ死なないことを祈り続ける。


「おっ。やるじゃん、アルファの奴」

「レグッ!」


偶然なのか故意なのか解らないが、アルファさんの流れる血がレグの目に入って視界を奪う。

その瞬間をついて右肩に激しく噛みつき大量の血が地面を汚す…。

レグはアルファさんを振りほどこうと暴れる。でも離れない。

数秒の膠着状態が続いたが、右足を地面に叩きつけるとその衝撃でアルファさんは口を離してしまった。

すぐにレグの牙がアルファさんの首に向かう。


「レグ、ダメッ!」


殺さないと言ってくれたけど、信じてるけど叫ばずにはいられなかった。

アルファさんの首に噛みついたまま地面に叩きつけ、砂煙があがると同時に人間の姿に戻る。

勝敗はついた。レグの勝ちだ。

すぐにアルファさんも人の姿に戻る。

首から流れる血を抑えながら荒い呼吸を整えるアルファさんと、少しだけ息を切らしたレグ。圧倒的に強さに差があるのがわかった。


「ああ、思い出した。お前、蒼月の傭兵団だな」

「ハァ…! お、思い出してもらえて光栄だ…」

「お前ら傭兵団には苦戦を強いられたからな。まさかそのリーダーがこんなに若いとは思ってなかった」

「グッ…! クソッ…!」

「強さに問題ないがつがいは諦めるんだな。トワコにこれ以上のつがいはいらない」

「……ッおれは…! 戦場育ちだ…ッ」

「…」

「トワコさんが争いを嫌っているのも、血が苦手なのも知ってるッ…。だから俺がそれを全て引き受けてやる…!」

「…嫌われてもいいから傍にいさせろと?」

「そう、っだ…! 近づく奴らは俺が処理する…! 番犬になるッ。お前らにとっても嬉しいだろう…。っはぁ…! そういうのは俺がして、俺だけが汚れて、俺だけが嫌われたらお前らは手を汚さなくても守れる!」

「………いい提案だな、悪くない」

「だから俺を認めろッ!」

「レグ! アルファさん!」


一向に動こうとせず何かを話している二人。

早く傷の手当てがしたいのに何を話してるの?

止まらない血に痺れを切らして二人の元に駆け寄ろうとするも、シャルルさんに引き留められた。


「血で汚れるよ」

「いいから! 早くケ、ケガの手当てを…!」


私だけが焦っている。

彼らにとっては日常茶飯事な光景かもしれない。この世界の傷薬がかなり優秀なのも知ってる。

それでもケガをすれば痛いし、心配になる。

握られた手を振り解こうとするも離してくれず、そうこうしている間に身体についた汚れを払いながらレグが先に戻って来た。


「大した事じゃない。トワコ、俺が勝った」

「う、うん…」

「こいつをつがいにしろ」

「………え…?」

「何様俺様王様がよぉ! お前自分勝手にするのもいい加減にしろッ。俺の意見は無視か! 絶対に嫌だ!」

「うるさい」


レグが勝ったらアルファさんは私を諦めるんだよね? なのに何でそうなったの? あんなに拒絶してたのに何で?

フリーズする私を置いてレグはシャルルさんに耳打ちをし、何かを伝える。


「……もうほんっといや…。トワコ、薬渡して部屋戻ろう」

「シャルルさん?」

「今回だけ。今回で最後。次は絶対にない!」

「レグ、どういうこと?」

「薬貰うぞ。クソガキ、そいつにも渡してやってくれ」

「俺に雑用させんな! お前もさっさと薬飲んで血ぃ止めろ! トワコが心配してんだろ!」

「と、トワコさんが俺の心配を…!?」

「あ、ちょっとアルファさん!? 大丈夫ですか!?」


血を失いすぎたせいか、心配したせいかわからなかったけど久しぶりに気絶をして決闘は終わった。







「……っ…こ、こんなに近いの初めてだぁ…!」

「……」

「お、俺に…俺なんかにこんな可愛くて優しいつがいが……と、トワコさんとつがい…! わぁ…!」

「アルファさん…あの…」

「声も可愛い…っ。あう…や、やっぱこの距離は無理だ…! でも、う、う、…うー…!」


幸い二人の傷は薬ですぐに治癒し、どうしてレグがアルファさんがつがいになることを許したのか理由を聞こうと四人で集まった。

二人に挟まれ目の前には挙動不審なアルファさんが正座している。

許したと言っても私に近づかないよう牽制する二人だけど、アルファさんはまったく気にせず私だけしか見ていない。

真っ赤に染まったアルファさん。どんどん流れてくる汗と言葉がつまっていっぱいいっぱいになってて心配になる。

声をかけるといつものように少し離れて視線を背けた。あ、落ち着く。


「で、なんで勝手にレグが決めたんですか」

「使えるからだ」

「え?」

「使えるから」

「それだけじゃわかんないですよ…」

「オオカミのくせにイヌに成り下がってお前を守ると宣言した。俺に攻撃を食らわせたし、命を懸けてお前を守ると言ったから許可した」

「俺は嫌だけどね! トワコとの時間が減っちゃう」

「だからって…。それに命を懸けて守らなくても…」

「ま、負けましたけどトワコさんは守れる! ます! 交尾の回数だって少なくて構いません!」

「誰がお前とさせるかよッ! トワコもオオカミと交尾なんて嫌だよね? こいつら長いしねちっこいって聞くよ?」

「や、止めてください!」

「シャルル達は無駄に回数多いだけだろ」

「確実に孕ませるには回数が大事だろ」

「レグももう止めて!」


久しぶりに聞いた単語にカッと顔が熱くなった。

ここ最近聞いてなかったから油断してた!


「真っ赤になって可愛いねトワコ」

「おい。こいつと交尾してないだろうな」

「綺麗で清潔なところじゃないと病気になるって言うからできてねぇよ。ここも綺麗にしたけどまだ汚いし、何より他の奴らに声を聞かれる。トワコの声は俺だけのものだからね」

「そうか。なら屋敷を建てるよう手配しよう」

「す、すみません! 俺がもっとちゃんと掃除しなければいかなかったのに…! すぐ綺麗にしますね!」

「もうほんとにやめて…」


何でそんな平然と話ができるのか…。うん、こういう世界だから。

耳を塞ぎたくなるのを堪えつつ、交尾に必要な場所、条件などを三人で話し始める。

獣人とどうやってヤるのか解らないし怖いのにできるわけないよね!

あともうなんていうか、すっごい交尾に執着するって言うか、こだわってるのが不思議だ。

こういったらあれだけど、シャルルさんもレグも子供が好きってタイプじゃない。なのに欲しがる。


「あの、みんなはそんなに子供が欲しいんですか?」


そう思って口にすると、言い争っていた三人は喋るのを止めて私をジッと見つめる。


「だってメスは子供が好きなんでしょ?」

「そうだけど…。オスは好きじゃないの?」

「トワコとの子供なら好きだよ。でも多分トワコよりは好きになれないかなー」

「なのになんでそんなに…その、こ…うびしたがるの?」

「子供ができたら俺のものになったって感じるからかな」

「それだけのために…?」

「それに交尾って最上級の許された愛情表現じゃん?」

「俺の匂いもつくしな。安心する」

「早くトワコの全身に俺の匂いつけたいなぁ…」


なんか少しモヤモヤする…。

自分のものにしたって証が欲しいってこと? 子供が好きなんじゃなく?

そう聞こえてしまって思わず眉をしかめてしまう。


「トワコ?」


彼らは独占欲も執着心も所有欲も強い。

それらすべて満たされるのが、私に子供を産んでもらうこと…。

私が思い描くものとは少し違う価値観をどう説明したらいいんだろう。それとも私が潔癖すぎる?

しょうがないじゃない。彼氏がいたこともないまだ子供な私にいきなり旦那さんができて子供のことについて考えるなんて無理だよ。


「お、俺は子供も好きだから自分との子を産んでほしいです…。きっとトワコさんなら…その、俺の親みたいに捨てないだろうし…。えっと…愛情深く育ててくれるって…そう思ってます…」


シャルルさんとレグとは違い、私の価値観に寄り添ってくれるアルファさんに心が救われた気がした。

「好きだから自分の子を産んでほしい」

そう、私もそう思う! その言葉がほしかった! 二人もそう言ってくれてるのかもしれないけど、やっぱり言葉選びって大切だよね!


「はい、私もそう思います」

「あ、ちょ、そ…! そんな目で俺を見ないで下さいぃ!」

「え、なに。トワコ、最初はそいつとの子供を作りたいの?」

「ち、違うよシャルルさん。アルファさんの言葉に感動しただけです!」

「感動するようなこと言った?」

「えっと…。ただの価値観の問題なんです。シャルルさんも私が好きだから子供を産んでほしいんですよね?」

「当たり前じゃん」


うん、やっぱりそうだ。

先に自分の「欲」を言われたらからモヤモヤしたんだ。


「まぁでも正直言うとトワコにクロヒョウは産んでほしくないんだよね。でも高確率で産まれるのはクロヒョウだろうし…」

「あ…」

「育て方次第だけど苦労するの解ってるからさ。ま、それはおいおい考えるとして交尾だけはしたいなー! なんかすっげぇ気持ちいいらしいし、早く見たことのないトワコの顔見てぇ」

「ひゃあ!」

「ねじ折られたいのかクソガキ」

「いてぇんだよクソライオン! 力加減の練習したくせに全然なっちゃいねぇなぁ! トワコの時間無駄にしやがって!」

「お前が触るからだろうが。触れるな」

「俺のつがいに触れて何が悪い!」

「俺のつがいだ」

「はぁ…。もういいや、止める元気もない…」

「あのトワコ、さん…!」

「アルファさん。そう言えばお話の途中でしたね、脱線しすぎちゃいました」

「俺、あの、ほんと…こ、こんなんですけど…! ちゃんとトワコさんのことが好きです! 情けない姿ばかり見せてますが、ちゃんと守ります…。守ってみせます! だから俺をつがいとして受け入れ…う、…うう…受け入れて下さいッ!」

「…レグが許してくれたし、アルファさんにはたくさんお世話になりましたからね。でも本当に私でいいんですか? 他にも素敵なメスはいますよ」

「トワコさんがいいんですッ! 絶対に後悔しません! く、狂わないように頑張ります!」

「わかりました。じゃあアルファさんとつがいになります」

「あいっ、あい…ありがとうございましゅ…!」

「ちょ、また気絶しないでくださいってば!」


前途多難な番犬こと、アルファさんが正式につがいになった。

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