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46.砦生活⑦

「事情は解った。侵入者は俺が排除してやろう」

「そうじゃないよ!」


みんながいる前でキスをされ、また酸欠になってようやく解放された。

遅れて出てきたシャルルさん、アルファさん、デーバさんにレグのことを説明して先ほどの部屋へと戻る。

レグはずっと私を離さず膝に乗せ、マントで身体を隠したまま今までのことを聞く。

たまに首にキスしたりしてくるのをシャルルさんが止めようとするけど、相変わらず子供扱いして適当に流す。


「ここにいるみんなに助けてもらったんです。だからそんなことはしないでください」

「だがこの土地はもうお前のものだ」

「……レグのじゃないんですか?」

「ああ、その前に俺らのことも説明しておこう」


王都に残ったレグとセトさんは自分の父親である王様と始祖返りルルヴァを捕らえた。

王位を簒奪したレグは国の混乱を避けるため、一時的に王様になって国政に励んでいたらしい。

それにセトさんも付き合わされ、現在もその仕事関係で他国にいるとのこと。

さらに北の大国、西の中小国家と協議を何度も重ねて中小国家とは強固な同盟関係となり、北の大国とは以後百年は戦争することなく過ごせるよう条約を結ばせた。

なんとなく聞いていたこともあったけど、王様になってたのは知らなかった…。


「その時にこの樹海をこの国の領土にした。北の大国もそれを認めた」

「それでなんで私のものに?」

「メスは高価なものを喜ぶと聞いた」

「はぁ…」

「嬉しくないのか?」

「……それだけの理由でですか!? い、いいですよ。別に欲しくないです」

「でももうお前のものだ。好きにしろ」


土地をもらってもどうしたらいいか知らないよ…。

ご機嫌に擦り寄るレグと溜息をもらす私。

一緒になって話を聞いていたデーバさんとアルファさんは案の定驚いた顔をしていた。


「で、何でこいつの身体から血の臭いがする。森にあった死体はなんだ」


和やかなムードがヒリついた空気に変わる。

レグの殺気はここにいる誰よりも強い。

デーバさんも珍しく冷や汗を流して焦っている様子だった。


「レ、レグ。あのね「俺のせいでトワコさんを危険な目に合わせてしまった。処理は問題なく終わっている。血の臭いがするのは俺が触ったからだ」

「素直に喋るお前を評価してやりたいが殺す」

「ダメですってば! 私はケガしてないしいいじゃない!」

「血が苦手なお前を汚したんだ。そのガキは何をしてた」

「あー…。そればっかは本当にトワコに悪いと思ってる」

「止めて! ここで暴れたら嫌いになりますよ!」


かなりお世話になってるのに殺すなんてしないでほしい。というか、しないで!

ハッキリ言うと少しだけ眉間に皺を寄せてフイッと視線を背けた。よし、これで大丈夫。


「それよりお前ら、いつになったら出て行く」

「レグ?」

「この土地はもう不可侵領土ではなくなった。トワコの領土だ」

「止めてレグ。私は土地なんていらないし、彼らも困ってるんだから好きにさせてあげて。それに私たち、ここから離れようとしてたの」

「何故だ。処理は終わっているとは言え、もう少し身を隠す必要はあるぞ」

「………」


間違った。今話すことじゃない…! 話しの流れでつい言ってしまった!

青ざめて黙る私とは対照的にシャルルさんはニヤリと笑って、アルファさんを指差す。


「そっちのオオカミがトワコのつがいになりたいんだと」

「―――ほう」


さらに増す殺気に顔をしかめるアルファさんとデーバさん。


「……トワコさんのつがいになりたいのは本当だ。英雄と言われるお前より弱いかもしれないが、これでも傭兵団をまとめるリーダーだ。俺と仲間で守ることができる。命を狙われているなら俺らが必要だ」

「いらん。俺一人で十分だ」


さすが英雄様。いや王様。不遜だ。俺様だ。

抱きしめる力が増し、アルファさんを睨みつけるレグは一段と怖い。

なのにアルファさんは険しい顔だけど震えることなくジッとレグを見て、ハッキリと想いを告げる。

本当に強い人だ。戦闘もだけど、精神的にも強くて見習いたくなる。


「ですがトワコさんと離れるなんて諦めきれません」

「殺すぞ」

「…っ解りました。では通常通り、決闘で決めましょう」

「ちょ、アルファさん!?」

「そいつの名前を呼ぶな」

「んぐっ!」

「おいっ、トワコが苦しんでんだろ! あと力弱めろ!」

「…」

「ぷはっ! 決闘なんかしないでください」

「ならこいつをつがいにするのか?」

「それは…」

「ト、トワコさん…。あの…俺はどうしても、あ、あなっ、あなた…とつがいに…! つがいになりたいです…。負けたら諦めます…。でもそうじゃないなら俺にも…チャンスをくだしゃいッ!」

「なんだこの犬」

「メスが苦手なんだよ」


決闘と言えば最初の村で見たあれのことだよね…?

この世界のオスは常に力で勝者を決める。

強ければつがいになる権利を貰える。強ければ優先的に交尾ができる。

この世界では正しいのかもしれないけど、ケガをするのも死ぬのも嫌だ…。

そんなことしないでほしいのに、だからと言って代替案が思いつくわけでもない。

「止めてほしい」と目でレグに訴えかけるけど目元にキスをするだけで返答はない。


「決闘に関してはメスが口を挟む資格はない」

「でもケガするし、最悪…死んじゃうかもしれないんですよね…?」

「俺が死ぬように見えるか?」

「そうじゃないけど…」

「じゃああいつに死んでほしくないのか? つがいでもないのに?」

つがいじゃなくてもそういうの嫌いだって知ってるじゃないですかっ」

「トワコさんが俺の心配してくれてる…!」

「黙れ犬。トワコ、お前は俺の心配だけしてればいい。他のオスに気を許すな」

「はぁ? お前だけのトワコじゃねぇし」

「…どうしても決闘するんですか…?」

「あいつがそう望んでいる。俺も断る理由はない」

「……ならお互い殺さないって誓ってくれますか…?」

「善処しよう」

「解りましたっ」


口を挟む資格がないと言われたらそれ以上止めることができなかった。

私がつがいを断るだけじゃダメなのかな。ダメなんだよね…。

諦めて見守ることにし、その間に二人はいつ、どこで決闘するか話し合う。

それらもすぐに終わるとようやくレグから解放された。


「残念だが部屋に戻ってくれるか?」

「え? どうしたの?」

「別件でこいつらに話したいことがある。少し血生臭い話をするからな」

「あ、そういうことなら…」

「俺が送ってあげるね」

「お前も残るんだ」

「なんでだよ! っておい! その力で頭を掴むな!」

「大丈夫ですよシャルルさん。じゃあ部屋に戻ります」

「部屋から絶対に出るなよ」

「わかってます。疲れてるし横になってますね」

「ああ、そうしてくれ」


血生臭い話は聞きたくないなぁ。

言われた通り四人を残して自室へと戻る。

今日は本当に色々なことがあった。

誘拐されて、アルファさんに告白されて、レグが帰って来て…。感情もジェットコースターだ。疲れた…。

でもレグが無事に戻って来てくれて嬉しいな。セトさんも大丈夫そうだし、ようやく安心して眠れる。







「で、なんだよ」

「お前、こいつらにどこまで話した」

「トワコの命が狙われてるってだけ」

「……お前達は元傭兵団だったよな」

「あ、ああ」

「なら俺の私兵として雇う。望むなら王都に住む場所も提供してやるから依頼を受けろ」

「何をいきなり…」

「トワコの前では嘘をついた。王は捕らえて殺したが、始祖返りには逃げられた。致命傷を負わせたが死体はあがっていない」

「だろうと思った。じゃなかったらこんな遅くまでかかんねぇもんな」

「セトを中心に探しているがまだ見つからない。他国に逃げた可能性もある。そいつを見つけてほしい」

「ふむ…。何でまた始祖返りを殺そうと? それもあの子が関係しているのか?」

「あいつがトワコを狙っているからだ。あいつは絶対にトワコを捕まえに来る…諦める様子なんてなかった…。そんなのつがいの俺が許すわけないだろう…! 絶対に見つけて、俺の手で殺さないといけない」

「トワコさんを守るためならいくらでも協力しよう。デーバ、いいか?」

「……我らは北の者だぞ。王都に入れていいのか?」

「構わん。王都にもお前達より強い奴らはたくさんいる。俺の命令一つでいつだって殺せる」

「すっげぇ自信…。さすが英雄様だねぇ」

「解った。正式に我らを雇うと言うなら断る理由もない。あいつらにも傭兵団復活だと伝えてこよう」

「ああ、俺も行こう」


「ところで英雄様。誰が国王になったんだ?」

「俺の右腕だった奴だ。ついでに城にいた腐った連中も追い出したからいつでも戻れる」

「まぁそれもあの始祖返りを捕まえてからだな。王国乗っ取りおめでとうございまーす。因みに予定通り一日で?」

「半日だ。そんなことより、俺がいない間に何があったか全て吐き出せ」

「…さっき言っただろ」

「全部だ」

「トワコー、英雄様に殺されるー! 助けてー!」

「待てクソガキ」

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