45.砦生活⑥
「傭兵団を処理するついでにトワコを見つけて誘拐しようと思ったんだろうね。この一か月で樹海に入り込んだあいつらの仲間から聞き出して潰す準備はしてたけど、まさかトンビ族を使うとは思わなかったよ。ごめんね、巻き込んじゃって」
舌を絡ませるほどの激しいキスをされ、酸欠状態になってようやく解放してくれた。
グッタリしてる私に自分の匂いを擦り付けて満足したシャルルさんは超絶ご機嫌になり、デーバさんのいる部屋へと抱えて今回のことを説明してくれた。
「いえ、私も油断してましたし…。みんなに大したケガがなくてよかったです。デーバさんもありがとうございました」
「こちらこそ迷惑をかけてすまない。…ところで、アルファはどうした」
「さぁ? 川で死んでんじゃない?」
「怪我でもしたのか?」
「精神的ダメージを負って死にたくなってると思う」
「あはは…」
たまに狩りだと言ってシャルルさんが森に入っていたのも、樹海に入り込んだあの人たちの偵察隊を処理するためだったらしい。
そんなことを知らない私は警戒心などなくし自由にしていたせいでいとも簡単に誘拐されてしまった。
元から潰すつもりだったからと逆に謝ってくるシャルルさんとデーバさんに、私も油断してましたと謝り、少しの間三人が頭を下げる奇妙な光景を作った。
「あいつは何をやらかしたんだ…。また君に迷惑を?」
「いえ、薬を貰っただけです。ただちょっと興奮?してみたいで…」
「傷つけたのか? はぁ…。本当にすまない。悪い奴じゃないんだが少し大雑把なところがあってな…。君を気に入ってるからそんなことはしないと思ったんだが…」
「あ、いえいえ。私でも気づかなかった傷に気づいて持ってきてもらったんです。それで…まぁ…その…」
「あいつがトワコにキスしたんだよ。毒を吸い出すためだったらしいけどそれに気づいて発狂中」
「なんと…。トワコ、どうか嫌いにならないでやってほしい…。あいつはと言うより、オオカミ族は好いたメスに絶対無体なことはしない。ただの善意だ」
「知ってる。オオカミ族は自分のメスしか見ないって有名じゃん。くそ、あんなんだから大丈夫だって油断した」
「そうなんですね。……え、アルファさんって私のこと好きなんですか?」
「君の食料はあいつが狩ってきたものだ。……あいつめ…何も言ってないのか…!」
「どおりで俺に狩りさせてくれねぇわけだ! 視線も気になってたけど警戒してるだけかと思った…。嘘だろ…気づかなかった…この俺が…!」
「アピールが下手で不器用だからな」
それに気づいたデーバさんのほうがすごいよ。
だってメスが苦手だって言うから視線を感じても「警戒してる?」って思うし、ご飯はここのリーダーだから用意してくれてるだけだと思った。
いつから好意を向けられていた? いや、そもそも本当に好意がある? シャルルさん、セトさん、レグの三人に比べて解りにくいからまったく気づかなかった。
「このままだと埒が明かないから自分から言わせてもらう。アルファはトワコを番にしたいと思っている。それも解っているから砦の奴らもトワコに手を出さない。トワコの為に用意したものは全てあいつからが準備した贈り物だ」
「俺の前でそんな話するんじゃねぇ…! トワコっ、トワコはもう番なんていらないよね? あのライオンにも番を作るなって言われただろ!?」
「そ、そうですね。アルファさんのこと嫌いじゃないし、頼りにしてるんですけど私はもう番を作るつもりはないんです」
「確かに他の番に比べて弱いかもしれない。だが悪い奴ではない。君のためなら喜んで命を捧げる覚悟もある」
「命はできるだけ大事にしてくれるほうが嬉しいんですが…。それにレグ…ライオン族の番がかなり嫉妬深いので殺されるかもしれません」
「俺だって殺してやるからな! 脅しじゃねぇぞ!」
「だがあいつには君と番になってほしい…。自分だけじゃない。この砦にいる奴らはそう願っている。そしてできるだけ早く子を産んでほしい」
「ふっざけんな! そんなの絶対ぇ許さねぇ!」
「落ち着いてください、シャルルさん」
興奮するシャルルさんの手を握り、座るよう催促すると不本意ながらも座ってくれた。
それでもデーバさんを睨みつけ、殺気を飛ばし続ける。
アルファさんにはかなり助けてもらっている。可愛いなって思うときもあるし、人として尊敬してるんだけど番にはできない。
レグとセトさんがここに来たら行きたいところもあるし、何よりあの二人…いや、レグが絶対に許してくれない。許さないだけならまだマシ。もしかしたら本当に殺しちゃうかもしれない…!
「ごめんなさいデーバさん」
「……そうか…。あいつの子供を見たかったんだがな…」
まるで血の繋がった父親みたいな発言に少しだけ良心が痛む。
「トワコ、あいつらは殺したし樹海を出よう」
「え、でも…」
「ライオンとタカには伝言残して他国に行こう。やっぱ一つのところに留まるのは危険だ」
番を、私を奪われるかもしれない。
そう感じているシャルルさんは最初にここに来たときのように周囲を警戒する。
でもここならゆっくり休めるし、約束もある。そう思うんだけど、シャルルさんが嫌がるならここから離れたほうがいいのかな…。アルファさんの好意にも応えられないし、早々に離れたほうが諦めもつくよね…?
それにルルヴァからの追手もあるかもしれない。
「………そう、ですね…。みなさんにまた迷惑かけるかもしれませんし、どこか別の場所に行きましょうか」
「トワコ!」
「そ、それだけは考え直してくれないか!? せめて…そう、せめてあいつの心の準備はさせてほしい!」
「いえ、早めに出て行ったほうが「トワコさんが出て行く…?」
私の決断に喜んで抱き着くシャルルさんを撫でながら出て行くと告げると、デーバさんが立ち上がって必死に引き留める。
心の準備をする前に好意を伝えられたら断り切れない。できれば聞きたくない。
アルファさんのことを考えてない自分勝手な行動だけど、色々お世話になったし、助けてくれた彼の悲しむ顔を見たくない。
しかし水浴びを終え、びしゃ濡れのアルファさんが部屋に入って来てすべてを聞かれてしまった。
濡れた髪の毛のせいで少し幼く見える顔。いつもは鋭い目なのに今はまん丸にして私をジッと見下ろしている。
「聞こえただろ。俺らは出て行く」
聞かれたことに焦って喋るのを止めた私の代わりにシャルルさんがいつも通りの口調で告げる。
じっくりと時間をかけ、言われた単語を理解した途端、狼の耳と尻尾が現れてプルプルと震わす。
そして大粒の涙をポロポロとこぼし、ぐすんと鼻を鳴らした。
「お、おれが…! おれがさっき失礼なことをしたからですか…?」
「そうじゃないんです! えっと、なんていうか…」
「お前がトワコのこと好きだって聞いたから出て行くんだよ。番はもういらねぇの」
「シャルルさん!」
「な、なんっ…なんでそのことを…!?」
「お前がまどろっこしいことをするから自分から伝えた」
「デーバァ! ちがっ、違うんですトワコさん…っ。いや、違わないんですけど…! 俺はその…。う、うう…!」
「情けない姿をメスに見せるんじゃない! 弱いオスは番になれんと言ったではないか!」
「む、無理だ! トワコさんがいる限り俺は強くなれないぃ…。あの噂は本当だったんだ…! だから怖くて…近づきたいのに近づけなくて…ッ。でもいなくなるのは嫌です…!」
「泣くな!」
「あ、あの…」
「いいよトワコ、ほっときな。気にする必要なんてないよ。番にしないんでしょ」
「そうだけど…」
「……お、おれはトワコさんの番になれないんですか…っ? よ、よ、弱いから…?! いきなりキキキス、したからですか!? 違うんですッ。違います! 下心なかったんです! 本当に俺っ、トワコさんのことが心配で…!」
「番になってないのにキスしたお前は本当に愚か者だな! 誠心誠意謝れ!」
「違うんだデーバ! 毒が盛られてるかもしれないから吸い出しただけだ!」
「どーでもいいよ。ともかく番にはならない。俺も許さない。これ以上いらない。諦めろ」
「ごめんなさい、アルファさん。えっと…色々とお世話になったし、助かったんですけど番が三人もいたら十分なので…」
「そんな…! む、むりです…。トワコさんと一緒にいたい…。トワコさんの笑顔も、その声も、優しい性格も…穏やかなところも…! 全部全部好きなんですッ! トワコさんがいない生活耐えられない! 番は無理でも一緒にいてほしいです!」
「下心ある奴がトワコの近くにいるなんて俺が許さねぇよ」
「トワコ。別にアルファの味方をするつもりではないが、君はもっと番をつれたほうがいい。旅をするならより危険だろう」
メスが少ない世界だから身を守るために番を複数持つのはおかしいことではない。
弱い自分を守るためにたくさんの強いオスが必要だ。
さらに私は唯一の人間。その希少性からどのメスより自分を守らないといけない。
解っているけど、一気に三人の番を持ってまだ困惑してるのに、そこにさらに一人増えるとどうしたらいいか解らなくなる。
デーバさんの言葉は理解できるけど気持ちが落ち着かない。
「兄貴ー! 侵入者っす! めちゃくちゃ強い奴が侵入してきたっすよ!」
子供のように泣いて一緒にいたいと懇願するアルファさんにどう返事をしたらいいか戸惑っていると、ガルドさんが慌てた様子で部屋に入ってきた。
泣いてるアルファさんと困っている私を見てすぐに何があったか理解したが、それ以上に焦った様子で外に連れ出そうとする。
「残党の処理はしたんじゃないのか?」
「俺は参加してない。そいつのミスなんじゃね」
「ミ、ミスはない…。ガルド、敵は何人だ?」
「ライオン族のオスが一人っす!」
「うげッ!」
「もしかして…」
強いライオン族のオス。それだけで誰が侵入してきたか解った。
外から聞こえる獣の唸り声に急いで部屋を飛び出し、外に出ると久しぶりに見た金色の髪が目に映る。
「レグッ!」
その名前を呼ぶとレグはすぐにこちらに顔を向けた。
やっぱりレグだ。レグがようやく到着した!
待ちになった再会に駆け寄ると両腕を広げたので遠慮なく飛びつくと、倒れることなく受け止めマントで私の身体を包みこんだ。
「ようやく会えた」
「久しぶりですね、レグ」
抱きしめたまま私の首に顔を埋め、匂いを堪能するかのように何度も深呼吸を繰り返す。
「く、くすぐったい…」
「事情はあとで説明してもらうとして、とりあえずその匂いは不快だ」
「え?」
今日で何度目かの激しいキスをされた。
少しでも面白いと思ったらリアクションまたは☆をぽちっと押して頂けると励みになります!




