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43.砦生活④

「あ、おはようございますアルファさん」

「…っはよ……ます、トワコさん…」


砦に来てさらに一か月過ぎた。相変わらずレグとセトさんは戻って来ない。

王都がどういう状況になったか知りたいけど、ここは王都から一番離れた場所。情報が入ってくるのは遅いとシャルルさんに言われ、ただ二人を待つだけの日々。でもアルファさんたちのおかげで楽しい生活を送れている。

傭兵団のみんなはとにかく優しくて、私がメスだからって無意味に声をかけたり、求愛してきたりしない。一定の距離を持って接してくれる。それが凄く嬉しくて、快適!

モテモテになりたいとか学生時代に言ってたけど、実際知らない人に好意を向けられ、迫られるとちょっと怖いということがこの世界にきてわかった。


「いい天気ですね」

「……すね…」

「今日も魔獣狩りですか? 私も何かお手伝いますよ」

「…っいい…です…」


アルファさんと毎日会話をしてきたから気絶することなく、ガルドさんの通訳もなしで直接会話できるようになった。

それでも視線は合わないし、距離とられるし、顔が真っ赤になるけど気絶することはなくなった。

普段はみんなをまとめるしっかり者の好青年なのに、私の前になると子犬のように怯えるのがちょっと可愛い。


「トワコー、俺も今日狩りに行くことになったー…」

「そうなんですか?」


一か月も経てばシャルルさんも傭兵団のみんなとかなり親睦になった。

元々社交的なのか、そういう仕事をしていたからなのか解らないけど私が関係していないところではそれなりに仲良くやっているらしい。

普段は一緒にいてくれるけど、たまにこうやって狩りのお手伝いのため不在になることがある。

その時は傭兵団の参謀である梟族のデーバさんのところにお邪魔して、北の大国の話とか知らない物語りとかを聞いて過ごしている。


「シャルルの狩りは見習うところがあるから助かる」

「俺らは群れることが苦手だからな。あ、トワコは別だからね」

「ふふっ、わかってます」


シャルルさんが現れるとアルファさんは露骨にホッとした表情で彼に近づく。

事情を知らなければシャルルさんに恋をしているみたいだ。実際はシャルルさんを壁にして私から離れようとしているんだけどね。


「じゃあ出発前に屋上行きましょうか」

「うん。おいアルファ、早く来いよ」

「わ、解ってる…」


日課となった屋上での会話。

先に二人で屋上に向かうと少しだけ冷たい風が頬を触る。

ここに来た頃は暑くてたまらなかったのに、最近は朝晩冷え込む。


「これからも寒くなるし別の場所にしない?」

「そうですね。じゃあ―――あれ?」


フッと影が差し込み、空を見上げると一羽の大きな鳥が上空を旋回していた。

ここにいるワシ族かと思ったけど、彼らは狩りの準備で一階にいる。

じゃあ上空にいるのは?


「あ、もしかしてセトさん!? シャルルさん、セトさんですよ!」

「えー…帰って来たのかよ…。死ねばよかったのに」

「おーい、セトさーん!」


逆光でよく見えないけど鷹族だ。

大きく手を振って名前を呼ぶと、凄い速さで私に向かって来る。


「え、ちょ、待って…!」


その速度はあまりにも速かった。止まる気配などなく、私目掛けて一直線に鉤爪を向けて襲って来た。

シャルルさんが名前を呼んで私に駆け寄るよりも早く鉤爪に囚われ、再び空へと舞い上がった。

あっという間に離れていく砦。

恐怖と驚きで声が出なかったけどすぐに意識を取り戻し、私を攫った犯人を見上げる。

鷹のような…いや少し違うような…。でも確実にセトさんじゃないことはわかった。


「………なにが目的ですか…?」


獣姿では喋れないと解っていても聞いてしまった。

チラリと私を見た誘拐犯は少しだけ力を強めて視線を前へと戻す。

既に砦の影すら見えないところまで来てしまった。彼が向かうのは樹海の入り口。久しぶりに見た平原にはいくつかのテントが建てられていた。


「…豹…?」


目を細めて見ると数匹の豹が私たちを見上げている。

まさか前に顔を見られたあの豹族? あそこに連れて行かれたらダメだ。

すぐにレグの加護を使おうと力を発動するも、急下降によって阻まれる。

気持ち悪い浮遊感に目を瞑り、悲鳴をあげるとピタリと止まって柔らかい草の上へと置かれた。


「さすがトンビ族だな。仕事がはえぇ」

「世辞などいらん。報酬だけ寄越せ」

「おっと、情報も頼むぜ」


ゆっくり目を開けると少し前に街で会ったシャルルさんの仲間の内の一人。

私を誘拐した鳶族は淡々と砦の情報を話し、豹の男性からお金を受け取ってさっさとその場から飛び去る。

残された私はシャルルさんの加護を使おうとするも周囲を豹に囲まれ、逃げる隙を与えなかった。


「久しぶりに見たけど相変わらず可愛いな」

「は、離してください! なんで、こんな…!」

「あぁ、それらも含めて話するからあっち行こうか」


ニコニコと人当たりいい笑顔を浮かべて優しく言われるも、恐怖が募る。拒みたいのに、逃げたいのに勇気が湧かない。

加護を使えば多分大丈夫。でも大丈夫じゃなかったら? それ以上に相手が強かったら? 戦うなんて選択肢、今までの人生でなかったからその判断が下せない。

動こうとしない私を見た男性は少し乱暴に担ぎ上げると近くのテントへ連れて行く。

砦のみんなとは違う、私の苦手な欲望に詰まった目…。

柔らかそうな椅子に降ろされ、目の前に屈んで見つめる男性。手を離してとお願いするけど無視をして触れる程度のキスをされた。


「君だから特別に教えてあげるよ。あの砦にいる奴らを殺す依頼もらってさ。ずーっとやりあってたんだけどなかなか難しくてね。君が無事でよかったよ」

「あ、あそこにいる人たちはみんないい人です…」

「騙されてるだけだよ。あいつらは街の住民を殺して物資も略奪した奴らだ。北の残党どもがうろついてるのも許されない」

「違うっ。本当にいい人たちばかりなんです!」

「それでシャルルと仲間を呼び寄せるためにあの街に行ってたんだけど…。君みたいな可愛い子と出会えるとは思っていなかった。本当に可愛い。黒い髪の毛は少し気に食わないけどそれも君だけの魅力だと思えば許せるかな」

「触らないでください!」

「そんな怯えなくてもまだ何もしないよ」


まだ。という言葉にサーっと血の気が引く。

殺されない。でも嫌なことをされる。

本能で解った瞬間、少しだけ身体が震えた。


「ははっ。メスってもっと強気で傲慢かと思ってたんだけど君は違うんだな。怯える姿が一番可愛い。早く俺のものにしたい」

「…やだ…!」

「そうそう話の続きね。とりあえず仲間も集まったし時間かけてバレないよう情報も集めてたら偶然君も見つけてさー。それからはもう必死だったんだよ。君が欲しくて欲しくてたまらない…。いつ行ってもあの駒がベッタリで攫うタイミングがなかったけど今回ようやくできた。準備も万端。あとは砦を落としてあいつらを殺すだけ」

「止めて! そ、そんなことしないで!」

「そんなにあの駒が好き? 砦の奴らともつがいになった? …ムカつくなぁ。君には俺だけでいいのに…」


チラリと左手薬指を見て強く握りしめる。

逃げたい。それに砦の皆にも報告しないと…!

でもどうやって? やっぱり加護を使って逃げる? 大丈夫?


「ああ、加護を使おうとしても無駄だよ。どんな強力な加護でも君自信の体力じゃ俺らから逃げれない。無駄なことはせず大人しくここにいてよ。あんな駒より贅沢な暮らしを約束する」


喋るたびに息遣いが荒くなる男性に震えが激しくなる。

乱暴に顎を掴まれたと思ったら、そのままキスをされ口内を激しく犯す。

両手で胸を押しやっても拘束され、抵抗すら叶わない。


「ははっ、ほんっと最高の顔! あいつら殺してよかったー」

「っひ…!」


ようやく離れてくれたと思ったら目尻に溜まった涙を舐め、もう一度…いや何度もキスをする。

怖い。気持ち悪い。怖い怖い怖い!

このまま犯されるかもしれない。そう思うと涙も震えも止まらなかった。

そんな私を見てさらに興奮する男性。


「はー…いい匂いだし、すっげぇ興奮する…。つがいにしてくれるよな?」

「……っやだ…!」

つがいにしてくれるならあの砦から手を引いてもいいぜ?」

「…」


空から見た限りでも大勢の人がいた。

砦のみんなが強いことは知ってる。勝てると信じているけど、死なないとは限らない。

どうしたらいい? つがいになんてなりたくないけど、みんなを守るためにはなるしかない…? 私が我慢すれば……でも…!


「リーダー! 砦の奴ら―――ギャッ!」


そこに一人の男性が入って来て、すべてを言い終わる前に悲鳴をあげて倒れた。

その後ろには見慣れた青黒い髪の人。


「アルファさん!」

「トワコさん……」


アルファさんの手には大きな剣が握られていた。その剣先から大量の血が滴り落ちている…。

さっきまで生きていた人を斬り殺した。

アルファさんだけじゃない。よくよく耳をすませば外からたくさんの悲鳴や斬撃、獣の鳴き声が聞こえる…。


「クソが、見張りは何してんだ!」

「森のいたるところにいたお前らの仲間なら殺したぞ。久しぶりに楽しい狩りをさせてもらった、礼を言おう」

「役に立たねぇなぁ!」

「それよりお前。トワコさんに何をした」

「俺のつがいをどうしようとお前に関係ねぇだろ!」

「何で泣いてる」

「俺にキスされて喜んでたんだよ。ああ、もしかしてお前も狙ってたのか? 悪いな、俺のつがいなんだわ」


必死に首を横に振って否定する。

助けに来てくれた安堵と嬉しさ。そして申し訳なさで何度も謝ると、見たことのない鋭い目つきに変わって獣姿へと変身した。

解っていたのか豹族の人も変身してテント内で取っ組み合いの殺し合いが始まる。


「トワコ、遅くなってごめん」

「っるるさん!」

「あとはあいつに任せて逃げよう」

「ごめっ、いつも…!」

「大丈夫だよ。元はと言えば俺らのせいだしね。掴まって」


その間に侵入してきたシャルルさんに救出される。

言われた通り抱き着くとそのまま抱え、別の場所から脱出すると近くにいたデーバさんに私を渡してテントに戻る。

声をかけたけどシャルルさんは笑って、


「全部終わらせてくる」


とだけ言って獣の姿へ変身した。

残された私はデーバさんに連れられ、砦へと戻った。

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