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41.砦生活②

あれから一時間ぐらいしてシャルルさんが戻って来た。

とてつもなく嫌そうな顔をしてついて来るよう言われたのでマントで身体と顔を隠して砦の最上階へと向かう。

そこには梟族のおじさん、デーバさんとそんなデーバさんの後ろに隠れるように縮こまっているアルファさん。そしてアルファさんを必死に励ましてる?知らない男性の三人。


「わざわざすまないね。そこにかけてくれ」

「トワコ、大丈夫だよ」

「…」


何が大丈夫なのか解らないけど言われた通り用意された椅子に座ると、アルファさんの肩がビクリと飛び跳ねた。


「兄貴、大丈夫っすよ! 落ち着いてくだせぇ!」

「無理無理…。ほんと無理だって…! デーバとお前だけで話してくれ…」

「お前さんがここのリーダーだろう。ああ、気にしないでくれ」

「そいつメスが苦手なのか?」

「兄貴に苦手なものなんてない! ただ恥ずかしがってるだけだ!」

「ガルド、お前は黙ってなさい。先にこちらの事情を説明しても?」

「もうなんとなく解るけどな」


デーバさん曰く、アルファさんは物心ついたころから戦場で生きてきた。

そこで敵味方関係なく助けれる命は助けてきたらしく、そんなアルファさんに従う人が増えていき、いつの間にか大所帯の有名な傭兵団になった。

だけど今回の王国との戦争が終わり、以後百年間は侵略しないと条約を結ばれたせいで仕事がなくなってしまったと言う。

元の村や街に戻るため解散したのに誰もがアルファさんに付き従い、仕方なく全員が住める場所を探し求めた。

大きな街、または他国にでも移り住んで冒険者として生活しようとしたらしいが、彼らの名前が大きくなりすぎてどこも受け入れてくれなかった。

これだけの人数を受け入れて街を乗っ取られたら? 冒険者になって仕事を奪われたら?

そういった理由で断れ続け、とうとうここに辿り着いたと教えてくれた。


「で、何で苦手なわけ?」

「メスは少ないとは言え、街や村には必ず一人はいるがアルファは物心つく頃から戦場で育ったからいきなり現れたメスにパニックになったんだ。驚かせてすまない」

「逃げたい…戦場に帰りたい…! 無理だ…」

「兄貴落ち着いて! 何もしてないっすよ!」

「今度はそちらの話を聞こうか。内容によっては一時的とは言わずいくらでも滞在していってくれ」

「デーバ! や、止めてくれ…! メスがいたら死んでしまう!」

「死なんから落ち着け」

「絶対に死ぬ! だってあんなに可愛いんだぞ!?」

「トワコはこの世界で一番可愛いからな」

「シャルルさん…」

「ひぃ! しゃ、喋らないで下さいぃ…!」

「す、すみません!」

「わぁ! 止めてくれ、耳が溶ける!」

「兄貴、耳は溶けたりしませんぜ!」

「悪いがクロヒョウから話してくれるか」


初めて見たメスに驚いて照れてるだけなのは解ったけど、さすがに驚きすぎじゃない?

耳を抑えてプルプル震える姿は照れてると言うより、恐怖で震えているように見えて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「トワコが殺されるかもしれないから身を隠すためにここに来た。事情は言えない」

「メスを殺すオスがいるのか?」

「まぁな。伝手を使ってここに来たのにまさかお前らが勝手に住んでるとは思わなかったんだ」

「伝手?」

「ここが誰の土地になったか本当に聞いてないのか?」

「ここは不可侵領土のはずだ」

「今回の戦争で王の息子が授かったんだよ。条約で北の奴らにも認めるよう調整したはずだ」

「そうだったのか…。王の息子と言うのはライオン族の…確か名前はレグルスと…」

「そう」

「……そのメスはもしかしてその息子のつがいなのか?」

「不本意だがな。ちなみに俺のつがいでもあるから手ぇ出すなよ」

つがいを持つようなオスではなかったが…」

「強いオスにならいくらでもメスが言い寄ってくるって聞いたことあるっすよ」

「確かにあいつの強さは異常だ。だが…」


ジッと私を見つめるデーバさん。

マントで顔を隠しているものの、あの鋭い目で見られると見透かされるみたいで居心地が悪い。


「解った。お前らを迎い入れる。貴重なメスを殺そうとするなど言語道断だ」

「話が早くて助かるよ」

「デ、デーバ…! 駄目だ、そしたら俺が死んでしまうぞ…」

「お前さんは慣れるために我慢しろ。そして早くつがいを持て。仲間もそれを望んでるだろう」

「無理だって知ってるくせになんてこと言うんだ! 知ってるだろっ。め、メスは弱いのにオスをたぶらかして弱くするって聞いた! 俺はお前達を守るために弱くなれない!」

「兄貴ぃ…!」

「そこにいるクロヒョウが弱いように見えるか?」

「……いや、でも…! すぐ死ぬって言うし…敵の弱点にもなるだろ…」

「確かにトワコは俺らより弱い。お前らに人質にとられただけでトワコは体調崩したもんな」

「わ、わ、わざとじゃないんだ! すみません、本当に気づかなくてすみません! メスだって知ってたら人質にとったりしなかった!」

「仕方ない…。一つ条件をつけてもいいだろうか」

つがい関係以外のことなら」

「こいつにメスを慣れさせたい。協力してくれ」

「却下。トワコが俺以外の奴と話すなんて許さない」

「ほら見ろデーバ! こんなにもメスに狂ってるじゃないかッ!」

「ああ狂ってるよ。それだけトワコは可愛くて優しくて特別なんだ」

「デーバァ!」


シャルルさんは得意気に言っているけど、アルファさんは半泣きで大混乱。

そんな二人に挟まれてるデーバさんは頭を抱えて何度目かの溜息を吐く。

私、喋らないほうがいいよね…? でもレグとの約束もあるしここから離れたくない。

シャルルさんの服を引っ張るとすぐに気づいて「なに?」と優しい声で返事をしてくれる。


「私は構いませんよ。ここから離れるほうが嫌です」

「聞こえない聞こえない聞こえない…!」

「綺麗な声だな。色んなメスを見てきたがこんな声は聞いたことがない」

「耳が心地いいってあるんすね…」

「ここなら安全ですし、なにより約束もあるし…」

「うー…。……こいつと二人っきりにならないって約束してくれる?」

「デーバさん、構いませんよね?」

「あ、ああ…」

「俺は認めてない! 俺は嫌だ!」

「アルファさん、どうか私をここに置いてください。お願いします」


名前を呼ぶとアルファさんも私を見て視線が交わう。

まだ顔を隠しているけど、アルファさんには顔を見られている。


「っ兄貴ー! しっかりするっす!」

「戦場では怖い者なしと言われた奴が情けない…」

「ぶはっ! 見ろよトワコ、また気絶した!」

「なんで…」


それを思い出したのか先程のように気絶をしてしまい、話し合いは強制終了した。







「アルファさん、おはようございます」


気絶したアルファさんの代わりに、デーバさんから砦にいる仲間に私たちの事情を説明してくれた。

その際、隠していた顔も明かして嘘をついていたことを謝り、これからもお世話になると伝えると地面が揺れるほどの歓声を浴びた。

シャルルさんはかなり嫌がっていたけど条件もあるし、リーダーであるアルファさんの命令と言えば従う者ばかりだからと隠さなくていいと言ってくれた。

正直、隠れて暮らすのは息苦しかったので助かった。

彼らの仲間も遠巻きに見るものの、忠告通り誰も近づいて来ない。

その中の唯一私に近寄っていいのが、みんなのまとめ役アルファさん。それとアルファさんに懐刀と言われている狐族のガルドさん。


「……」

「兄貴がおはようございますって言ってるっす。トワコさんは今日も可愛いっすね!」

「あ…ありがとうございます」

「トワコー、朝ご飯もらってきたよ。一緒に食べよ」

「シャルルさん。えっと…アルファさんとガルドさんもご一緒にどうですか?」

「…」

「無理って言ってるっす! 俺は一緒に食べたいんすけどすんまっせん」

「い、いえ…。でもこれで…」


私の前になると真っ赤になって滝汗を流し、絶対に視線を合わせないアルファさん。

それでも昨日よりマシだ。気絶しなくなった。ガルドさんを介して会話するようになってしまったけど…。

ガルドさんはあれでいいのかな…。まぁ気絶しないだけマシか。いきなり気絶するから危ないもんね。


「もう隠れず歩けるし、誰も近寄って来ないから今日は散歩する?」

「そうしたいんですけどまだその…」

「あ、セーリだったね。もう体調は大丈夫?」

「はい。体調は大丈夫です」

「よかった。じゃあ今日は部屋でゆっくりしようか」

「今までもゆっくりしてましたけどね」

「ずっと警戒してて疲れたでしょ」

「…そう、ですね。じゃあアルファさんも呼んでお互いのこと話しませんか?」

「他のオスの名前出すの止めてよ。俺は二人っきりがいいんだけど」

「ご、ごめんなさい。でも条件だし…」

「セーリ中はダメ。正直その匂い興奮するから危ないんだよね」

「……じゃあシャル「俺は大丈夫だよ。つがいだしね」


胡散臭い笑顔を浮かべ、スープをすくって口元に持ってくる。

つがいというのは甲斐甲斐しい。

相変わらずパンは一口サイズにちぎってくれるし、ご飯の準備から片づけまで全部やってくれる。

それに慣れてる自分も怖い…。


「じゃあ部屋じゃなくて屋上ならいいかな。そこなら匂いも紛れるよ」

「むー…。トワコはちょっと真面目すぎるよ。もっと他のメスみたいに不遜な態度になってよ」

「なれないよ! それにシャルルさんはああいうのが嫌だって言ったじゃないですか」

つがいになって解ったんだ。つがいからのお願いやワガママ、そのすべてが愛しいと」

「私は嫌です。つがいならちゃんと対等でいたい」

「そういうところがいっちばん好きだけどねー! あー可愛い! 今日も可愛くてたまんない!」

「ご、ご飯中にキスは止めてください…!」

「ほんとはトワコを食べたいんだけどね。仕方ない、あいつ呼んで来るよ。確かにここなら盾があるからトワコの安全を確保できるしね」

「ありがとうございます、シャルルさん」

「でもあいつにその可愛いで微笑まないで。あいつの目をくり抜きたくなる」

「や、止めてくださいね、絶対」

「先に呼んで来るからゆっくり食べててね」


私のお願いに返事をすることなく部屋から出て行くシャルルさん。

ワガママを言ってほしいって言いながら、きいてくれないのはどうなんだろう。

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