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39.逃避生活⑥

「ついたぞ。大丈夫か?」


すぐそこだと言われて二時間ぐらいは歩いた。

獣道より断然マシな道を歩いたけど歩幅が違うせいでかなりしんどく、砦に到着した頃にはすっかり真夜中になってしまった。

マントのせいで苦しいし、森の熱気で身体が熱い。

水が飲みたかったけどそれで顔を見られるのが怖くて我慢したけどそろそろ限界…。

シャルルさんが何回も心配そうに振り返って私を見ていたけど、下手に助けれず何度も舌打ちをしていた。

ようやく見えた砦に重たい溜息を吐いてその場に座りこんでしまうと、すぐに腕を掴まれたが振りほどく元気すらない。


「早く休ませてやってくれ」

「ああ。まさかここまで弱っているとは思わなかった。すまない」


申し訳なさそうに謝罪する男性に首を振って、最後の力を振り絞って砦の中に入る。

砦の周辺にはたくさんの狼や熊、梟、狐などの動物が思い思いの場所で休んでいたけど、私たちの気配を感じて起き上がり、唸り声をあげて警戒する。

そんな彼らを男性が「止めろ」と言うとすぐに従い、また目を閉じて休む。


「ここを使え。いいか、変な真似をするなよ」

「うっせぇなぁ。それぐらいバカじゃないんだからわかるっての。それより荷物返せよ」

「まだダメだ。水と食べ物なら俺らのを分けてやる。薬も必要か?」

「いらない。水と食料だけよこせ」

「すぐに持って来よう」


砦内の一階にある部屋に案内される。

簡易ベッドの他には何もなく殺風景で冷たい部屋。

窓が一つだけあるものの独房のように感じる。いや、雨風が凌げるだけでもありがたい。

男性は扉を閉めると鍵をかけ、部屋から離れて行った。


「トワコ大丈夫!? ごめんね、俺が気づかなくてまた迷惑かけた…」

「大丈夫ですよ。とりあえず目的地に到着したし結果オーライです」

「でもあのフクロウに傷つけられたよね!?」

「苦しかっただけですから。それより歩くの遅くてごめんなさい…。バレてないといいんだけど…」

「それはまだ大丈夫だけど油断しないようにね。さすがの俺でもここから逃げ出すのは難しい…。しかもフクロウ族がいやがるから……あのクソライオンめ! 全然安全じゃねぇじゃん!」

「まぁまぁ。でもなんで彼らがここに住んでるんですかね。ヒョウ族がなんとかって言ってたし事情があるのかも…」

「ああそうだ! なんか勘違いしてたよな。あいつが戻って来たら説明してくる!」

「ケンカはしないでくださいね。ここにいる人たちを敵に回すのはダメですよ」

「……わかってる…」


私がいなければシャルルさんに迷惑かけなかったし、一人で逃げ切れた。

申し訳なさそうに謝るシャルルさんの頭を撫でると嬉しそうに甘える。

でもすぐに外の気配を察して後ろに隠された。


「水と食料だ」

「ああ、どーも。なぁ、ちょっとお前ら勘違いしてるみたいだし話し合おうぜ」

「勘違い?」


扉を開けた男性の手には水とパン、それからお肉を乗せたトレイ。

シャルルさんに渡して私の様子を見ようとするのはばんで、わざとらしく話題をそらした。


「確かに俺はクロヒョウ族でヒョウ族の駒だったが今は違う。一族から抜けることも伝えてある」

「そうか。でもお前はクロヒョウ族だ。それが本当だとは信じられない」


黒豹一族は豹族の変異種、異端児、駒。

汚いことをしているのは誰しもが知っている。

だから彼の反応は当たり前だけど、シャルルさんのことを知っている私にとっては胸が苦しくなって言い返したくなる。


「………弟を…。弟を俺と同じ目に合わせたくなくて逃げ出したんだ…」

「弟?」

「こいつはクロヒョウの始祖返りだが、生まれつき言葉が話せない。なのにあいつらは俺以上に利用しようと酷使し続けてきたんだ…。そのせいでこんなにも弱ってしまって…。だからこいつを連れて逃げて来たんだ」


すぐバレそうな嘘をついている間、もらった水で喉を潤す。


「そ…そうだったのか…」


だと言うのにその嘘に見事騙され、思わず笑いそうになった。

そのせいで水が気管に入って咳込むと二人して私に「大丈夫か」と声をかけてくる。


「嘘はついてないようだな…。ならヒョウ族が俺らを殺そうとしてるのは何故だ」

「…それであんな街にもいたのか…。悪いが知らない。俺もあいつらに見つかって逃げるために樹海に入った」

「なるほど…。じゃあ何故ここに砦があると知っている」

「俺は諜報活動もできる。逃げる場所を見つけるためにたまたま聞いただけ」

「………ふむ。確かにお前の弟は弱い。嘘じゃないことは解った」

「だから当分の間だけでいいからここに匿ってくれ」

「そうしてやりたいが仲間の意見を聞かないといけない。坊主、悪いが少しの間だけこの部屋で大人しくしててくれ」

「おい、話しかけんな!」

「そう警戒しなくて俺にお前達を殺すつもりはない。そこら辺の野良と一緒にするな」

「ああそーかい。でもこいつには絶対に触るな。誰も近づくなって言っとけ」

「なるほど、そうやって周囲から守ってきたんだな。安心してくれ、皆には伝えておく。弱い奴に手を出すほど落ちぶれていない」

「本当にそうだと嬉しいんだがな」


最後に私を見て、すぐに部屋から出て行った。

どうにか勘違いを解くことができてホッと胸を撫でおろすと、背中を優しく擦ってくれる。


「大丈夫? また体調が悪くなった?」

「あ、違うんです。急いで飲んだから変なところに入っちゃって…」

「それならよかった。でもさっきの咳で喉痛めてない? あ、それよりこの部屋寒いよね。毛布…はあいつに取られたままか…」

「マントがあるから大丈夫ですよ」

「でもそれまた風邪引いたら困るだろ。くっそー、また鍵かけてやがる…」

「もういいですよ。それより今日は寝ましょう。ここ最近警戒ばっかしてたからシャルルさんもよく寝れてないですよね」

「トワコはこんな時でも俺の心配してくれるんだな…。嬉しい」

「普通ですよ。それに…あの、つがいですから…」

「あー……っくそかわ…! あいつらがいなかったら交尾してたのに…!」

「(ここに人がいてよかった…!)」

「はぁ…。うん、今日はもう寝ようか。獣姿で一緒に寝たらあったかいよね」

「はい、お願いします」







「特別に数日だけ滞在を許すことになった」

「数日かよ。ケチくせぇな」


翌日。

朝ご飯を持って来てくれた男性の言葉に寝起きのシャルルさんはすぐ悪態をついた。

今さっきまで機嫌がよかったのにいきなり部屋に入って来たからだ。


「砦と周囲は好きに動いて構わないが、怪しい行動を見かけたらすぐ追い出す」

「わかった。武器も取り上げられたしなんもしねぇよ。そもそもフクロウがいるってだけで逃げれるか」

「俺らオオカミ族がいることも忘れるな。お前らより体力があるから逃げきれないぞ」

「知ってる。ともかく大人しくするって約束する」

「そうしてくれ。それと俺の名前はアルファ。お前達の名前は?」


明るくなって初めて見る男性、アルファさん。

青黒い髪の毛に透き通った水色の目。

優しそうな顔立ちはまさに好青年って感じがして自然と目を奪われる。やっぱりこの世界にはイケメンばっかりだよなぁ…。

ドッグタグのようなものを下げ、たまに黒い手袋をした手でそれを触る。

身長も体格もセトさんと同じぐらい。年齢もそれぐらいかな?


「俺はシャルル。弟はトワ」

「……トワはそのフードを取らないのか? 皆にも顔を見せて殺さないよう覚えさせたいんだが…」

「俺以外が怖いんだ。匂いで覚えろよ。お前らオオカミ族とクマ族は得意だろ」

「魔獣よけの香水でよく解らないから言ってる」

「じゃあこの姿だけ覚えてくれ。それにトワはこの部屋から出ないから気にしなくていい」

「それは余計身体に悪い。少しは外の空気を吸って身体を動かすべきだ」

「その時は俺が一緒だからいいんだよ!」

「過保護になる気持ちは解るが、あまり過保護すぎると強くなれないぞ」

「うるせぇなぁ! まだトワが眠そうにしてんだからさっさと出て行け!」

「あ、悪い。しっかり休んでくれ」


お母さんみたいな人だな…。


「トワコ、今さっき言った通り一人で外に出ないでね」

「うん、わかった」

「それとこの部屋には誰も入れちゃダメだよ。必要なものがあったら俺に言って」

「うん」

「俺…じゃない、僕はご飯食べたら外の様子見てくるよ」

「……シャルルさん。もうシャルルさんのこと怖くないから楽な口調で喋っていいですよ」

「え?」

「怖くないから素のシャルルさんでいてくださいってことです」

「あ…いや、まぁ…育ちが悪くて口が悪いのは自覚してるし…。もう慣れてるけど…うん、わかった。ありがとう」

「こちらこそ気を使ってくれてありがとうございます」

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