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36.逃避生活③

つがいになったのに他のメスと関係持つとか僕らからしたら信じられないな…」

「そういうの結構あるよ。私の友達もそれで別れたし」

「でもつがいだよ? 好きで一緒になったのに何で?」

「なんでなんだろうね。嫌になったとか、別の魅力的な子に出会ったとか、愛情がなくなったとか…。色々理由はあるからなんとも言えないです」

「マジかー…。あ、トワコはそんなことしないでよ。僕に嫌なところがあったらすぐに言って。直すから」

「大丈夫、ですよ…はぁ…」

「えっと、なんだっけ。そうそう、浮気だ! 他のオスと浮気したらそいつ殺すから」

「……殺すのは止めて…はぁ…」

「トワコ?」


シャルルさんと王都を出て二週間が過ぎた。

ひたすら山を登って、下りてを繰り返し人目を避けて目的地の砦がある樹海に歩き続けた。

その日も私の世界の話をしながら歩いていたんだけど、朝から体調がおかしかった。

少し歩いただけですぐ息切れをして、何度も休憩を挟んだけど全然回復しない…。

それでもあと少しで今日の目的地につくため頑張って歩き続けてきたけど、気分が悪くなってその場に座り込むとすぐに駆け寄って声をかけられる。


「どうしたのトワコ」

「ごめんなさい…。少し……身体が…」

「体温が高いね…。薬飲んで休もうか」

「はぁ…! はぁ…!」


シャルルさんは自分が着ていたマントで私を包み、抱き上げると凄いスピードで森を駆ける。

体力をつけるために頑張って歩くつもりだったけど、体調を崩して迷惑をかけるぐらいなら最初から抱えてもらえばよかった。

風邪かもしれない。そう自覚した途端、頭がグワングワンと揺れて気分が悪くなる。

体重をシャルルさんに預け、目を閉じて気持ち悪さを耐えていると動きが止まったのでゆっくりと目を開ける。


「トワコ、大丈夫? 薬飲める?」

「ん…」


熱があがっていくのがわかる。いや、元々熱はあったのかもしれない。

朦朧とする意識の中、出された赤い粒の薬を受け取ろうとしたけどうまく掴めない。

もたもたしているとシャルルさんが自分の口に含んで、そのまま口移しされた。

ゴクリと鳴る自分の喉。

普段だったら恥ずかしくて抵抗しているのに今はそんな元気はない。

お礼だけ言ってまた目を瞑るとそのまま意識を手放した。







「………しゃるるさん…?」


次に目を覚ましたのは夜だった。

だるかった身体は元気を取り戻し、意識もハッキリしている。いや、それどこから今にでも走れるぐらい力が漲っている。

外から焚火の音が聞こえたのでテントから出るとシャルルさんの姿は見えず、不安になって姿を探す。


「あれ? なんでレグがそこにいるの?」


森の中なのに、まだ目的地に到着していないのに少し離れた場所にレグの姿が見えた。

漲る力で彼を追いかけるもレグはどんどん森の奥へと入っていく。

何で私から離れるの? 久しぶりに会えたのに何で?

きっと私を抱きしめてくれると思っていたのに彼はこちらを見ようともせず、ひたすら背中を向けて森の奥へと進む。


「あ、セトさんだぁ! もう終わったんですかぁ?」


レグの姿が消えてたと思ったら、セトさんがこちらを見ていた。

大きく手を振ると彼もほんのり笑顔を浮かべて手を振り、こちらへ来るよう手招きしてきたので駆け寄る。


「―――トワコッ!」

「えー…?」


あと少しでセトさんを掴めると思った瞬間、シャルルさんに手首を掴まれ、強い力で引き離される。

仲が悪いのは知ってるけどそこまで慌てなくてもいいのに…。

振り返ると泣きそうな表情と大量の汗を流したシャルルさんが私を見下ろし、力強く抱きしめる。


「危ないだろ!」

「シャルルしゃん…? あれー…?」

「何で崖から飛び降りようとしてんだよッ!」

「あ…れ? アハハ! だってね、セトさんがいて手招きしてたから! アハハ! ほんとはレグもいたんですよぉ。でも消えちゃって…セトさんが現れたから……あー…?」

「トワコ?」

「見間違いだったのかな? ふふっ、じゃあ早く目的地にいきましょーよ! あのね、私もう元気になったから大丈夫れすー」

「いや、まだ熱は引いてないよ」

「私元気です! しゃるるしゃんより…えっと……なんだっけ…。そうっ、シャルルさんより早く走れるよ! 頑張る!」

「おい、本当にどうした…? トワコ、まだ熱が出てるから動くなって」

「元気…だから………っうえ…!」

「トワコ!」


そこでまた意識が飛んでしまった。







出発前にタカの女王からメス専用の薬を分けてもらった。

間違いないように何度も何度も確認して、すぐに熱が下がると言われた薬をトワコに飲ませたのにまったく下がらない。

どうするか悩みながら熱を冷まそうとタオルを持ってトワコから離れ、川に向かって戻って来ると今さっきまで寝ていたはずのトワコがいなくなっていた。

匂いを追って見つけると、幻覚を見ているように崖に駆け寄っていく。

死んでしまう。

そう思った瞬間、今まで感じたことのない恐怖と焦りで頭が真っ白になった。

幸い、崖から落ちる前に自分の胸に閉じ込めることができたけど、様子がおかしい。

トワコはいつも穏やかだ。

なのに今、胸にいるトワコは子供のように無邪気に笑って、普段出さない声の大きさで喋り続ける。

額を触らなくても身体中が熱いのが解る。

熱が下がる薬じゃなかったのか? 嘘をついた? いや、あのメスはトワコを気に入っているしタカ族は俺らみたいな卑怯な真似を嫌う種族だ。

なら何でこんな風に?


「……始祖だから…?」


吐き出したトワコはそのまま眠りについた。

抱えてテントに戻り、身なりを整えて横にすると荒い呼吸で苦しそうにうなされる。

トワコが飲んだ薬に問題があるわけじゃない。でも効かない。それは彼女が始祖だから。

その答えが出たあと自分がすべきことを考える。


「つっても医学の知識はねぇし…。だからって下手に他の薬を飲ませるのは危険…」

「うう…!」

「トワコ、大丈夫?」


大事なつがいが苦しんでいる。変わってあげたい。トワコにこんな辛い思いをさせたくない。

寝かせておくのが正解なのか。それとも熱を冷ますのが正解なのか。別の薬を与えるのが正解なのか…。

自分が持っている知識なんて役に立たず、手を握って名前を呼ぶしかできない自分を殺したい。


「ハァ…ハァ…!」

「……ックソ! 街に行くしかねぇか」


どちらにしろ食料が尽きかけていたから補充するために街に寄るつもりだった。でも自分だけが寄るつもりだった。


「大丈夫…。医者に診せるだけだ…。絶対にバレない…」


あの始祖返りがどんな手を打ったのかは知らない。

だからできるだけトワコの存在を隠しながら山道を選んだ。

あいつらが処理しているから大丈夫だと思うけど、トワコの存在は隠しておきたい。

でもダメだ。苦しんでいるトワコを放置できない。


「トワコ、また少し動くけど大丈夫?」

「…う…!」

「ごめんね」


メスの身体は冷やしたらいけない。

タカの女王から貰った冬用のコートで身体を包み、荷物をまとめて背中に抱える。

背中から尋常じゃない熱と汗が伝わってくる。

絶対に落とさないためロープで身体を固定させ街へと向かった。

他のオスにバレても守ればいい。大丈夫。何かあればあのライオンとタカの名前を使えばいい。

王都からかなり離れているが知らない奴はいないはず。


「もう少し我慢してね」

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