31.聖書②
元の世界に戻れるかもしれない。
そんな希望を抱いて屋敷に戻り、この世界の宗教と歴史について教えられた。
彼らの先祖は今みたいに獣化ができないただの人間だった。
人間はとても賢く、高度文明を持ち繁栄していたらしく今もその文明の一部を利用している。
だが繁栄し続けた結果、世界を巻き込む大戦争や食糧問題を抱え徐々に人口を減らし、そして最後には未知のウイルスによりたくさんの人間が死に絶えていった。
このままでは絶滅してしまう。
危機を感じた人間は強い遺伝子を持つ動物と交わうこととなり、獣人が生まれ今のような形となって絶滅を免れた。
彼らが始祖と呼ぶのは純粋な人間のことだけだと言う。
動物が混じろうと元の人間を忘れないためにも彼らは人間を始祖と呼ぶことにし、各国で祀るようになった。
しかし人間が絶滅してから徐々に女性が産まれる数が減少していったという。
そのせいで今度は女性を巡り誘拐、小競り合い、そして再び戦争が頻発。
また同じ末路を辿ってしまうことになったとき、祀っていた始祖像が光り輝き、マリッジリングが授けられ、番という契約を結ばないと子孫を残せなくなった。
「それらが長々と書かれているのがこの始祖教の聖書なんですね…」
「はい、そうです」
「しかめっ面のトワコも可愛いけど、なんか納得してない感じ?」
「これは…さっき見た聖書とは違いますね」
「あれは協会で管理されている聖書の原本ですね。私達には翻訳されたこれらしか持っていません」
「そうなんですか…」
屋敷に置いてあった聖書はこの世界の文字で書かれていた。英語じゃない…。
露骨にガッカリしたせいでセトさんが慌てる。
「原本を読みたいんですけど…一般人にも見せてもらえますか?」
「それは難しいかと思います。今回はたまたま私とレグルス様がいたから特別に見せてもらったにすぎません」
「盗んで来ようか?」
「そこまではさすがに…」
「城にも数冊保管されていたはずだ。読みたいなら案内しよう」
「ほんとですか、レグ! ぜひお願いします!」
「おい、ドヤ顔すんな腹立つ。トワコ、盗んで来たほうが早いよ? バレないように返すし」
「お城の聖書が読めなかったらお願いします!」
「一応許可がいるから明日でも構わないか? 待てないなら強硬手段をとれるが」
「明日で大丈夫です! あと、原本を翻訳したのがこっちの本なんですよね? 誰が翻訳したか知りませんか?」
翻訳できるってことは同じ地球人がいるかもしれない。
期待を込めてレグを見上げると、口元を緩めて頬を触るレグ。
本当だったら恥ずかしくなって拒否するけど、今の私は少し興奮していたのでそのまま見つめ返した。
「だから、近いよトワコ。僕がトワコの一番なのに最近独り占めできない…」
「あ…。ごめんなさい、シャルルさん。私そんなつもりじゃ…」
「優しいトワコは慰めてくれるよね?」
「慰める…? えっと、私にできることがあれば」
「トワコにしかできないよ。今晩僕と交尾「調子に乗るな」
いくらシャルルさんが強くても、英雄には勝てませんでした。
頭を鷲掴みにして力を込めるレグと口悪く罵るシャルルさん。それを冷たい目で見ながら新しく紅茶を淹れてくれるセトさん。
何だかんだ仲は悪いけど最初に比べたらコミュニケーションとれてる………とれてるかな…。殺し合いに発展しないならもう止めないよ…。
「セトさんは知りませんか? 翻訳できる人のこと」
「知ってますとお答えしたいのですが、申し訳御座いません」
「そっか…」
「…と言うより存在しないかと」
「存在しない? え、いないんですか?」
「原本を翻訳された方は確かにいましたが、それはもう何千年もの前の話です」
「そ、そんな…」
「既に全文翻訳されて普及していたので問題ないと思っていましたが…。まさかこの時代になって困ることが起きるとは…」
「でも翻訳について勉強している人とか…」
「全て翻訳されていますし、他に使う場面がありませんので…」
「遺物とかにも使用されてないんですか?」
「聞いたことありません」
「そんな……」
「トワコ嬢…」
希望ができたと思ったのにすぐに砕かれてしまった。
涙が溢れそうになるのを俯いて耐え、気持ちを整える。
セトさんが手を握ってきたので握り返して笑顔を見せると、彼も少し悲しそうな顔をしていた。
ダメだ、精神的にきた…。今日は色々あったし部屋で休ませてもらおう…。
「部屋に戻りますね」
「解りました。何かあれば呼んで下さい」
「ありがとうございます。セティさんにも申し訳ないけど部屋に入らないよう伝えて貰えると助かります」
「はい。部屋まで送ります」
「おいタカ野郎! さっきから抜け駆けばっかしてんじゃねぇよ!」
「その顔はどうした。何かあったのか?」
「疲れたので休みます。レグ、明日はお城にお邪魔しますね」
「ああ、準備しておこう」
「大丈夫? 獣化になって一緒に寝てあげようか?」
「ううん。ちょっと一人にしてほしいです」
まだ何か言いたそうな三人を残し、寝泊りしている部屋へと向かう。
せっかくの手がかかりが…。
いや、まだある。原本には翻訳しきれていない手がかりがあるかもしれない!
僅かな望みをかけ、ベッドに横になる。
左手をかざすと三つの宝石がついた私だけのマリッジリングが光り輝く。
「英語に意識奪われたけど三人と番になったんだよねぇ…。番……これって結婚だよね? 結婚するなら…番を作るなら一人だけと思ってたんだけどなぁ…」
若干の抵抗感と罪悪感があるも、強い三人が番になってくれたのは素直に嬉しい。おまけにイケメンで男前の三人だ。
「……ビッチじゃん…」
ダメだ、その考えが頭をよぎってまたメンタルが落ち込む。
この世界では複数の番を持つことはおかしくない。むしろ持ってないと身を守れない。
だけど私は地球人で日本人なんですよ! これは慣れるまで時間がかかりそうだ…。




