30.聖書①
「…」
「…」
シャルルさんから逃げるように馬車に乗り込むとすぐにレグも乗って来て協会に向けて出発。
なんとなく解っていたけどシャルルさんとセトさんは乗ることができない。
二人っきりの馬車内はさっきのこともあり、空気が重い…。
「きょ、協会での誓いは予約とかしないといけないんじゃ?」
「必要ない。そもそもメスが少ないのは知ってるだろ」
「そっか…。そうですね」
「ああ」
再び訪れる沈黙。
「…やっぱりその…。番が複数いると嫌な感じですか…?」
「お前が気にすることじゃない。が、そうだな」
「ケンカはしないでくださいね。私じゃ止められそうにないので…」
「気を付けよう」
「……えっと…。噂もいい感じに回ってますし、セトさんから聞いた話だと最近のアリーシャさんは大人しくしてるみたいですよ」
「そうか。だが気をつけろ。あのメスはしつこいぞ」
「知ってます。セティさんからも絶対に報復に来るだろうから気をつけろって散々言われてて…。それにレグと番になったのがバレたら暴走するかもしれないって…」
「ああ。だからあの屋敷ではなく、城に…と思ったが、城も城であいつがいるな」
「あいつ?」
「もう忘れたか。王だ」
「あ…そうでしたね。っあー…そうだ。あのお話したと思うんですけど、私…記憶を取り戻す旅をしてて…」
「覚えてる。あんなこともあったし早めに王都から離れるのがいいだろう。父の性格からしてどうにかしてトワコと接点を持とうと何か企んでくるはずだ」
「でも、そしたらレグはどうするんですか?」
「……難しいな。お前について行くが、すぐとは言えない」
「隊長さんですもんね」
「空軍の隊長も辞めるって聞いたからな」
「ははは…」
「別に地位にこだわっているわけではないが愛着はある。このまま二人の隊長がいなくなれば国の平穏もすぐ崩れる」
「……そう、ですね。それはさすがに私も嫌です」
「だが、お前がここにいるとなると………消すか…」
「誰をとは聞きませんよ。ダメですって…」
「冗談だ。面倒な存在ではあるがあのメスはよく子供を産むし、王を殺したら俺が次の王となってしまう」
「レグが王様になると皆喜びそうですけどね」
「俺はお前だけが喜べばいい」
手を伸ばし、髪の毛に触れる。
昨日のこともあるし、さっきのこともあるから警戒して顔を背けると軽い笑い声が聞こえた。
「昨日しといてよかった」
「な、なんでですか…!」
「ここまで殺意が湧くとは思わなかったんだ。他の番どもはどうしてるんだろうな」
「知りませんっ。もう、まだ着かないんですか?」
「まだだな。それまでいつもの特訓でもして時間を潰そう」
「もうしませんっ」
「残念」
なんか最初に比べて…番になってからキャラ変わりました?
そんな頻繁に笑わなかったし、色気もこんな出してなかったじゃないですか…。
でもさっきより少し機嫌がよくなったみたいだし…まぁいいか。とりあえず協会に到着するまでもう黙ってよ。
✿
気まずい空気の中ようやく協会へと到着し、レグの手を借りながら馬車から降りるとすぐに周囲の視線を集めた。
居心地悪さを感じながら一緒に協会に入ると、すぐ後ろから獣化で追って来たシャルルさんとセトさんも続く。
協会には数人の神官とたくさんの観光客で賑わっていた。
レグの姿を見た神官はすぐに駆け寄って声をかけ、レグも一言二言答えて始祖像の前へと向かう。
屋敷とは違う始祖像に首を傾げつつ、先程のことを思い出して膝をつく。
馬車から降りた際、視線を集めたせいもあってどんどん増える観光客…。
見られたくないけど、ここまで有名になれば王様もアリーシャさんも簡単に手を出せない。と信じたい!
でもアリーシャさんにさらに恨まれるだろうなぁ…。まぁ最初に喧嘩を売ったのはアリーシャさんだし、今までたくさんレグに迷惑かけたしいいよね。
「トワコ」
「あ、すみません。真面目に祈ります」
性格が悪くなったのか、気が強くなったのか…。
祈りを捧げている最中だと言うのに余計なことを考えたせいで、レグに怒られる。
気を取り直し、真面目に彼と番になりたいと祈ると眩しい光に包まれた。
「レグは金色の宝石ですね」
「気に入ったか?」
「はい」
黒い宝石の横に同じ大きさの金色の宝石が並ぶ。
黒と金の指輪ってなんかアンバランスな感じがするけど、私だけの指輪だと思うと悪い気はしない。
「見物客が増えて来たな」
「そうですね。恥ずかしいですけどセトさんとの祈りも―――」
近くで待機していたセトさんに視線を向けると、顎を掴まれ今度はレグにキスをされる。
軽く触れただけで、すぐに解放されたけど大勢の前でキスされたこともあって顔が一気に熱くなった。
「レグ!」
「最後はお前だ。さっさと終わらせて帰るぞ」
「言われなくても」
「テメェ…あとから覚えてろ…」
「先に喧嘩を売ってきたのはお前だろう」
「トワコ嬢、大丈夫ですか?」
「…はぁ…! 大丈夫です、祈りましょう」
深呼吸を何度かして、次はセトさんと一緒に膝をついて祈る。
慣れたものですぐに指輪が輝き、セトさんの目と同じオレンジ色の宝石が埋められていた。
「トワコ嬢」
「な、なんでしょう」
二度あることは三度ある。
セトさんに名前を呼ばれて思わず警戒するも、彼は目の前で膝をついて私の手を取って、
「改めて、貴方だけに忠誠と愛情を誓います」
まるで騎士のように手の甲にキスをした。
「セ、セトさん! こちらこそよろしくお願いしますっ」
「トッ、トワコ嬢!?」
二人とは違い、紳士的なセトさんに感動して思わず抱き着いてしまった。
あああちょっと焦っているのも二人と違って新鮮でいい!
「トワコ、ちょっと離れようか」
「おい」
「セトさんは私の癒しなんです!」
「僕だってトワコが望むなら可愛くするよ? だから僕に抱き着いてほしいな」
「そいつより安定感がある俺にしろ」
「二人は手が早いから嫌です! ほら、もう終わりましたし屋敷に戻りましょう」
この国の英雄と第一空軍部隊隊長と番になった話題性は凄まじいもので、さっきまでそこまで人がいなかったのに今はたくさんの観光客や住民が溢れ返って私たちを見ていた。
セトさんの手を握り馬車に戻ろうとしたが、ふと見覚えのあるものが目に入った。
「ッすみません!」
「は、はい!」
「それ見せてください!」
管理人の手には一冊の本。それ自体におかしなところはない。
だけどその本のタイトルに見覚えがあった。
「…ほーりー……ばい、ぶる…?」
それは日本語の次に見慣れた英語。
ホーリーバイブル……は確か、聖書…?
「す、すみません! これあなたの本ですか!?」
「落ち着いてよトワコ。それと、あまり他のオスに近づかないで」
「あ…ごめんなさい…」
「トワコ嬢、本が気になるんですか?」
「はい」
シャルルさんにベリッと神官から引き離され、セトさんとレグが間に割って入る。
何で英語の本が? 今まで色んな本を見てきたけど、英語は見たことがない。なのに何でここに?
「失礼。本をお借りしても宜しいですか?」
「どっ、どうぞ! ただその本は原本なので大切に扱って頂けると…」
「解りました」
セトさんが丁寧にお願いをすると快く貸してくれたので震える手で本を開く。
そこにはやはり英語で書かれた文字が埋まっていた。
「聖書が気になるのであれば屋敷でもご用意できますよ」
「そうなんですか!?」
「どうしたのトワコ。もしかして記憶が…?」
「えっ? あ、……そ、そうですね。なんか見たことがあって…」
「なら屋敷に戻ろうか」
「はい! 急いで戻りましょう! あの、いきなりすみませんでした。ありがとうございます!」
「ど、どうも…」
もしかしたら元の世界に戻るヒントがあるかもしれない。
はやる気持ちを抑えることができず急いで屋敷へと戻った。
まさかこれをきっかけに大事件が起こるとは知らず。
少しでも面白いと思ったらリアクションまたは☆をぽちっと押して頂けると励みになります!




