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26.王都⑬

「トワコ嬢、昨日の今日でお城を出歩くのは…」

「最初が肝心ですから」


翌日。

昨日の作戦を成功させるため、さっそくセトさんと一緒にお城にやって来た。

セティさんが用意してくれたシンプルだけど最上級な素材で縫われたワンピースに身を包み、セトさんと一緒に城内へ入る。

すぐに視線を集めたけど気にしない! 本当は恥ずかしくてセトさんの影に隠れたいし、俯きたい。でも負けられない!


「レグルス様と待ち合わせしたのは中庭でしたっけ?」

「はい。城内にある休憩場所です。そこでなら人目につくかと」

「完璧ですね」


視線に耐えつつセトさんの案内で中庭に到着すると、そこには日の光を浴びてキラキラと輝く金髪の男性が立っていた。

私の存在に気付きこちらに目を向けると、髪の毛同様に目も宝石のように光る。


「おはようございます、レグルス様」

「ああ」

「セトさん、案内ありがとうございました」

「気にしないで下さい。仕事が終わり次第迎えに来ます」

「はい」


セティさんの助言で待ち合わせ場所までセトさんをつけてくれた。

一人じゃ絶対に来れないからその申し出を快く受け入れ、案内してくれたセトさんに頭を下げる。


「ではレグルス様。トワコ嬢を宜しくお願いします」

「ああ」


昨日はなんともなかったけど、この二人ちょっと険悪だ。

よくよく考えて見れば二人とも陸と空の第一隊長なんだよね…。もしかして陸と空は仲が悪いのかな。


「トワコ嬢、城内にいる間はこのお方から離れないようお願いします」

「わかりました、絶対離れません」

「何かあれば昨日渡した笛を吹いて下さい。我がタカ一族の誰かしらが駆けつけるようになってます」

「あ、頼りになります」

「それとこちらは姉から預かった食べ物です。人から頂いたものは決して口にしてはいけません」

「う、うん…」

「それから「早く行け」


この姉弟きょうだいは過保護だなぁ…。何かを持っていたのは知っていたけど、それ全部私のお世話道具だったとは。

渡されたカゴにはたくさんのお菓子やパンなどの食べ物と暇潰し用の本が入っていた。

まだまだ言い足りないセトさんを遮り、レグルス様が間に入る。大きな背中でセトさんの表情が見れないけど、多分険悪だと思う。なんだか空気が重い…。


「いくら英雄と言われても貴方にメスのお世話ができるのか不安ですが、トワコ嬢を宜しくお願いします」

「どうせ俺がここにいると誰も寄って来ん。それに城の周りとあの黒いのがウロついているんだろう」

「あいつの動きは読めません。慢心せず貴方だけの力でお守り下さい。ではトワコ嬢、今度こそこれで失礼します」

「お仕事頑張ってください」

「はい」


何を喋っていたか解らないけど、最後は少しだけ笑顔になっていたので手を振って見送る。


「こっちだ」

「あ、はい」


最後まで見送ることはできず、腕を掴まれ温室にある東屋?だっけ、屋根とイスがある場所へと案内される。

歩幅が違うせいでついて行くのに精一杯。

息を切らしつつ案内された場所はたくさんの花に囲まれた綺麗な場所だった。


「確かにここなら一目がつきそうですね」

「……腕…」

「気にしないでください」


レグルス様に握られた手首が赤く染まっていた。

目敏く見つけられたので慌てて隠すと、眉間にしわを寄せて小声で「すまない」と謝罪。

身体は大きいのにその姿は子犬…いや、子猫かな。子猫みたいに可愛くて、思わず笑ってしまった。


「大丈夫ですよ。私が貧弱なだけですので」

「いや、俺が……。昔から力の加減ができないんだ」

「そうなんですか?」

「でなければ英雄などと言われん。薬を持って来させよう」

「これぐらい大したことありませんから。それより力の加減ができないってどういうことですか?」

「言葉通りだ。俺は大した力を入れていないが、他人からすればそれは強力なものらしい。大げさなことを言えば、木の枝と首を折るのも変わらない。違いが解らない」

「そ、それは大変ですね…。あ、だからメスも軽く払ったつもりがケガを負わせてしまったんですね」

「今までの奴はそうだが、昨日のメスは意識した」

「え!?」

「あいつはつがいが多いだろう。加護が強いからわざと加減しなかった」

「加護?」


セトさんから預かったカゴからお菓子を出しながら話を聞いていると、聞き慣れない単語を耳にし首を傾げる。

手を止めた瞬間、レグルス様にカゴを奪われ、中にあったお菓子を全部テーブルに広げて指をパチンと鳴らす。

どこからともなく現れた男性に驚いたが一言二言会話をすると男性はどこかへ消えていく。


「メスはつがいの力を使うことができる。知らないのか」

「初めて聞きました…」

「…お前、メスなのに…?」

「あ、これには事情があるんです!」


自分が記憶喪失であること。偏った知識はあるものの、この世界の常識などは全て知らないことを伝えた。…嘘なんだけど。

説明し終えるまでに先程の男性がティーポットとカップを持って来てくれた。

テーブルに置くとすぐに姿を消し、レグルス様がお茶の準備を始める。


「なるほど。だから普通のメスと違うのか」

「そ、そうですかね?」

「なら覚えておくといい。つがいを持つメスはオスの力を一時的に借りることができる。だから多種多様の種族とつがいになる」

「なるほど…」

「とは言っても基本的に肉食種族が多い。オスで身を守り、オスがいなくても加護で身を守るには力が強い肉食種族がいいからな」


見た目とは裏腹に手際よくお茶を用意し、目の前に置かれる。いい匂い…。


「砂糖は?」

「あ、じゃあ一つだけ…」

「ミルクもいるか?」

「大丈夫です。いただきます」


よかった、この世界にも紅茶があるんだ…。日本茶も好きだけど、紅茶も美味しいんだよね。

セティさんの屋敷だと果実水しか出ないから久しぶりに飲んだ紅茶に肩の力が自然と抜けた。

セティさんが用意してくれたお菓子と一緒に飲むとさらに美味しい。


「レグルス様もどうぞ。美味しいですよ」

「いい。甘いのは苦手だ」

「そうですか、それは残念です」

「何がだ」

「おいしいものを共有したかっただけです。でも苦手なら仕方ありませんね」


強要はしない。

残念だけどこのお菓子は私が食べてサンドイッチはレグルス様に分けよう。


「えッ!」

「……」

「無理しなくて大丈夫ですよ!?」


だと言うのにお菓子を口に入れ、すぐに顔を歪めて紅茶で流し込む。


「お菓子は私の好物なのでレグルス様はこっちのサンドイッチをどうぞ」

「…そうさせてもらう」


最初は怖い人かなって思ったけど、思っていた以上に優しい人なのかもしれない。

口数は少ないけど気遣っているのは解るし、威圧感があるのは背が高くて体格がいいからだ。


「力加減が難しいなら私で練習しますか?」

「練習?」

「時間もたくさんありますし、仲良くしている姿を見せるのも効果ありそうだし」

「確かに俺はお前を楽しませるほどの話題を持っていない。だが……」

「大丈夫です! 痛かったらすぐに言いますし、これから先、つがいができたらきっと役に立ちますよ!」


こんなに強い人なんだ。今回の件がうまくいけばきっとモテモテになるに違いない!


「さっそくですが握手から始めませんか?」


そう言って手を差し出すも、彼はいつまで経っても手を出してこない。


「あー…すみません。余計なお世話でしたか?」

「いや、どのぐらいの力で握ればいいのか解らなかっただけだ」

「…っふ…。そうですよね。じゃあ手の平を見せてください」


国の英雄様に対して気安くしすぎたかなと焦ったけど、そうじゃなかったらしい。

私の言葉にすぐに手の平を見せてくれた。

私の二回り以上の大きい手。手袋をしているから肌は見えないけど、分厚くて硬そうなのが伝わってくる。

その上に自分の手を置いて、軽く力を込めてみる。


「これぐらいの強さで握り返せばいいですよ」

「………今、力を込めたのか?」

「あはは! そうですね、少しだけですけど込めてます」

「…違いが解らない」

「じゃあ毎日試してみましょう! いつかわかる日がきますよ。ここのメスは強いとは言え、オスよりは弱いですからね」

「そうか」


フッと表情が和らいだ気がした。

さっきまでの硬い表情も似合ってるし格好いいと思うけど、こっちの顔も素敵だなぁ。

きっと今まで大変だったんだろう。

全ての戦いに出陣してるって言ってたし、たくさんの人と魔獣を殺してきた人だって聞いた。

せめて一緒にいるときは穏やかに過ごしてほしいと思うのは上から目線すぎるかな?


「せっかくだしレグルス様のことを色々教えてください」

「ならお前のことも教えてくれ」

「覚えてる限りのことでもいいならなんでも聞いてください」

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