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24.王都⑪

「うわぁ…」


軽い騒動があったものの、王国の英雄が帰還した。

セトさん達が率いる空軍第一部隊の鷹族や鷲族が花びらを空から降らし、歓迎を称える。

帰還した英雄たちには市民の歓声に迎えられ、城門から一直線にお城に伸びる大通りを悠然と闊歩する。

先頭を歩くのは今回も敵国の侵略を防いだ現国王の息子、レグルス様。

金髪金目の大柄な男性だ。


「相変わらず顔が怖い人よねぇ」

「いかにも軍人!って感じですよね。セトさんは優しい顔付きだから余計にそう思うのかも…」

「じゃあ早くつがいになりなさいよ」

「それはまた今度お話しましょう」


私たちが座っているのはお城の入口付近。

どんどん近づいて来る彼らを見ながら、セティさんとの会話も楽しむ。

時々離れて座っているアリーシャさんが睨んで来るけど気にしない。

私もいい加減この世界に慣れないと…。


「第一部隊はライオン族ばかりなんですか?」

「いいえ。強い者なら何族でも構わないわ」

「精鋭部隊なんですよ」

「我が国の誇るべき軍隊よ」


フフンとまるで自分のことのように笑う。

この国のことが好きなんだね、セティさんは。

まだ短い間しかいないけど、私もこの国は好きだ。いつも賑やかだし、色々なものはあるし、みんな笑顔で楽しそうだ。


「レグルス様ー!」

「汚らしい声を出さないで欲しいわ」


部隊がお城の入口前で一度止まると国王がテラスから姿を現す。

レグルス様と同じ金髪金目の大男。その隣には初老の男性。

あれが色欲魔と言われる国王と始祖返りか。見た目は普通っぽいんだけどなぁ。

王様は第一部隊に向かって賛辞を述べつつ、チラチラと私たちがいる席に視線を向けてくる。

いや、王様があれじゃあダメでしょう…。よくこれで国をまとめられるね。ああ部下が優秀なのかな。

どっちにしろ私には関係ないけどちょっと不愉快だ…。


「あ、入っちゃいましたね。これで終わりですか?」

「あとはお城でパーティよ。ほら行きましょ」

「え、パーティの話は聞いてないですよ!」

「言ったら来ないつもりだったでしょ。ほら行きましょ」


私はこれだけでもいいんですけど!?


「じゃあシャルルさんも」

つがいじゃないから入れないわ。愚弟から伝えておくから早く!」

「わぁ!」


何でそんなに急いでいるのか解らなかったけど、アリーシャさんが既にお城へと向かっているのを見て納得できた。

彼女より早く入りたいんだ…。シャルルさん、ごめんなさい…。







「ひぇええ…」

「なにそんなところに固まってるのよ。こっちに来なさい」

「こんなところ初めてで…」

「情けないわね!」


連れられてやって来たのはお城のパーティホール。

女の子たちの他には王様はもちろん、お城で働く人たちと今日の主役の陸軍第一部隊の軍人さんたち。

優雅な音楽が奏でられる会場ではみんな様々に楽しんでいたけど、庶民の私は壁の花となっていた。が、それもセティさんが許さず…。強引に引っ張られ用意されたソファに一緒に座る。

すぐに彼女のつがい達がお茶やお菓子などを持って来てもてなしてくれた。


「これいつまで続くんですか?」

「夜までよ」

「それまで何するんです…?」

「さぁ? 私はいつもすぐに帰るから知らないわ」

「えー…」

「でも大体解るでしょ」


お茶を飲みながらとある方向を睨む。

そこにはやはりアリーシャさん。もはや天敵だね。


「彼らは強いからつがいを見つけるのには最適な場所だわ」

「お見合いパーティみたい…」

「でも見て。レグルス様にまるで相手にされていないわ」


アリーシャさんはレグルス様にしきりに話かけているものの、彼は表情変えることなく視線を反らしている。

彼女のつがいも何か言っているけど、まったくと言っていいほど響いていない。

何を喋っているか聞こえないけど、たまに「聞いてるんですか!?」「レグルス様!」と金切り声が会場に響く。

英雄相手にもあの気の強さ…。私も少しは見習いたいものだ…。

そんな彼女の相手も疲れたのか、レグルス様は会場から消えていく。

無視されたアリーシャさんはまた叫んで、近くにいたつがいを殴って八つ当たり。でもすぐにレグルス様の後を追いかけ会場から出て行った。

ほんとひどい光景だ…。せっかくの美味しいお菓子とお茶が不味くなる。


「……セティさん、私トイレに行って来ますね」

「気を付けてね」

「ついでにシャルルさんともお話してくるので遅くなります」

「はぁい」


飲み過ぎた…。

セティさんに一言入れ、私も会場を後にする。

トイレは会場から外廊下を渡った離れた場所にある。

きっとシャルルさんのことだから忍び込んでると思うけど会えるかな。


「トワコ」

「シャルルさん」


心配は杞憂に終わった。

すぐに姿を現したシャルルさんに駆け寄ると、思ったよりもご機嫌なシャルルさんが抱き着いて来る。


「やーっと触られた! トワコ、その服よく似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます。ちょっと恥ずかしいけど今の時期だと涼しくてちょうどいいんですよ」

「本当は僕が贈った服を着てほしかったけど…。うん、いいね。他の誰にも見せたくないぐらい可愛いよ」


至近距離と身体をジロジロ見られて恥ずかしい!

離れようとするけど腰に回された手に力が加わり、それは叶わない。


「変なことされてない? 大丈夫?」

「セティさんが一緒にいてくれるので何も問題ありません」

「それはよかった。たまには役に立つな、あのタカ族も」

「すみません、シャルルさん。まさかパーティにまで参加するとは思ってなくて…」

「残念だけどトワコが楽しそうだし構わないよ。タカの女王と仲良くしておくのもいいことだし」

「でも夜まで続くみたいなんです。多分すぐに帰ると思うんですけどいつになるか…」

「僕は近くに潜んでるから気にしないで。滅多に入れない城も見学できるし、珍しい情報も手に入る。割と楽しんでるよ」

「それならいいんですけど…」

「ほら、ここにあまりいないほうがいい。あのメスの元に早く戻って」

「わかりました。でもその前にトイレに行って来ます」

「気を付けてね」

「はーい!」


最後にまた抱き締められ、別れる。

セティさんの隣も安心するけど、シャルルさんの隣もやっぱり安心する。

いつもこうやって近くにいて私を大事にしてくれるシャルルさん。彼から離れると彼の存在が自分の中で大きいものだったことにはすぐに気づいた。

恋に近い感情が生まれる。

抱き締められるのも、笑顔を向けてくれるのも嬉しい。胸が高鳴るってこういうことだったんだ。


「でもいつ元の世界に戻るか解らないから…」


つがいになることはできない。

そう思うとさっきまで幸せな気持ちに影が差す。

一緒にいられない。これ以上好きになったらいけない。元の世界に戻りたい。でも一緒にいたい…。


「………あれ? ここどこ?」


色んなことを考えていると道に迷ってしまった。

お約束なことをしてしまうとは!

周囲を見回すもどこだかまったく解らない。人もいないし…どうしよう。

勝手に扉を開けるわけにもいかないし…こういう時って戻ればいいんだっけ?


「どうして私を無視するのですか! もうレグルス様をつがいにするメスは王都にはいませんよ!?」


聞き覚えのあるヒステリックな声…。

戻ろうかと振り返った途端、アリーシャさんの声が後方から聞こえて身体が固まる。

聞いたらいけんもんや…! 何でお約束なイベントが起きてるんや!

いやアリーシャさんが出て行った時点でフラグが立ってた。回避できなかった私が悪い!

さて、こういう場合はどうしたらいいんだろう。

内容が内容なだけに気になるけど、聞き耳立ててもいいことなどない。


つがいを作るつもりはない」

「だから何故ですか! 私との子を産めば誰よりも強い子が産めます! この王国がより盤石になるんですよ!?」

「……」

「私の何が不足していると言うのです! 同じライオン族で私はこの国のメスの中で一番強いです! なのに何故!」


早く戻ろう。

音を立てないように声が聞こえる部屋から離れる。


「何度も言わせるな」

「ッ私は絶対に諦めませんからね! 貴方は私のつがいになるしかないのよ!」


捨て台詞とともに乱暴に扉を開け………私と目が合う。

早く逃げればよかった…。


「アンタ! なにここで盗み聞きしてるのよ!」

「え、いや違います。たまたまです…!」

「あのメスの連れだったわよねっ…。聞き耳立てて二人で私を笑うつもりだったんでしょ! ほんっとムカつくメスだわ!」

「いッ!」


会場のときより機嫌が悪い彼女は凄い勢いで私に近づき、そのまま左頬に平手打ち。

一瞬の出来事で何が何だか分からないが、頬が痛むのだけは理解できた。

頭がクラクラする…。いきなり殴られたせいで口の中を噛んでしまい廊下を血で汚す。


「な、何よその顔…ッ! あの女みたいに私がブスだって見下してんでしょ…!」

「……」

「ムカつく! ムカつくのよ!! 消えてよ、あんた達がいるとイラついて仕方ないわ!」

「ぐっ、が…ッ!」


叩かれ、バランスを崩して倒れた際、顔につけていた布を地面に落としてしまった。

私の顔を見た瞬間アリーシャさんはさらに目を吊り上げ、馬乗りになって首に手をかける。

何でいきなりこんな展開になるのか解らない。

確かに盗み聞きしたのは私が悪いが、こうやって首を絞められるほどのことだろうか。

抵抗しようとするも彼女の力は強く、いくら引っかいたり殴ったりしても力を弱めてくれない。


「(し、死ぬ…!)」


薄れゆく意識の中、彼女の後ろに大きな影が見えた。

誰でもいいから助けて…!

引っかくのを止め、影に向かって手を伸ばす。


「ギャアアア!!」

「―――ッゲホ! ごほっ、ごほごほ…!」


ライオンの咆哮と同時に苦しみから解放された。

急いで不足していた酸素を取り込むと、喉を傷めたのか咳が止まらない。


「れ、レグルス様…! こ、こ、この…この私に怪我を負わせるなんて…! 信じられない!! この私がつがいになってあげるというのに断るのも! 私にまで怪我を負わせることも全部全部全部!! オスとして欠落してるんだわ!」

「それ以上喋ると本当に殺すぞ」

「ッもう貴方なんていらないわ! 同族として情けをかけたのが間違いだった!」

「はぁ…はぁ…!」


涙目でハッキリとは見えないけど、レグルス様が助けてくれた。

どうやって助けてくれたか解らないけど、彼女は壁に叩きつけられ頭と腕から血を流している。

腕には動物に引っかかれたような跡…。大量の血が流れているというのに彼女は叫ぶのを止めない。

咆哮のせいか、彼女の声のせいか、次第にたくさんの人が集まって来た。

アリーシャさんのつがいはすぐに彼女に近づき、手当てをしようとするもそれを拒否してレグルス様に近づく。


「この方はメスであろうが爪をかける欠陥品よ! 去年のあの噂は本当だったわ!! 何が英雄よ!」


本当に最低な人だ。

彼女の言葉に集まって来た人達もヒソヒソと怪訝そうな目でレグルス様を見る。

私が事情を説明しようとするも喉が痛むのと、アリーシャさんの大きな声によって消されて誰も聞いてくれない。

それどころか、私の素顔が露わになって次々と群がって邪魔をする。

シャルルさんはいない。セティさんも、セトさんもいない。

知らない男性に支えてもらいながら上半身を起こし、助けてくれたレグルス様を見上げる。

無表情。

視線が合うとフイッと顔を背けた。


「君、大丈夫? この頬もレグルス様にやられたの?」

「医者を呼んで来るから待ってて」

「いや俺が連れて行ってあげるよ」

「あ、あの離して…げほげほっ!」

「レグルス様に近づいたらダメだ!」

「ほらこっちに来て!」


彼らは本当に私の身を案じてそう言ってくれるんだろう。

でも彼が悪いんじゃない。悪いのはアリーシャさんだ。

ガクガクと震える膝に力を込め、遠巻きにされているレグルス様にゆっくりと近づく。


「わ、たしは…! 命の恩人、っに……連れて行ってもらいます…!」


私がレグルス様に近づくと自然と私に視線が集まり、ようやくみんなの前で話すことができた。

彼の大きな手を取り、その場から連れ出そうと促すと彼もそれを察してか大人しくついて来てくれる。


「もういいですかね。げほっ…」


誰に引き留められることもなく、ようやく人気がない場所へ移動し、声をかける。

振り返って手を離せば、シャルルさんとも違う圧のある鋭い眼光が私をジッと見降ろしていた。

改めて見るとかなり大きいな…。背も高いし、体格も凄いし、何より英雄と言われるだけの威圧感も…。

無表情な分、余計に怖かったけど彼は命の恩人だ。


「すみません。あんなところにいるのは嫌だったので…」

「いや」

「それよりも助けてくださり、ありがとうございました」

「……礼を言われるほどでもない」

「命の恩人ですからお礼ぐらい言わせてください。本当に本当に助かりました」


ちょっと怖いけど、感謝の気持ちは本物だ。

大げさなぐらい頭を下げてお礼を言うと、大きな手が視界に写る。

疑問に思って顔をあげると、そのまま叩かれた頬に手を添えら親指で唇を拭う。

白い手袋に赤い染み…。私の血がついていた。


「大丈夫か?」

「まだ痛みますけど、首に比べたら…。あの、手袋汚してしまってすみません」


苦笑しながら答えれば、視線が首元へと移動し目が細くなった。


「えっと、今回のことは私が弁明しますので安心してください。あの人が完全に悪いです」

「いつものことだから気にする必要はない」

「…もしかして前も?」

「俺の力が強すぎるせいだから嘘ではない」

「でもわざとではありませんよね?」

「何故?」

「何故って…。本当にメスを傷つけるようなひどいオスなら素直に私について来ませんよ」

「……。脳内お花畑でこれまでどうやって生きてきた」

「どうやって生きて来たんでしょうね」

「ハッ」


とは言ってもどうしようかな。

アリーシャさんに力で敵わないのは解ってる。私はただの人間だからね。

だったらどうやって彼の弁明をしよう。セティさんに相談するのもアリだね。

殴られてムカつくのもあるけど、彼の為に何かしらのお礼がしたい!


「トワコッ!」

「シャルルさん」


悩んでいると遠くからシャルルさんの声がしてパッと顔をあげ、彼の姿を探す。

見つけた瞬間、嬉しくなって手をあげるとそのまま通り過ぎた。


「シャルルさん!?」

「テメェ、トワコに何しやがったッ!!」

「わー! ダメです、ダメですよシャルルさん! その人は命の恩人です!」

「ハァ!?」


その前にシャルルさんとセティさんに今さっき起きたことを説明しないとね。

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