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21.王都⑧

「帰れ!」

「トワコ嬢、おはようございます」

「お、おはようございますセトさん…」


翌日。

朝食を摂っていると珍しくドアをノックされた。

すぐに隠れてシャルルさんが応対すると昨日別れたはずのセトさんだった。

シャルルさんの制止を無視して部屋の隅にいた私に近づき、熱を持った目で見つめられる。


「帰れって言ってんだろ!」

「トワコ嬢が美味しいと言っていた果物を持って来た。よかったら受け取って欲しい」

「ありがとう、ございます…。えっと、それだけのために…?」

「トワコッ、タカ族は求愛給餌だ! 受け取るな!」

「え…」

「深く考えないで下さい。ただトワコ嬢に喜んでほしくて持って来ただけです」

「……せっかくなんで頂きますね。ぶどう好きなんです」

「クソが…。もういいだろ、帰れよ」

「言われなくても仕事に向かう。トワコ嬢、今日も素敵な日を」

「ありがとうございます」


朝から嵐が起きたものの、すぐに過ぎ去ってくれたのは助かった。


「ぶどうが好きなら俺が買ってくるのに…」

「わざわざ買ってもらうほどじゃないですよ。他の果物も十分美味しいですし」

「つーかあいつに宿屋がバレたな…。他の宿屋に移ろう」

「でももう一週間分の宿代払いましたよね? 返金できないって言われましたし、さすがにもったいないですよ」

「あいつが俺のテリトリーに入る方が嫌だ。お金なら心配しないで」

「でもそしたらシャルルさん働きに行くじゃないですか」

「でも…」

「しっかり休んでもらいたいですし、やっぱりまだ一人でいるのは心細いので傍にいてくれると助かります」


一人でいるとやっぱり時間が経つのが遅いし、前の村にいたときみたいにいきなり店主が来て扉を叩かれるのも怖い。

やっぱりシャルルさんには近くにいて欲しい。


「トワコ…!」

「一緒にぶどう食べませんか。昨日すっごく美味しかったんですよ」

「あーほんっと好き! 早くトワコを食べたい!」

「や、止めてくださいそういうこと言うの!」







「おはようございます、トワコ嬢。今日はフルーツタルトだ」

「わー、おいしそう! いつもすみません」

「姉上からもよくするよう言われているからな」

「渡し終わっただろ。早く仕事行けよ」


あれから一週間。

セトさんは毎朝何かしらの甘い食べ物を持って来るようになり、それが当たり前になっていった。

心の底では申し訳ないと思いつつ、おいしいものには勝てない…!

シャルルさんも負けじと色々買って来てくれるんだけど、セティさん専属の料理人が作るお菓子には勝てなかった。


「いや、今日は少し話があるんだ」

「私にですか?」

「はい。明日、凱旋パレードがありますが姉上が一緒にどうかと」

「あ…。そっか、もう明日か…」


この一週間はシャルルさんから文字を教えてもらっていた。ついでにまた生理になって休んでいた。

とは言っても文字が違うだけで書き方は日本語に近かったからとても簡単だった。

絵本ぐらいなら問題なく読める。ただ漢字がないから小説になると文字数が多くなって大変なことになるけど…。

集中して勉強していたのもあり、明日が凱旋パレードなのを忘れてた。

チラリとシャルルさんを見ると不機嫌な顔をしたままセトさんを睨みつけている。


「嬉しいですけどシャルルさんもいますし…」

「姉上はそいつと一緒でも構わないと言ってました」

「わっ、本当ですか? 嬉しいです、ありがとうございます。シャルルさん、ご一緒してもいいですか?」

「トワコがそう言うならそれに従うよ。どうせこいつは仕事で忙しいだろうし」

「そうなんですか?」

「私は警備担当なので…。トワコ嬢の着飾った姿を見たかったですが…残念です」

「着飾る?」

「メスは着飾って専用の席に座るんです。王がそう命令を下しました」

「じゃあ私は無理ですね。着飾る服はないですし、このままじゃあさすがに浮いちゃいます」

「だろうと思って姉上が用意してます」

「は? 着飾ったトワコは見たいけどそれじゃあバレるだろ。あの王に目をつけられたくねぇ」

「それには同意する。だが安心してくれ、顔を隠すものも用意している。別の村から来たと姉上も話を合わせると言っていた」

「それなら…。お邪魔してもいいですか?」


目立ちたくないなら、バレたくないなら欠席するのが一番なんだろうけど、凱旋パレードを特等席で見たいミーハーな私を許してほしい。

それに、シャルルさんから聞いたメス同士の関係性も確認したいし…。

顔を隠しておけばアリーシャさんにも目をつけられることはないでしょ。不細工だから隠してるって言っておけばいいし。


「勿論です。明日の朝、屋敷に来て下さい」

「わかりました。楽しみにしているとセティさんにお伝えください」

「はい」

「ほらもう用事は済んだだろ。帰れ」


強制的にセトさんを追い出すシャルルさん。

いつものやり取りに少しだけ笑いがこぼれる。

何だかんだ少しだけ仲良くなったよね。これぐらいなら口を挟まなくてすむから私も楽だ。


「着飾ったトワコも可愛いんだろうね。でも警戒心だけは失くさないでね」

「気を付けます。シャルルさん達も隣に座るんですか?」

「まさか。その近くに椅子が用意されるからそこに座るようになってるはずだよ。数に限りがあるけどね」

「確かに全部のつがいを合わせたらとんでもない数になっちゃいそうですね」

「そうそう。特にライオン族のメスは三十は超えているからね」

「すごいですよね…。王都一でしたっけ」

「大体が十から二十なのに圧倒的だよね。もしトワコが三十人以上のつがいを作ったら絶対に他のオスを消してるよ。十人だって嫌だ」

「絶対にありえない未来なので大丈夫ですよ」

「トワコは僕だけを見てればいいんだよ。なのにハイエナと言いタカといい邪魔くせぇなぁ…」


自然と抱き着きスリスリと頬擦りをされる。

屋敷で抱えてほしいと言ってから一線を越えてしまったらしく、前に比べてスキンシップがかなり増えた。

最初はあんなに恥ずかしかったし、拒否してたのに最近慣れてしまったしハグされると心地よくなってきている。

よくないと思いつつ、確実にシャルルさんに絆されてる。

だって優しいし頼りになるし格好いいし、何より一途に好いてくれてるんだもん…! 好きになるなって言うほうが無理だよ!


「ハイエナと言えば、グラドさんとどうやって合流するんですか?」

「さあ?」

「え? さ、さぁ?」

「それを言う前に話を切り上げられたし、知らない」


………なるほど、だからそこまでグラドさんのことを警戒してないのか。


「明日のために今日はゆっくり休もうか。セーリも終わったよね? 勉強は休んで商店街で気分転換でもする?」

「いいですね。久しぶりに歩きたいです」

「じゃあ準備してくるから着替えてて」

「はい」

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