20.王都⑦
「本当に姉上が申し訳ない…」
「いいえ。聞きたいことは聞けましたし、楽しかったです」
「よく眠れなかったですよね。顔色があまり良くない…」
「こ、これはちょっと緊張して…」
翌朝。
美女が裸でくっついてきたせいで、緊張してあまり寝れなかった。
いつもの時間より早く起きて服を着て一緒に朝食を摂る。
セティさんはまだ眠たそうにしていたので先に帰ることを伝え、お礼を言ってセトさんに玄関まで案内してもらう。
昨日公開告白みたいなことがあったのに、彼は至って普通通りで私の目の下にあるクマを見て心底申し訳なさそうに謝ってくれる。
「昨日は突然だったのに色々とありがとうございました。ご飯も美味しかったとお伝えください」
「いえ、こちらこそ姉の我儘に付き合ってくれてありがとうございます」
玄関から出て改めてお礼を言うと彼もまた頭を下げる。
うん、やっぱり誠実な人だな。気持ちがいい。
「トワコッ」
そこにシャルルさんの声が届いた。
なんか久しぶりに感じる。
「おはようございます、シャルルさん」
「変なことされなかった? 少し顔色が悪いようだけど大丈夫?」
「大丈夫です。美味しいものもいっぱい食べたし、楽しかったですよ」
「僕が美味しいものをあげたいのに…。まぁいいや。もう用は済んだよね? 帰ろう、ここはタカ臭い」
「シャルルさん…!」
セトさんに聞こえる大きな声でそんなことを言わないでほしい。
チラリと後ろを見ると軍人らしい険しい表情でシャルルさんを睨みつけていた。
「トワコ嬢、昨日も言ったがまた今度正式に申し込ませてほしい」
「何をですか?」
「君の番になりたい」
「テメェ…!」
「き、機会があればまた!」
「やっぱり下心あるじゃねぇかクソ野郎! 今度こそ殺してやる!」
「落ち着いてシャルルさん!」
「夜でなければ貴様などどうってことない。正々堂々と決闘を申し込んでやろう」
「上等だ。テメェらタカ族は前々から嫌いだったんだ。気取った態度で見下しやがって…」
「シャルルさんっ。あの、私ちょっと眠たいから早く帰りませんか!?」
「トワコは寝るのが好きなのにそれさえもしてやれねぇのかよ…!」
「申し訳ありませんトワコ嬢。やはり姉が何か粗相をしていたようだ…」
「違うんです、気にしないでください! シャルルさん、私もう限界なので抱えてくれませんか!?」
「え、いいの?」
「お願いします」
さっきまで殺意に満ち溢れた顔をしていたのに、セティさん直伝の「お願い」をすると嬉しそうに笑って抱き抱える。
はぁ、これで殺し合いはしないでしょ…。
「久しぶりに触った感じだ。トワコは柔らかくて気持ちいいなぁ…」
「いくらトワコ嬢が許可したとしても番でもないオスが気軽に抱えるんじゃない! トワコ嬢、馬車を出します。それより乗り心地はいいはずだ」
「大丈夫です。シャルルさん、帰りましょう」
「うん、そうだね。じゃーな。もう二度と顔見せんなよ」
抱えられたままセトさんに手を振り、ようやく屋敷から離れることに成功。
「はぁ…」
「やっぱりトワコの世話は僕がしないとダメだね。可哀想に、凄く疲れてる」
疲れてるのは先程のやり取りであって、屋敷ではそれなりに楽しく過ごせたよ…。
何も言わず少しシャルルさんに体重を預けると抱える手に力をこもる。
「昨日はどこにいたんですか?」
「タカが邪魔で近寄れなかったからここらへんで野宿してた」
「じゃあシャルルさんもちゃんと寝れてないじゃないですか。宿屋についたらシャルルさんもゆっくり休んでくださいね」
「じゃあ一緒に寝ようか」
「いつも一緒じゃないですか」
「同じベッドでだよ。一日も離れたんだ、僕の匂いが薄まってるからつけておきたいし」
「……黒豹なら」
「やった。じゃあ今日は宿屋でゆっくり休もうね」
「そうですね」
✿
「そうそう、来週凱旋パレードがあるらしいですよ」
「あぁ、そう言えば聞いたな。遠征に出ていた軍隊の栄誉の凱旋とかって」
「もっと王都を見てみたいしついでに見学してもいいですか?」
「構わないよ。トワコの好きなことをしたらいい」
「ありがとうございます」
宿屋に戻った私たちは二度寝をして身体と精神をしっかり休ませた。
夕方になって部屋まで持って来たくれた早めの夕食を摂りつつ、セティさんから聞いた凱旋パレードを見学したいと申し出ると、すぐに二つ返事。
でもまだ一週間はあるしそれまではどう時間を潰そうかな。
元の世界に戻る為に情報は欲しいけど、何の力もない私じゃ限界がある。だからと言ってシャルルさんにお願いはできない。
図書館とか行けば何か手がかりあるかな。いや、私文字読めないや…。
「トワコ? 美味しくなかった?」
「いえ、少し考え事をしてて…」
「何か欲しいものがあるの? 持って来ようか?」
「………じゃあお願いしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「うん、構わないよ」
「文字を教えてほしいんです」
「文字?」
「ほら、私文字読めないじゃないですか。だから勉強しておきたいなって…」
「いいね。じゃあ明日は本を持って来てあげる。子供向けのものでいいかな」
「はい。まったく解らないので子供向けでお願いします」
そう言えば、文字は読めないのに言葉が通じるのは何でだろう。
まぁ異世界に答えを求めるのは無駄だけど、変な感じ。
「で、聞きたかったことはちゃんと聞けた?」
「はい。協会でこの人と番になりたいって気持ちを持って二人で祈ればいいらしいですよ」
「じゃあ近いうちに協会へ行こうか」
「え? な、なんで?」
「僕と番になってくれるんでしょ?」
「番を作るとしたらですよ…。記憶改ざんしないでください…」
「でもハイエナだけじゃなく、あのタカ野郎までトワコに求愛してくるんだよ。不安になるんだ…」
シュンと悲しそうに俯くシャルルさん。
二人と番になる気はないと言っても、きっと不安なんだろう。
そりゃあね? 私だってシャルルさんのことが好きだよ?
でもこれが恋愛なのかと言われたら解らないし、彼氏彼女じゃなくていきなり夫婦になるって言われても抵抗感があるし…。
「絶対にシャルルさんより先に別の人と番になったりしませんから、そこは安心してください」
「本当に?」
「私、約束は守る性格なんです」
「わかった、トワコを信じるよ。でも協会には行ってみない? 水晶でできてるから綺麗だよ」
「わぁ、それはいいですね。行きましょう!」
水晶でできた協会を想像しつつ楽しい夕食を過ごす。
昨日も楽しかったけど、シャルルさんと食べる夕食もやっぱり楽しいな。
夕食を食べ終えたあとはデザートも持ってきてくれて、昨日セティさんから聞いた話を復習するかのようにシャルルさんに伝える。交尾云々の話は置いておいて…。
「じゃあ南には行かないようにしようか」
「はい、できれば近寄りたくないです」
「それは確かにタカの女王からしか聞けない情報だ」
「そう言えばオスからメスの噂話とかってないんですか?」
「そもそもメスは屋敷にこもってるから情報が少ないんだよ。オスから聞く話は可愛いだとか綺麗だとか番になりたいぐらいしか聞かないかな」
「なるほど。セティさんもそうでしたけど、みんな屋敷にこもって何をしてるんですかね?」
「さあ? 発情期になればずっと交尾してるけど、それ以外の日は番探し?」
「ずっと……」
「因みにヒョウ族は「それ以上は言わなくていいです!」
絶対に聞きたくないことを言おうとした!
口を押えるとニコニコと笑ってそのまま受け入れる。
「興味が出たら聞くのでその時教えてください」
「うん、わかった」
「はぁ…。あ、そうだ。ちょっと調べてほしいことがあるんですけど、いいですか?」
「トワコが頼ってくれるのいいなぁ。なに?」
「メス同士の関係性が知りたいんですけど、調べることってできますか?」
「できるよ」
「あとこの国とか隣国の情勢ですかね。戦争が起こりそうならさっさと逃げたいです」
セティさんからは結局聞けなかった。
でも知らなさそうだし、こういうのはシャルルさんに聞いたほうが正解だ。
「それは大事だね。任せて、そう言うことに詳しい奴を知ってる。メス同士の関係性を知りたいのは何で?」
「んー…セティさんみたいにいい人がいれば仲良くなっておきたいんですよねぇ」
もし私がメスだってバレたとき味方は増やしておきたい。
メス同士で同盟を組めばそれなりに強くてアリーシャさんに対抗できるし、迂闊に争うこともなくなる。…はず!
もちろんアリーシャさんと対立する気はないけど、ちょっと怖いんだよね。セティさんに喧嘩を売るぐらいだし。
「まぁトワコの盾が増えると思えばいいか…」
「え、なに?」
「いや、少し時間がかかるかもと思って」
「あ、ごめんなさい。難しかったらいいですからね」
「難しくはないよ。とにかく任せて」
「ありがとうございます」
「他にお願いしたいことはある?」
「今はもう大丈夫です。お風呂に入ってきますね」
「わかった、見張っておくよ」
宿屋で見張る必要はないと思うんだけど、ここは日本じゃないからね。
お礼を言ってお風呂場へと向かう。
「さて、トワコの為に久しぶりに本気出すか。ついでに資金もなくなってきたし裏ギルドで仕事して…それから情報買って…。前まで生きる為にただやってたけどトワコのお願いってなるとやる気に満ち溢れるな。どうやったら番になれるかな…。メスは子供が好きだから子供を見せるのもいいかもしれない。ヒョウ族の奴らにお願いするのは絶対イヤだけど…あー…早くトワコと番になりたい」




