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02.出会い②

あれから何時間経っただろう。

目を閉じると寝てしまい木の上から落ちてしまうので色々なことを考えて彼を待ち続けた。

彼が言っていた言葉で気になる単語がいくつかある。

君のオス。仕事仲間。魔獣。運命の子。

君のオスって言うのはその言葉通りだと思う。オスって言い方はなんか嫌だな…。多分彼氏がいるかどうかの確認だったのかな? そうだとしたらなかなか紳士的な人?

仕事仲間もその通り。でもこんな森の中で仕事してるって……なんの? もしかして法に触れちゃってる系とかじゃないよね? 優しそうな人だったけど本当は…?

あとは魔獣。魔獣って…まさか本当にアニメの世界に来ちゃったとか? こればかりはいくら考えても解らない…。

あと最後に言っていた運命の子。ちょくちょくお世辞を入れてくれる人だなぁとは思っていたけど、その時ばかりは真剣に聞こえた…気がしたんだけど多分違う。ただキザなだけかもしれない。


「ひっ!」


太陽はとっくの前に沈み、周囲は暗闇に包まれている。

現代人にはあまり体験できない暗闇から不自然な音がし、肩が飛び跳ねた。

その音がどんどん近づいて来て、マントを頭から被って自分を隠し、息を潜める。


「遅くなってごめんね。大丈夫?」

「……っあ…!」

「寒くない? あとお腹が空いてると思って食料と水も持って来たけど食べる?」

「……」

「水にする?」

「…ありがとうございます」

「うーん、やっぱり変わったメスだなぁ…。でもいいね、嬉しい」

「え?」

「気にしないで。オスがメスの世話をするのは当たり前のことだから」

「いやそんなことは…」


取り出したのは皮の水筒? わざわざ蓋を外して渡してくれたので恐る恐る受け取り、口を潤す。

カートにはコンビニで買ったココアが入っているけどこの高さじゃ降りれないし、登れなかったし、何より存在を忘れていた。

胃を水で満たして残った水筒を返すと蓋を閉じ、背負っていた小さな鞄にしまう。


「あの、本当にありがとうございました」

「美味しかった?」

「あ、はい。喉乾いていたので…」

「家に帰ればもっと美味しい果実水があるから楽しみにしてて」

「家?」

「うん、僕の家。とは言っても宿屋暮らしなんだけどね」

「あ、あのっ。えっと、警察に連れて行ってくれるだけでいいんですけど…」

「ケイサツ?」

「……」


考える時間はたくさんあった。だから彼のこの反応で理解できた。

ここは日本じゃない。多分、別の世界だ…。

何で別世界に来たかは解らないけどそうじゃないと納得できないことばかり。


「……この近くにある街ってどんな名前ですか?」

「マルケルだよ。割と大きな街だけど聞いたことない?」

「…な……あるような…ないような…」

「そっか! まぁ興味がなかったら知らないよね。そこは冒険者ギルドが大きいから稼げるんだよねぇ。あ、ところで名前聞きそびれてた。聞いてもいいかな?」


また解らない単語が出てきた…。

それはまぁ置いておこう。


「乃木永遠子、です」

「ノギトワコ? 長い名前だね」

「あっ、そうじゃなくて…。えーっと、永遠子が名前です」

「トワコ。君にピッタリの名前だ」

「あはは…。ありがとうございます…」

「僕の名前はシャルル」

「シャルルさん…」

「ははっ、トワコに呼ばれると嬉しいなぁ。声も可愛いし、もっと聞いていたいけどここから出ようか。荷物は下に置いてるあれだけ?」

「は、はい」

「それじゃあ掴まって」

「わわっ!」


そう言うとまた抱えられ、またあっという間に地面へと降り立つ。

ずっと木の上で動かなかったから地面に足をつけた瞬間、力が入らず倒れてしまった。


「だ、大丈夫?」

「ごめんなさい…。なんか久しぶりに地面に降りたから足が…」

「……」

「す、すみません! 立ちます!」

「謝らないで。思っていた以上にか弱かったからどう世話していいか考えてただけだから」

「お世話…? な、なんで…?」

「僕、トワコのこと好きだし君のつがいになりたいんだ」

「つがい?」

「今までメスに興味なかったし嫌いだったんだけど、トワコはこの世のものとは思えないほど可愛いし、声も心地いい。ずっと君といたい。つがいがいないなら僕を君のつがいにしてほしいんだ」

「お、お世辞がお上手なんですね…」

「オセジ?」

「えー…?」


待って待って。もうこれ以上私を混乱させないで…。

改めてシャルルさんをしっかりと見ると快活そうな青年だった。

日本では見ないような整った顔立ちに柔らかい印象を受ける不思議な目の色。

誰が見てもイケメンだと思う彼に「可愛い」と言われても心に響かない。どう考えてもただのお世辞にしか聞こえないのに彼はいたって真剣な顔と、本当に理解できていない困惑声で首を傾げて私を見下ろしている。それすらも絵になるイケメンだ。

いたたまれない気持ちになって視線を外し、キャリーケースを持とうとするも彼がサッと奪っていく。


「うーん、これはさすがに咥えて移動できないかな…」

「くわえる?」

「あ、僕はクロヒョウ族なんだ。そっちのほうが乗り心地もいいだろうけど荷物があるんじゃあちょっと…。だからってトワコには持たせたくないし…。遅くなるけど抱えて移動するね」

「くろひょう…」

「ヒョウ見たことがない? トワコは草食獣人?」

「……」

「見せてあげようか? 本当に真っ黒だから驚かないでね」


クスクスと笑い、彼の【形】が変わっていく。


「……」

「グルル」


目の前には大きな猫。否、黒い豹。

喉を鳴らし、鋭い牙を見せ、怪しく光る瞳で私を見つめる。


「ットワコ!」


そこでとうとう意識を失ってしまった。

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