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17.王都④

「まさか昨日の今日で会えるなんて! さすがシャルルさん。伝手を持ってたんですね」

「伝手って言うか…。まぁ会ったら解るよ」


昨日は会えないと言われたのに、今日はとある伝手を使って会えることになったと昨晩聞いた。

何でそんなことになったか解らないし教えてくれないけど、私からしたらとてもありがたい!

鷹の女王は気難しそうな人と聞いたので屋敷に近づくにつれ心拍数があがる。

手土産も持ったし大丈夫だと思うけど…。いや、ここは日本じゃないしどうなるか解らないよね。失言しないよう気を付けよう。

緊張を解すためシャルルさんとなんてことない会話をしながら屋敷に向かうと、昨日いた二人の門番はおらず、代わりに軍服を纏った男性が立っていた。


「……あれ?」


服装は軍人っぽいのに眼帯せいで軍人かと疑い、小首を傾げる。

茶色い髪の毛にオレンジ色の鋭い目。

どこかで見たことがあるような、ないような…。


「トワコ嬢。先日は大変お世話になりました。お陰でここへ帰って来ることができました」

「え?」

「そこのクロヒョウと森で一戦交えたタカ族の者です」

「……あー!」


思い出した、あの時の鷹だ!

え、と言うことは…。


「失明したんですか!?」

「手当てして頂いたのに不甲斐ない…。気にしないで下さい」


彼の正体と右目の眼帯を見て全てを理解した瞬間、血の気が引いて駆け寄る。

嘘…。傷薬で回復したの見たのに…!


「だ、だいじょうぶですか…? いや、大丈夫じゃないですよね…。あの…私…!」

「失明させたの僕だしトワコがそんな顔する必要ないよ」

「いや……なんて言うか…」


ほんと、なんて言ったらいいんだろう…。

私がやったわけじゃないから謝るのはおかしいし、素人が治療なんてできないし…。

思わず眼帯に手を伸ばしたが、シャルルさんに手首を握られ引き離される。


「私は軍人なのでこういうことはよくあります。トワコ嬢がそんな顔をする必要ありません」

「いやでも目…」

「トワコ、弱肉強食だよ。弱い奴に同情する必要はない」

「わかってますけど…。も、もう痛みはありませんか?」

「はい。最後に綺麗なハンカチを頂いたお陰で感染症にもならず助かりました」

「よかった…。いや、よくないんですけど…」

「申し遅れましたが私はセト・バンレンシです」

「あ、こちらこそ遅くなりました。永遠子です。セトさんが生きててよかったです」

「ねぇもういい? 早く中に案内してくれない?」

「貴様はここで待ってろ」

「ハァ!?」

「この屋敷はタカ族しか入れん。トワコ嬢はメスなので今回だけ特別だ」

「ふっざけんなクソ野郎…ッ」

「大丈夫ですよ、シャルルさん。ただお話してくるだけですし軍人さんなら悪いようにはしませんって」

「いや、トワコ。そいつ真面目そうに見えてムッツリだよ」

「そ、そんな失礼なこと言わないでください。とにかく行って来ますね」

「何かあったら大声出して僕を呼んで。すぐ駆けつけるからね」

「わかりました」

「こちらです」

「よろしくお願いします」


シャルルさんを門前に残し、セトさんの案内で屋敷へと入る。

重たい扉を開けるとシンプルにまとまりながらも豪華な装飾が施された大広間が目の前に広がる。


「姉は三階です。案内しますのでついて来て下さい」

「はい。……誰もいないんですか?」

「トワコ嬢が来るので誰も出て来るなと伝えております。あまりバレたくないと仰ってましたよね?」

「覚えててくれたんですね…!」

「トワコ嬢のことなら」

「ありがとうございます。とは言っても昨日の門番さんには自分からバラしちゃいましたけどね」

「あれぐらいなら私が処理をしておきます。今日ここにトワコ嬢がいるのも私と姉とそのつがいしか知りません」

「助かります! よかった、セトさんと偶然に出会えて。本当にありがとうございます」


さっきまで軍人らしいキリッとした顔立ちだったけど、お礼を言うと少し照れ臭そうに笑顔を返してくれた。

あの時セトさんを見殺しにしなくてよかった!


「自分の姉ながら気難しい性格です。弟の私であってもこの部屋には入れないので何かあったら声を出して下さい」

「わかりました」

「姉のつがいもいないのでご安心下さい」

「何から何まで…」

「トワコ嬢には命を救われましたから」


喋りながら三階へと向かい、鷹の女王がいる部屋の前に到着。

扉の前で軽く話して扉を開けると、大きなベッドの上に美女が一人座っていた。


「貴方が愚弟のつがいね」


一歩中に入ると扉は閉められ、圧がある声を浴びせられる。

ちょっと怖いかも…。


「え、つがい?」

「真面目すぎる弟をここまで動かせるのはつがいしかいない。私のつがいにさえも見せたくないと言ったわ」

「いえ、つがいではありません。少し縁があって…」

「それより私に話があるって? どうせくだらない話でしょうけど愚弟の頼みだから聞いてあげるわ。座りなさい」

「は、はい…」


美女の睨みは一際怖い…。

顎で指定された椅子に座ると彼女も目の前に座って向き合う。

茶髪にオレンジ色の目。整った顔立ちはセトさんとソックリだ。


「で、聞きたいことはなに。どうせ貴方も私のことを差別主義者などと笑い者に来たんでしょ」

「いえ、私はマリッジリングについて聞きたいだけですが」

「はぁ?」

「えっとですね…。私、実は記憶喪失でこの世界のことも、自分がどこから来たかも解らないんです」


若干の嘘と真実を交えながら、昨晩考えていた質問を聞いてみた。

どうやったらつがいになるのか、マリッジリングはどんなものなのか。つがいとはどういうものなのか、何をするのか。

高圧的な態度と口調ではあるものの、彼女も真面目な性格なんだろう。不機嫌な顔のまま私の話を黙って聞いてくれる。

悪い人じゃないのかな?


「メスの本能も忘れるとは…。貴方欠落品?」

「あはは、そうかもしれませんね」

「否定しなさい。馬鹿にされて笑うんじゃないわよ」

「は、はいっ」

「はぁ…。何よこの生き物…。ヘラヘラ笑って情けない。いい、まずは毅然とした態度を心掛けなさい! いくら王都が安全だからと言うも弱肉強食だというルールを忘れてはダメよ!」

「わ、わかりました!」

「我が子でさえここまで平和ボケしていないのに…。まぁいいわ。つがいになる方法よね」

「はい、お願いします」

「簡単な話よ。貴方がつがいになりたいオスと協会で誓いを立てるの」

「協会でですか?」

「協会じゃなくてもいいわ。始祖像の前で二人がつがいになりたいと願い、揃って始祖に祈りを捧げると指輪が贈られるわ。揃って祈る。これをしなければつがいにはなれないの。ああ、始祖像も必ず必要ね」


そう言って左薬指を見せてくれた。

シルバーのリングにオレンジや赤の宝石が散りばめられ、光を浴びてキラキラと光っている。


「素敵な指輪ですね」

「私のつがいはタカ族だけだから同じような色で他のメスに比べて見応えなどないでしょ」

「そんなことないですよ。統一感があってとても綺麗です。さまざまな宝石が散りばめられていても綺麗ですけど、これはこれで素敵です。赤とオレンジだから相性もバランスもいい。本当に綺麗です」

「ふんっ、口ではなんともでも言えるわ。そう言って陰で笑ってるの知ってるんだからね!」

「そんなことは…」

「私はタカ族のメスよ! タカ族の繁栄に貢献して何が悪いのかしら! 他の種族が嫌いとか、衰退しろなんて思ってないのにあんなことばっか言われて…!」

「私はいいと思いますよ。セティ様が好きで鷹族をつがいにしてるんですよね?」

「当たり前じゃない! 私、タカ族の目が好きなの。それに私もタカ族だから一緒に空を飛びたいし…。共通の話題があったほうが楽しいわ」

「そこに愛があれば本人の自由ですよ。周りがなんて言おうと気にする必要ありません。私もつがいを選ぶなら種族関係なく、相性を大事にしたいと思ってます」

「そうよね!? やっぱり相性よね! そもそも他の種族とは性格が合わないのよ。不真面目で不衛生だなんて…私には無理だわ!」

「私も不真面目な方はちょっと遠慮したいです。できればお風呂だって毎日入りたいし、入ってほしい」

「でしょう!?」


大事な話を聞けたのはよかった。

祈りを捧げるとつがいになるんだ。じゃあ祈らなければ大丈夫かな?

話も聞けたし、彼女の不快にならないように早々に退散しようとしたがその後は延々と彼女の愚痴を聞かされた。

きっと今まで色んな陰口を叩かれたんだろう。一度愚痴を吐き出すと「あれも」「これも」とどんどん溢れてくる。

適度に相槌を打ちながらセティ様の話を聞き続けて一時間ぐらい経ったかな。扉をノックする音が聞こえ、セトさんの声が届く。


「なに!」

「先程から姉上の声しか聞こえていないが、何をしているんですか」

「愚痴を聞いてもらってんのよ!」

「ハァ…。何故姉上の愚痴を聞くことになってるんですか。トワコ嬢の質問に答えるだけでは?」

「もう答えたから愚痴ってるの! えっと、貴方名前は?」

「あ、永遠子です」

「トワコ、貴方今日はここに泊まりなさい!」

「えッ!?」

「なによ、私の話を聞くのが嫌なの!? やっぱり貴方も私のこと嫌いなんでしょ!」

「い、いいえ違います! ただ私の連れがいるので…」

「あらつがいがいるの?」

つがいではなく仲間です。色々と助けてもらってて…」

「何族?」

「黒豹です」

「へー…ヒョウ族じゃなくてクロヒョウなのね、珍しい」

「そうなんですか?」

「あらそんなことも知らないの? 尚更泊まって行きなさい。しょうがないから色々教えてあげるわ」

「それはありがたいんですけど…。あの、シャルルさん…黒豹も一緒にというのはダメですか?」

「駄目。タカ族しか入れないという規則は破れないわ。悪いけど宿屋にでも戻らせて」

「一度彼と話して来てもいいでしょうか」

「いいわ。愚弟、聞いたでしょ。彼女を歓迎するから準備して」

「解りました。屋敷の者にも伝えておきます」

「では私は一度宿屋に戻って準備してきますね」

「貴方も戻るの? 愚弟、トワコを送ってあげなさい」

「いえそこまでしてもらわなくても! 黒豹族の人とも話したいですし…」

「ああ、そうだったわね。解ったわ。でも早く戻って来るのよ! 美味しいものを準備してあげるわ」

「あ、ありがとうございます。セトさん、私は一度戻りますね」

「玄関まで送ります」

「助かります」


屋敷が広いので一人じゃ玄関まで辿り着けなかったので助かる。

部屋から出るとセティさんが誰かの名前を呼んだのが聞こえたが、セトさんに促され玄関へと向かう。


「姉上に変なこと言われなかったですか? 口調もきついし、我儘だったでしょう?」

「んー…。少し驚きましたが根がいい方だったので気になりませんでした。色々大変な目に合ったみたいですし、きっとそのせいで口調が強くなったのかと」

「そう言って貰えると助かります。久しぶりにタカ族からメスが産まれて甘やかされて育ったせいで…。外部の目線や陰口に敏感なんです」

「そうなんですね。私は嫌いじゃないので大丈夫ですよ。セトさんと同じぐらい綺麗な人で目の保養になりました。美人すぎてちょっと緊張しますけどね」

「…」

「セトさん?」


私のペースに合わせて歩いていた足を止め、その場に立ち尽くす。

振り返ると何故か真っ赤に染まった顔のまま私を見つめていた。

名前を呼ぶと口を大きく開くも声を出さず動かし、結局何も言わず俯いた。


「えーっと…?」

「何でもないです。忘れて下さい…」

「そうですか? あ、まだ体調が悪いとか? 無理はしないでくださいね」

「気遣い感謝します。その、トワコ嬢は他のメスに比べて穏やかな性格ですね…」

「そうですか? まぁ小心者ではありますね」

「そんなことありませんっ。血が苦手なのに私の手当てをしてくれたではありませんか」

「さすがにあんな大怪我した姿を見たら…。でも本当にすみません。お仕事だと言うことは解ってますが怪我をさせてしまって…」

「気にする必要はありません。命を散らす覚悟であいつに挑み、負けただけです」

「ここではそうかもしれませんが、もう少し命は大事にしてください。死んだら悲しいじゃないですか」

「……トワコ嬢は私が死んだら悲しいですか?」

「そうですね。もう知り合いですし死んでしまったらきっと泣いちゃいますね。森のときだってあのまま死んだらきっと引きずってました」

「そ、そうですか…。ならば次から気を付けます」

「そうですよ! あ、玄関ですね。ありがとうございました。またあとで伺いますね」

「はい、楽しみにしてます」


穏やかな会話をしているとあっという間に玄関へと戻って来れた。

最後に頭を下げお礼を言うと彼は口元に笑みを浮かべ、胸に手を添えて軽く一礼。

その洗礼された動きに「軍人だなぁ」と見惚れたが、外からシャルルさんの声が聞こえたので足早に向かった。

さて、問題はここからだ…。


「と言うわけで、お泊りすることになりました」

「……」

「他にも色々聞きたいことがあるのでお邪魔したいんですけど…。あの、いいですか?」

「その間トワコと離れてないとダメじゃん。絶対イヤなんだけど」

「少しだけですから」

「一晩分の寝顔見れないなんてありえない。もったいない」

「私の寝顔見てたんですか?!」

「無防備に寝てるトワコが可愛くて可愛くて…。ごめんね、イヤだった?」

「いやですよ…、恥ずかしい…」

「はぁぁあああ…。こんな可愛いトワコをあんな場所に閉じ込めるなんてほんとありえない。タカ族に監禁されるかも…」

「されませんよ。セティ様とお話するだけですし、あそこにいるオスは皆セティ様のつがいですよね?」

「全員じゃないよ。つがい候補もいるからイヤなの」

「だ、大丈夫です。誰ともつがいになるつもりはありません」

「でもトワコはちょっと押しが弱いからなぁ…。と言うか、あの野郎と一緒ってのが気に入らねぇ」

「セトさんはいい人ですよ」

「ほんと何でこんな純粋なんだろう。どうやって生きたらこんな真っ白な生き物になれるの?」

「そんなことないですから…。シャルルさん、ダメですか?」

「望み通りにしてあげたいけど…」

「じゃあ約束します。つがいを作るとしたら一番は絶対にシャルルさんを選びます」

「ッ本当!?」


屋敷から宿屋へ向かう途中、シャルルさんからの小言を聞きながらなんとか許可を得ようとするも難しく…。

あと一押しだったので「一番はシャルルさん」と言うと肉食獣の目付きに変わり、両腕を強く握られる。

顔を近づけ、ギラギラと輝く強い視線に背中が震えた。

勢いと圧に負けて何度も頷くと細くなっていた瞳孔が戻り、ようやく解放してくれる。


「しょうがないね。僕が我慢しよう」

「あ、あ、ありがとうございます…」

「近くにいるから何かあったら叫んでね」

「心強いです」

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