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00-04.アルファの場合

「(明かりについて行ってみよう…)」


森の中を彷徨ってもいずれは死んでしまう。野生動物に遭遇する危険だって…。

それなら…まだ人がいる場所に行きたい。

頑張って説明すれば敵じゃないって解ってくれるかもしれないし、子供だから見逃してくれるかもしれない…。

悪いことばかり考えてしまうのはよくない! きっと大丈夫!

根拠のないポジティブ思考になるのは恐怖からの逃避かもしれないけど、賭けるしかなかった。

それでも周囲に誰もいないことを確認して、まだぼんやり残っている明かりを追いかけた。


「(わ…! 人がいる…。それに戦ってない!)」


明かりについて行くと思っていた通りたくさんの人がいた。

白いテントに最低限のたいまつ。それと……血を流して横になって動物たち…。

やっぱりついて来るの間違えた?

人間が動物たちを必死に治療し、様々な言葉が行き交う。

どう見ても「助けてほしい」なんて言える雰囲気じゃない…。


「釣れたのは一人だけか」

「ひっ…!?」


再度どうしようか悩んでいると、白い布が視界に入り、地面へと身体を押し付けられた。

悲鳴が出る前に押し付けられた衝撃で言葉が詰まり、呼吸も一瞬止まる。


「素直に情報を吐くならこのまま殺してやる。吐かないなら解るよな」


冷え切った声にまた身体が震えあがる。

殺されると本能が叫んでいる…!

「敵じゃないです」って言いたいのに、殺される恐怖で口がうまく動かない。

黙っている間にも、背中で両腕を拘束している手に力が入り、とうとう涙腺が決壊した。


「っく…ううぅ…!」

「何だお前、オスのくせ……に……」

「わ、わっ、わたし…っひく…! てきじゃないです…っ。うわぁあああん!」

「ッメス!? なんでここに!?」

「殺さないでくださぁいッ…」

「ひぃ…! す、すみませんすみません! ごめんなさいッ! 本当にごめんなさい! あのっ、すみません! えっと、その…っ! デ、デーバァ!」


何故か私以上に謝罪をし、慌てて解放してくれた。

自由になった手で視界を覆っていた布をとり、涙と鼻水を拭って起き上がるとボロボロの軍服に身を包んだ男性が私と同じぐらい泣きながら土下座している。

目が合うとさらに慌てて、人の名前?を呼びながらテントのほうへと走って行った。

残された私はどうしたらいいかわからず、だからと言って逃げ出す力もなく、呆然とその場に座って彼が帰って来るのを大人しく待つ。

男性が逃げて行った先を眺めていると、同じくボロボロの軍服を着たおじいさんと、その後ろに隠れてる先程の男性が戻って来た。


「血を流しすぎて幻覚症状が出たのかと思ったが…」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


おじいさんは私から一定距離離れたところで近づくのをやめ、じっくりと私を観察する。


「さてどうしたものか…。お嬢さん、(つがい)はどこかな?」

「つ、つがい…?」

「ふむ…。名前は?」

「……乃木です…」

「ではノギ。どうしてこのような場所へ?」

「…そ、それが…私もよく解らなくて…。で、でも私っ、私は敵じゃないです…! お願いします、殺さないでください!」

「メスを殺すだなんてとんでもない。こいつが気づかず痛い思いをさせてすまない。どこか痛む箇所は?」

「ほ、本当にごめんなさい! 敵かと思って俺…! すみません!」


一定の距離を保ったまま、優しい声をかけてくれるおじいさんと、必死になって謝る男性に少しだけ心に余裕が生まれた。

多分、言葉通り私を殺さないと思う…。

それでも警戒心を残したままやり取りを続ける。


「だ、大丈夫です…」

「遠慮せんでいいぞ、傷薬はたんまりある」

「本当に大丈夫です…」

「ああ、申し遅れたな。私はデーバ。こっちの謝ってばかりいるのはアルファだ」

「よ、よろしくお願いします…?」

「ひゃあ! 戦場じゃあ聞いたことない声だぁ…!」

「見ての通りメスに慣れてなくてな、気にしないでほしい。もしよかったらテントで休まないか? そこは汚いだろう?」

「…………お邪魔しても大丈夫ですか…?」

「戦場のど真ん中故、あまり居心地はよくないがそれでもよかったら」

「…お言葉に甘え「金獅子が出たぞッ!」


デーバさんの優し愛声を言葉に平常心を取り戻せた。

これで状況を少しは確認できる。助かった。

そう思った瞬間、悲鳴にも聞こえた叫び声が響き渡り、一瞬で空気が変わった。


「とうとう来たか…。情報通りだったな、アルファ。どうする」

「俺らの負けだ。負傷者に手を貸して逃げるぞ」

「そうだな、あれにだけは勝てん。私が指示を出してくるからお前はその子を連れて逃げろ。好色の王に捕まったらどんな目に合うか知ってるだろう」

「お、俺が!?」

「早くしろ!」


何が何だかわからないけど、やばそうなことだけはわかった。

デーバさんは音も立てずテントへと戻り、残されたアルファさんは涙目で私を見つめてくる。


「あの…」

「ひっ! あ、いや…! えっと…いいい今から撤退しますので、ノギさんもごごごご一緒にお願いしますッ…!」

「わ、わかりました…」


周囲も尋常じゃない様子で退却の準備を進めている。

何でか解らないけど逃げたほうがいい!

アルファさんに言われて立ち上がろうとしたけど、足に力が入らずうまく立てない。

そう言えば結構歩いたんだった…。


「兄貴ー! 早く逃げるっスよ! なにしてんスか!」

「あああ…ッすみませんノギさん! 失礼します!」

「わっ!」


何度も謝りながら私を担ぎ上げ、森の中へと走り出しあっという間に暗い森の中へと戻ってしまった。

デーバさんは大丈夫なのか。これからどこに向かうのか…。

聞きたいことは色々あるけど、喋りかけたらいけない空気だったので黙って担がれてること数十分、近くに小川が流れる洞窟へと辿りついた。

アルファさんは周囲を警戒し、鼻を鳴らしたあと、ようやく私を地面におろした。


「ああああのっ、だい、だいっ、大丈夫ですか…!?」

「だ、大丈夫です…。アルファさんも大丈夫ですか?」

「お、俺!? おおおお俺は大丈夫です…っ。ううっ…」

「アルファさん…?」

「す、すみません! お願いですから俺に近づかないで下さいッ! 危ないです!」

「ごっ、ごめんなさい!」


私とキャリケースを担いでたくさん走ったのに、アルファさんは少ししか息が切れておらず、まだ余裕そうな顔をしていた。

だけど私と目が合った瞬間、不器用な呼吸になって私から距離をとる。


「と、とりあえず、ここは安全です…! デーバ達も囮になってますし、ごっ合流は遅れますが…えっと、その…安心して下さい!」

「見ず知らずの私のためにありがとうございます。助かります」

「ひっ、ひぃ…! 耳が溶ける…ッ。デーバぁ…!」

「ところでその…。色々聞きたいことがあるんですがいいですか?」

「おお俺に答えられることであれば…!」

「えっと…変なこと聞くかもしれませんが…。その……ここってどんな世界ですか…?」

「へ?」


これが夢じゃないことはわかった。受け入れた。じゃあここはどこなんだ…。

私の突拍子のない質問にアルファさんはポカンとした表情になって私を見つめる。

ここは少し月明りがあるからアルファさんの顔がさっきよりよく見える…。

謝ってばっかだったからようやく顔もまともに見れたけど、爽やかなイケメンお兄さんだったのか…。


「私…家に帰ろうとしたらいきなり森の中にいて…。それでたまたま明かりが見えたらからついて行ったらあそこに辿り着いたんです」

「そう、なんですか…。えっと…あっ! その前に寒いですし洞窟の中に入りませんか!? 火も起こします!」

「ありがとうございます。私も手伝いますね」

「えッ!? いやッ、俺が! 俺がするんで洞窟にいて下ひゃいッ!」

「す、すみません…。お言葉に甘えます…」


ここは大人しくアルファさんの指示に従っておこう…。

言われた通り洞窟の少し奥に入ると干し草らしきものが引かれており、適当に造ったであろう椅子や机、木彫りでできた像も置かれていた。

アルファさんはさくさくと木の枝を集めてきて入り口付近に手際よく焚火を作ったかと思えば、何かに気が付いてそれを壊した。

不思議に思っていると首からさげていたドッグタグを触り、大きな水晶玉を取り出す。…取り出す!?


「煙で敵に位置をバラすところでした、すみません…。あの、これでも大丈夫ですか?」

「今どうやって出したんですか!?」

「えッ!? あ、ちょっ、すみません! 俺に触らないで下さい!」

「あ、ごめんなさい!」


水晶玉はオレンジ色に光り、洞窟内をあっという間に温めてくれた。

魔法みたいな道具に近づくと再び拒絶されたので慌てて元の位置に戻る。

微妙な空気になってしまったが、アルファさんはその水晶玉について色々話してくれた。

そして私が知りたかったこの世界のことも…。


「獣人の世界…?」

「は、はいぃ…! 俺はオオカミ族ですし、デーバはフクロウ族です…! ノノノギさんは何族ですかッ…!?」

「私は人間ですけど…」

「人間…? ……人間…始祖のことですか?」

「始祖?」

「えっと、あの…なんて説明したらいいか…! その、俺、説明が下手で…。デ、デーバが戻ってきたら解りやすく説明してくれるので…! す、すみません…」

「いえ…。私も変なこと聞いてしまいました、すみません。それとデーバさんが言ってた(つがい)ってなんですか?」

(つがい)(つがい)です…! お、俺もそれにも詳しくなくてッ…。た、ただ(つがい)は尽くすべき伴侶だって聞いたことがあります…。じゃ、弱点にもなるし、俺には関係ないしから興味なかったんですけど…!」


なるほど、伴侶…いわば、彼氏彼女の関係か。


「ノッ、ノギさんには(つがい)がいないんですよね…!?」

「え? あ、はい。アルファさんはいるんですか?」

「いいいいません! 俺なんかに(つがい)ができるわけありませんよ!」


何故か自分を卑下するアルファさんだけど、十分モテそうなご尊顔だ。

それに「きき汚いけど寒いのでよかったら…」とドッグタグからマントを出して貸してくれるし、入り口付近に陣取って周囲を警戒してくれてるし、一定の距離から近づいて来ないし…。

まだ知り合って数十分程度だけど、アルファさんが優しくて紳士的なのは十分伝わった。

確かに女性が苦手そうだから彼女はなかなかできないタイプだと思うけど、私は見た目より優しい人が好きだ。きっとこんな状況じゃなければ好きになってたかもしれない。


「アルファさんは優しいからきっと(つがい)ができますよ。彼氏にしたいタイプです」


少しでも仲良くしておこうと冗談交じりに思ったことを口にすると、薄明りでも解るぐらい真っ赤になって口をパクパクさせるアルファさん。

好青年な見た目なのに可愛いところもあるんだなぁ。

そう思って笑うと、さらに泣きそうな顔になって身体がプルプル震えだす。

やばい、女性が苦手なのにこんなこと言ったら怖いかな? セクハラになるのかな!?

慌てて謝ろうとすると、地面が…いや私の左手が光った。


「………え…? 指輪…?」

「なっ…! なんっ…!?」


眩しさで目を閉じ、光が消えて左手を確認すると、薬指に指輪がはめられていた。

指輪なんて買った覚えない…。というか買ってたとしても薬指につけるわけがない。


「―――アルファ、なんだその光は!」


混乱している私とアルファさんの元へデーバさんが空から降りて来て、さらに混乱が増した。

今どうやって現れたの? いや、その前にさっきの光はなに? この指輪は?


「ッもう(つがい)契約したのか!?」

「ちがっ…! いや、(つがい)になりたいとは思ってたけどッ…!」

「……(つがい)契約…?」


デーバさんから(つがい)について詳細を聞いたあと、真っ青になった私と真っ赤になったアルファさんは当分の間喋ることができなかった。

初めて見たメスに一目惚れしたアルファ。

その後、アルファ率いる蒼月の傭兵団と合流し、アルファに(つがい)ができたことを大いに喜ぶ仲間達と問題が増えて戸惑うトワコ。

解消することもできず、関係もあまり進展しないまま各地を転々とし、本編の砦へと辿り着く。

そこでようやくアルファと距離を縮めるも、ヒョウ族による奇襲で誘拐されかけたところをシャルルと出会い、シャルルが裏切ってヒョウ族を殲滅。

トワコに快適に過ごしてもらうため、シャルルの伝手を使って王国から脱出し安息地を求めることに。

この世界戦ではセト、レグルスと出会うことはない。

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