10.放浪の旅⑥
「昨日はあんなに人がいたのに今日は静かですね」
「明け方まで盛り上がっていたからね。多分みんな寝てるよ」
「じゃあちょうどいいですね。村をゆっくり見て回りましょう!」
「うん」
一晩寝ると気分は回復し、昨日の果物もペロリと平らげた。
昨晩とは打って変わり閑散とした村をシャルルさんとゆっくり歩き、私の記憶の手がかりを探すも、これは嘘だから実際はただの散歩。
ただ二人で村を歩き続け、昨日の決闘場へとやって来た。
「気分が悪くなるからここは避けようか」
「そうですね、まだ血の臭いが残ってますし…」
「ああ、死体もそのままだね。あっちは見ないほうがいいよ」
「はっ、はい!」
「そろそろ掃除屋が来る頃だけどまだ来てないみたいだね」
「掃除屋?」
「ギルドお抱えの奴らのことだよ。死体処理をメインとして様々な雑用をしている」
「そういう人がいるんですね」
「血の気の多いオスばっかでいてくれないと処理に困るからね」
「……よくあることなんですか…?」
「うん。番同士による争いも頻繁にあるし、暇な奴らが無駄にケンカ売って…とかも」
「……」
「ああ、あいつだよ」
殺人がそんな日常茶飯事だなんて考えられない…。
ごく当たり前のように説明するシャルルさんに私はなんとも言えない気持ちになって口を閉じると、フードをさらに深く被り直され、村の入口方向を指差す。
そこには茶髪に灰色のメッシュが入った一人の男性。
「あれは何族なんですか?」
「ハイエナ族。俺と一緒の嫌われ種族だ」
「え?」
「しっ」
「おはようございます。珍しいですね、決闘があった日の朝に出歩くなんて」
「いや宿に戻って寝るつもりだ」
「うんうん、僕もそうしてくれると助かります」
「行こうか」
「…ねぇ、そこの子ケガしてる?」
「っ!?」
「は?」
「ちょっと血の臭いがするよ。あと変な匂いも…」
「そうか、わざわざありがとうな」
「お気をつけて」
血の臭いと言われ思わず声がもれそうになった。
すぐに手を握られ、宿屋へと引き返す。
「ケガしてるの!?」
「し、してません! 踵は薬塗ってもらったし…」
「ちょっと我慢してて」
「えッ!?」
言うが否や黒豹となってスンスンと鼻を鳴らす。
ケガをした覚えないんだけど…。昨日の決闘のせいじゃないかな。
「トワコ、体調悪くない? お腹とか大丈夫?」
「大丈夫ですけど…」
「トワコの下から血の臭いが僅かにする…。腐ったもの食べたのかな…」
「下…?」
下……下ねぇ?
変なものは食べてないけど、違う世界の食べ物だから………。
「待って! ちょっとそこで待ってて!」
「トワコ?」
「ちょっとトイレ行ってきます!」
「大丈夫? 医者を呼んでこようか!?」
「大丈夫ですから!」
思い出した!
旅行中が生理予定日だったのに何故かズレたんだ!
その時はラッキーって思ってたけど、ここじゃあダメだ。絶対にバレる!
「トワコ!」
「大丈夫ですからトイレから離れてもらっていいですか!?」
「でも血の臭いが強くなって…!」
何故か解らないけど生理を自覚する途端、ドバッと出る体質なんだよ私は!
トイレにこもり、キャリーケースから取り出したパンツとナプキンでとりあえず処置を終えた。持って来て本当によかった…!
「トワコ、医者を呼ぼう。メスだってバレるけどトワコの身体のほうが大事だ!」
「違うよぉ…。あれだよ、あの……月に一度あるやつ…」
「月に一度あるやつ…?」
「うー…! 生理だから大丈夫です…」
「セーリって?」
最悪だ…。この世界に生理というものがないらしい。
なんて説明したらいいのかな…!
「病気じゃない?」
「病気じゃないんです。生理は、あー…子供を作るのに必要な症状で…。んー、なんて言ったらいいのかな…」
「…発情期を迎えたということ?」
「ち、違う! むしろ終わったところ! これから一週間ぐらい血が出て、それからまた子供が作れる準備をするんです…! それで毎月一回はこうやって…! ええっと…」
この説明であってるかなぁ!
生理は身近なことだけど、改めて説明するとなると合ってるか解らない!
「トワコ、変なこと聞くけど…トワコはいつでも子供が作れる?」
「…そ、そうですね。私には発情期がないから…」
シンと沈黙が流れる。
どうしよう、やっぱり言わないほうがよかったかな。これ結構大事な情報だよね?
いやでもさすがに誤魔化しきれない…。
「すごいな…。そんな種族聞いたことない…。でもよかった、それだけは覚えてたんだね」
「あ、そ、そ、そうですね…。なんか変に記憶喪失を起こしてるみたいで…。ともかく一週間は血が出るので大人しくしておきますね」
「そうだね。さすがにこの匂いは香水で誤魔化しきれない。村から出たいけど魔獣にもバレるから危険だ」
「ごめんなさいシャルルさん。いつも迷惑ばかりかけて…」
「迷惑じゃないから気にしないで。それよりセーリと発情期がないことについて詳しく教えてくれない?」
「えッ!?」
「色々と知ってたほうが対処ができるだろ?」
さ、最悪だー!




