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上野信次 優雅にして華麗なる除霊の日々  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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大豪院咲希の憂鬱(2)

「入来さん、あの人たち、まだいるよ。どうするよ」


 コンビニにて、タイ人バイトのチャンプアが、入来宗太郎をつつきながら言った。


「しょうがない子たちだなあ。それにしても、上野さんに何の用なんだろうね」


「ああいうタイプはしつこいよ。しつこくてしつこくて仕方ないよ。僕、追っ払ってこようか?」


 チャンプアが、とんでもないことを言い出した。

 一見すると、観光地にいる陽気なタイ人ガイドといった風貌のチャンプアだが、かつてはムエタイ選手であった。しかもランカーである。ラジャダムナン・スタジアムで試合をしており、チャンピオンと闘ったこともある強者(つわもの)だ。

 その強さは、今も健在である。刃物を持って押し入ってきたコンビニ強盗を、ミドルキック一発で病院送りにしてしまったこともあるくらいだ。


「いや、そこまでしなくていいよ」


 入来は、慌ててかぶりを振った。だが、チャンプアの言うことも間違っていない。彼らはしつこそうだ。




 その彼らとは、コンビニ近くの道路でしゃがみ込んでいる大豪院咲希と木川玲一である。

 木川は、持っているカバンから何かを取り出し咲希に渡す。


「はい咲希さん、アンパンです」


「おう、すまないね」


 そう言って、咲希はアンパンを食べ始めた。美味しそうに食べる姿には、十代の女の子らしさが表れている。


「それにしても、咲希さんはアンパン好きッスね」


「何だ、知らないのかい。昭和の時代から、スケバンはアンパンが好きって決まってるんだよ。うちの婆ちゃんが言ってた」


 真顔でそんなことを言う咲希。木川は、釈然としない表情を浮かべながらも頷く。


「はあ、そうなんスか」


 答えた時だった。木川の表情が変わる。


「あっ! 咲希さん、上野きました! 今、店に入って行きましたよ!」


 言われた咲希は、慌ててそちらに視線を移す。

 背の高い男が歩いていた。ポロシャツにスラックスという格好で、手にはエコバッグを持っている。こちらからは、後ろ姿しか見えない。

 男は、コンビニへと入っていった。途端に、咲希は木川をつつく。


「間違いないかい? 本当に、今のが上野信次なのかい?」


「もちろんです。あんな濃い顔、そうそういませんよ。間違うはずがありません。どうします?」


「そうだねえ……店から出てきたら、とりあえずは尾行だ。除霊師の絶対王者であるあいつが、普段どんな生活してるのか、きっちり見てやるよ」




 数分後、上野がコンビニから出てきた。手にしたエコバッグは膨らんでおり、なぜかスッキリした顔をしていた。どうやら、今日も入来に絡んだことで気分が良くなったらしい。

 爽やかな表情の上野は、そのまますたすた歩いていった。ふたりは、慌てて後をつけていく。五メートルほど距離を空け、そっと尾行していった。


 しばらくして、上野は不意に立ち止まった。住宅地のど真ん中にある十字路の手前で止まり、スマホをいじり始める。

 何をやっているのだろうか。咲希と木川が、そっと近づいていった時だった。

 突然、十字路の左から特攻服を着た若者たちが歩いてきたのだ。その数、二十人はいるだろう。全員、十代の少年たちだ。いずれも、好戦的な表情を浮かべている。

 集団の先頭にいるのは、背の高い男だ。上野よりも大きく、百九十センチはあるだろう。肩幅は広くガッチリした体格で、手足も長い。髪型はリーゼントであり、眉毛は細く好戦的な面構えだ。なぜか十字路の手前で立ち止まり、前方を睨んでいた。


 一方、十字路の右側道路からも少年たちが歩いてきた。この集団は、服装はバラバラであり統一性がない。だが、ひとつだけ共通点がある。全員、公序良俗に反する行為が大好き……といった雰囲気を漂わせているのだ。こちらの集団も、十字路の手前で立ち止まっている。

 その先頭にいるのは、金髪マッシュルームカットの若者だ。チェックのシャツにワークパンツといういでたちで、整った顔立ちをしており女性にモテそうだ。身長は百七十センチ強、すらりとした体型である。長身の竹尾に対し、怯むことなく向き合っていた。


「な、何なんだいあいつらは?」


 咲希は、隣にいる木川にそっと囁いた。


「あのデカい方は、竹尾(タケオ)って奴です。暴走族『武之虎賊(タケノコゾク)』の総長ですよ。ケンカはむちゃくちゃ強いらしいッス」


「武之虎賊? ああ、なんか聞いたことあるな」


「で、マッシュルームカットの方は木下(キノシタ)、通称キノッピーです。Мガイズっていうチームのリーダーなんですよ。あいつも、相当なものらしいです」


「えっ、Мガイズ? マゾの集まりなのかい?」


「違います。マッシュルームのМらしいです」


 木川は、スラスラと答える。そう、彼は事情通なのだ。この辺りの不良のデータは、全て頭に入っている。

 一方、上野は若者たちのことなど完全に無視していた。立ち止まったまま、ずっとスマホを操作している。歩きスマホはしないようだ。その点は感心だが、それ以前にこんな場所で立ち止まり、スマホをいじれる神経は普通ではないだろう。

 そんな中、竹尾とキノッピーは睨み合っている。両者の目線はぶつかり合い、火花が散っていた。

 先に口を開いたのは、竹尾だった。


「よう、キノコバカ。お前ら、相変わらずウゼーなあ。そんなにキノコが好きなら、町の中にいないで、裏山に入ってキノコ採りでもしてろや。その方がお似合いだぜ」


「あのねえ、私有地の山で勝手にキノコ採ったりしたら、窃盗っていう犯罪になるんだよ。タケノコさんたちは、ものを知らないんだねえ」


 軽い口調で、キノッピーは言い返した。途端に、竹尾は笑い出す。


「はあ? 窃盗? こいつら笑えるぜ。犯罪すんのが怖くて暴走族やってられっかよ! バーカ!」


「バカなのはどっちかなあ。こっちはね、キノコ泥棒みたいなダサい前科(まえ)なんか欲しくないんたよ。悪いことしたくないんじゃなくて、ダサいことしたくないの」


 クールな表情で返した後、キノッピーはくねくねと踊りだした。


「君らみたいなダサ坊は、原宿でツイストでも踊ってれば?」


「んだとぉ! てめえ、ワライダケ大量に食わして笑い死にさせんぞゴラァ!」


「何言ってんだか。死ぬのは君だよ。ししおどしのカコーンにしてやっから」


 言われた竹尾は、思わず首を傾げる。


「えっ……し、ししおどし? カコーン?」


 その反応に、全てを察したキノッピーは仲間たちの方を向いた。


「ぷぷぷ、こいつバカだから、ししおどしもわからねえでやんの」


 その言葉に、Мガイズの面々が一斉に笑い出した。さらに、武之虎賊の中にも笑いを堪えている者がいる始末だ。

 一方、竹尾の体がプルプル震え出していた。無論、怒りゆえだ。


「ざけんなぁ! ぶっ殺して……」


 言いかけた時だった。スマホの操作を終えた上野が、顔を上げ歩き出したのだ。

 その時、驚くべきことが起こる。今まさに殺し合いを始めんとしていたふたりが、上野の姿を見るなりパッと離れたのだ。上野の邪魔にならないよう、十字路の両側に立っている。

 次いで、竹尾がペコッと頭を下げる。


「う、上野さん。こんちはッス。今日も、良い天気ッスね」


「あっ……上野さん、どうもです。いやぁ、今日も女の子のうなじが(まぶ)しくて何よりですね」


 キノッピーの方も、わけのわからないことを言いつつ、神妙な顔つきで頭を下げた。

 だが、上野はふたりを一瞥しただけで通り過ぎていく。エコバッグ片手に、何事もなかったのように歩いていった。その後を、咲希と木川が追っていく。

 上野の姿が見えなくなったのを確認すると、両者は再び睨み合った。


「クソがぁ! キノコ狩りじゃ!」


「楽しい楽しいタケノコ調理の時間だよーん!」


 両者の咆哮が錯綜した直後、凄まじい闘いが始まる。それを引き金に、後ろにいる者たち全員が入り乱れての大乱闘となった──












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